No.304298

今の所タイトル未定

YU_Hiさん

.トーマとエリオがひどいコトに会うSS……のプロローグ。予定。どういう目に会うかは想像にお任せします(ぉ 間に合えばリリマジにコピー本として出すよ! あ、これとは別にちゃんとオフセを用意するつもりなので、そっちもよろしく!  ※09/23、トマエリSSのサンプルとか言っておきながらトマエリが出てないのもどーよってコトで追記しました

2011-09-20 21:42:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1474   閲覧ユーザー数:1468

     1.

 

「何かこういうの久しぶりねぇ~」

 上機嫌に鼻歌を歌いながら、彼女は紙面にペンを走らせる。

 電子技術や魔導技術が発達し、情報伝達手段が物品や紙などによるやりとりが少なくなり、映像による直接の会話やメールなどの手軽かつリアルタイムに近いやりとりが増えてきた昨今においては、こうやって自分の思いを紙面にしたためるという行為はほとんど廃れてきてしまっている。

 それでも、世の中に本がなくならないのは、それを手に持ってその紙面に連なる文字を読み解くと言う行為が、人の人生や思いを読み解くことに似ているから、なのではないだろうか。

 人というのは少なからず、他人の心を理解したいと思うのだ。例えそれが、見ず知らずの作者という存在であったとしても。

 自分で書いた手紙の紙面を軽く読み直しながら、彼女は少し顔を赤くする。

「改めて読むと少し恥ずかしいわね」

 ややクセのある丸っこい文字は――時空管理局からすると犯罪組織扱いである――ファミリーを束ねるボスのクセ字としてはやや可愛いすぎる気もする。だが、手紙というのはそれが良いのではないか、とも思う。

 電子メールなどでもフォントを選ぶことが出来るし、それで様々な表現をすることも可能ではあるが、それでも手書きによる書き手のクセ字というのは、どんなフォントよりも雄弁に思いを語る。

 一字一句。その書き連ねる文字の、書き連ねる文章の、その一瞬。そのひと時の感情が、そこに現われるのだ。だからこそ、文面に同じ文字はあれど同じ形の文字は存在しない。

 恋文――などと言われるこの手のものは、スクールに通っている頃は、それなりに流行りもしたが、やはり電子メールや映像通信(ヴィジョンフォン)での手軽さに比べると、面相くさいという側面から、僅かな間に廃れてしまった。

 話を聞く限りだと、それはスクールガール達のある種の通過点らしく、世代の違う女性陣に聞いてみても、自分が関わった関わらなかったは別にして、それなりにそういう出来事はあったそうである。

 その辺りできゃっきゃうふふと盛り上がれるのは、コイバナ好きの女の子らしさと言えるかもしれない――が、男性陣からはくだらないという冷たい反応だった。

 それなら当時そういうものをもらったりしたらどう思うのか――と、ファミリーの面々に尋ねようと思ったのだが、だいたい返答が予想付いてしまったので、敢えて聞かなかった。まったくもって面白くない。

 それはそれとして――

「いやー……青春を思い出すわっ」

 うきうきワクワクと筆を走らせた。それはもう、何か本気で恋する女の子に戻ったみたいに。

 だからこそ――というべきか、余計な装飾というものはしなかった。

 便箋も封筒も飾り気のない、だけど女の子が使うものっぽいそういうやつを敢えて選んだし、文字を書くのに使ったペンのインクもあくまで黒だ。

 思いを伝えるのであれば、余計な装飾なんていらない。

 電子メールなどであった場合は、誰が書いても同じ文字にしか見えないので、逆に装飾が必要かもしれないが、こうした手書きの手紙であるのなら、むしろその文字そのものが思いを伝える装飾の役割を果たすはずだ。

「我ながら、ちょっと青臭いかなー」

 口では言っているが、少なくとも執筆中はとてもノリノリであったのは事実だ。

 インクが乾いているのを確認し、便箋を丁寧に折りたたむと、それを封筒へ入れてハートマークのシールで封をする。

 それから――

「んー……」

 宛先は敢えて、『私の大好きなあなたへ』とだけして、名前は書かないことにする。差出人も同様に『あなたが欲しい私より』と小さく書いておく。

 これで完成。

 それをシワが付かない程度にひらひらと動かして、封筒の宛名などを乾かしながら、

「ヴェイローン」

 自室を出て、弟の名前を呼ぶ。

「何だよ」

 すぐ傍にいたらしく、ぬっと不機嫌そうな顔をした男が顔を出してきた。

「この間ゲットした役に立たない携帯転送装置どこにしまったっけ?」

「それなら俺の部屋にあるけどよ……何に使うんだ?」

 彼女の問いかけに、ヴェイロンは眉を顰めた。

 それもそうだろう。件の転送装置は、大きいものをまともに転送出来ないのだ。人間を転送しようとすると、せいぜい三メートルちょっと。脱出とか逃げ出したりするのに使えるかと思って手に入れた一品だったのだが、これではあまり役に立たない。そんなものをわざわざ使いたいと言い出したのだから、訝るのも分かる。

「んー……この手紙なら、結構な距離飛ばせそうでしょ?」

「確かにな。小さければ小さいほど、軽ければ軽いほど、一応遠くに飛ばせるみてぇだし――たぶん、その手紙なら二十キロくらいか」

「これでもそんなものかー……じゃあ、どっちにしろ届け先の建物の近くまでは行かないとダメね」

「次元世界を跨げるとでも思ってたのか?」

「そうだったら苦労はないのになー……程度には考えてた」

 姉の返答にやれやれとヴェイロンは肩を竦めながらも、少し待ってろと告げて自室へと向かっていく。

「ふふふのふー……さぁて、ちょっとしたおイタの始まりよ。おねーさん、わくわくしちゃう!」

 彼女――フィッケバインファミリーのボス・カレンは、それはもう、いたずら大好きの猫が面白いいたずらを思いついた時のような素晴らしい笑顔を浮かべ、自室へ戻っていくヴェイロンの後姿を見送るのだった。

 

     2.

 

 時空管理局特務六課。

 その名の通り、特殊な任務を遂行するスペシャリスト達が集まったといっても過言ではない部隊であり、その構成員の多くは数年前、機動六課という特殊部隊として、ミッドチルダ首都クラナガンを襲ったテロリスト達を倒した英雄部隊の面々である。

 とはいえ、彼らとて任務外の通常業務や訓練などの時は、取り立てて特殊な人間などではなく、ごくごく普通の人間だ。

 もちろん、こういう部隊であるし、つい先日、フッケバインファミリーという犯罪者集団と大バトルをやらかしたばかりである。なので、その後始末として働き続けている人たちもいるのは確かであるが、そこはそれ。

 少なくとも、エリオ・モンディアルとトーマ・アヴェニールの両名は、とりたてて慌しいようなことなどなく、二人で談笑しながら隊舎の廊下を歩いていた。

「ごめんね、エリオ君。なんかロッカー半分借りちゃって」

 茶色い髪の方、トーマが申し訳なさそうにそう言うと、長めの赤髪をうなじの辺りで束ねている長身の少年、エリオは首を横に振る。

「元々、私物は少ないから。気にしないでいいって」

 トーマはそもそも特務六課の人間ではない。少々込み入った事情があり、特務六課預かりとなっているのだ。一応、便宜上は見習い隊員ではあるのだが。

「俺も私物は少ないんだけど……アイシスが面白がって、俺の荷物漁りしてくるもんだから」

「あははは」

「笑い事じゃないって」

 そして、その込み入った事情により、トーマはつい先日まで共に旅をしていたアイシスとリリィと同じ部屋で生活をしている。

 一応、男と女であるからして、カーテンという仕切りは存在しているのだが、その触れれば揺れるほど脆弱な仕切りの向こうで、アイシスやリリィといった同じくらいの年頃の女の子が着替え等をしている常態というのは、非常によろしくない。年頃の男の子の、健全な脳みそ的な意味で。

「気持ちは分かるけどね」

「他人事みたいに言ってるけど、エリオ君だってキャロちゃんと同室でしょ?」

「んー……まぁそうなんだけど。キャロとは兄弟みたいなものだし、わりと一緒にいるコトも多いから、慣れたというかなんというか」

「それ、キャロちゃん聞いたら怒りそう」

「え? なんで?」

 思わず聞き返すエリオだったが、確かに最近のキャロは良く分からないタイミングで不機嫌になることがある――と日頃のことを思い返す。

 もし、トーマの言う通り不機嫌になる要因が今の発言にあるのであれば、気をつけておいた方が良いかもしれない。

「トーマは、キャロが怒る理由――分かるの?」

「何となくは。だけど、俺の口からは言えないかなー」

「そっか。なら聞かないけど」

 是が非でも聞き出した方が身の安全は確保出来そうではあるものの、言いたくない人に無理やり口を割らせるというのは、エリオの性格上出来ることではない。

「話は戻すけど、キャロだって時々僕の私物に興味持つから、あまり僕のロッカーも安全とは言えないよ?」

「でも、キャロちゃんなら黙ってこっそりと覗いたりとかしないよね?」

「うん、まぁ。たぶん」

 うなずきつつも返事が曖昧だったのは、誰かに乗せられてしまえば、結構一緒にやりそうな予感がしたからだ。

 機動六課時代であれば、スバルやティアナがそそのかしたりする可能性もあるが、今はあの二人もそれなりの地位もあるし、そういういたずらをする歳でもないだろう。

 だけど、キャロはそうでもない――年齢や管理局員としての肩書きや地位に関してエリオも人のことは言えないが――。

 起動六課時代以上に、そういうのに興味があるようなのだ。

 そこに、アイシスという起爆剤と出会ってしまっているので、きっかけ次第ではキャロもそういうことをしかねない――気がする。全ては憶測であるのだが。

 そんな感じで、年少チームの少年組は、女の子に振り回されて困るという聞く人が聞けば怒りかねない話に盛り上がりながら、食堂へと向かうのであった。

 

 

     3.

 

 そして、年少チームの少女組。

「ふふふ、ここはロッカールーム!」

「うん、それは見ればわかるけど」

 黒髪に小さなポニーテールを作っている少女、アイシス・イーグレットがややテンション高めに告げると、その横にいた桃髪の小柄な少女、キャロ・ル・ルシエが正反対のノリで嘆息する。

「男の子が女の子を気にするように、女の子だって男の子のコトが気になるわけです」

「うん、まぁそうだね」

 アイシスにちょっと付き合って欲しいと言われ、連れてこられたのが男性用のロッカールームなのだから、キャロとしてはどう反応して良いか分からない。

 ちなみにロッカールームとは言うが、別にシャワールーム傍に設置してあるものではなく、単純な私物置き場みたいなものだ。

「キャロさんは、エリオさんのコト気にならないの?」

「どーゆー意味で?」

 いまいちアイシスの行動や質問の意図が分からずに、キャロは問い返す。

「主に私物とか」

「それは気になるけど、でも勝手に見るのはどうかと」

 無論、ロッカーには鍵だって付いている。アナログ式ではあるのだが、今の時代、かえって電子ロック等よりは安全かもしれない。

「こんなアナログ式……このアイシスちゃんに掛かれば……」

 なにやら針金でガチャガチャやると、ロッカーの内側からガチャリという音が聞こえた。

「ちょ、ちょっとアイシス!?」

「私だって気になるわけですよ。トーマの私物とか……というわけでオープン!」

 キャロの制止もむなしく、アイシスは勢い良くロッカーを開く。

「あれ? いつもよりモノが少ない……」

「いつもやってるの?」

「気が向いた時とか。時々モノが増えたり減ったりして面白いですよ。時々、エッチな本とかもありますし」

「え、えっちなほんって……」

「話によると、ちょうど今くらいが一番えっちぃコトに興味あるみたいです。男の子って」

 赤くなるキャロに、少し口元を綻ばせつつそう告げるアイシスは、トーマのロッカー漁りに飽きたのか、それを閉め、ちゃんと鍵を掛けなおしてから、別のロッカーを見遣った。

「アイシス? なんでエリオ君のロッカー見てるの?」

「だって気になりません?」

「えっと、まぁ――気にならないって言ったら嘘になるけど……」

「私も気になりますし」

「気になるッ!?」

「あ、そーゆー意味じゃないですから安心してください」

 告げて、アイシスはエリオのロッカーの鍵穴をガチャガチャと弄り始める。

「そんなワケでエリオさんのロッカー、オープン!」

「アイシス。やっぱり勝手に開けたらダメだってー!」

「あー、やっぱりトーマと同じカンジだなー」

 結局、キャロの制止は虚しくロッカーは開いてしまう。

「ダメだってこんなのー」

 口ではそう言いながらも、やはりキャロは気になるのか、ロッカーのなかをまじまじと覗き込んでしまっているので説得力の欠片もない。

「あれ? トーマの荷物が混ざってる? さては、私対策かなトーマめぇ……」

「こ、この、本……」

 スタイルの良い裸の女性が、右手で左の二の腕を掴みつつ胸を、左手で股間を隠している写真が表紙になっている本を見て、キャロが顔を赤くしながらあたふたしている。

 良く良くその表紙の女性を見てみると、青髪のショートカットで、裸ながらもどこかボーイッシュな雰囲気を持っている気がする。

 アイシスは、まだエリオと出合って間もないが、それでも彼の趣味とは少し違う気がして、ふと思う。

「あー……それ、たぶんトーマの私物かと」

「いや、でも、えっと……」

 そう告げても、軽いパニックから復帰出来ないのは、この小さな年上さんはこの手のモノに耐性がないからかもしれない。魔導師としての能力とこういうものはさすがに関係ないらしい。

 まぁアイシスもアイシスで、パニックになってないだけで、顔が赤くなっているし、その自覚もあるのだけれど。

 表紙の写真そのものよりも、その表紙と一緒に書かれている内容を示唆した煽りが、余計なものを想起させるせいなのかもしれないが。

「エリオさんは、こーゆーの持ってないのかなー」

「エ、エリオ君は、こーゆー本、持ってない……はずだもん!」

「そう思いたいですよねー」

 ニヤニヤと笑いながら、アイシスはロッカーを漁る。もはや制止する意志がすっかりなくなっているキャロと一緒に。

 アイシスは面白がって、キャロはエリオを真面目男子であると信じて、ロッカーを漁っていると、どこからともなく白い封筒が落ちてきた。

 ひらりと舞って床に落ちるそれに、キャロとアイシスは顔を見合わせる。

 それから、アイシスは興味津々とばかりにそれを拾い上げた。キャロは不安そうに、アイシスが拾ったそれを覗き込む。

『私の大好きなあなたへ』

 封筒の表にはそう書かれている。

「こ、これはー!」

「そ、そんなー……」

 相変わらず両極端な反応をしながらも、興味そのものは二人とも失せることはない。

「差出人は誰かなー?」

 アイシスが楽しそうに裏を見ると、

『あなたが欲しい私より』

 と、書いてある。

「誰よッ!!」

「誰ぇッ!?」

 それから、二人は少しだけ眉を顰める。

「これ、エリオさんとトーマ……どっち宛てなのかな?」

「エリオ君のロッカーに入ってたら、エリオ君宛てだとは思うけど……」

「トーマは荷物をごちゃっとエリオさんのロッカーに放り込んだだけっぽいから、混ざっててもおかしくはないんだよねぇ……」

「…………」

「…………」

 僅かな沈黙。

 そして、沈黙のままアイシスはエリオのロッカーを閉じて鍵を掛けなおした。

「この時間――二人は食堂……よね」

「うん。一緒に、食堂行くって言ってたし」

 ロッカールームの時計を見ながら呟くアイシスに、キャロがうなずく。

「中は……さすがに、見ちゃうのは失礼か」

「気になるけど、そこまでやっちゃダメだよ」

 ロッカーを覗くまではイタズラで済むだろうが、まだ開封されてない手紙を勝手に開いて見てしまうのは失礼すぎる。手紙の差出人に対しても、エリオやトーマに対しても。

 まぁ持ち出してしまっている時点で、礼儀もなにも無い気がするのだが、そこまでのことを、今の二人は気にする余裕を失していた。

 キャロもアイシスも、自分では良く分からない苛立ちを胸に秘めつつ、食堂を目指すべくロッカールームを後にするのだった。

 

                                            to be continued


 
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