学校からの帰り道に、長いトンネルがある。
暗く湿っぽいトンネルにはオレンジ色の光が数メートルごとにあるだけで、少し進むと外の光は閉ざされてしまう。車通りも少ないため、たまに通る車はけっこうなスピードで飛ばしてくることが多い。そのためか、このトンネルでの死亡事故は後を絶たない。
できればこんな道は通りたくないが、ここを通らないと家帰るために高い山を越えなくてはいけない。仕方なく私は毎日自転車で、できるだけ周りを見ないように急いでペダルをこいでいた。
今日もいつものように部活で遅くなった帰り道。あのトンネルを通る。ちょうど半分くらい来たところだろうか、また道路わきに花が添えられている。また事故があったのだろうか。そこには真っ白な薔薇と、子供用の髪飾りが添えられていた。
(かわいそうに、犠牲者は女の子かしら。)
思わず自転車を止めて感傷に浸ってしまった。
(いけない、いけない、同情心は霊を引きよせるって何かのテレビ番組でやっていたっけ。)
私は寒気を感じて急いでその場をあとにした。
眼の端で、風の吹かないトンネルの中で、白い薔薇が少し揺れた気がした。
次の日、私はまたあのトンネルを通った。しかし、中央に差し掛かっても、あの供えられていた薔薇は見当たらなかった。
(あれ?誰かかたずけたのかな?)
それほど気にもせずにトンネルを抜ける。するとトンネルの出口にあの薔薇が供えられていた。
あんな暗い中ではかわいそうだと、誰かが動かしたのだろうか?
「ああ、もう、気にしちゃダメだって」
私は自分の頭をたたき、急いで家に帰った。
さらに次の日、白い薔薇の花はトンネルの出口にもなくなっていた。少し怪訝に感じたもの、そのまま家に向かった。しかし、家の前の角で私はあり得ないものを見つけた。
「なんでこんなところにあるの!?」
それは紛れもないあの薔薇だった。似ている別の花ということではない。あの髪飾りも全く一緒に供えられている。
さすがに気味が悪くなり、急いで家に入ると布団をかぶりそのまま眠りについた。
その次の日はさすがにトンネルを通る気にはなれず、少し遠いが坂を登って山越えの道を帰ることにした。
その日は無事山を越え、家の門が見えてきた。昨日花が供えられていたあの曲がり角にも今日は何も置かれてはいなかった。
私はほっと胸をなでおろし、家の中に入った。
「ただいまぁ」
蹴飛ばすように靴を脱いで二階の自分の部屋に入る。部屋の扉を開けた私は、そこで言葉を失った。正面の私の机の上に置かれているのは一輪の白い薔薇。
(落ち着け、たまたまお母さんが飾っただけかもしれないじゃない。だいたいあの髪飾りだってないじゃない。これは別の花よ。)
私は自分に言い聞かせるが、心臓の鼓動はおさまることを知らないように高鳴りを続けた。
風もない、締め切られた部屋だというのに、突然白い花弁が一枚はがれおち、ひらりとクローゼットの前に落ちた。
私は引き寄せられるようにクローゼットの前に立ち、その扉を開いた。
そこにはあの髪飾りをつけた少女が頭から血を流したままほほ笑んで立っている。少女は鮮血の滴る口を開き私に話しかけた。
『お姉ちゃんのおうち、やっと見つけた』
END
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学校からの帰り道、長いトンネルがある。そこに飾られた白いバラ、、、