No.301432

恋姫三国伝

ノワールさん

SDガンダム三国伝風、恋姫†無双です。

2011-09-16 22:14:37 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:4756   閲覧ユーザー数:4561

・SDガンダム三国伝のキャラやストーリーを恋姫風にしてみたダイジェストっぽい短編集です。

 

・キャラの性格や口調が変わっていたり、武力が超パワーアップしていたりますが、ご了承下さいませ。

 

・元ネタが蜀ルートとの相性バッチリな作品なので、一刀と桃香は「二人で一人の劉備」なポジションです。

 

・この外史では本編で「天の国の言葉」扱いであるカタカナ等が普通に使われております。

 

 

 

 

かつて 光り輝く3人の勇者が天から降り立った地――三璃紗(みりしゃ)――

 

神話の「三侯(さんこう)」と呼ばれる彼等は三位一体となって世界を平定すると、

 

ひとりは太陽となって世界を照らし…

 

ひとりは月となって世界を癒し…

 

そして ひとりは海となって世界を育んだのであった。

 

 

 

やがて 遥かな時が流れ…

 

「三璃紗 闇に包まれる時 三侯の魂宿りし輝ける勇者 聖印(せいいん)たる玉璽(ぎょくじ)の導きを受け ここに闇を打ち払わん…」

 

――三璃紗神話 G記(じき)より――

 

 

 

 

・天の御遣い、劉備(りゅうび)と共に立つ。

 

 

 光の都「洛陽(らくよう)」から遥か北の地方、幽州(ゆうしゅう)楼桑村(ろうそうそん)

 

「はぁ、こんな所にいやがった…。それにしても、幸せそうに寝てやがる…おい! 一刀(かずと)!! 桃香(とうか)!!」

「ガ~、ゴ~」

「すぅ、すぅ…うぅん、ごしゅじんさまぁ~」

 

 白い鎧と赤いマントを身に纏った少女が、川原の近くの草むらで昼寝している二人に声をかける。

 この世界では見慣れない白い服を纏った少年と、長い髪と豊満な胸が目立つ少女。

 少女は少年の左腕を枕代わりにして、身体にしっかりと抱き付いている。

 

「起きろ!! お前等!!」

「うわっ! ハイ!!」

「きゃあっ!!」

 

 赤髪の少女の怒声に、二人は慌てて飛び起きる。

 

「何だ、白蓮(ぱいれん)の姉貴か! おどかすなよ!」

「そうだよ、白蓮お姉ちゃん。びっくりした~」

 

 眠そうに目をこする少年と少女。

 

「使いに出たまま帰って来ないと思ったら…こんな所で昼寝とは…」

「気持ち良いよ! 暖かい光、そよぐ風、大河のせせらぎ、三璃紗の豊かな自然と一体になるんだ~」

「そうそう、桃香の言う通り!」

「全く、のんきだな! お前等は…」

「姉貴も一緒にどう?」

「バカ! 帰るぞ!!」

「付き合い悪いなぁ…」

「え゛~ん」

 

 白蓮は一刀と桃香の首根っこを掴み、ずるずると引きずって行く。

 一見、仲の良さそうな姉と弟妹(ていまい)に見えるこの三人が今の関係になるまで、短い間に様々な事があった。

 

 

 

 

 

 時は少し遡る――。

 

 

「ここは、一体…?」

 

 占い師・管輅(かんろ)による救世主の予言の噂が広まっていた頃、この比較的平和な村に『天の御遣い』と呼ばれる北郷一刀(ほんごうかずと)が流星と共に現れた。

 行く当ての無い彼は、かつて宮廷軍師まで務めた優秀な儒学者(じゅがくしゃ)であり高名な兵法家でもある老人、盧植(ろしょく)と言う(おとこ)に引き取られる事になった。

 一刀は盧植の教え子である劉備と公孫賛(こうそんさん)と共に、武術や兵法を学ぶ事になる。

 

「う~ん…(何でこの世界の言葉や文字って、ひらがなやカタカナやアルファベットが普通にあるんだ…? 俺としては分かり易くて良いけど…)」

「どうしたの、ご主人様?」

「なぁ、桃香…いいかげんにその、ご主人様ってのやめてくれない?」

「え~、どうして? 御遣い様も、北郷様って呼ぶのもダメって言ったじゃない」

「桃香…いくら一刀が天の御遣いって言っても、一応お前の方が姉弟子なんだぞ…」

「そんなの関係無いも~ん」

「桃香だって姉貴も、さん付けもダメって言ったじゃないか」

「あ! お姉ちゃんなら良いよ~♪」

「いや、子供じゃないんだから…まぁ、姉貴よりはしっくり来るけど…」

「……どう見ても、一刀の方が兄だな」

「えぇ~!?」

「はは…」

 

 この世界の人間は『真名(まな)』という姓・名・字以外の名を持つ。

 『真名』は、本人が心を許した証として呼ぶことを許した名前であり、本人の許可無く『真名』で呼びかけるのは…問答無用で斬られても文句は言えない程の失礼に当たるとの事。

 同じ師の下で学ぶ間柄となった一刀は劉備の真名・桃香と、公孫賛の真名・白蓮を預かる事になる。

 一刀が住んでいた世界(三璃紗の住人に『天の国』と呼ばれる)では、『三国志』と呼ばれる彼女達と同じ名前を持つ『侠』の英雄達の物語が伝わっており、女性である事に非常に驚いていた。

 三国志に詳しい一刀は、本人達に聞かれない限りは彼女達の人生に大きく関わる事柄は伏せて話した。

 

 

 

「凄いな、一刀…もう剣ではお前に勝てそうにないな」

「剣だけだよ。姉貴は剣も弓も馬術も、何でも出来るじゃないか」

「俺のは、器用貧乏って言うんだよ…」

「そんなに謙遜しなくても良いのに」

「でも本当に凄いよ、ご主人様! こんな短い間でお姉ちゃんより強くなるなんて!」

「桃香、お前は攻撃が下手なのがなぁ…相手の攻撃を防いだり避けたり、氣で傷を癒したり、結界を張ったりは出来るのに」

「あうぅ…すいません…」

「まぁまぁ姉貴、俺はそこが桃香の凄い所だと思うよ。特に傷を癒す力は優しい桃香らしくて、俺は好きだよ」

「ご主人様…」

「お前は本っ当に無自覚で口説くよな、一刀…桃香の奴、(ほう)けてるぞ」

「え? 俺、また何か言った!?」

「はぁ…お前、いつか絶対に女絡みで酷い目に遭うぞ…」

 

 一刀は祖父から習った剣術の腕前は盧植先生に「修行さえすれば形になる」と評価され、剣術の修行に明け暮れた。

 結果、一刀の剣術の腕はみるみる内に上達し、仕官すれば名だたる武将達の仲間入り出来る程になった。

 盧植先生から成長した褒美として刀身に金色の龍の姿が刻まれている青い剣・爪龍刀(そうりゅうとう)と、対になる赤い剣・牙龍刀(がりゅうとう)を託される。

 

 

 

「悪法もまた法なり! 人々が法を守ってこそ国家が成り立つのだ。どんな理由があろうと絶対に法を犯してはならぬ! 

だが一刀よ、あえて問う! それでも、悪法に泣く民を救わんとすれば何とする!?」

「せ、正義を持って…法そのものを変えんとすべし…」

「ならば己に、正義はありやッ!?」

「…我が魂は、正義と共にありぃッ!!」

「その心、忘れるでないぞ…」

 

 一刀にとって師匠である盧植は「鹿児島の爺ちゃんと同じくらい厳しいしおっかないけど、優しい爺さん」という印象だ。

 元いた世界と大きく異なり、三璃紗は戦乱の真っ只中であった。

 弱い者は悪法と暴力によって虐げられる世界…一刀には、それが許せなかった。

『我が魂は、正義と共にあり』…彼にとっては絶対に忘れてはいけない言葉となる。

 

 

 

「一刀! 龍帝剣(りゅうていけん)を呼べ!! お前の正義を見せてみろ!!」

「龍帝ィ剣!!」

「あの剣の輝き…やはり、ご主人様は…」

 

 白蓮の声に応えるかのように声高らかに叫ぶと、一刀の手の中に龍の姿が刻まれた黄金に輝く剣が現れた。

 伝説の三侯の一人、龍帝の魂が宿る伝説の剣…『龍帝剣』

 真の正義を持つ者のみが手にすることがかなうといわれる宝剣で、資格の無い者が触れようとすると姿を消してしまう。

 一刀は龍帝剣を手にして、黄巾党(こうきんとう)の幹部である馬元義(ばげんぎ)を倒した。

 龍帝剣は普段は姿を消しているが、一刀の呼び掛けにより現れるようになる。

 

 

 

「お前達はやはり行くのか? 俺と共に父の軍で戦わないか?」

「ありがとう、姉貴! でも…俺達はまだまだ未熟者だから、もっと広く世界を見てみたいんだ!!」

「先生の教えに応える為にも…」

「そうか、もう何も言うまい! 頑張れよ!!」

「姉貴!」

「お姉ちゃん!」

「いつかまた会おう!」

『ハイッ!!』

 

 後に白蓮は盧植先生から『伏竜の兵法書』を託され、彼女は父親の軍に仕官する事になる。

 

 

 

「守り刀は桃香にはピッタリだと思うけど、それだけじゃ戦えないよな…俺の爪龍刀か牙龍刀使うか?」

「ううん、わたしはこの剣だけで良いの。先生は『お前の正義を決して忘れるな』って言って、この剣を託して下さったの」

 

 桃香は宝剣・靖王伝家(せいおうでんか)を託される。

 刃が無く、斬る事も刺す事も出来ない…防御の為の守り(がたな)

 高祖・劉邦(りゅうほう)は龍帝剣で悪を斬り、靖王伝家で民を守ったと伝えられている。

 

「先生、わたし達も旅立ちます。何が出来るか分からないけれど…この国の人々の為に頑張ります!」

「俺達の正義を見ていて下さい!! さらば故郷!! さらば盧植先生!!」

 

 二人は平和の為に旅立つ…その内なる正義の魂、今、正に炎と燃ゆ!!

 

 

 

 

関羽(かんう)との出会い

 

 

 楼桑村を旅立った一刀と桃香は佛土(ぶつど)の村に向かっていた。

 風の噂で、二人の凄い豪傑がいると知ったからである。

 

 

 

「はぁあああああ!!」

 

 そこには…鬼を(かたど)った仮面で目元を隠し、雨風を凌ぐ為の布で全身を羽織り、巨大な偃月刀(えんげつとう)を軽々と振り回す、長く美しい黒髪の武人がそこにいた。

 

「何!? たった一人で黄巾党と!?」

「凄い…」

 

 黄巾党の部隊兵達を次々となぎ倒して行く武人…その圧倒的な強さに、驚きを隠せない二人。

 

「これで(しま)いか!?」

 

 仮面の武人は黄巾党の兵士達を次々と叩きのめして行く。

 しかし…僅かな隙を突いて兵士の一人が剣を構えて、後ろから襲い掛かって来た!

 

「危ない!」

「後ろ!」

 

 咄嗟に叫ぶ二人。

 

「はっ!」

「ぐはっ!」

 

 その声に気付いた武人は後ろを振り向き、黄巾兵を返り討ちにした。

 

「助太刀感謝致す!! かたじけない!」

「いや…」

「わたし達は、特に何も…」

 

 武人は二人に頭を下げる。

 

 

 

「この辺りは黄巾党の兵士がうろうろしている! 道中お気をつけなされよ!」

「ありがとう」

「よろしければ、お名前を…」

「フッ…私のような者とは関わらない方がいい」

 

 鬼の仮面を外し、武人は素顔を露にする。

 

「ええっ!」

「お、女の子…!?」

 

 鬼仮面の武人の正体は、長い黒髪の美少女だった…二人はあまりの衝撃に言葉を失う。

 

「では!」

 

 少女はそんな二人の反応に気付かず、偃月刀を右肩に抱えて去って行った。

 

「もしや…あの子が噂の豪傑の一人か…!?」

「だと思うけど、あんなに可愛い女の子だとは思わなかったよ~」

 

 豪傑の一人の正体を知って、驚きを隠せない二人だった…。

 

 

 

 

 

~黄巾党のアジト~

 

 

「また、あの鬼仮面一人にやられちゃったのぉ!? ぐやじ~!!」

「もう、ずっとやられっぱなしだよぉ~…しかも、もう一人もすっごく強いし」

「いつもいつも、ちぃ達の邪魔ばっかりして~! ゆるせな~い!!」

「まぁまぁ、ちーちゃん…怒ってばかりだと体に悪いよ~」

「これが怒らずにいられるわけないでしょ、天和(てんほう)姉さん!!」

「このままではまずいわね…伝説の龍帝剣の使い手が現れて、馬元義が倒されたばかりだというのに…」

 

 黄巾党の天幕の中に、よく似たデザインの可愛らしい衣装を身に纏う少女達が三人。

 ポニーテールで小悪魔系の生意気そうな少女が怒りを露にして悔しがり、ロングヘアーで巨乳のおっとりした少女が愚痴をこぼす。

 ショートカットでクールな眼鏡っ子は、一人冷静に悩む。

 

「でも…安心して。天和姉さん、地和(ちーほう)姉さん」

「れんほーちゃん?」

「何か良いアイディアでもあるの、人和(れんほう)?」

「出来れば使いたくない手だったんだけど、ここまで負け続きだと仕方ないわ…今の私達に、手段を選んでいる余裕なんて無いもの」

「ど、どんなアイディアなのかな?」

「ちぃ、何だかとっても嫌な予感がするんだけど…」

「じゃあ説明するから、耳を貸して…」

 

 末っ子は二人の姉に近くに来るように促し、ひそひそ話を始める。

 

『えええええ~っ!!』

「姉さん達、声が大きい」

「だってだって! これ、失敗したらお終いだよ~」

「よくもまぁ、そんなエグい策が思い付くわねアンタ…我が妹ながら恐ろしいわ」

「あの二人に勝つには、もはやこれしか無いわ」

「もし、成功しても…お姉ちゃん達、悪人になっちゃうね…人気回復に時間かかるんだろうなぁ」

「うう、ちぃ達のアイドル人気に傷が付く…」

「もう決まったんだから、文句言わないで…私だって辛いのよ」

『はぁ~い…』

 

 この戦には無縁そうな三姉妹が、何故黄巾党の陣営にいるのか…?

 彼女達の正体は、もう少し後で明かされる事になる―。

 

 

 

 

張飛(ちょうひ)との出会い

 

 

 佛土の村に着いた一刀と桃香は、黄巾党の首領である張三兄弟の事が書かれている人相書を見つける。

 天公(てんこう)将軍、張角(ちょうかく)は中肉中背の髭面。

 地公(ちこう)将軍、張宝(ちょうほう)は子供の様に小柄。

 人公(じんこう)将軍、張梁(ちょうりょう)は丸々太った巨漢。

 正に、絵に描いたような小悪党顔をした連中…という印象だった。

 

「こいつ等が張三兄弟か…」

「天の国でも、男性だったんだよね?」

「ああ。三璃紗の劉備と公孫賛が可愛い女の子だから驚いたけど、こいつ等はいかにもって顔してるな~」

「やだ、ご主人様ったら…」

 

 一刀が極自然に「可愛い女の子」と口にするので、桃香は照れて顔を赤くする。

 この呼吸するかのように無意識かつ無自覚で女性を口説く癖を、盧植先生と白蓮にしょっちゅう叱られていた。

 しかし当の一刀には自覚が全く無いので、直しようが無いのだから性質が悪い。

 

 

 

「ぶぁっくれつゥ だいらいじゃァ!! なのだ~!!」

「うわっ!!」

「きゃあっ!!」

 

 突如爆音と共に落雷が落ち、張三兄弟の看板が粉々に砕け散る!

 

「やったのだ! あれ? な~んだ、ただのカンバンなのだ…」

 

 当然、近くにいた一刀と桃香も真っ黒コゲになってしまう。

 

「ごめんなのだ、お兄ちゃんとお姉ちゃん! ケガはないか? 張三兄弟とまちがえちゃったのだ!!」

「ご心配無く…無事です!(何て脳筋なんだ、この子…)」

「わ、わたしも…あはは…」

 

 落雷を放ったのは…自分の身長を超える巨大な蛇矛(だぼう)を片手で軽々と振り回す、可愛い虎の子供の顔がデザインされた髪飾りをした小柄な女の子だった。

 

「二人は旅の人か? この辺では見かけない顔なのだ」

「ああ、俺は北郷一刀。北郷が姓で、名前は一刀。字と真名は無いから、一刀が真名に当たるかな」

「わたしは姓を劉、名を備、(あざな)元徳(げんとく)だよ」

鈴々(りんりん)は張飛!! 字は翼徳(よくとく)なのだ!!」

「ちょ、張飛だって!?」

「ご主人様、知ってるの…って、そんな簡単に真名を名乗っちゃって良いの!?」

(貴女も結構簡単に名乗ってる気がしますけどね、桃香さん…)

 

 ごく普通の自己紹介の筈が…彼女の名前が「張飛」だと言う事に驚く一刀と、自分の事を真名で呼ぶ少女に驚く桃香。

 

「あ、またやっちゃったのだ…よく愛紗(あいしゃ)にも怒られるのだ…あ、愛紗は関羽なのだ! 一緒に悪者退治の旅をしてるのだ!」

「か、関羽!? なぁ、その人って長い黒髪で、鬼の仮面と偃月刀持ってたりする…?」

「で、とっても可愛い女の子だったり…?」

「そうなのだ! しかも、羨ましい事におっぱいばいんばいんなのだ! 二人共、愛紗に会ったのか?」

「あ、やっぱりそうなんだ。この村に来る前に出会ったの…って、どうしたのご主人様?」

「いや、何でもない…(ま、また三国志の英雄が女の子…一体どうなってるんだ、この三璃紗って世界は…?)」

 

 またもや三国志の英雄が女の子だった事に驚きを隠せない一刀だった…。

 

 

 

「一人がやっつけに行く間に、もう一人が村を守る…鈴々と愛紗はそうやって黄巾党と戦って来たのだ」

「そうだったのか」

「凄いね~、たった二人なのに」

「えっへん、なのだ!」

 

 たった二人の女の子が黄巾党と戦って村を守っていると知り、驚く二人。

 鈴々は褒められたので上機嫌で胸を張る。

 

「暫くはこの村に居た方が安全なのだ。黄巾党の奴等、やっと張三兄弟が出て来るつもりなのだ」

「張三兄弟が!?」

「雑魚をやっつけまくってたら、いつかしびれを切らして出てくるって愛紗が言ってたのだ」

「ほぇ~、根競べなんだね…」

 

 黄巾党の数は相当な筈…いくら一騎当千の武人二人でも、小さな村を守りながらの持久戦は厳しいのは明白だ。

 

「なぁ、俺達も黄巾党退治を手伝っても良いかな?」

「ご主人様はすっごく強いんだよ! わたしも傷の手当てなら出来るし…」

「気持ちは嬉しいけど、ここまで来たら鈴々と愛紗だけでケリをつけたいのだ。それに…」

「それに、何だい?」

「二刀流のお兄ちゃんはともかく、お姉ちゃんはダメなのだ……何かドジ踏みそうな感じで、危なっかしいのだ」

「はぅう…否定出来ません…」

「た、確かに…桃香は天然だしなぁ」

「ご主人様までヒドいよ~…グスッ」

「ああ、ゴメンゴメン…泣かない泣かない」

 

 子供の無邪気かつ残酷な一言&一刀にフォローされなくて、ショックを受けて涙目になる桃香。

 慌てて桃香を優しく抱き締めて、頭を撫でる一刀。

 

「おぉ~、二人は恋人同士なのか!?」

「えへへ~、そう見える?」

「(立ち直り早っ!?)え、ええっと…」

 

 目の前のラブラブな光景に興味津々のお子様の一言で、桃香はもう立ち直った。

 

「あのさ、黄巾党退治は良いのかな…?」

「おおっ、そうだったのだ! じゃあ、変な服のお兄ちゃんに、おっぱいお姉ちゃん! 鈴々が愛紗と一緒に黄巾党をやっつけて来るのだ~!!」

「へ、変な服…」

「お、おっぱいお姉ちゃんって…」

 

 桃香にこれ以上惚気られるのは恥ずかしいので、一刀は咄嗟に話題を戻す。

 子供らしいストレートな呼び方をしつつ、鈴々は走り去って行った…。

 

「でも、やっぱり心配だな…万が一って事もあるかもしれないし、こっそり着いて行くとしようか」

「そうだね。いくら強くたって、たった二人じゃ危ないもんね」

 

 二人はこっそりと鈴々の後を着いて行く事にした。

 

 

 

 

・黄巾党の罠。

 

 

「妙だな、黄巾党め…攻めるでもなく、逃げるでもなく…時間稼ぎかっ!?」

「愛紗!」

「遅いぞ鈴々! 何をしていた!」

「ごめんなのだ! で、黄巾党は?」

「見ての通りだ。時間稼ぎが目的のようだが…ん? 黄巾党が消えている!?」

「あれ、いなくなってるのだ…」

 

 霧が立ち込める荒野…鈴々と合流した愛紗が再び振り向くと、黄巾党の兵士達の姿が消えていた。

 

「きっと、鈴々達に恐れをなして逃げ出したのだ!」

「おかしい、まるで最初からいなかったかのように気配が無くなっている…足跡すら無い…」

「ど、どういう事なのだ…あれ、愛紗?」

「仕方無い、一度村に戻るか…鈴々?」

 

 ふと、二人は辺りを見回す…先程まで隣にいた筈の相棒の姿を見失ってしまっていた。

 段々と霧が濃くなって行き、お互いの姿が見えなくなっていた…。

 

 

 

 

 

「……お前、何なのだ? 鈴々は化け物なんかに負けないのだ!!」

「貴様、何奴…! 妖怪の類か!?」

 

 気配を感じた二人は武器を構え、睨み合い…戦いを始めてしまった。

 二人にはお互いの姿が、見た事も無い怪物に見えていた…。

 

「覚悟するのだ!!」

「かかる火の粉は払うまで!!」

 

 青龍偃月刀と丈八蛇矛が何度も激しくぶつかり合う。

 しかし、お互いの目には自分の武器と爪や牙で渡り合う怪物にしか見えず、お互いの声も叫び声にしか聞こえない。

 

「妖怪にしては見事な腕前だ!」

「化け物にしておくには惜しいのだ!」

 

 二人の実力は全くの互角…嵐の様に激しい攻撃を繰り出すも、決定打にはならない。

 少しずつ、確実に体力と気力が消耗されて行く…。

 

「でも、次で決めるのだ…!」

「我が必殺の鬼の牙、受けて見るがいい…!!」

 

 二人は体内の氣を最大限まで高め、必殺技の体勢に入る。

 

 

 

 

 

「聞けぇ! (いかずち)雄叫(おたけ)びを!!」

 

 頭上に掲げた蛇矛に大気中の電気を集め、電撃と共に斬りつける…それは、雷を纏う大蛇となって敵を切り裂く。

 鈴々の必殺技・爆裂大雷蛇(ばくれつだいらいじゃ)

 

 

 

「見よ! 鬼の牙の(たか)ぶりを!!」

 

 一秒間に百回の突きを繰り出す…この技の前では、並の武将の鎧兜などは紙切れ同然の威力を誇る。

 愛紗の必殺技・鬼牙百烈撃(おーがひゃくれつげき)

 

 

 

爆裂(ぶぁっくれつ)ゥゥゥ大雷蛇ッ!!」

(おー)ォォォ牙百烈撃ィ!!」

 

 二人の必殺技が激突し、全く互角の威力でぶつかり合う。

 轟音が周辺に轟き、二人は吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

 

 

「くっ…」

「ぬうう…」

 

 必殺技の威力に耐え切れず、二人共そのまま地面に仰向けに倒れる。

 

「うっ…あれ!? 何で、愛紗が…?」

「鈴々…!? これは、一体…?」

 

 倒れたお互いの姿を見て、鈴々と愛紗は驚きを隠せない。

 先程まで戦っていた『敵』の正体がお互いだと今気付いたからだ。

 

 

 

 

 

「あら…まだ死んでいなかったのね」

 

 突然、眼鏡をかけた少女が二人の前に現れる。

 彼女の後ろには、黄巾党の兵士達が付き従っている。

 

「見事に我が術にかかってくれたわね。兵士の幻で足止めし、霧ではぐれさせ、幻覚でお互いを怪物に見せて同士討ちさせる…こうも上手く行くとは思っていなかったけど」

「だ、誰なのだ…?」

「黄巾党が何故ここに…まさか、奴が…妖術使い張梁!?」

「ご名答」

「で、でも、こいつは女なのだ…それに、張三兄弟は?」

「彼等は私達の影武者。黄巾党の真のボスは私達『張三姉妹』よ」

「そんな…鈴々達、騙されたのか…!?」

「最早、立ち上がる力も残っていないようね…悪いけど、ここで死んで貰うわ」

 

 張梁は右手を天に掲げ、雷を集める…確実に命を奪う一撃の為に。

 

 

 

 

 

「待て!!」

「そこまでです!!」

 

 そこに、一刀と桃香の声が辺りに響き渡る。

 

「龍帝ィィ剣ッ!! でやあっ!!」

「きゃあ!!」

 

 龍帝剣を呼び出し、張梁に斬りかかる一刀。

 張梁は悲鳴を上げつつも、ギリギリで何とかかわした。

 

「二人をやらせはしない!!」

「お兄ちゃん!!」

「貴方は、あの時の…」

 

 一刀は二人を庇い、張梁の前に立ち塞がる。

 

「じっとしてて。今、傷を治しますから…」

「おお、かたじけない…」

「あの時、私達も助けて頂いたから、おあいこですよ」

「お姉ちゃん、こんな凄い力を持ってたのか…ドジ踏みそうなんて言って、ゴメンなのだ…」

「ううん、気にしないで…それに、ドジなのは本当の事だし」

 

 桃香の手の平から溢れ出る優しい光が、二人の傷を癒してゆく。

 

 

 

 

・黄巾党の真の頭目、数え役萬☆姉妹(かぞえやくまん・しすたぁず)現る。

 

 

「くっ、予想外の助っ人ね…しかも、龍帝剣…」

「あ~あ、失敗しちゃったね~。これで、お姉ちゃん達の人気ガタ落ちだよ~」

「やっぱり、ちぃ達にこんなエグい策は向いてなかったのよ!」

「姉さん達…仕方ないでしょ、手段を選んでる余裕なんて無いんだから」

 

 二人の少女がブツブツと文句を言いながら、張梁の背後から現れた。

 

「でもでも、こうなったら私達らしく正攻法で行こうよ~。そ・れ・に…あの子、結構可愛いよね~♪」

「そうそう、女の子のピンチの時に颯爽と現れるなんてカッコ良いよね~♪ ちぃ達の魅力でメロメロにして、こっちに引き入れちゃお!」

「やれやれ…まぁ、龍帝剣の名前は使えるわね。私達黄巾党が行動を起こす大義名分になるし」

「れんほーちゃん、素直じゃないぞ~」

「あんたがそんな態度でモタモタしてる内に、ちぃが貰っちゃうわよ!」

「だめ~! あの子はお姉ちゃんの彼氏にするの~!」

「はぁ…」

 

 先程までの緊迫感は何処へやら…三姉妹は勝手な事を喋りまくる。

 一刀達は勿論、黄巾党の面々まで呆れかえっている…。

 

 

 

「ええっと、会話の内容から察するに……もしかして、あの子達が黄巾党の?」

「は、はぁ…人相書に書かれていた三人は影武者だとか」

「あんな奴等の罠に引っ掛かったのが情けなくなって来たのだ…」

「ま、まぁまぁ…妖術の腕は本物みたいだし…」

 

 張三姉妹の会話を聞いて頭痛がして来たのか…左手で額を押さえつつ、愛紗に訊ねる一刀。

 治療を続けつつも、鈴々のフォローをする桃香。

 

 

 

「あ~、何つうか、その……ウチの頭達がホント、すんません。ああ見えて、妖術使いとしては一流なんですけどねぇ」

「戦よりアイドル活動と恋愛最優先な人達なんで、親衛隊の俺達が影武者やらないと危なっかしくて…根は悪い人達じゃないんすけど」

「折角シリアスな展開だったのに、台無しなんだな」

「結構苦労してるんだな、アンタ等…」

 

 呆れ顔の黄巾党の面々を代表して、影武者…実際はアニキ、チビ、デクと呼ばれる三人組が一刀達に謝って来る。

 流石に、敵ながら三人組に同情したくなる一刀。

 

 

 

「ちょっと~、ああ見えてってどういう意味~!?」

「こらこら、そこの三人組~!! ちぃ達はアイドルであり、恋する乙女なのよ! 戦なんて二の次に決まってるでしょ~!!」

「シリアスを台無しにしたのは姉さん達よ…私は一人で頑張ったわ」

『す、すんません!!』

 

 地獄耳な三姉妹のツッコミに驚き、即座に謝る三人組であった……ホントに哀れ。

 

 

 

「……桃香、二人の傷の方は?」

「もうすっかり回復してるよ、ご主人様」

「お姉ちゃんのおかげで、すっかり元気になったのだ~!」

「おかげで助かりました、ありがとうございます。それにしても、奴等が馬鹿で本当に良かった……おかげで、完治しましたから」

「……応急処置位は出来る程度に時間稼ぎするつもりだったんだけど、その必要無かったよな」

「だねぇ…」

 

 桃香の癒しの力で、愛紗と鈴々はすっかり完全回復していた。

 

 

 

「しまった、姉さん達に乗せられてる間に…言っておくけど、馬鹿は姉さん達だけよ」

「ちょっ、それが姉に対する態度!?」

「れんほーちゃん、ひっど~い!!」

 

 末妹の冷たい一言に文句を垂れる姉二人。

 

「あの~、黄巾党の皆さん…結局戦うの? 戦わないの? 俺としては、戦わないで済むならそれに越した事は無いんだけど…」

「もう悪い事はしないって約束してくれませんか?」

「な、何を甘い事を!!」

「鈴々達、卑怯な罠で殺されかけたのだ!!」

「俺だって本当に悪い奴等なら斬るけど、あの子達や三人組は根っからの悪人って訳じゃ無さそうだし…これ以上、無駄な血を流したくないだろ?」

「そ、それは…」

「うん…」

 

 黄巾党を説得する一刀と桃香。

 先程殺されかけた愛紗と鈴々は当然反対するが、一刀の「無駄な血を流したくない」と言う言葉に同意したのか大人しくなる。

 

 

 

「龍帝剣さん、悪いけど…私達は貴方がこちら側に付くという条件しか呑めないわ」

「ちぃ達、貴方は欲しいけど、そっちの女三人に興味無いの。むしろ邪魔! 特にそこの乳女二人!!」

「邪魔なんて酷いのだ~!!」

「ち、乳女って…うう、好きでおっきくなったんじゃないもん…」

「き、貴様ぁ!! その破廉恥(はれんち)な呼び方は止めろぉ!!」

「まぁまぁ、ちーちゃん…下働き位なら良いじゃない♪」

「な、なんたる身勝手な言い草!! もう許せん!!」

「だ、駄目だこいつ等……こうなったら、とっ捕まえて黄巾党を解散させてやる!!」

「大人しく、罪を償って下さい!」

「ええ!? 捕まえるだけなのか!?」

「…あくまで殺しはしないと?」

「ああ。悪いけど、二人も出来るだけ奴等を殺さないで欲しいと助かるんだけど…」

「お願いします!」

「鈴々は良いよ! 助けて貰ったお礼なのだ! ね、愛紗!」

「…まぁ、良いでしょう。あの程度の連中なら、捕まえるのも容易いですから」

「ありがとうございます!」

「助かるよ! それじゃ、行きますか!」

 

 三姉妹の身勝手な言い分に流石に頭に来た四人は、黄巾党を退治する事を決意する。

 

 

 

「では、()くぞ黄巾党!! 我が名は関羽!! 鬼の武勇の(しるし)にかけて、貴様等を成敗にしに来た!! 大人しく、鬼の裁きを受けるがいい!!」

(なら)ぶ者無き戦の刃!! 張飛様がみ~んな纏めてやっつけてやるのだ~!!」

 

 鬼の仮面を被り、青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)を構える愛紗。

 自分の身の丈以上の長さを持つ丈八蛇矛(じょうはちだぼう)を豪快に振り回す鈴々。

 

「天の御遣い、北郷一刀!!」

「高祖・劉邦の末裔、劉備!!」

 

 龍帝剣を消し、爪龍刀と牙龍刀を構える一刀。

 靖王伝家を構える桃香。

 

「て、天の御遣いに高祖・劉邦の末裔!?」

「お兄ちゃんとお姉ちゃん、そんなに凄い人達だったのか~!?」

「詳しい話はこいつ等を捕まえた後でな!」

「わたしはともかく、ご主人様が天の御遣いってのは本当だからね!」

「は、はぁ…」

「え、じゃあハッタリなのか!?」

「鈴々! 今は黄巾党退治に集中しろ!」

「わ、分かったのだ!」

 

 龍帝剣を持つ天の御遣いと、高祖劉邦の末裔…愛紗も鈴々も、流石にこの名乗りには驚きを隠せない。

 

 

 

「あ~、何かカッコ良いな~。じゃあわたし達も…わたしは張角! 真名は天和だよ~」

「ちぃは張宝! 真名は地和! よろしくね♪」

「私は張梁…真名は人和…どうも、初めまして」

『私達、無敵の張三姉妹…またの名を、数え役萬☆姉妹(かぞえやくまん・しすたぁず)!!』

 

 四人の名乗りに対抗して、負けじと名乗る三姉妹。

 

「え!? あ、あの~……今、真名を名乗ったよね?」

「うん、確かに言ってた!」

「真名は神聖な名。簡単に許して良い物ではない! しかも、敵側の私達にあっさりと…」

「鈴々なんて、いつも愛紗に怒られてるのだ~!」

「こら鈴々! 余計な事を言うな!」

 

 一応、敵側の人間にあっさりと真名を名乗られたので驚く四人。

 

「だって仮の名前って可愛くないも~ん」

「ちぃ達って真名の方が可愛いし、アイドルっぽいでしょ?」

「簡単な理由よ。『こんなに可愛い女の子が真名を許してくれる』…それだけで人気を得られるなら、使わない手は無いわ」

「そ、そんな理由かよ…確かに可愛いけどさ」

「うんうん、分かる分かる…わたしも仲良くなった人には、出来る限り真名で呼んで欲しいし」

「張飛より、真名の鈴々の方が好きなのだ!」

「なぁっ!? どいつもこいつも真名制度を何だと…!」

 

 この世界の人間が全て、真名は特別神聖な物だと言う考えでは無い。

 しかし、可愛いとか可愛くないとか言う基準であっさり真名を許す例は珍し過ぎる例であった…。

 

 

 

「では、真名の効果を見せてあげるわ…姉さん達、準備は良い?」

「もっちろん!」

「じゃあ皆、いっくよ~!!」

 

「みんな大好き――!」

『てんほ―ちゃ―――ん!』

「みんなの妹―――!」

『ち―ほーちゃ―――ん!』

「とっても可愛い―!」

『れんほ―ちゃ―――ん!』

 

『みんな~ありがと~!!』

『ほわぁあ!! ほわぁあああ!! ほわぁあああああ!!!』

 

「な、何なのだ!?」

「こ、これも妖術の類か!?」

「ご、ご主人様…あの人達って一体…?」

「……どこの世界でも、ファンの力って凄いんだな」

 

 三姉妹の呼びかけにファン達が息ピッタリな返事を返す。

 その迫力と動きと声のタイミングの正確さに、四人は呆気に取られる…。

 

 

 

「女の子達はどうでもいいけど、彼はお姉ちゃんの彼氏にするから捕まえてね~♪」

「って、姉さんのじゃないってば! さぁ皆、まずは一番弱そうな乳女からよ~!」

「彼女の回復能力は厄介だわ…真っ先に狙うのが賢明ね」

 

 三姉妹は一刀の捕獲と真っ先に桃香を狙うように、黄巾兵に命令を出す。

 

「ええっ!? わ、わたし!?」

「桃香、下がってろ!」

「真っ先に一番弱い相手を狙うのは戦の定石(じょうせき)!! その位の策はあるようだな!!」

「お姉ちゃんがやられちゃったら、もう怪我を治して貰えないのだ!!」

「だ、大丈夫だよ! わたしだって防御と結界は得意なんだから!」

「あの数を一人で(しの)ぎきれる訳無いだろ!」

「でも!」

「桃香が無事なら、俺達が多少怪我しても治してくれるだろ?」

「ご主人様…」

 

 桃香を守る為に、咄嗟(とっさ)に黄巾兵達の前に立ち塞がる三人。

 

 

 

「だ、駄目だ…あの()、天和ちゃんに似てて攻撃出来ない…!」

「た、確かに…天然な雰囲気といい、髪形にプロポーションといい、そっくりだ…!」

「出来ない! 例えソックリさんでも天和ちゃんに武器を向けるなんて俺には出来ない!!」

『……え?』

「あ~、あの子って確かにお姉ちゃんに似てるよね~」

「うんうん、似てる似てる! 天然ボケな所とか!! 無駄に大きい胸とか!!」

「ちぃちゃん、ひっど~い!! お姉ちゃんは天然ボケじゃないし、おっぱいだって無駄におっきくなんかないも~ん!!」

「(天和姉さん、自覚が無いって恐ろしいわね……流石は天然) 近くならともかく、遠くから見たら見分けるのは難しいかも…万が一の時、姉さんの影武者に使えるわね」

 

 しかし、黄巾兵の攻撃は無かった……どうやら彼等にとって、天和に良く似た彼女を攻撃する事は出来ないようである。

 呆れる一刀達と、納得してしまう三姉妹。

 

 

 

「た、助かったのか…? と、とにかく反撃だ!! 先手必勝!! 星龍斬(せいりゅうざん)!!」

『ぎゃああああ~!!』

『ひぃいいいい~!!』

『ぎぇええええ~!!』

「ええい、鬱陶しいぞ!! 鬼牙百烈撃!!」

『あだだだだだ~!!』

「雑魚は大人しくやられてろ、なのだ~!! 爆裂大雷蛇!!」

『し・び・れ・る~!!』

 

「あ、あはは…ご主人様達、容赦無いなぁ…」

 

 一刀の二刀流が星の軌道(五芒星)を描きながら突進しつつ黄巾兵を次々と吹き飛ばし、

 愛紗の青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)の百烈突きが敵の群れを突き崩し、

 鈴々の丈八蛇矛(じょうはちだぼう)から放たれた雷の大蛇が痺れさせる。

 そのあまりにも容赦無く一方的な大暴れっぷりに、桃香は頼もしく思うと同時に呆れ顔だった…。

 

 

 

 

・数え役萬☆姉妹の切り札!?

 

 

「え~っ!? 皆もうやられちゃったの~!?」

「うっそ、強過ぎでしょあいつ等!?」

「只でさえ厄介な二人に、龍帝剣が加わったとは言え…ここまで実力差があるなんて…」

 

 あっという間に黄巾兵達を倒した一刀達の強さに驚く三姉妹。

 

「さぁ、残ったのはお前達だけだぞ!!」

「もう降参して下さい!!」

「命までは取らないでおいた…大人しく降伏すれば、これ以上手荒な真似はしないが?」

「観念するのだ!!」

 

 三姉妹の前に立ち、それぞれの武器を向ける四人。

 

 

 

「うう~…こうなったら、アレしかないよね!」

「ええ! こういう場面で使って、大逆転よ!!」

「私達の切り札、見せてあげるわ…」

太平妖術(たいへいようじゅつ)!! 木星合身(もくせいがっしん)!!』

 

 三姉妹はマイクスタンド状の杖を頭上に掲げて重ね合わせ、呪文を唱えた。

 

蒼天已死(そうてんすでにしす)!! 黄天當立(こうてんまさにたつべし)!!』

 

 何と、三姉妹は妖術の力で一人の人間に合体した…!!

 ロングヘアー&ポニーテールでショートカットの分だけ若干短くなった髪型。

 桃色・水色・薄紫色がそれぞれ数本ずつ縦並びになっている髪の色は、一刀に外国の国旗を連想させる。

 身長は…靴の分を合わせると、およそ2m近くはありそうだ。

 プロポーションは3人の良い所取りで、胸とお尻は3人分大きくなっているのに対して、腰と手足はかなり細い。

 

『どう? これが私達の最強の妖術よ!! 妖力も! 歌唱力とダンスも! 歌って踊れる体力も! 美貌とプロポーションも三倍!!』

 

 叫ぶ三姉妹の声が重なって響く。

 ズレた眼鏡を直しつつ、マイクが3つ付いたようにしか見えないデザインの杖を構え、勝ち誇った表情を浮かべる。

 

 

 

「にゃにゃ~っ!? が、合体しちゃったのだ~!! しかも、でっかいのだ~!」

「おのれ、邪悪な妖術使い共め!! 既に人間を捨てていたか!!」

「黄巾党のボス達がアイドル三姉妹で…しかも、妖術で合体した…あ、益々頭痛くなって来た…」

「ご、ご主人様しっかり!! あ~、でも良いなぁ…あの身体は反則だよぉ…」

「鈴々から見れば愛紗も、おっぱいお姉ちゃんも十分反則なのだ」

「わ、私もか!?」

「あの~、その呼び方はそろそろ止めて欲しいなぁ…」

 

 合体三姉妹の姿を見て、それぞれの反応を見せる四人。

 

「合体して魅力三倍…眩しいぜ…」

「ああ、あの大きな体に抱き抱えられたい…」

「あのサイズなら、おいらにピッタリなんだな…抱き締めたいんだな…」

「すげえよアンタ等、ファンの鑑だよ…」

 

 先程ブッ飛ばされてボロボロの状態なのに、合体三姉妹を褒める影武者三人組のファンの鑑とも言うべき姿に感心する一刀。

 

 

 

『ねぇ、龍帝剣のお兄さぁん…私達のものにならない?』

「……まだ言ってるのか、それ」

『一人ずつ、三人同時、合体したまま…色々楽しめるわよ~?』

「あ、あのさ…一ついいか?」

『なぁに? 私達のものになる気になった?』

「アンタ達の妖術は確かに凄いけどさ…武術の心得は?」

『……あ』

「あ、って言ったね」

「言ったな」

「言ったのだ」

「無いんだな…じゃあ、能力が三倍になったって大した事ないな。捕まえるぞ!」

「はい!」

「承知!」

「応なのだ!」

『そ、そんな~!!』

 

 こうして…黄巾党は退治され、解散させられる事となった。

 その後…盗賊行為を止めて旅芸人一座として活動していた所を曹操軍にスカウトされ、広報活動を条件にスポンサー契約を結んだと言う。

 彼女達が三国一有名な超人気アイドルグループになって独立し、一刀達と再会する事になるのはずっと先の話…。

 

 

 

 

・桃園の誓い

 

 

「今回はお二人に助けられましたな…黄巾党を退治出来たのは、あなた方のおかげです」

「お兄ちゃん、お姉ちゃん! ありがとうなのだ!」

「あの…お二人のその強さなら、もっと多くの人達を助けられると思うんです!」

『えっ!?』

「今回は、俺達四人が力を合わせたから勝てたんだ。出来れば、その力を貸して欲しい」

「…私の力で(よろ)しければ、喜んで」

「鈴々も、喜んで力になるのだ!!」

 

 共に行動する事になった四人は改めて自己紹介し、お互いの真名を預け合った。

 

「まさか、本当に天の御遣いと高祖・劉邦の末裔だったとは…」

「占い師の予言で、皆そう言ってるだけだけどね」

「わたしは、先祖代々からそうだってお母さんに聞かされてたから…あんまり実感無いけどね」

「お兄ちゃんとお姉ちゃん、すっごい人だったんだな~……普段は全然そうは見えないけど」

「は、はは…俺って一体…」

「あ、あはは…はぁ…」

 

 一刀は別の世界から来た人間で『天の御遣い』である事と、桃香が高祖・劉邦の末裔だと知った愛紗と鈴々。

 尊敬の眼差しを向ける愛紗に対して、悪気の無い一言を放つ鈴々……流石に落ち込む二人であった。

 

『我等四人、生まれた時は違えども、死すべき時は同じと誓う!!』

 

 桃の花びらが舞い散る中、義兄妹の誓いを立てた四人。

 この後 生涯を共にする勇者達の戦いはこうして始まった。

 四人は『幽州義勇軍』と名乗り、三璃紗の平和の為に戦う旅を続ける事となる…。

 

 

 

 

~あとがき~

元ネタのSDガンダム三国伝は、三国志ものでは珍しい「関羽、張飛より強い劉備」が主人公の一騎当千のアクションゲームなノリで必殺技が飛び交う作品です。

劉備のポジションは蜀ルートっぽく一刀と桃香に分担しました…元ネタの劉備の性格は(一刀+桃香な正義感強くて優しいけど天然な性格)-恋愛&異性への興味って感じですので。

劉備の攻撃力と必殺技は一刀に、防御力は桃香に…桃香の回復能力は真・恋姫†無双の奥義LV1「救護」を元ネタにしたオリジナルです。

 

三国伝の黄巾党はオネェ言葉で話す外道悪役三兄弟で、アニメ版では張梁の声優さんが一刀と同じ声だったりします。

 

 


 
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