No.31152

不思議的乙女少女と現実的乙女少女の日常1 『暇』

バグさん

ダラダラとした感じで。

2008-09-16 21:58:29 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:442   閲覧ユーザー数:431

「あー…………」

乙女のうめき声が聞こえた。

その声は部屋に居た、もう一人の少女を漫画雑誌のページから引き離すには…………まあ、少しは効果があった。

漫画雑誌から顔を上げた少女は、うめき声をあげた少女に少しだけ注視した。半分以上の注意は漫画雑誌の方に、向いているが。

彼女等の居るその部屋は正に乙女であった。

棚やタンスの上には熊だとか豚だとかのヌイグルミが整然と、軽く一個小隊を作れるくらい並んでいたし、それも独自のアレンジとして、彼等には手製のフリル付き洋服が着せられていた。ベッド横の小さな、しかし妙にカラフルなカラーボックスの上には、ゴムの如き弾力を持った鯨のヌイグルミが置かれていたし、その隣に置いてある目覚まし時計の針の先端はハート型をしていた。ベッド…………これはその物が普通では無かった。これもまた、妙に弾力を持っており、跳ねて軽く楽しむ事が出来る。ちなみに、ベッドの上にも無数のヌイグルミが置かれていた。

見る者が見れば、怖気立つ様な部屋である。

しかし、その部屋に居る2人の少女にとっては、これは慣れたものであり、1人はおかしいと思いながらも事実を何とか受け止めていた。そしてもう1人は、その様にこの部屋を忌避する感情とは無縁だった。それはもちろん、この部屋の主であるからだ。

「あー…………」

 少女は再びうめき声をあげた。

床に背中を付け、足を上げて、壁に足の裏を付けた格好で。

 漫画雑誌を読んでいた少女は観念した様子で、視線を上げた。そして言った。

「どうしたの、ヤカ」

「おおー。聞いてくださるか、リコ様」

「気が散るしね」

 ヤカと呼ばれた、壁に足をつけている少女は顔だけをそちらに向けて眼を輝かせた。

ヤカはこの部屋の主である。そして、この部屋の主に相応しい格好をしていた。妙にフリルの多い服を着ており、ベルトが付いたワンピース…………俗に言うゴスロリだった。

「実は暇なのよ」

「ああ…………知ってたよ」

「何時から気付いてたのですかリコ様」

「アンタが、その変な体勢になってからよ」

「ううむ…………」

 ヤカは…………本当の名前は夜華(よるはな)というが、皆ヤカと呼ぶ…………難しそうに呻いて、手を宙に伸ばした。

「いや、この体勢、実はかなり楽なのよ」

「………………へぇ」

「嘘じゃないよ」

「疑ってないよ」

「…………やらないの?」

 転がりながら首を傾げたヤカにリコは隠そうともせず溜め息をついた。ヤカの奇行にリコは慣れたものだったが、慣れたからといってそれに付き合わされるのはご免被りたい。ならば、どうして一緒に居るのかというと、これは昔からの習慣と言わざるを得ない、二人は幼馴染なのだった。

それに、ヤカの何かを求めるような視線に、リコは弱かった。

「……………………」

 リコは無言で漫画雑誌をベッドの上に置き、立ち上がった。そして、ヤカの隣に行き、背中を地面に付けて足を上げ…………つまり、ヤカと同じ体勢を取る。

「あ…………ほんとに何か楽」

「やっぱり疑ってたんじゃない」

「いや、アンタの言う事だからつい」

「なんという親友だい…………」

ヤカはリコから視線を外し、自分の足を見た。

そして、おもむろに足で壁を叩き始めた。

どん、どん、どん。

それはリズムを取っている風では無かったが、妙に心地良い音だった。少なくともやっているものにとっては。

そして、ヤカは調子に乗ってきたのか、そのタップは徐々に早くなってきた。本人は何かの音楽に合わせてリズムを取っているつもりなのかもしれない。

それに感化されたわけでは無いが、この体勢まで来て足で壁を叩かないのは損かもしれないと思い始めた。

そんなわけで、リコも同じ様に壁を叩き始めた。もちろん足で。ヤカとは異なり、とてもゆっくりとした調子だったが。

早いタップと遅いタップ。物凄い不協和音を奏でていたが、これが妙に心地良いと2人は感じていた。

何時もヤカに振り回されているリコも、この体勢が楽だと認めざるを得なかったし、足でリズムを取るのはやや楽しかった。

ヤカなどは最早夢中だった。

何がそれほど彼女を駆り立てるのかは分からないが。

しばらくそうしているうちに、向こうの部屋のドアが開く音がした。向こうの部屋…………すなわち、2人が足でタップしている壁の向こう側の部屋であるが。

数秒もしないうちに、ヤカの部屋の扉が開かれた。

「…………なにしてんの、お前等」

 開かれた扉の向こうに立っていたのは一人の男だった。

「あ、ケイ兄」

 ヤカの兄なのだった。

「兄上」

 兄弟でもないのに、リコはヤカの兄をそう呼んでいた。

「乙女の部屋をノックもしないで開けるなんて」

「17歳の乙女はパンツが見えそうな体勢で俺の部屋を攻撃したりしない」

「妹のパンツがみたいなんて、ケイ兄ったら変態」

「ごめんなさい兄上。ついヤカに乗せられてしまいました」

リコは、その様な行為を見られた事に対する羞恥心から頬を少し朱に染めて、素直に謝った。ついでに、普通に座りなおした。

「まったく…………レポート書かなくちゃいけないんだから、静かにしてくれよ」

 ケイはそう言うと、自室に戻っていった。

ヤカはそれうぇお確認すると、壁にかけていた足を横にずらして、ゆっくりと寝転ぶ体勢を作った。

「ねえ、リコ」

「なによ」

「世の中には、とんだ変態が居たものだね」

「…………後で普通に謝っておきなさいよ」


 
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