No.309010

異聞~真・恋姫†無双:三十

ですてにさん


前回のあらすじ:袁家の兵士に絡まれていた二人組。それは田豊・沮授の両名だった。
一刀はカリスマを無意識に全力全開。異性に慣れていない沮授こと愛理さんは、気付けば跪き、一刀に絶対の忠誠を誓ってしまっていた。

…おや、これだけ見ると、一刀さん悪い人みたいだな。故意犯だ。

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2011-09-28 14:28:50 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:8433   閲覧ユーザー数:5829

この作品はキャラ設定等が一刀くんを中心に、わりと崩壊しております。原作重視の方はご注意下さい。

時代背景等も大きな狂いがあったりしますので、『外史だから』で許容できない方は、豪天砲から逃走する感覚で全力で逃げて下さい。

 

オリキャラも出ますので、そういうのが苦手という方も、はわわ孔明の罠から逃げる感覚でまわれ右。(そして伏兵に遭うのはもはやお約束)

 

一刀君とその家系が(ある意味で)チートじみてます。

物語の展開が冗長になる傾向も強いです。(人、それをプロット崩壊という)

 

この外史では一刻=二時間、の設定を採用しています。

 

それでもよろしい方は楽しんで頂けると幸いです。

 

 

拝啓 天の世界の爺ちゃんへ。

 

貴方の孫は今、針のムシロに晒されております…。

買い出しから戻ってきた、俺の仲間たちが何故か俺を詰問する展開になっているのです。

戦場の殺気が俺一人に向けられているようなもので、

このまま気を失いたいのですが、失ったら失ったで、そのまま命すら失いそうです。

 

俺は有能な文官である、田元皓・沮公与の両名が仲間になってもらうことが出来た為、

むしろ褒めてもらえるかもしれない、なんて考えていたんです。

…うん、華琳はため息を付きながらも、『ま、一刀はついていたってことね』って褒め…てもらってない?

 

そんな華琳は、俺を椅子に座らせ、その上からしっかり俺を背もたれ椅子として活用していますし、

俺の左腕は頬を膨らませた愛紗にがっちりホールドされており、

左手は華琳がずり落ちたりすることが無いように、彼女の腹部近くに添えられています。

その上から華琳の両手が乗せられていますから、完全にロック状態です。

 

「やはりこうするのが一番落ち着くわね」

 

華琳が俺を椅子代わりにするのは、天の世界で正式に恋人関係になってから、彼女の甘え行為としてよくあることだったのですが、

まさかこちらの世界に来てから、人前でも堂々とやってくるようになるとは予想していませんでした。

なんだろう、行為自体は嬉しいんですが、この環境下でやられると、冷や汗しか出ないんですね。

 

華琳曰く、俺が誰の所有物か常に示す必要がある為、と言っていますが、

俺は魏の地に降り立った時から、もう華琳のもので、それは十分に判っているはずなんですが、

口にした時の俺の首が飛ぶことしか想像できず、恐怖のあまりとても反論できません、はい。

 

右手は公与…愛理という真名も預かりました…さんがしっかり頬に当てており、何やら上機嫌です。離す気は…無いですか、そうですか。

外見からして、級友に必ずいる委員長タイプの理知的な顔立ちの彼女…おまけに清楚系の美女です、はい…が、

瞳を潤ませ、顔を少し上気させながら、本当に嬉しそうに頬を緩ませているのは、俺としてもとても微笑ましく感じるのですが、

皆が戻ってきてもなお、その行為がいつまで経っても終わる気配がなく、周りの視線もどんどん刺すようなものに変わりつつありまして…。

 

いかな鈍感な俺でも、これは死亡フラグだと判ります。

これから御意見番ポジになる(予定)元皓さんに視線で助けを求めますが、首を軽く左右に振られ、援軍はどうにも得られないようです。

 

頼みの綱の貂蝉は、俺から贈られたリボンをどうつけるのが可愛いのか、星と絶賛相談中…。

というか、頼むから愛理、一瞬でいいんだ、初見の貂蝉を見て気を失ってくれないかな。

元皓さんが立ちくらみを起こしていたから、君なら多分、可愛く気を飛ばしてくれると思うんだ…!

 

「一刀さん、さすがにこれは説明が必要だと思うな~」

 

うん、桃香。その通りなんだけどね、仕官を求めただけなのに、気付いたらこんな展開なんだ。

 

「お・に・い・さ・ん? 後でゆ~~~~~~~~~~~~っくり話を聞かせてもらいますからね?」

 

風、わ、わかったから! その背中に浮かぶ黒い何かを引っ込めような! それ、俺の世界でスタンドっていうんだよ!?

 

「ぶー。お兄ちゃん、華琳や愛紗ばっかりひいきしてるのだ…」

 

ごめん、鈴々。あんまり否定できない俺がいるよ…。

 

「うぅ…ひどいですご主人様。私だってまだ殆ど甘えてないのに、なんで次から次へと新しい女性を…」

 

「あわわ…やっぱり大きいのがいいんですね…ご主人様、もげればいいのに…」

 

朱里&雛里の呟くような非難が耳に痛い…雛里の口から『もげろ』なんて言われると被害倍増だよ…。

 

「ふん、貴様が招いた種だ、いい気味だな」

 

「左慈、種は種でも胤違いですよ」

 

てめぇらは容赦無いのな…らしいんだけどさ。

 

「さて、治療用の鍼の手入れをしておこうか…麻沸散も必要かもしれん」

 

華佗!? 待って、俺の手術確定なの!? ちょっと待って、その憐みの眼は何なの…!

 

「あはは~。面白~い。一刀頑張れ~。後で気持ちいいことしてあげるわよ~」

 

「おお、それは後で私も加わってから、幽州に旅立つと致そうか」

 

ちゃっかり酒飲みながら、周りの温度をきっちり下げてくださる鬼どもがおる…。

死亡フラグこれ以上立てるなぁ!…え、華琳さん、うるさいですか? すいません黙ります。

 

「これは呉に戻っても苦労するな…稟、早く北方の目処が立ち次第、こちらに戻ってきてくれ」

 

「冥琳どのと私が揃っていたとしても、実際、この手の苦労は絶えないと思いますが…極力尽力いたします」

 

何か諦観してしまっている、頭脳組のお二人。

あ、なんか通じ合って握手まで交わしているね、ははは…。

 

「ここにいらっしゃる方だけで十二名の一刀さまのお子が誕生する計算ですか…

後宮に子育てと政務と兼ねられる特別施設を早急に作る提言が必要ですね…」

 

明命ーっ!? 仕方のない人だって感じで笑いながら、とんでもないこと言ってるのに気付いてますか!?

 

…だ、駄目だ。俺だけでこの場を収拾できるビジョンがまるで浮かばぬ…!

数分後、俺は涙交じりの声で華琳に助けを求めていた…。

 

 

「なるほど、公与は一刀を王として定めた、ということなのね」

 

「はい。私の全てを、我が王…一刀さまに捧げると決意致しました」

 

「…知謀というわけではないということか?」

 

「それも含めた全て、です。雲長さん」

 

俺の姿勢は相も変わらず先程のままだったが、俺の意を受けた華琳が愛理たちと皆との自己紹介を恙無く進め、今は閑談といった状態になっていた。

文句がありそうな皆を華琳は一言二言で制してみせたのだ。

 

『貴女たちの良人は一刀なのでしょ? だったら諦めなさいな。むしろ自分を売り込むことに励んだ方がよっぽど建設的というものだわ』

 

…なんだろう、皆ため息をついたり、苦笑いしたりしながらも、ちゃんと納得しているのに、俺だけもやもやするのは。

いや、いいんだよ? 収まったんだからいいんだけどさ…。

 

ちなみに、愛理は貂蝉本体を垣間見て、お約束の気絶をしたものの、俺の手はしっかり離さず力尽きるという離れ業をやってのけた。

これは機会とばかりに引き剥がそうと殺到した、はわあわコンビの衝撃が気付となり、すぐに元の状態に戻ったというわけだ。

ただ、さすがに話し辛いのか、頬すりはやめて、腕にしな垂れかかる様な姿勢に変わっているんだけどね…。

 

「公与。本当に、気に入ったみたいね」

 

「はい。今まで他の男性を見ても、何も感じるものがありませんでしたのに、一刀さまは別格でした。

心が満ちていく高揚感と、同時に心からの安堵を覚える男性など、今までお会いしたこともありませんでした」

 

「…貴女は男性との接触があまり苦手だと伺ったが…本当にそうなのか?」

 

うん、俺が言いたいことを愛紗が代わりに聞いてくれた。この積極性はなんというか紫苑辺りを彷彿とさせるんだよな。

初見のイメージとのズレが大き過ぎる。

 

「私も不思議なのです。一つ断言できるのは、一刀さま以外にはとてもこのような大胆な行為に出ることはできません。

ただ、一刀さまの雰囲気が、私の殻をたやすく壊すと言いますか…一目惚れと言うのだと思います」

 

女の幸せですねと、上品に微笑む愛理の表情に俺は何とも言えず、華琳は再びため息をつき、

元皓さんは苦虫を噛み殺した顔でなんか星と一緒に酒を呷って…あれ、なんか自棄酒にしか見えん…。

その様子をケラケラ笑っている小覇王さんにちょっぴり敵意が沸いたのは秘密だ。

 

「私が壊すのに時間がかかった自身の壁を公与どのは一瞬で破ったということか…。確かにご主人様の寵愛を得ようと思えば、ううむ…」

 

悩み顔になりながら、しっかり俺の腕に頭を預ける愛紗は可愛いなぁ…じゃなくて!

いや、可愛いんだけど、今は見とれている場合ではないのだ。

 

「愛理。元皓さんにも預けていない真名を、俺が呼んでも…いいのかな」

 

「ふしだらな私を見せてもいい、見せたいと思うのは、一刀さまだけです。それでは…不足でしょうか?」

 

普段は真面目な委員長が俺の前だけで瞳を潤ませ、上目遣いで悩殺してきて乱れてくれるなんて、

それなんて御褒…はっ、いかん、妄想に涎が…おお、まだ辛うじて大丈夫だった。

 

「そんな顔されたら、俺は何も言えないよ…」

 

「我が王の笑顔が見られるのなら、私は全てを捧げられますから」

 

ぼんっ! 思わず赤面するのが判る。こんな全幅の信頼を込めた瞳で、嬉しそうに微笑まれると…駄目だ、直視でき…い、いてぇーっ!

手が! 手がつねられてるぅ!?

 

「自重しなさい、北郷一刀」

 

現世に引き戻してくれた、私の覇王様、本当にありがとう。だからその覇気はしまって下さいお願いします俺が悪かったですゴメンナサイ…。

 

「…これは強敵だ。私も『こすぷれ』などもっと大胆にご主人様を誘惑するように努めなければならんな…」

 

真剣な顔でなんか駄目人間発言しちゃ駄目だぞ、愛紗。君ならまだ間に合う!…俺は、手遅れだけど。

 

「愛紗ちゃん、ここは皆で『裸えぷろん』攻勢を仕掛けるべきと風は思うのですよ~」

 

にゅふふと悪い顔の風が追い打ちかけてるーっ!?

 

「妙案です! ご主人様の寵愛を得る為にはなりふり構ってはいられません!」

 

「あわわ…夜までに急いで人数分のえぷろんを準備しなくちゃ…」

 

駄目だこの腐女子たち早く何とかしないと…。

 

「では、私もお手伝い致しますよ、孔明ちゃん士元ちゃん。これでも裁縫は得意ですから」

 

「さ、さすが、張良を引き合いに出される沮公与さんですっ! 意匠を理解されているのですね!」

 

あ、やっと愛理が離れてくれた。おおう、右腕が痺れておるわ…。って、あれ、貂蝉が話に加わって、る…?

そうか、リボンつけてるから、意識しないとあの筋肉隆々に見えないんだっけ…。

しかし、なぜ擬態が有閑マダムっぽい格好なんだろ…。決して聞かないけどね。

 

「背丈に合わせて、臀部の半分隠れるぐらいの高さに合わせるのが一番破壊力抜群よん♪」

 

「さすが、男性女性双方の好みを熟知する貂蝉さんです! では、雛里ちゃん、胸部の意匠はこうして…」

 

「うんうん、色は白を基調にした方がいいよね。染めるのは今からじゃ間に合わないし…」

 

「皆さまの正確な身長は判りますか? 早速裁断から始めようかと思いまして…」

 

「この貂蝉にお任せよ~ん♪ まず、朱里ちゃんが…」

 

ガールズトークに花が咲き始め…って、おい! 幽州組までどんどん話に交じっていっているし!

膝の上の華琳まで、うずうずし始めてるよ、もう…。

 

「行っておいでよ、華琳」

 

「べ、別に私は、裸体にエプロンなんかつけなくても…」

 

「いや、ソノハッソウガオカシイ。第一、無理やらなくていいから!

ただ、調理する時についておけば、油が飛んだときとか火傷を防げるし。愛紗もそんな真剣に悩まずに、意匠だけでも覗いてきたら?」

 

一刀のためじゃないんだから、とツンデレの王道的台詞を呟きながら、膝から降りた華琳と、

明らかに妄想してボーっとしていた愛紗が我に戻り、恋姫たちの輪に加わっていく。

 

話し合っている内容はともかく、皆楽しそうな笑顔。

この笑顔を守る為なら、俺はどんな誹謗や罵りだろうと甘受し、あらゆる手を打ち、未来を勝ち取ってみせる。

 

自分の中の決意の再確認。おそらく黄巾の乱が勃発するまでに、一年程度しかないはずだ。

 

 

輪から外れ、自らを思考の海に沈めていく。

夜中にもこうして思考する時間は取れるけど、華琳と愛紗の温もりに負けてしまい…ということも多い。

二人の優しさに甘えている、と言い換えてもいい。

だからこそ、こういう時間は貴重なんだ。

 

剣術や氣の修練の時はあえて無心になって、自身を鍛えることに集中しているから、

僅かな隙間時間を見つけては、自分の中でのこの先の組み立てを常に修正するのが癖になりつつある。

 

雪蓮、冥琳たちとの早期合流は、先送りしていた自分の考えを早期実現する為の計画の修正に繋がり、

また、行商人としての拠点を作るという視点は、この外史での俺の望むべき動きを考えれば、逆に必要なことに思える。

 

そして今日、偶然にも幸運な機会に恵まれ、田元皓・沮公与二人の智将の助力を得ることが出来た───。

 

「…良い顔をしているな、北郷。先程まで情けない顔をしていたのが嘘のようだ」

 

思考する俺にしっかりと届き、それでいて不快感を与えない、安心感を与える落ち着いた声。

俺は顔をあげて、その女性の顔を見やった。少しの苦笑いと共に。

 

「なんか騒動ばかりでごめんね、冥琳。疲れるだろうに」

 

「締めるところをしっかり締めてもらえば構わないさ。それに、この後暫くはこうして笑っていられる時間も少なくなる」

 

「…うん。まずは魯子敬さんへの挨拶と、袁術との謁見だね。そこからは一気に色々動き出すだろう」

 

「ふふっ。北郷の笑顔は、かつて触れあった者以外にも、女性に抜群の効果があることが実証されたからな。

血を流さずに、というのが本当に現実味を帯びてきた」

 

「どうだろ。愛理に失礼かもしれないけど、彼女が変わり者という可能性もある」

 

こう言っておきながら、確かに冥琳の言う通り、初見で愛理がこれだけの信頼を寄せ、忠誠を捧げてくれたことに対して、喜びと共に強い違和感がある。

なんというか、こちらは赤心を吐露してはいるんだけど、響き過ぎ、というか。

 

「お前は今ですら、武ですら私も含めた軍師勢など歯牙にかけない実力をつけたと伝え聞いているし、

知に至っては私や華琳どのと同等に近い域で思考することが出来る。

…だがな、北郷。元々、お前の最高の武器は、人を惹きつけるその魅力だよ。人の三倍とも言える濃厚な人生経験を経て、

その魅力はさらに磨き上げられ、それこそ擦れていない者であれば、性別関係無く心酔させることも可能だと、私は思っているよ」

 

「…冥琳に言われるとなんか、むず痒くなる。ただ、今の言い方だと、俺が魅了の妖術を使うかのような…」

 

「いい例えじゃないか。お前が自分の魅力を疑うなら、それこそ袁家の両看板でも、寿春に向かう道中でもいい。もう一人ぐらい、試してみるか?」

 

うん、悪い笑顔だ。むしろやれって言ってるよね、冥琳。

何でも利用すると誓っている俺だ。では早速、実験台になってもらうよ?

 

「…そうだね。ただ、その前に。今、すごく悩んでいることがあるんだ」

 

「ほう。増えすぎた側室候補の扱いについて、かな?」

 

「それは無いよ。想いを預けてくれる一人一人を愛しく思うし、慕ってくれる皆に全力で応え続けるだけだ」

 

「迷いなく即答、か。なんというか、北郷らしい」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ。…で、今の悩みがさ。

幸運にも、天の知識でも有名な…優秀な軍師二人が加わって、人材面が厚くなったからさ、早めに俺直属の諜報部隊を持ちたいんだ。

もちろん一から育てるつもりだけど、俺自身に指導のやり方が確立してないこともあって、それだと黄巾の乱にすら間に合うかわからない。

…無理なお願いとは判ってるんだけど、呉の間諜から何名か指導格の人を派遣してくれないだろうか?」

 

行商人としての情報網とは別に、いわゆる本当の各諸侯の裏を探るという意味でも、必須とも言えるもの。

当初の俺の考えでは、反董卓連合に間に合えば…という腹があった。ただ、優秀な人材の参入で計画を前倒し、というわけ。

 

実のところ、魏で桂花と共に諜報を担当していた稟に、既にある程度ノウハウを乞うて、指導方法を学んでいたりするのだけど、

この時点で呉に属している冥琳に全てを話す必要は無いと判断していた。

 

俺にしても、一人でも二人でも既にプロの手を借りれたら、育成が早くなるな、ぐらいの駄目元でのお願いである。

うん、俺も黒くなったもんだ。優秀な軍師たちの教育の成果って奴だよなー。

 

「…卑怯だぞ、北郷。私で、試すとは…。

お前に情を寄せた私が、そうやって真っすぐに見据えられると、逆らい難いことぐらい、判っているだろうに…」

 

…効果あり、なのか? 少なくとも、頬を染めてバツが悪そうにしている冥琳に、演技という風は見られない気がする。

ただ、親愛補正ってのはあるからなー。俺も華琳とか皆に『お願い』されると、生死に関わること以外はたいてい即答しちゃうし。

 

「冥琳、呉の軍師の立場に対して、無理強いしてるとは思うよ。だから、無理なら断ってくれたらいいんだよ?」

 

「!~~~~~~っ! わ、わかった…! 明命の下にいる者を派遣するから、だから、た、頼む、そんなに見つめないでくれ…。

お前の直視は、私が平静を保っていられなくなるんだ…」

 

褐色肌の上からでもハッキリわかるぐらいに、頬を真っ赤に染め、困った顔をした冥琳は。

…なんというか、すごく可愛い一人の女の子に見えて。

普段の落ち着いた大人の女性…という印象からとのギャップに、俺は思わず立ち上がり、彼女を腕の中に引き寄せていた。

 

うん、変に芝居するのは俺の柄じゃ無いね…。なんつーか、俺も照れ臭くて、雰囲気に耐えられないや。

 

「ありがとう、冥琳。ごめんね、困らせてしまって」

 

「…言い出した私が悪いさ。ただ、お前の笑顔や真剣な表情は、ここまで強烈とは、な。知ってるはずの私が、身体が熱くなるのを抑えられなかった」

 

「そんなこと無い人もいるんだけどなぁ…」

 

気付いたら、冥琳の髪を撫でている俺がいた。

愛紗とはまた違った、さらさらと流れる彼女の髪は『撫で心地』が良くて。

それに、困らせてしまった彼女に、謝意も込めて。

 

「華琳どのは別格だ。一年あまりもお前と毎日密に顔を突き合わせていたら、多少の耐性も出来るというもの。

私も情けないぐらいに『女』と思い知らされる。お前にこうしてもらっていると、軍師の私を捨て去ってしまいそうになる」

 

「俺の腕の中でだけ、そうしたらいいんじゃないかな。気を抜く瞬間というかさ」

 

「ああ、悪くないな」

 

「…で、色気のない話なんだけど、本当に大丈夫? 駄目なら取り消してくれよ?」

 

だって、実験だったしね。再度の確認は必要です。

 

「北郷の魅力に充てられた所があるのは否定しないが、ちゃんと計算もしているよ。

派遣するのは男性だけだし、役目が終われば戻してもらう。

こちらもお前の諜報のやり方は盗ませてもらうし、秘匿する部分は別として、共有可能な情報はこちらにも出してもらうのが条件。

それに、私たちには資金面の不安が大きいから、育成する力はあっても、人数をうまく増やせないからな。

北郷がこの世界の曹孟徳の援助を得ているのは大きいよ」

 

「…一瞬で、そこまで考える冥琳が怖いです」

 

「ふふ、軍師だからな。職業病、みたいなものだ」

 

といって、俺の胸に預けていた頭を起こし…といっても、腕の中にいるのは変わりないんだけど…、冥琳は天井に見やり、静かに呼びかけた。

 

「義封、いるか? 降りてきてくれ」

 

「御意」

 

『義封』と呼ばれた黒ずくめの俊敏な動きをした男性が、俺達の目の前に舞い降りる。音もなく着地し、跪く所作は、俺の世界の『忍者』を彷彿とさせた。

顔の半分以上が布に隠れている為、その表情も読み取ることは困難だ。

 

「我が良人のたっての願いだ。あと二人ほど選定して、後任の育成に務めてくれ」

 

「はっ」

 

「この者は施然、字を義封。明命ほどの武は無いが、間諜としての腕は近いものを持っている。部下を使うのも上手い。使いこなしてみせろ、北郷」

 

こくりと頷き、冥琳に断りを入れてから、俺は彼の前に膝をつき、目線を合わせる。

物静かでありながらどこか、思春に似た鋭い意志の強い瞳をしている人だ。

 

「急な話で申し訳ない。上で聞いているのかもしれないけど…俺は、北郷一刀。字は無いよ。義封さん、どうか、貴方たちの力を貸して下さい」

 

頭を下げる俺に、目の前の義封さんが僅かにたじろぐのが分かる。一瞬で元に戻る辺りは流石だ。

 

「これはこういう男だよ、義封。慣れることだ」

 

「…はっ。公謹さまの命にて、我ら、北郷どのに助力致します。して、お伺いしたい。人数としてどれくらい必要ですか」

 

「うん。最終的には五百人程度は揃えたいかな。戦場も含めた埋伏の役割も果たしてもらうことになるだろうから。

ただ、当面は、各有力諸侯に潜り込む力を持つ人を、まずは二桁。

袁紹、曹操、董卓、袁術、劉表、益州に洛陽の宮中には最低放っておきたいから…あ、雪蓮の所もね。練習がてら」

 

おいおい、と苦笑する冥琳の声が聞こえたけど、ひとまず続ける。

 

「情勢によってもちろん、変わってくるんだけどさ。各諸侯に、最低何人ずついると思う?」

 

「…? それは、私に問われているのですか?」

 

「うん、経験豊富な義封さんの意見なら間違いないかな、って」

 

…あれ。困ってる、のかな。実際に手を置いてないものの、この雰囲気は頭を抱えてる感じというか…。

 

「僭越ながら、お答えする前に。普通は、間諜は手駒として主の意のままに動くのであって、自分の意思は極力排除するものです。

北郷どのの態度は、正直我らのような者には、戸惑うだけとお留め置き下さい」

 

呆れられました。むー、手足として使えって言いようだけど、俺は嫌なんだよ。人形になってどうするんだって。

 

「…嫌だよ。俺の元にいる間は、慣れて」

 

「なっ…!」

 

冥琳が愉快そうに『くくっ…』と笑いを漏らし、義封さんが明らかに動揺したけど、これが俺のやり方だし。

 

「義封さんも俺の力になってくれる以上、もう大切な仲間だ。俺に無い、情報収集に特化した能力を貸してもらってる。

だから、専門家として、知恵を貸して欲しいんだ」

 

「…御意。それが北郷どのの意向とあらば」

 

「うん、宜しくね」

 

飲み込んでもらえたのかな。今までのやり方と違う、という不満は、少しずつ解していけばいい。

 

「…! 全く、こうも簡単に無防備な笑顔を見せられるものだ…。冥琳さま達のお気持ちが判りますな」

 

信頼してもらうには、自分を誠実にさらけ出すって思って、実践してるだけだよ?

なのに、どうしてか、最近はこうしてため息をつかれることが多い。

やり方が間違ってる、と問えば、いや至極真っ当なやり方だから気にするな、受ける側の問題だ、とも言われるし。

 

「さて、北郷どの。まずは五人ずつ、でしょうか。いずれは二桁の人数が欲しいところですが、それは追い追いということで。

現状で動きがやや少ない、劉表と益州は少なめにして、宮中に割くのが良いかと」

 

「だとすると、当面は五十人ぐらいが目標になる?」

 

「南に戻れば、興覇どのの伝手も使い、急ぎ集めましょう。ただ、先立つものが必要です」

 

「うん、取り急ぎ…これぐらいで。足りなかったらまた言って欲しい」

 

麻袋に入ったまとまった銭を、義封さんに差し出す。

受け取って中身を確認してもらった後で、目が訝しげに細められた気がしたけど、重たすぎただろうか。

ただ、俺でも片手で持てるだから、大丈夫だろうしなぁ。

 

「…百人は集めてみせます。ここまで赤心を示して頂いた以上、必ずや。では、先に南に戻り、早速始めさせて頂きます」

 

言うや否や、義封さんの姿がかき消えるようにいなくなった。

…すげー、明命もそうだけど、本気になると気配が全く読めない…。

 

「…義封は北郷を認めたようだ。全く…本当に性別関係なく、すっと心の中に入り込むものだ…。

しかし、これで、呉の皆を集めるのにも時間はかからない見通しも立ったか…」

 

「袁術さんや張勲さんまでうまくいくとは限らないからね? 意図的に『口説き落とす』為に、人に話しかけたことなんて無いんだからさ」

 

「ふふっ、難しく考えずに、友人になりたい、ぐらいの感覚でいいのだぞ。その方が却ってうまくいくさ。…まぁ、私は御免被るがな」

 

「体の良い厄介払いだよね!?」

 

「心配していない。北郷なら問題なく御してみせるだろうさ」

 

雪蓮の元に反董卓連合前の袁術の兵力を併せ持たせることが出来れば、魏にも一国で対抗しうる規模の軍へと増強することが可能だ。

錬度はいずれ上げることが可能だし、まずは数が揃うことが重要。結果、戦乱の期間を短縮するのに繋げる選択肢が増えてくる。

 

「それに失敗したとしても、北郷たちが呉の独立に手を貸してくれるだけで情勢は変わる。

群太守程度なら容易くこなせる人材が既に揃い、二手に分ける手すら打てるお前たちなのだから」

 

肩の力を入れず、仲良くできたら儲けもの、ぐらいでいいと、冥琳は笑う。

戦乱の為への未来の一手は、今日確かに一つ打てたのだ───。


 
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