No.310657 田村家再び ベルフェゴール復活2011-10-01 10:34:23 投稿 / 全5ページ 総閲覧数:3084 閲覧ユーザー数:2145 |
田村家再び ベルフェゴール復活
秋も深まり、ハロウィンも近付いてきた日曜日の午後、家に1本の電話が掛って来た。
「はい、高坂です」
「おおぅ~っ。その声はあんちゃんかぁ~。丁度良かったぁ~っ」
やたらでかくて威勢の良い声が聞こえて来た。
「何の用だ、ロック? お前が俺に連絡を寄越すなんて珍しいな」
電話の主はロック。麻奈実の弟だ。本名は忘れた。俺に男のフルネームを覚える趣味はない。脳内ハードディスクの無駄でしかないからだ。
だけど幼い頃は俺と麻奈実、それから桐乃とロックの4人でよく一緒に遊んだものだった。
俺たちが大きくなってからは4人で遊ぶことはおろか、4人で会うこともなくなったが。
「じ、実は……ねぇちゃんが大変なんだぁ~~っ!!」
「麻奈実に一体何が起きたっ!?」
ロックの声は切羽詰っていた。
まさか、事故にでも遭ったんじゃ?
緊張しながらロックの話を待つ。
「ねぇちゃんが鏡の前に座って化粧したり、髪の毛弄ったり、見たこともない派手な服を着てみたりしてるんだぁ~っ! こりゃあ、天変地異の前触れなんだぁ~っ!」
「……麻奈実だって高校生なんだし、お洒落ぐらいするだろう。たくっ、アホらしい」
ほんと、心配して損したぜ。
「さっすが、あんちゃん。ねぇちゃんの変化にも動じないとは大人だなぁ~」
「当然だっ!」
18歳男子たる者、幼馴染が色気づいたぐらいで動じてたまるものか。
「じゃあ、ねぇちゃんがメガネやめてコンタクトに今日急に替えたことも大したことじゃないんだなぁ~」
「…………ロックよ。俺は何と戦えば良い? 千葉市か? 魔王か? それとも世界か?」
どうやら俺の18年の人生史上で最大の問題が起きてしまったようだな。
「えっ? あんちゃん? 一体何を言ってるんだぁ?」
「麻奈実はダークサイドに落ちてしまったようだな。ならば、それよりも深き闇の力をもって麻奈実を闇から引きずり上げねばなるまい」
メガネからコンタクトに替えるなど、人類にあっては許されざる行為だ。
麻奈実がそのような畜生にも劣る所業に身を染めるなど……一体、事件の黒幕は誰だっ!?
奴かっ!
やはり奴しか有り得ないのかっ!
「おおぉ~っ! 何だかちっとも分からんけれど、とにかくすげぇぞ~、あんちゃん!」
「フッ。当たり前だ。俺を誰だと思っている?」
麻奈実、お前の闇は必ずこの俺が払ってやるぞっ!
「ねぇ~、ちょっとぉ~。お母さんが今日は遅くなるから夕飯は2人で食べてくれっていう連絡があったんだけどさぁ」
ノックすらしないで非常識な茶髪ギャル女が俺のアジトに単身乗り込んで来た。
もう秋だというのにピンクと白のストライプのショートパンツとピンクの袖なしシャツという寒そうな格好。
この女、露出狂か?
まったく、ハレンチな愚妹だ。
「って、アンタっ!? 自分の部屋とはいえ一体何て格好してんのよっ!?」
そして入ってくるなり騒々しい。
まったく、これだから人間の娘は品がなくて困る。
「何故だと? そんなもの、俺が冥界の覇者ルシファーと融合せし漆黒だからに決まっているだろうが!」
羽織っているマントをたなびかせて愚かな小娘に俺の偉大さを教えてやる。
黒き衣と黒きマント。
まったく、この正装の意味を一から十まで教えねばわからぬとは。
如何に模試で良好な成績を収めようと所詮は愚かな人間ということか。
「漆黒っ!? アンタとうとう頭逝かれちゃったわけぇっ!? 黒いのと同じぐらい二次元と三次元の区別がつかないなんてヤバすぎだってのっ!」
小娘が先ほどから騒々しくて煩わしい。
メガネも掛けていない分際で常識を語るとは何を図々しい態度をとっているのだか。
だが、この小娘にはまだ使い道がある。
「俺と共に来い、桐乃よ。闇の力をもってこの小賢しき世界を救うぞ」
「はぁ~? アンタ一体何を言ってんのよ……って、きゃぁ~~っ!?」
わめく小娘を無視して腰を持って肩に担ぎ上げる。
「ちょっ、ちょっと降ろしなさいよ、この変態っ! 漆黒になりきって自分の世界に浸ってんじゃないわよっ!」
俺の肩の上で暴れる小娘が煩い。
だが……
「フッ。昔背負っていた時はあんなにも軽かった桐乃がこんなにも大きくなるとはな」
歳月の流れを感じさせる重さ。
感傷に浸るとは俺も人間臭くなってしまったものだな。
「い、いいから降ろしなさいよっ! あ、アンタの肩にアタシの胸が当たっているじゃないのよぉっ!」
「フム。胸、か。そのむねをよしとする!」
「はぁ~っ?」
愚妹から呆れた感じの声がする。
俺の妹を名乗るにはこの桐乃はあまりにも愚か。
だが、その発育具合、悪くないっ!
「よもやここでこのような胸に出会えようとは……乙女座の私にはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない」
「ちょっとアンタそれ、漆黒じゃなくて他のキャラじゃないのよぉっ!」
「問題ないっ」
戯言をほざく胸だけギャル女に釘を指す。
「漆黒はセリフが少ないのだ。セリフを代替しても何の不思議もない」
「偉そうに振舞うんだったらもっと役になりきりなさいよぉ~~っ!」
「やれやれ、我が家のツッコミ女王は足ることを知らんな」
「アンタが叫ばせるからでしょうがぁっ! アタシは本来叫ばせる役目なのにぃ~~っ!」
騒ぐ妹を担いだまま俺は田村家へと向かった。
「いやぁ~っ! 降ろせ、降ろせっ! 降ろしなさいよぉ~っ!」
田村家へと向かう途中、愚妹は常に喧しかった。
「愚妹よ。貴様の煩い声のせいで近所の凡俗たちの視線が俺たちに集まってしまっているぞ」
見れば近所の中年オヤジとババアたちが口に手を当てながら俺たちを見てヒソヒソと何かを呟いている。
大方桐乃のショートパンツが短すぎることへの不快感の表出だろう。
まったく、愚妹が世間からビッチ扱いされているおかげで兄である俺まで肩身が狭い。
「高坂さんとこの息子さんと娘さん、受験ストレスかしら?」
「あんな格好で堂々と外を歩くなんて心を病んでなければできないことよ」
「ううっ……」
凡俗たちの言葉を聞いて桐乃は顔を真っ赤にしながら悔しそうに俯いた。
「これを機に普段の生活態度を改めることだな。まったく、年頃の娘がそんな尻のライン丸分かりの格好でうろつくなど嘆かわしいことこの上ない。この変態露出狂め!」
まったく、兄である俺までが白い目で見られるではないか。
「室内着のままアンタが勝手に連れ出したんでしょうがっ! それに、変な格好で注目集めているのはアンタの方だっての! アタシは完璧な被害者だぁ~~っ!」
「愚妹が何を言いたいのかまるでわからんな。俺はこんなにも格好良いのに何故おかしな目で見られなければならないのだ?」
まったく。年頃の少女の心とは理解しがたいものだ。
これがクラスメイトであればそれも個性と微笑ましく見られるのかもしれない。
だが、家族では、特に俺が教え導かなくてはならない年少の女子となれば話は別。
その愚かさ、浅はかさに嘆かざるを得ない。
「あ~このっ、変態ナルシストコスプレイヤーっ! ご近所さんの視線が痛いから早くアタシを離しなさいっての!」
「変態扱いされているのはお前の方だといい加減に気づけ!」
肩に乗せている愚妹をたしなめていると前方に見知った黒ゴスロリの少女を発見した。
「フム。丁度いい。俺と桐乃、どちらが変態なのか彼女に判断してもらおう」
俺は俺と同じ世界から来た少女の前に立って声を掛けた。
「久しぶりだな。クイーン・オブ・ナイトメア・瑠璃よ」
瑠璃は赤い瞳で俺を挑発するように細めて返答した。
「人間界で会うのはこれで何回目かしらね? 漆黒・京介先輩」
ハッと息を軽く吐き出して嘲笑してみせる瑠璃。
瑠璃はこの世界の支配権を自分が握っていると錯覚している。
世界の唯一にして絶対の支配者はこの漆黒であるというのに。
だが、まあいい。
今は好きなだけ勘違いさせておいてやる。
いずれ世界の全てを制するのはこの俺なのだから。
それよりも今は確認しなくてはならないことがある。
「クイーン・オブ・ナイトメア・瑠璃よ。一つ訊きたいことがある」
「何かしら、漆黒先輩?」
瑠璃が腕を組んで疑わしげな瞳で俺を見る。
別に今日はお前との決着について話をしたい訳じゃない。
世界の覇権を決めるのはもう少し先のことで良い。
「俺のこの格好、どこか変か?」
マントを翻して服の隅々まで瑠璃によく見えるように向ける。
「別に。どこも変ではないわよ。極めて普段通りの漆黒だわ」
瑠璃は何故そんなつまらないことを尋ねるのかと不満げな顔だ。
「では、この愚妹の格好を見てどう思う?」
瑠璃はあらゆるものの本質を見極められるのだという赤い邪気眼を桐乃へと向けた。
「あまりにも普段通りのビッチね。あまりにもビッチすぎるわ。これからはビッチという単語を桐乃と置き換えることを勧めるわ」
瑠璃は桐乃を鼻で笑った。
「ほら、見ろ。クイーン・オブ・ナイトメア・瑠璃もお前の格好にダメ出ししているぞ」
これで桐乃の方が変態であることは証明された。
「アンタら2人ともマジおかしいってっ!! 日常生活で漆黒とかクイーン・オブ・ナイトメアとかキモいっ! キモすぎるぅ~っ! アタシの周辺は変態ばっかりだぁ~~っ!」
ビッチの烙印、いや、桐乃の烙印を押された桐乃が大声で絶叫する。
まったく、凡俗どもの小さな安寧をうち崩そうとは困ったターミネーターだな。
「貴方も苦労しているのね」
「分かって頂けて光栄だ」
2人で小さな溜め息を吐く。
妹が愚かだと兄は肩身が狭い。
兄というのは実に難儀な生き物と言わざるを得ないだろう。
「いっそアタシを殺してぇ~~っ! こんな衆人環視の辱しめを受け続けるぐらいならもう死んだ方がマシよぉ~~っ!」
桐乃が絶叫をやめない。
これは目的地が近付いてきたことで愚妹が恐怖を覚えているに違いない。
小動物は危険に敏感だからな。
「それで漆黒先輩、私たちは一体どこへ向かっているのかしら?」
瑠璃が桐乃を呆れた表情で見ながら問う。
それで俺はまだ瑠璃に旅の目的を告げていないことを思い出した。
「俺たちの旅の目的……それは、悪魔ベルフェゴールを封印することだっ!」
俺は瑠璃にこの事件の黒幕の名を告げた。
「何ですってっ!?」
瑠璃の目が大きく見開かれた。
「瑠璃の予言は正しかったということだ。悪魔ベルフェゴールは麻奈実の中に潜んでいた。そして今日復活を遂げたのだっ!」
そう。
今回の事件の黒幕。
それは麻奈実の中に潜み、密かに成長を遂げていた悪魔ベルフェゴールだったのだ!
奴は麻奈実の体と意識を乗っ取った。
そして、麻奈実であれば絶対にやらないような数々の行動を取り出した。
そして悪魔の所業、禁断の『コンタクトにして本当の私』に手を染めたのだっ!
人には成し得ぬ悪魔の所業も悪魔が裏で手を引いているとなれば全て納得が行くこと。
麻奈実は、悪魔ベルフェゴールに囚われてしまったのだっ!
「何ということなの……っ!」
瑠璃の全身がガタガタと震え出す。
瑠璃は誰よりも早く麻奈実の中のベルフェゴールの存在に気が付いていた。
そして恐れていた。
そのベルフェゴールが復活を果たしてしまったのだ。
その焦りはいかほどのものか。推し量るまでもなくわかろうというもの。
「それで漆黒は復活したベルフェゴールを本当に封印しようというのね?」
クイーン・オブ・ナイトメアが俺の目を覗き込んでくる。
俺の真意を確かめようと言うのだ。
だが、確かめるまでもない。
「俺はベルフェゴールをこの命に替えても封印してみせる。麻奈実にコンタクトを捨てさせて再びメガネを掛けさせるっ! それが人間界に転生したこの俺の戦いだっ!」
俺は永き間生まれてきた意味を考え続けてきた。
その答えをやっと得た。
ベルフェゴールの封印。
それが俺がこれまでこの堕落した下天で生き恥を晒してきた意味なのだっ!
「俺は天界と冥界より独自行動の免許を与えられている。つまりはワンマン・アーミー。たった1人の軍隊だ」
「そう。本気でベルフェゴールと戦う気みたいね」
瑠璃は軽く息を吐いた。
「そんな危険な旅に断りもなくこの私を連れていっていたなんてねぇ」
瑠璃が瞳を細めて俺を見る。
「怖じ気付いたか?」
「フッ。まさか」
瑠璃は艶やかな黒髪をそっとひと掻きしてみせた。
「あの悪魔には誰がこの下天の支配者なのか思い知らせてやらないといけないと思っていた所よ。本来なら私1人で簡単に蹴散らしてやる所だけど、今回は漆黒、貴方にも手伝わせてあげるわ。光栄に思いなさい」
「フン。抜かすな。だが、まあ良いだろう。共にベルフェゴールを打ち倒すぞ」
この瞬間、俺とクイーン・オブ・ナイトメア・瑠璃との間に同盟が締結された。
「いやぁあああぁっ! コイツら素で厨二過ぎるぅ~~っ! アタシもう、こんな奴らと同類に思われたくなぃ~っ! 助けてあやせぇ~~っ!」
そして絶叫するしか能がない三流芸人、もとい我が愚妹はどうにかならないのだろうか?
俺が闇の帝王の妹として英才教育を施してこなかったツケを俺は今支払わされているのか?
チッ! 面倒な。
「悪魔ベルフェゴールを倒そうとする心掛けは立派でございますわね。ですが、貴方がただけでそれを成し遂げることができますでしょうか?」
「何奴だっ!?」
「誰っ!?」
突然声を掛けられた俺と瑠璃は驚愕しながら後ろを振り返る。
「フフフフフ」
そこにはサングラスを掛けた、如何にもお嬢様風な真っ白いドレスを着た180cm近い大女が静かに佇んでいた。
大女は優雅に、だが挑発的に俺たちを見据えていた。
相当に育ちが良いのは間違いない。
それはドレスの高級ぶり、そしてそのドレスをさも当然の如く着こなしている姿を見ればわかる。
そしてこの堂々とした、いや、悪党然とした不遜な態度。
タダ者じゃない。
だが、クソっ!
サングラスのせいで正体が全くわからないっ!
この世界にサングラスを掛けたままで正体が見分けられる奴は存在しないから仕方ないが。
「貴様一体何者だぁっ!?」
「いや、どう見ても沙お……」
「貴方っ! さては、ベルフェゴールの手下ねっ!」
瑠璃は女に対する警戒心をMaxにしている。
だが、それで良い。
このタイミングで俺たちに話し掛けて来た存在がまっとうなはずはないっ!
「フフ。どうでしょうね?」
だが女は俺たちの激しい警戒の視線をわけもなく受け流す。
この女、やはりタダ者じゃないっ!
「貴様ぁっ、名を名乗れっ!」
「いや、だからどこからどう見たって槇島沙お……」
「これはこれは自己紹介が遅れてしまいましたわね」
女は俺たちに向かってスカートの裾を摘んで優雅に一礼する。
そして姿勢を正すとゆっくりとした口調で自己紹介を始めた。
「私の名前は沙織・バジーナ。かつて沙織・アズナブルと呼ばれた女です」
サングラスを外すバジーナ。
そのサングラスの下の顔は、深層の令嬢という表現がよく似合う美女だった。
「バジーナ……お前は一体何者なんだ?」
「いや、だから素顔晒してるし、正体名乗ったし、どっからどう見たって沙織じゃないっ! 何を迷うことがあるのよっ!?」
「さて、私は漆黒さまとクイーン・オブ・ナイトメアさまの味方でしょうか? それとも敵でしょうか?」
「えぇ~~っ!? 沙織もそっちサイドに行っちゃうのぉ~っ!? アタシ、ひとりぼっちなのぉ~っ!?」
愚妹の声は相変わらず煩かった。
俺と瑠璃+αの前に突如現れたバジーナ。
果たしてこの女は俺たちの味方なのか、敵なのか?
そして俺は麻奈実を悪魔ベルフェゴールから解き放つことができるのか?
俺は世界を、メガネを救うことができるのかっ!?
続く
次回予告
バジーナと対峙する漆黒。
「今日の私は阿修羅すら凌駕する存在だっ!!」
辿り着いた田村家で漆黒たちを待ち受ける数々の難関。
「だが、そんな道理、私の無理でこじ開けるっ!」
そして訪れるベルフェゴールと化した麻奈実との対面。
「この気持ち、正しく愛だっ!」
そして、漆黒の最後の選択は……
「お前が、お前たちが俺のメガネだっ!」
次回 完結編 サヨナラのメガネ
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メガネの日ということなので、メガネを巡る熱い物語を描いてみました。
あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。
http://www.tinami.com/view/224484 (安城鳴子の憂鬱 超平和バスターズの日々)
http://www.tinami.com/view/227101 その2
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