どこまでも青く澄み切った海の中を、私は・・・まるで生まれる以前の母のお腹の中にいたかのように・・・体を丸め両膝を抱えて漂っている。
かつて、自分は玉藻の前と恐れ崇められた妖狐でありながら、自分を崇める人間というものに興味を持ってしまったが為に彼等の歴史に残ることとなり・・・そして、今 サーヴァントという使い魔として行使される存在に成り果てた。
そのことに自分は微塵の後悔もない。
だが、哀しいと想うことがあるとするなら、自分が救いたいと願い愛した人間が自分の想いに反して目の前から去ってしまうことだった。
・・・・・・聖杯戦争
回想にふけっていると、かつて自分が仕えてきたマスターが、私の無力さゆえに虚無の闇に消えていった姿が脳裏に浮かぶ。自分が愛し守ろうとした主人が戦いに敗れ、絶望に打ちひしがれたその表情を、自分は決して忘れることが出来なかった。
聖杯戦争というカラクリを自分は既に知っている。
幾度同じことが繰り返されたらこの戦いは終わるのだろう。
ムーンセルを操る為に、自分を見限った最初のマスター、トワイス・ピースマン。
優しすぎて、何度も何度も敗退し・・・それでも自分にはわかる、彼はこのムーンセルのどこかできっと生きているのだろう。
彼が自分を呼ぶことはこれからもないだろうことは既に悟っていた。
そして、サーヴァントとしてムーンセルに召還され行使される存在に過ぎない自分には、この繰り返される殺し合いをどうすることも出来ずに、ただ状況に流されるまま戦い続けることしかできないことも。
自分はいつまでこんなことを繰り返せばいいのだろうか?
物思いにふけっていると、また以前と同じように水面から光が周囲に溢れ煌めきだした。
そして脳裏に響く悲痛な声。
「___死に、たく・・・ない! 誰か、助け・・・」
ムーンセルによる召還の要請である。
また、自分は自分に助けを求めるこの声の主を・・・死なせてしまうのだろうか?
再び、契約を繰り返し、この声の主を愛し抜いたあげくに死なせてしまうのだろうか?
けれど、自分には拒むことが出来ない。
なんと弱々しく無意味に抗う人間よ、自分はその愚かさを知っているはずなのに・・・・・・。
同時に自分を惹きつけてやまない、その非力な体からは想像もできない人間の魂のあり方に、自分は憧れてしまったのだから。
助けを呼ぶ声が自分に届いたということは、ムーンセルがこの声の主と自分との適性の照合をしようとしているということ! それは、自分が助けなければ、誰もこの声の主に助け手などおらず・・・見捨てれば、消滅しかないということをも意味するのだ。
脳裏によぎる、かつて契約したマスターの消滅間際のその哀しそうな表情が。
それでも、自分と契約することで、少しでもその生を長く引き留められるだろうか?
サーヴァントとしては、自分は決して強くないことを自覚しているけれど、、、それでも弱音を見せることは・・・できない。
それは虚勢を張る為ではなく・・・・・・
新しいマスターが自分自身の運命に怯えないように、恐怖を持たずに、抗う勇気を少しでも持てるように、・・・・・・
例え契約するのが力の弱い自分であろうとも・・・・・・
絶望で覆い尽くされた自分の心を押し隠し・・・努めて明るい表情に切り替えながら・・・その悲痛な声に注意深く耳をそばだてつつ、私は、この深い海の底に降り立ち、新しい主の元へと続く・・・光輝く門に向かって歩き出す。
不安と希望を胸にして・・・・・・
きっと、今度こそ・・・自分を呼ぶこの新しいマスターこそ、この運命を変えてくれる者だろうか? と、
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Fate/EXTRA キャスター(タマモ)が主人公と契約する直前の、ムーンセル内で待機中の時の場面です。主人公に呼ばれる契約前の彼女の想い。