【現在】
ガイアスと何やら相談をしているウィンガルを見ながら、薄ぼんやりと考える。
ローエンがウィンガルに対する胸に湧く感情は、若さを羨んでいるようでもあるし、どこか嫉妬を含んだものでもある。未来という、もう自分が持てないものを信じられる強さが、眩しくて目を細める。
同じ王を頂く者としてウィンガルの立場は自分とは違っていて、けれどその根本は同じもので「もしも」という想像が頭を過る。
もしも、どこかで選択を間違えていなければ、自分もまだウィンガルのように王の側に立てていたのだろうか。
王の隣にいて、違う形でこの青年と出会っただろうか。
それ以前に、このような混乱を起こすことなどなく王を導けただろうか、とも。考えても、詮無いことが頭を占める。
王を導けるなど、そんな大それたことなど出来ない事はわかっている。彼はいつだって王であった。導かずとも自ら道を切り拓ける強さがあった。その強さが彼が王であり、道を間違えた原因だったのだろう。
けれど彼は王である以前に、自分の友だったのだと、思う。
友であれば、導かずとも共に隣を歩めたのではないかと。本当に今さら言ってもどうしようもないことが胸をキツキツと締めて、目を伏せた。
【過去(※40年ぐらい前)】
「ナハティガル……」
「なんだ?」
「それは、こちらの台詞ですよ」
はあ、と大げさに息を一つ吐いてから、読んでいた本を閉じて振りかえる。
しばらくぶりの休息に、これ幸いとばかりに溜まりにたまった本を読んでいたのに、いつの間にか部屋に侵入してきた相手が邪魔をするものだから集中力が切れていけない。
「何しているんですか」
「見れば、わかるだろう」
「いや、そういうことではなくてですね」
ソファーに座った自分の後ろ。どこからか引っぱってきたのか椅子に座っている男は、悪びれもせずに口をとがらせている。どこか子どものような仕草に、何と言えばいいのか悩む。
「髪」
「ああ。長いな」
「そういうことでもなくて……」
切ることが面倒で、伸ばしたままの髪を先ほどからおもちゃにしているのだ。
指を絡めたかと思えば、みつあみにしてみたり(良く知っているなと逆に感心した)、引っぱってみたり、また指で梳いてみたりと。これでは集中できない。
視線だけで咎めてみても、相手はどこ吹く風で未だ絡めた指を離す気配はなくて、諦めの息を吐く。
「これで、最後にしますから……もう少しぐらい我慢して下さい」
「良く分かっているじゃないか」
しぶしぶとばかりに言うと、悪戯が成功したような笑みを浮かべるものだから、しょうがないですね、と言うことしか出来なくて。けれど余り嫌でもなくて、どうしようもないほど自分はこの男に甘い、と思ってしまった。
【現在】
「伸びましたねえ……」
腰のあたりまで伸びてしまった髪を何となしに触りながら、切ろうかどうしようかと悩む。
戦闘において、ジュードやアルヴィンのように先陣を切る事は多くないが、それでも長い髪というものは邪魔になりがちだ。だから切ってしまうのが一番効率的で、面倒でないということは分かっている。
分かっているけれど、切ろうと思う度に、この髪を撫でていた相手の事を思い出してしまって切れずにいる。
「何とも、乙女のようですな……」
うら若き乙女が、失恋をした時に髪を切るとか、好きな人に褒めて貰いたいから髪を伸ばすということは往々にしてある。それがまさか自分のような年齢にも当てはまるとは予想外で、どうしたものかと息を一つ吐いていると、おずおずと声がかけられる。
「ローエン、髪切るの?」
しゃべる不思議なぶいぐるみティポを抱えたエリーゼが、伺うようにこちらを見上げている。それに微笑みを返しながら、悩んでいるんですよと軽く答える。
「ええ、どうしましょうか」
『綺麗だから、勿体ないと思うよー』
「わたしも、そう思う、です」
ティポと、エリーゼに続いて言われて、瞬く。今まで言われた事などほとんどなかった「綺麗」という褒め言葉に、自然と笑顔が浮かぶ。
勿体なさすぎる言葉に「ありがとうございます」と返してから、こころを決める。
「……そうですね。せっかくですから、もう少しこのままでいましょうか」
切るのは、決着がついてからでも遅くないでしょう。
内心だけで言葉を続けて、昔を思う。この髪を、同じように「綺麗」だといった彼の事を。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
エクシリアのナハティガルとローエンって、いいなー→もえしんだ。
ナハティガルとローエンは、戦友って言うか親友っていうか念友っていうか、まあ、そんな感じで40年ぐらい前から妄想するとハゲモエてしねそうです!!!
現在→過去→現在で妄想。ローエンが髪伸ばしている理由って捏造してもいいですか。
ナハロと言い張りたいけれど、友情以上恋人未満な感じのナハ+ロの話です。