No.30590

妹紅と慧音のある昼

奈々樹さん

妄想話その2。甘さ控えめ。短いです。

2008-09-13 16:16:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1414   閲覧ユーザー数:1373

 

~何もなくて平和なある日中のこと~

 

 

「はぁ~…何にもすることがなくて暇ね~」

 

 

「………む~。竹林に行ってもいいんだけど…」

 

 

「よし。決めた!」

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

太陽がそろそろ一日のうちで最も高くなる頃。

 

里の寺子屋は死屍累々…もとい、睡魔に負けた生徒が続々と。

 

まだ起きている者もいるがそれも時間の問題だろう。

 

私は一つため息をついて教科書を閉じる。

 

 

「今日の授業はここまでだ。宿題は帰ったらすぐにやるんだぞ」

 

『はーーい!!』

 

 

授業終了と聞いた途端、子供たちの空気が明るくはじけた。

 

眠っていたはずの者もいつの間にか起きて喧騒に加わっている。

 

これからどうするかささやき合う光景を穏やかな気持ちで見つめる。

 

ありふれた日常。

 

ささいな出来事。

 

何の変哲もないこの時間が愛しい。

 

近頃はめったに大きな事件が起きないのは嬉しいことだ。

 

そういえば今日はまだ結界を…

 

 

「けーねせんせーあそぼー?」

「ん? ああ…すまない、この後用事があってな…」

「えぇー…あそぼうよー」

 

 

少年の不満な顔が私を見上げ、小さな手はスカートを握っている。

 

そんなことをされると断りづらくなるのだが…。

 

どうしたものかと私が答えかねていると、予期せぬ声が聞こえた。

 

 

「それじゃあわたしが遊んでやるよ」

「!?」

 

 

開け放たれた窓の向こうに立つのは透けるような銀髪の少女。

 

滅多に里には来ないはずの妹紅だった。

 

 

「妹紅が里に来るなんてどうしたんだ? なにかあったのか?」

「いや別に何もないんだけど暇だったから…ね」

「ふむ…。普段なら竹林に行ったり幻想郷を目的もなくうろうろしているのにな」

「ちょっと! それだけ聞いたらわたしが暇人みたいじゃない!」

「違うのか? と言うかさっき暇だと言ってなかったか?」

「うっ…言ったけど……」

 

 

いつもどおりな会話。

 

ずっと話していたい欲望に駆られるが、あいにく用事がある。

 

名残惜しいが本題へと戻る。

 

 

「それはそうと妹紅。子供たちと遊んでくれるのか?」

「ええもちろん。わたしは暇だし、慧音が困ってるからね」

「…ありがとう。それでは子供たちを頼むぞ」

「はいはい、分かってるって。ほら、遊んであげるから泣かないの!」

「な、泣いてないよ!」

「ふふふっ、どうかしら~?」

「うー。おねーちゃんのいじわるー」

 

 

二人のほほえましい様子を見て、私はその場から離れる。

 

そして里のどこから回ろうかと思考し始める。

 

入り口の方は帰りに確認するとして、ひとまず東の方から一周するか…。

 

考え始めると周りが見えなくなってしまう。

 

だから完全に不意打ちを食らってしまった。

 

 

「ホントは慧音に会いたくて来たんだからね♪」

「なっ!!」

 

 

体温、心拍数、共に急上昇。

 

反射的に振り返ると視界には銀色の残像しか残らなかった。

 

~~~~っ。

 

色んな感情が渦巻いて頭がぐるぐるする。

 

しばしの間、私はひんやりする壁に額を当てていたのだった。

 

 

「うぅ~…妹紅め……」

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

熱を冷まし正常な思考を取り戻した私は結界の確認を行った。

 

綻びがないか、ちゃんと機能しているか、周囲に変わったことがないか。

 

うむ。問題なし。

 

一通り見て回ると、もう陽が傾いていた。

 

寺子屋の近くまで戻ってくると、妹紅が子供たちと別れているのが見えた。

 

 

「おねーちゃん、ばいばーい」

「またあそぼーね、もこうおねーちゃん」

「ありがとー」「またねー」「さよならー」

「気をつけて帰るのよー。ってこら! ちゃんと前を見なさい!」

 

 

夕日に照らされる優しい光景。

 

紅い世界の中にたたずむ妹紅は綺麗だった。

 

銀の髪は紅を吸い込み、白い肌は紅く染まる。

 

その夕日よりも紅い瞳が私を捉える。

 

 

「あ、おかえり慧音」

「ただいま、妹紅。…と言ってもここは家ではないがな」

「まあいいじゃない。そういう気分なんだから」

「ふふ…それもそうか」

 

 

どちらからともなく、くすくすと笑いあう。

 

こんなひとときが私には嬉しい。

 

大切な人が近くにいて、一緒に笑う。

 

とても幸せだ。

 

 

「それじゃあそろそろ帰りましょうか」

「あ、ああ。そうだな」

 

 

太陽はもう山々に隠れようとしている。

 

東の空はすでに暗く、じわじわと夜が広がっていた。

 

歩き出す妹紅の手に自らの手を重ね合わせる。

 

それに気付いた妹紅がすばやく指を絡めてくる。

 

びっくりした私を逃がすまいと。

 

繋いだ手から伝わるぬくもりが嬉しく、恥ずかしく、温かい。

 

心地よい無音の空気。

 

紅い顔を見られないように歩く。

 

一日の終わりを告げる最後の光が映し出したのは一つの影。

 

 

 

――願わくば、張り裂けそうな胸の鼓動がこの手から伝わりませんように…

 

 

 

 

 


 
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