No.308760

夜明けのモーニングコーヒ

水曜定期更新
テーマはモーニングコーヒー。
本気でストックがない。
でも、バカテスだの俺妹だの執筆は他に割いていてそらおとに回せない。
そして何よりOO分が足りない。

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2011-09-28 00:17:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3342   閲覧ユーザー数:2368

夜明けのモーニングコーヒ

 

「退屈だ。退屈だ。退屈だ。退屈だっ!」

 空美町の遥か上空に浮かぶシナプスの中心部で退屈を嘆いていた。

 シナプスの民の寿命はあまりにも長い。

 そしてシナプスは時が止まった空間のように変化が少ない。

 その結果、シナプスの民のほとんどは、悠久ともいえる己が人生に退屈し、絶望し、ダウナーと称して見下す人間のような生活を送ることを望むようになった。

 即ち、ダイブゲーム。

 眠りに就きながら自身の意識を仮の肉体と共に飛ばし、人間社会の構成員として生を過ごす。

 一度に楽しめるのは精々がほんの数十年の時間であるが、シナプスの民たちは自分ではない存在となって変化に満ちた生を楽しむことができた。

 短いながらも変化に富んだ生き方にシナプスの民は次々と心惹かれていった。

 そして、1つの人生が終わると他の人間としての人生を開始し、彼らはダイブゲームの中毒となっていった。

 シナプスのほぼ全ての住民がダイブゲームの中毒となり、眠りの世界の住民になるまで多くの時間は掛からなかった。少なくとも、シナプスの悠久の時の流れに比べれば。

 だが、そんな風潮を快く思わない者もいた。

 シナプスのマスターを名乗るその男は、シナプスの民が己の誇りも忘れてダウナーごっこに興じている様に大きな苛立ちを覚えていた。

 男とてその長すぎる人生に暇を持て余していた。

 だが、自らが蟲としか価値を認めていない人間として生を送るなどプライドの高い彼には決して許せることではなかった。

 その結果、彼は退屈に頭を狂わせそうになりながら、ただひたすらにシナプスの民としてのプライドを保てる刺激を求めていた。

 

「そうだ。ベータさえ私の元にいればこの退屈を少しは紛らわせることができるものを」

 そして男はサディストでもあった。

 彼は自分より弱い者を虐げている時だけ心の充足を実感することができた。

 弱い者が自分に許しを乞い、哀れみを求める時にだけ、充足感を感じることができた。

「そうだ。俺はベータが絶望に陥る顔が見たいのだ。あいつの嫌がることをしてやりたいのだ。クックック。ハッハッハッハ」

 男が歪んだ、とても歪んだ笑い声を発していた。

 

 

「ねえ、智樹。……私、智樹と一緒に夜明けのモーニングコーヒーが飲みたい…な」

 午前0時。

 枕を持って智樹の部屋に入って来たエンジェロイドの少女は俯きながらそう呟いた。

 眠らないはずのエンジェロイドの少女はシンプルなピンク色のパジャマを着ていた。

「夜明けのモーニングコーヒーって、お前、意味わかって言ってんのか、ニンフっ!?」

 ニンフの申し出を聞いた智樹は平常心ではいられなかった。

 掛け布団を抱きしめながら壁際へと後退する。

「勿論、わかってる、わよ」

「だったらっ!」

 壁より後ろには下がれないのに智樹はひたすらに後退の動作を取り続けている。

「わたしは……智樹にだったら、何をされても良い。ううん、智樹に滅茶苦茶にして欲しいのっ!」

 少女の真摯な訴えが智樹の胸を打つ。

 だから、だから──

「きょ、今日の所は添い寝で勘弁してやらぁっ!」

 智樹は自分ができる精一杯の返答をよこした。

「それだけで、いいの? 私、智樹の為なら何でもしてあげられるよ?」

「うっさ~いっ! 俺は紳士なの! 健やかなる青少年なのっ! だから、今は添い寝で十分なんだよ!」

 智樹は自分には最も似合わない紳士という単語を使って境界線を構築した。

 桜井智樹、色々なことに覚悟を決めるにはまだ若すぎる少年だった。

「智樹が……それでいいなら、一緒に寝よっか……」

 ニンフが智樹の布団の上に体を横たえる。

「おっ、おう……」

 智樹が掛け布団を持って布団の位置へと戻る。

 2人で並んで布団に入る。

「智樹の背中……暖かいよ」

「そうか……?」

 智樹はニンフの顔を見られないでいた。

 背中に確かに感じるニンフの温かみと重みに緊張の極地にいた。

 

「じゃ、じゃあ、寝るぞ」

「うん。お休みなさい」

 エンジェロイドであるニンフは眠らない。

 だからこの場合寝るのは智樹のみ。

 しかし高鳴る心臓と熱を持つ頭のせいでとても眠れる状態に智樹はなかった。

 だが、極度の緊張状態は疲労感を招く。

 1時間も経った頃に智樹は段々と睡魔に逆らえなくなって来た。

 緊張による体力の低減に体が眠りを欲するようになっていた。

 眠気の大波が智樹の意識を別世界へと誘っていく。

 だが、そんなタイミングで事件は起きた。

「えっ? こんな時にシナプスからハーピーが襲撃!?」

 ニンフの高性能レーダーはシナプスからの襲撃者を感知した。

 襲撃者ハーピーは一直線に桜井家に向かって進攻して来ていた。

「どうしよう? アルファは鼻血の吹き過ぎで朝まで自己修復中だし、デルタはバカだから毒キノコ食べて大空に笑顔でキメてるし、カオスは海の底にまた沈んでるし」

 桜井智樹に縁のあるエンジェロイドたちはそれぞれの事情で動けない。

「こうなったら、私がハーピーを撃退するしかないわね」

 ハーピーはそれほど強力なエンジェロイドではない。

 しかし、物理戦闘用ではないニンフにとっては厄介な相手に違いなかった。

「ハーピーなんかに智樹は指1本触れさせないんだからっ!」

 ニンフは立ち上がり、窓を開けて飛んでいく。

「ニンフ……どこ行くんだ……?」

「邪魔者を追い払ってくるわ!」

「そう……か……」

 抗えない眠気に襲われた智樹はニンフの行動の意図を把握することもできずに眠りに就いた。

「クックックック」

 ニンフにハーピーを差し向けた邪悪な男の陰謀にも気付かずに。

 

 

 

 そして、朝を迎えた。

「ゲッヘッヘ。ニンフ、お前のおっぱいは相変わらず小さいなあ。げっへっへ」

 智樹はいまだ幸せな夢の世界の住民だった。

 そんな智樹に近寄っていく1人の少女。

「智樹っ♪ モーニングコーヒー淹れてきたわよ。一緒に飲も♪」

 ニンフだった。

 ニンフのバトルコスチュームには所々焼け焦げた跡があった。

 ハーピーを撃退することには成功したものの、その戦いには長い時間が費やされた。

 一撃離脱を繰り返すハーピーはニンフと常に距離を取っており、攻撃に入るのは容易ではなかった。

 ハーピーの羽にパラダイス・ソングを当てて撤退させたのは既に夜明けを迎えようとしていた頃だった。

 桜井家に戻って来たニンフはコーヒーを淹れてから智樹の部屋へと戻って来た。

「う~ん。後5分だけぇ」

 智樹はいまだ眠りから覚めようとしない。

「もぉ~。起きてくれないとコーヒー冷めちゃうわよぉ」

 ニンフはコーヒーを机の上に置いて智樹の布団を剥いだ。

 だが、そこに待っていたのは思いも寄らない光景だった。

 

「クックック。待っていたぞ、ベータ」

 智樹の布団の中に潜り込んでいたのはシナプスのマスターだった。

「なっ、何でアンタがっ!?」

 天をも切り裂きそうなニンフの金切り声が室内に響く。

「何だ、ニンフ? どうかしたのか?」

 目を擦りながら智樹が目を覚ます。

 そして自分の目の前に、羽の生えた全裸の男が布団の中にいるのを発見した。

「おわぁあああああぁっ!? 何でシナプスのマスターの野郎がここにいるんだよっ!?」

 智樹の驚いた表情を見て男は誇らしく笑った。

「ベータよ。お前が大事にしているサクライトモキ。この俺が寝取らせてもらったぞ」

「へっ?」

 それはニンフにとってあまりにも衝撃的な一言だった。

 衝撃的過ぎて理解することができなかった。

「お、おまえ、一体何を言って?」

「このダウナーめ。昨夜俺の体を散々弄り回して弄んだことを忘れたとは言わせないぞ」

 男はポッと頬を染めた。

「何のことだ? 確かに昨夜はニンフにムフフなことをする夢をみてしまったが……」

 智樹の額に汗が噴出す。

「あんなヤックデカルチャーな体験は俺の永き人生の中でもはじめてのことだったぞ。このケダモノデカルチャーめ」

 男の話を聞いてニンフの体が小刻みに震え出す。

「それじゃあ智樹は、私がハーピーと必死に争っている間にコイツとムフフなことをしていたってわけ……?」

「いや、だから俺にはそんな覚えはまるでないっての!」

「貴様に覚えがなかろうが、この俺の体は貴様の蛮行を覚えているさ。体の隅々まで刻み込まれたからな」

 ニンフの体の震えが激しくなり、震えが最高潮に達して……

「やおいはペガサスファンタジーなのっ! 二次元だから良いのっ! リアル男同士は嫌ぁあああぁっ! 気持ち悪いぃいいいいぃっ!」

 泣きながら回れ右して智樹の部屋を出て行った。

「おいっ、ニンフぅううううぅっ!」

「智樹のバカぁあああああぁっ!」

 智樹は引き留めようとするもニンフは部屋を駆け去ってしまった。

「フッ。勝った」

 男はニンフが淹れたコーヒーを誇らしい表情で口に含んだ。

 久々に味わうサド全開の味だった。

 

 

「……それではシナプスのマスターはマスターと結婚なさるのですか?」

「ぬっ? アルファか」

 男の知らない間に、自己修復を終えたイカロスが部屋の中に立っていた。

 鼻血を垂らしながら。

「フッ。まあ良い。久々にお前の心も切り裂いてやるか。お前のマスター、サクライトモキは俺が寝取らせてもらったぞ。どうだ、悔しかろう?」

 勝ち誇る男。

 だがイカロスは少しも驚いた表情を見せない。いつも通りの無表情。

「お前はこの光景を見て、おかしいと思わないのか! 俺の人生の危機なんだぞ!」

 表情を変えないイカロスに智樹が苛立っていた。

「……私は二次元のやおいにしか興味がない軟弱なニンフとは違います。三次元、リアル肯定派です。智樹×シナプスのマスターも全然オーケーです。むしろ、推奨します」

 鼻血を大量に放出するイカロスはどこか誇らしげだった。

 敬愛するマスターが他の男に寝取られるのは腐女子の本懐といった表情を浮かべていた。

「ばっ、バカなっ!?」

 イカロスの余裕に満ちた態度に驚かされたのは男の方だった。

 慌てて立ち上がろうとする。だが──

「クッ! 立ち上がれない、だと? 一体、俺の体はどうしたというのだ?」

 下半身に力が入らず立ち上がることができなかった。

「……シナプスのマスターの下半身に損傷を確認。ですが、その損傷こそが……」

 イカロスが大事な話を告げようとした瞬間だった。

「カオスっ? 何で毒キノコの毒からようやく解放された私を執拗に狙うのよ? そんな巨大大砲による攻撃なんて……あっ、嫌ぁあああああああああぁっ!」

「アストレアお姉さま? これは愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛、愛なんだよぉおおおぉっ!」

 窓の外では、アストレアが宇宙(そら)へと飛び立っていった。

 二度と帰って来ることはない、イスカンダルを目指し地球を旅立っていった。

 だが、そんな些細なことよりもアストレアとカオスの会話は男に大きな衝撃を与えた。

「これがっ、愛だというのか? 俺が、サクライトモキに愛を感じていると?」

「んなわけがな……」

「……そうです。シナプスのマスターはマスターを愛してしまったのです」

 イカロスは大量の鼻血をもって男の推論を肯定した。

「なるほど。これが愛か。確かに新しい刺激だ。ではアルファよ、俺はこれからどうすれば良いか?」

「……マスターには責任を取って頂き、2人は結婚するしかありません」

 イカロスの瞳と声は澄み切っていた。

「なるほど。結婚か。それもまた新しい刺激に違いないな。フム、では結婚するとするか」

 男はニヤリと笑った。

「ねえ、智樹……やっぱり私、あなたのことが諦められないの。だって私は智樹のことが好……」

 ニンフが部屋に戻って来た。

「フッ。遅かったな、ベータ。サクライトモキは俺と結婚することになった。もう貴様の出る幕はない」

 だが、ニンフが目にしたのは、イカロスの仲介の下に誇らしい表情を浮かべるシナプスのマスター、その彼と無理やり手を繋がらせる智樹の姿だった。

「そんな。アンタと智樹が結婚だなんて……」

「その表情だ。その表情だぞ、ベータ。私はその表情が見たかったのだ。ハッハッハ」

 実に楽しそうに笑う男。

「智樹の赤ちゃんも産めない男の分際でぇっ! 絶対絶対、略奪愛してやるんだからぁああああああぁっ!」

 ニンフは再び泣きながら出て行った。

 だが、その口元は少しだけ楽しそうだった。

 昼ドラ大好きなニンフにとってシナプスのマスターから智樹を寝取り返して奪い返すことは大きな喜びになるに違いなかった。

「……さあ、2人の結婚式を挙げましょう。今すぐに」

「ちょっと待てっ! 俺の意思はどうなる? 俺はこんな奴と結婚なんかしたくねえっての!」

「……マスターの意思如き、男同士の結婚という大宇宙の大いなる真理の前には全く必要ありません」

 イカロスの瞳は決意に満ち、かつキラキラと光り輝いていた。

 こうして智樹は結婚することになった。

 だが、それは新たなる戦いの序章を意味するものだった。

「絶対絶対、智樹を奪い返してやるんだからっ!」

 智樹の奪還を誓うニンフ。

「フッフッフ。ハッハッハッハ。身も心も一つになった俺とサクライトモキの仲を引き裂くことができるのかな、ベータよ? ハッハッハッハッハ」

 ご機嫌な笑いを発するシナプスのマスター。

 桜井智樹を巡る2人の熱き戦いは今始まりを告げたのだった。

 

 そしてアストレアの心だけは今も地球に留まり、彼女の愛する者たちを見守り続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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