No.30871

SF連載コメディ/さいえなじっく☆ガールACT:12

羽場秋都さん


毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その12。

2008-09-15 05:41:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:738   閲覧ユーザー数:711

 屋上への階段は、あっという間に好奇心旺盛な生徒とそれを静止しようとする教師でごったがえし、屋上に上がっていたものも降りるに降りられない有様でもみくちゃになっていた。

 しかも間一髪のタイミングで逃れた夕美たちを押しのけるようにして、踊り場へはまだ続々と生徒が押しかけて来ている。

「うっわー。あぶなかったぁ。」と麻樹。

「あのまま屋上にいたらどうなってたろうね」と鈴。

「ほんま、助かったわ〜、忠告おおきに。」

(そうか、須藤さんは関西出身だったな。聞き込みの時、これがちょっとした萌え要素だって言ってるヤツもいたっけ)「いえ…」雑念を抱きながらも亜郎は一瞬言葉を失った。はじめて真っ向から視線を交わした夕美の眼に惹かれるものがあった。

 同時に、なるほどこの眼か、と分析するもうひとりの亜郎もいた。誰かが「切なげなタレ目」と褒めていた眼だ、と。

 

 

「そんな事より亜郎くん、やっぱり何かの取材だったんですかあ?」

 麻樹の好奇心が容赦なく亜郎の妄念を砕く。

「え。い、いや、まさか。僕も昼休みの休憩してただけですよ」

「取材って?麻樹、あんたこの人知ってんの」

「なに言ってんのよ、我が校の誇るメディア部の三宅亜郎(みやけ あろう)君じゃない。」

「はあ。そーなん?」

「有名人さんですよ、ね?」と鈴が亜郎本人に振る。

「いやあ、自分の口からは。」

 

「へえ。そら知らんで失礼…ほんなら。もお予鈴鳴るやろし」

「えっ、ほんならって、夕美」名残惜しそうにする麻樹だったが、すたすたと去ってゆく夕美と鈴に置いてけぼりにされて一人だけ残るわけにも行かず、「それじゃ、またね、亜郎君。メディア部、応援してるから」と二人の後を追った。

「夕美いいいっっ!んもお、せっかくのお近づきのチャンスを〜〜〜!」

「お近づいて何すんねんな。あんた、あんなん好みやったっけ?」

「いや、だけど彼、絶対将来のメディア王だよ。セレブだよ?これが縁でくっついたりして、もしかしたらウフフな仲になってエヘヘな未来がオホホのホ」

「やめてぇや。セレブて、あたしに言わせたら成金と同義語やで」

「ナリキンけっこーじゃん。成りたくたって成れるもんじゃなし」

「麻樹は“お近”づけば?あたしあんなん好みとちゃうし…ってか、どんな子ぉか、ちゃんと見てへんし」

「え〜〜!?目線まで交わしてたのにぃ!? …って、ちょっと、んもう、どこいくのよ」

「予鈴鳴ったっちゅーてるやん。教室に決まってるやろ」

「こんなイベントが発生してて、そんなすぐに授業になんかならないわよぉ」

「………ちょっと、麻樹。」

 ぴたりと立ち止まり振りかえった夕美の表情は険しかった。

「なっ。なによ。怖っ」

 

 

「イベントって、なんちゅうこと言うんや。不謹慎やで。あそこでは誰か怪我するとか、絶対に悲しいことが起こっとるんや」

「そ、そりゃまあ、そうだけど…あたしらにはどーしよーもないじゃん」

「そんなことは分かっとるわ。せやけど、ゆうてええ事と悪い事があるわ」

「………わかったわよ、悪かったわよ。もう、あんたって普段は何をもちかけても興味なしって顔してるくせに、こーゆー事になるとバカ真面目っつーか、んっとにそういうトコだけ熱血漢なんだから…」

(たしかに、あたしらにはどうしょうもない。どうしょうもないけど…)

 

 まだぶつぶつ言い続けている麻樹にはおかまいなく、夕美はさっさと教室へ向かったものの、結局、麻樹が言ったように授業にはならなかった。

 

 見通しの良い屋上と違って、教室の窓からでは事故現場までは見通せなかったが、あれからずっと現場へ急行する消防車や救急車のサイレンが響き続けていた。

 さらに校舎で四角く切り取られた空をマスコミのものとおぼしき取材用ヘリコプターが低空飛行で何度も横切っていく。

 教師は不在で自習状態にしたままみんな職員室にいた。

 

 こういう時、必ずどこかから情報を得てきて大衆に噂を提供するゴシップ屋がクラスにたいてい一人くらいはいるものだ。

 そういうやつが他のクラスの情報屋と結託して得た情報によれば、教師たちはテレビの前にかじりついてニュースをむさぼるように観ているという。

 もちろん授業をサボっているわけではなく、被害がこれ以上拡大するようなら全校生徒を非難させるべきか否かを皆して迷っているのである。

 もっとも、事故の規模は大きいが、作業中の一般的な工事現場でのことなので1kmも離れたこの学校まで直接の被害が及ぶことはまずないと言っていい。

 しかし本当の問題は別の所にある。

 騒ぎでごったがえし、今なお集まりつつある野次馬やマスコミの動向次第によっては、帰宅途中の生徒に何らかのトラブルが予想されるというのである。

 人が集まるとパニックが起きる。ありえない事ではない。

 

「んもう、どうせ授業もないんだったら帰らせてくれたらいいのに」

「部活だって中止に決まってるしなあ」

「…だからといって、いつ事故が沈静化するか判らないでしょ。まあ、きっと事故現場方面の生徒は先生たちが誘導して遠回りさせる、ってことに落ちつくでしょうけどね〜」

「それにしてもすごかったなあ。まるでスローモーションだったぜ」

「あっ。お前見たのか。俺、見損なったよ」

「まるで怪獣映画だったぜ。こう、バランスを失ったクレーンのアームがロボットの腕みたいにさ」

「振り子の原理だな。あれだけでかいクレーンだったら被害もでかい…あのビルはイチからやり直すしかないだろうな」

「けが人どころか、死人もでたんだろうか」

「足場が崩れるの、見たわ」

 クラスメイトの思い思いのざわめきを聴きながら、夕美は別のことを考えていた。

(たしかに…以前までやったら麻樹の言うとおりなんやけど…)

 

 

〈ACT:13へ続く〉

 

 


 
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