No.300888

桔梗√ 全てを射抜く者達 第19射

黒山羊さん

酒が飲みたい!飲みたいわ!飲みたいんです!
三段活用を初めて使った黒山羊です。

少しばかり体調を崩したので、薬飲んでて、酒が飲めないんです。
とりあえず、治ったら、ビールを飲もう!

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2011-09-15 23:29:12 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:9191   閲覧ユーザー数:4142

桔梗√ 全てを射抜く者達   第19射

 

 

 

 

視点:一刀

 

ふと目が覚めた。何かあると、俺の勘が告げている。

人間の勘というのは二種類あると誰かが言っていた。

一つ目は天性の勘という奴だ。生まれながらにして持っている勘で、練習して身に付くモノでは無い。

そして、二つ目が経験則の勘。俺の勘というのはこれに近い。過去に体験したモノと似たような空気を感じた時に何が起こるか、見当がついてしまう勘。これは経験則である故、経験で身に付く。

だから、戦場で鍛えられた俺の勘が今、何かあると呼び掛けている。

残念だが、その何かは分からない。だが、このまま何もアクションを起こさないと言うのはどうかと思う。

俺は装備を整え、天幕の外に出て、周りの気配を探りながら、気の向くままに歩き、何が俺を駆り立てるのか確かめることにした。

 

「あぁー、良い夜だ。

休日ならカクテル、見張りをやらされているなら、温かいコーヒーの一杯でも飲みたくなる。

残念な事にこの世界にはジンやコーヒーが無いのが、いささか残念だな。」

 

月は下弦の半月。

自然のBGMは無し。此処は荒野。草木が風で擦れる音や動物の鳴き声は一切ない。聞こえるのは、見回りの兵の規則正しい足音だけだ。その音もそんなに大きくないから、BGM無しと言っても良いだろう。

香りは夕食の時のたき火の跡の独特の匂い。風はほのかに有り、俺の頬と髪を撫でて来る。

夏にも関わらず、此処は内陸故、昼間との温度差が激しいため、夜は涼しい。

 

さて、月を眺めるのもこのぐらいにしておくか。俺は見回りを再開する。

どこまでも、似たような風景が続いている。天幕天幕天幕。

まあ、いた仕方無いか。此処は宿営地。兵や将が泊まるためのモノが立ち並ぶのは当然だ。

俺はすれ違った見回りの人に声を掛けて行く。皆笑顔で返事をしてくれる。

蒼様の陣営の兵達は気軽に声を掛けて来る。まあ、西涼の人を巻き込んで行った料理大会が原因だろう。

俺に会った見回り兵の5人に2人は『焼き鳥が食べたいですね』と言ってきたからだ。

立ち話も程々にして、俺は見回りを再開する。

 

「御遣い様ですか?」

 

汜水関まで数十メートルの所で、董卓軍の女兵士に声を掛けられた。

董卓軍と判断したのは、鎧が董卓軍のモノだったからだ。女だと判断したのは、声質からだ。

 

「如何にも。」

 

「すみませんが、汜水関に来ていただけませんか?

何やら不穏な音がするので華雄将軍を呼びに行こうと思ったのですが、御遣い様に会ったので、お願いしたいのですが。」

 

「不穏な音?」

 

「はい。汜水関の上に居る時だけ、下から何かが擦れる音がします。

音の出どころと思わしき現場に行ってみたのですが、何も鳴っておらず、上に戻るとまた音が再開するのです。」

 

なるほど。俺の勘が告げているのはこれだったか。

俺はその女兵士の頼みを承諾し、汜水関の門へと行った。

俺は汜水関につくと、その音が何なのか調査を始める。足跡を見ようと屈んだ時だった。

 

「動くな。下手に動けば、首と胴が離れてしまうぞ。」

 

さきほどの、董卓軍の女兵士が俺の首筋に剣を当てながら、そう言った。

 

 

 

 

――その数時間前――

 

視点:雪蓮

 

もう、全く無茶苦茶な戦いだったわ。

汜水関の将が挑発返ししてきて、蓮華がその挑発に乗ってしまった。それだけなら、まだ良い。

一番面倒だったのが、いきなり兵が破裂して、それを見た兵達は狼が出たとか言って、一部混乱。

それでも、なんとか汜水関にある程度の攻撃が出来た私達は陣へと戻った。

蓮華の軍も祭の軍も同じような被害が出たみたい。

 

私は狼という言葉の意味を調べる為に思春、明命に軍内部の調査を始めさせた。

私は冥琳と共に反董卓連合の総大将の袁紹の所に行き、今日の戦果の報告に行った。

私達の報告を聞こうと反董卓連合の諸侯たちが袁紹の陣に集まっていた。

私は簡単に戦果を報告する。そして、諸侯に聞いてみた。

 

「ここに集まっている諸侯に聞くわ。

汜水関を攻めている時にね。兵が百数十人ほど破裂したの。それで、それを見た兵は狼が出た、喰い殺されるって、叫んで発狂したの。誰か何か知らない?」

 

そう言うと諸侯たちは騒ぎ出した。

『聞いた事が無い』や『○○殿は知っているか?』という声が木霊する。

誰もが真剣な目つきで諸侯と話合っている中、ただ一人笑みを浮かべている諸侯が居た。

 

「曹操。何か知っているのかしら?」

 

私が曹操を睨みながらそう言うと、他の諸侯の視線が曹操に集まる。

 

「どうせ黙っていても、調べれば、すぐ分かるから教えてあげるわ。

孫策は管路の占いを知っているかしら?」

 

「えぇ、知っているわ。」

 

「その兵士の言っていた『狼』はその管路の占いに出て来る天の御遣いよ。

私が自軍の兵士に黄色の布を巻いた賊の出身の者から聞いたわ。

その者は一度狼が所属する軍に捕まって捕虜となったけれど、隙を見て逃げたらしいわ。

で、その者の情報によると、天の御使いの名は北郷一刀。男。年は20前後。

天の弓で人を喰らい殺す。この事から射撃狼とも呼ばれているわ。

厳顔という将が治める巴郡と馬騰が治める西涼にも出て来ているから、何処の陣営の者か分からない。

それに、戦場で見た者は居ないと聞いているわ。だから、天の弓がどんな物か知らない。」

 

「……一刀さん」

 

「劉備知っているの?」

 

「私の知っている一刀さんが曹操さんの言った天の御遣い様だったら、私は天の御遣い様に会った事が有ります。と言っても、会った事が有るだけで、親しいという訳じゃないので、よく知りません。

…………でも、人を喰らう天の弓の持ち主が一刀さんなら、あの時の事、全部辻褄が合う気がします。」

 

「どういうこと?」

 

「実は―――」

 

そう言って、劉備は話始めた。

義勇軍をやっていた頃、荊州で不正を働く有力者を成敗した時に北郷一刀という人物に会ったという。

その時も有力者からある人物を助ける時に人が喰い殺されるのを劉備は見たという。だから、その時に誰が殺したのかずっと疑問に思っていたが、納得行ったと劉備は言った。

 

私は包み隠さず話した事に驚いたが、共通の敵である董卓軍に関する情報は共有しないと、自身の陣営が疑われてしまうとの思惑が有るらしい。この娘思っていたより出来る娘だわ。

曹操が知っている天の御遣いの情報と、劉備の会った事のある北郷一刀という人物の情報、私が見たあの汜水関の上に居た男の姿を合わせてみると、あの男が北郷一刀で天の御遣いであるという可能性が高い事が分かった。と、すると、あの黒い何かが、天の弓ね。

何として孫呉の再興と天下統一の為にも、あの天の御遣いと天の弓をどの陣営よりも早く手に入れないとね。だって、天の御遣いを狙っているのは私達だけじゃないみたいだから。

 

 

 

 

「はぁー。やっと、軍議終わったわね。冥琳。」

 

「あぁ、そうだな。それでどうやってあの男を仲間に引き込むつもりだ?」

 

「あ!分かる!?」

 

「当然だ。それで、どうするつもりだ?」

 

「拉致っちゃえば、良いじゃない♡」

 

「拉致るのはいいとして、反董卓連合はどうするつもりだ?

勝手に動いたら、粛清されるおそれがある。この先、我らが攻める番は当分先だぞ。」

 

「この後、袁術が汜水関を攻める予定になっているわよね?

だから、袁術に汜水関の破壊工作を手伝うと称して、堂々と汜水関に潜入して、天の御遣いを拉致よ。」

 

「なるほど。袁術を利用するか。」

 

「そ♪」

 

「了解した。しかし、散々罵倒されたのに、あの男の事を許すのか?」

 

「別に良いじゃない。こっちも挑発したし?だから、お相子よ。」

 

「そうか。雪蓮がそういうなら、何も言うまい。

では、私は袁術に暗殺部隊の潜入の許可を貰ってくる。陣には先に戻っておいてくれ。」

 

「分かったわ。蓮華達を集めておくわね。」

 

私は冥琳と別れて自陣の天幕へと向かう。

天幕前では思春と明命が待っていた。2人共、狼についての調査の途中報告をしにきたみたい。

2人の報告を聞いてみると、曹操の言っていた事とほとんど同じだった。

私は調査の終了と将の招集を2人に命令する。半刻も立たずに孫呉の全ての将がそろった。

 

「皆、集まったわね。とりあえずは、さっきの戦いお疲れ様。

一部、敵軍の挑発に乗って、突撃しそうになった将が居たけど、処分は指揮権一時剥奪とするわ。

それから、さっきの戦いで『狼』というのが私の軍には出てきたけど、皆は知って居るかしら?

………その反応だと、皆知っているようね。

そして、実はその狼っていうのは正確には射撃狼って言われている天の御遣いの事を指すわ。

思春と明命以外は戸惑っているようね。続き良いかしら?

で、その天の御遣いなんだけど、あの汜水関の上で飲食しながら、私達を挑発していた男居るじゃない?

実はあの男が、天の御遣いの射撃狼よ。」

 

孫呉の内の軍議用の天幕がざわつく。

いきなり目の前に敵として天の御使いが現れたんだもの、衝撃よね。

 

「でね、ここから本題よ。特に思春に明命。よく聞きなさい。」

 

「「はっ!!」」

 

「汜水関から、天の御遣い拉致って来て♡」

 

 

 

 

「姉様!正気ですか!?」

 

蓮華が私に異論を唱えた。その表情は怒気に満ちている。

それもそうだろう。蓮華はあの男の挑発で怒り、天の弓で気絶させられたのだ。

いきなり、仲間に引き込むと言ったら、普通は納得しないだろう。

 

「私は正気よ。蓮華。相手は確かに我が孫呉の誇りを汚した。

だが、その男を屈服させ、孫呉のモノにすることが出来れば、孫呉による天下統一が近づくわ。

だって、乱世に天の御遣いなんて名が出れば、民から孫呉は畏敬の念で見られるはずよ。

それに、蓮華。もし太平の世になった時に貴方は元敵だった相手を憎み続けるの?」

 

「確かにそうですが………。」

 

「思春、明命。作戦の詳細だけど、今晩袁術の軍が汜水関に夜襲を掛けるわ。

その直前に汜水関内部に潜入して、汜水関の門の扉の鍵の破壊と天の御遣いの拉致を命ずる。

方法と手段は問わない。だけど、死ぬ事は許さないから、危なくなったら、離脱しなさい。

袁術の軍とは接触しない様に、どうせ袁術の事だから、末端の兵士まで、思春たちの事伝わらないと思う。

それから、天の御遣いは殺さない事。失敗しても虎牢関があるから、良いわね?」

 

「「はっ」」

 

「じゃぁ、召集は終わりよ。

思春と明命以外はゆっくり休んでいなさい。

思春と明命は準備をお願い、袁術の出陣が子の刻らしいから、それまでにさっき言った任務をお願いね。」

 

そう言うと天幕から出て行こうとする。

ふと、天の御使いの使い道について新しい方法が思い浮かんだ。

私は皆を呼びとめる。

 

「あぁー、そうそう。言い忘れてた。

天の御遣いだけど、皆の夫の第1候補だから、よろしく♡」

 

そう言うと、皆が固まった。すごいわね。一斉に固まるなんて、時が止まったみたいよ。

そして、蓮華がこちらを向いて、また迫ってきた。鬼気迫るってこんな感じかしら?私は少し驚いた。

顔を赤くした蓮華は天幕に在った机を両手で何度も叩きながら、私に向かって喚き散らす。

 

「姉様!私達の夫って、何のつもりですか!?冗談を言うのもいい加減にして下さい!」

 

「安心して、蓮華。冗談じゃないから♡」

 

「冗談じゃないなら、余計に嫌です!何故ですか!納得のできる理由をお願いします!」

 

「だって、孫呉の天下統一で太平の世になったら、後継ぎが必要よね?

でも、そこらへんの普通の男が夫じゃ、私達が納得できても、周りが納得しない。

臣下が納得しない程度ですんだら良いけど、反乱起こされちゃったらたまんないわよね。

太平の世にはそれなりに名声を持った夫が必要という訳、だから、天の御遣いに私達の夫に成ってもらおうってわけ。納得?」

 

「…………納得しました。しかし、それでも私は嫌です!

百歩譲って…嫌!万歩譲って仲間になるのは許せても、あの男と交わるのは、絶対嫌です!

世継ぎが欲しいなら、姉様が頑張って下さい!私はこれで失礼します!!」

 

そう、蓮華は言い残すと走って天幕から出て行ってしまった。

 

 

 

 

視点;??

 

「………はぁー。」

 

「どうなされましたか?思春様?」

 

「あぁ、明命。我ら孫呉を愚弄した敵軍の将を関から拉致して夫にすると思うと、少し憂鬱になってしまっただけだ。こんな奇妙な任務は初めてだ。」

 

「なるほど。確かにそうですね。」

 

「明命。あの男を軽く殴っても問題ないと思うか?」

 

「…分かりません。」

 

「では、ものすごく殴っても問題ないか?」

 

「………………それは問題あると思います。」

 

「………そうか。まあ、良い。

もうすぐ汜水関だ。城壁を登るための装備の準備をしろ。」

 

「はい。」

 

私は明命と共に数人の部下を引き連れて汜水関へと向かっている。

そのままではすぐに見つかる恐れがあるので、土色の外套を被り、汜水関への道の壁際をゆっくり進む。

城壁の上には見張りの兵が汜水関の門の真上に1人、周辺に数人の見回りの兵が居る。

彼らの視線や汜水関から聞こえる音からすると、私達は見つかっていないようだ。

孫呉の暗殺部隊である我らはいとも簡単に見つかるようなへまはしない。

 

よし。汜水関の城壁へとたどり着いた。私は両手に崖登り用の装備を両手に装着する。

あとはこのかぎ爪が汜水関の壁の凸凹に引っかけて、登って行くだけだ。

汜水関の壁も普通の城壁同様に煉瓦造りのため、非常に登りやすい。

これが塗り壁だったら、もっと時間が掛かっただろう。四半刻も掛からずに城壁の上に着いた。

 

私は城壁の上に着くと、ある仕掛けを城壁に固定する。

その仕掛けは城壁の手すりを挟む事によって固定され、紐をその仕掛けに結び、下に垂らす事で、下から城壁を容易に誰でも登ることが出来る代物だ。

仕掛けにつなげられた紐がピンと張った。どうやら、下の誰かが登り始めたようだ。

私はこの仕掛けが解除されない様に、見張りに見つからない様に、息を潜め、上で見張りをしている。

そして、十数人の私と明命と部下が汜水関に到着した。

私と明命は天の御遣いの拉致を、部下十数人に汜水関の施錠の破壊の任務を遂行することにした。

 

 

 

 

夜中という事もあり、殆どの兵が休んでいる。

見回りの兵が巡回しているが、汜水関の内側という事で気が抜けているのか、欠伸をしている。

あれが孫呉の兵なら、即刻の新兵としての訓練を受けさせている所だ。

私は物陰に隠れ、見回りの巡回兵の死角をゆっくり、確実に進む。

誰にも見られない所に巡回兵が来たら、後ろから迫り、首の骨を折る。

この方法なら敵兵が出血しないため、服を奪って巡回兵になり済ますのは容易だ。

後はこの死体を隠す。方法は居たって単純。袋に詰めて、そこらへんの荷車に乗せる。

中身を確認しない限り、この袋の中に死体が入っているとは思えないだろう。

服を奪った私は敵兵に成りすまして、巡回すると見せかけて、天の御遣いを探し始める。

 

普通に巡回している姿を見せ、私と明命の二人になったら、周りの天幕の中を確認する。

ただそれの繰り返しだ。時間はかかるが、これが確実だ。

 

「思春様。」

 

「どうした?」

 

「もしかして、あの男ではないでしょうか?」

 

明命の視線の先を見ると、昼間汜水関の上で我ら孫呉を愚弄した男がいた。

黒金の塊を右わきで挟みながら、両手で持っている。見たことも無い形だ。4尺はあるように見える。

おそらく、アレが天の弓だろう。

 

そのまま少しの間、あの男を私達は追跡した。

明命は先に汜水関に行き、汜水関の門の鍵を破壊しようとしている部下達に伝えに行った。

そして、男が一人になった時に私は男に声を掛けた。

 

「御遣い様ですか?」

 

「如何にも。」

 

「すみませんが、汜水関に来ていただけませんか?

何やら不穏な音がするので華雄将軍を呼びに行こうと思ったのですが、御遣い様に会ったので、お願いしたいのですが。」

 

「不穏な音?」

 

「はい。汜水関の上に居る時だけ、下から何かが擦れる音がします。

音の出どころと思わしき現場に行ってみたのですが、何も鳴っておらず、上に戻るとまた音が再開するのです。」

 

男は汜水関の門の前に来ると、足跡を見る為か屈んだ。

今だ!私は鈴音を抜き、男の首筋に当てた。

 

「動くな。下手に動けば、首と胴が離れてしまうぞ。」

 

「ほぉー、私が背後を取られるとは、私も少しばかり気が緩んでいたようだ。」

 

男は笑みを浮かべながら、そう言った。

訳が分からない。コイツは何故笑っている?普通は首筋に剣を当てられたら、動揺するか、命乞いをするのが、普通だ。だが、コイツは、まるでこの状況を楽しんでいるように、心の底から笑っている。

不気味すぎる。気でも狂ったか?いや元々狂っているのか?

天の御遣いを無力化することに成功したため、汜水関の近くで隠れていた私と明命の部下が出て来て、汜水関の扉を開く為に鍵を鋸で切り始めた。

よし。今のところは順調だ。後は門を開け、天の御遣いを拉致すれば、任務は成功だ。

 

「少し宜しいか?侵入者殿よ。」

 

 

 

 

「貴方の名前を聞きたい。教えて頂けないだろうか?

狙撃体勢でない私の背後を取ったのは、この世界では貴方が初めてだ。ぜひ貴方の名前を聞きたい。」

 

「良いだろう。

我が名は甘寧。貴様が愚弄した孫呉の将だ。冥土の土産に覚えておくが良い。」

 

「なるほど。納得というものだ。

孫呉が誇る夜襲の達人、甘興覇殿が相手では私にとって荷が重すぎるのは道理というもの。」

 

「貴様。何故、我が字を知っている。」

 

「フッフッフッフッフッフ。

少しばかり声が大きいですぞ。甘興覇殿。それでは董卓軍の見張りに見つかってしまいますぞ。」

 

「良いから答えろ。」

 

「天の国の知識とだけ言っておきましょうか。

それ以外にもっともらしい解答を私は持ち合わせていないことを私は貴方に謝罪したい。

ところで、もう一つ聞いて構わないか?」

 

「なんだ?」

 

「私をどうするつもりか、教えて頂けないだろうか?

さきほどから、君からは敵意や怒気を感じるが、不思議な事に殺気は全く感じない。

察するに、私の捕縛を君は孫策殿から命令されている。と私は勝手に考えているのだが、違うかな?」

 

「だったら、どうする?」

 

「こうするに決まっている。」

 

御遣いは大きく息を吸い…………。

 

「敵襲だぁぁぁぁ!!!!」

 

「「!!!」」

 

天の御使いが叫んだ事によって、兵達が起きたのか、慌ただしくなってきた。

私達は混乱する。命を握られている無力な男は大声を出して、周りに私達の存在を知らせた。

ありえん!普通なら殺気が無くとも殺されると思い、自らの命を護るために大人しくするのが当たり前だ。

何を考えているんだ?コイツは!?

 

「フフッフフッフッフッフッフ。混乱していますね。

簡単ですよ。貴方達に攫われたら、私はあの人と再会できない。それは私にとって死んだも同然。

………なら、生還できる確率の高い事をする。ただそれだけですよ。

そして、私が叫んでも貴方達が私に殺気を向けないと言う事は貴方達の任務は『拉致。出来なかったら、殺害』ではないようですね。どうやら、私は運が良いらしい。

ところで、良いのですか?早く逃げないと捕まってしまいますよ?」

 

クソ!私は天の御遣いという男がどのような人物かを計算に入れていなかったようだな。

天の御遣いを蹴り、私は今開いた汜水関の門へと跳んだ。

 

 

 

 

「おぉーっと、おじょーちゃん。此処は通行禁止だ!通りたかったら、俺を倒していくんだな。」

 

私の前に三叉戟を持ったゲジゲジまゆ毛の茶髪女が立ちふさがった。年は孫堅様ぐらいだろう。

私は鈴音で切りかかったが、三叉戟で防がれたので、後ろに跳び、間合いを取る。

この女、かなり出来る。さらに、後ろから華雄の声も聞こえてきた。

 

「見つけたぞ!貴様らはあの憎き売女の属将、周泰に甘寧!

よくも昼間は私を馬鹿にしたな!今この場で、その恨みと孫堅に負けた恨みを晴らさせてもらうぞ!!

挽き肉になって、野犬の餌になるが良い!!」

 

私と明命は背中合わせで、2人と対峙する。私の目の前には三叉戟の女、後ろの明命の前には華雄が居る。

天の御遣いを人質にと思ったが、残念ながら、あの男は転がって、私達から逃げていた。形勢を逆転された。

私と明命の部下達には捕まらない様に先に逃げさせた。彼女らが此処に居ると足手まといだからだ。

 

早速、私の背後で一騎打ちが始まったようだ。

明命の魂切が華雄の武器と何度もぶつかる音が後ろから聞こえてくる。

力量的に考えて、華雄の方が上の為、早く私が目の前の女を倒して、活路を開かねば。

 

「おじょーちゃん。名前聞いても良いかい?」

 

「姓は甘、名は寧。字は興覇だ。」

 

「甘興覇ちゃんね。恰好良い名前だな。

俺は馬騰。字は寿成だ。宜しく!んじゃ、楽しい楽しい喧嘩の始まりだ!」

 

何だと!馬騰!何故、西涼の太守が董卓の軍に居る!?

だが、馬騰は私を待たずに、いきなり右手で三叉戟の端を持ち、切りかかってきた。

私は屈んで、馬騰の攻撃をやり過ごす。馬騰の攻撃は私に当たらず、大きく空振りになる。

今だとばかりに、私は懐に入り込み、鈴音で切ろうとした。

 

「ぐふっ!」

 

攻撃しようとしたのは私。だが、攻撃を受けたのは私だった。

おかしい。馬騰の三叉戟は大きく空振りで、あの状態から私の攻撃を防ぎ、私に攻撃など不可能なはずだ。

私は攻撃を受けた腹部を見てみる。

 

「脚だと!」

 

「おじょーちゃん、俺は普通の戟使いじゃないぜ。喧嘩が大好きな戟使いだ。

殴る。蹴る。頭突きはお手の物だ。そんじょそこらの戟使いと同じにすると痛い目見るぜ!」

 

戟使いで蹴りをしてくるだと、何と型破りな。まるで、孫堅様を見ているようだ。

私が蹴りを喰らい怯んだ為、馬騰がここぞとばかりに三叉戟で突いてくる。

鍛錬で身に付いた突きでは無く、戦いによって身に付いた突き。

しかも、誇りを賭けた一騎打ちではなく、喧嘩のような殴り合いのような戦いだと思う。

馬騰は三叉戟を敵を倒すための武器として扱うのでは無く、敵を殴るための腕の延長のように使っている。

荒々しさは有っても、精練された感じは無く、戟使いの動きとして見れば、無駄が多いように見える。

だが、馬騰はその無駄を利用している。さきほどの私のように隙だと思って攻撃すれば、その実、馬騰の誘い込みで、拳や脚を喰らい、止めに三叉戟で刺してくる。なんとも、厄介な武だな。

 

私は三叉戟に鈴音を絡め取られない様に、気をつけながら馬騰の攻撃を防いでいく。

だが、ただ防いでいる訳ではない。防ぎながら、徐々に立ち位置をずらしていく。そして、渾身の一撃を馬騰の三叉戟に打ち込む。すると、馬騰は押され、私と明命から汜水関までの道が開けた。

 

「よし!今だ!明命!退くぞ!」

 

私は明命に声を掛け、汜水関から離脱した。

汜水関の方から華雄が追ってこようとしたが、馬騰がそれを止めたようだ。

馬騰は後ろで『逃げられちまった』と笑っている。

そして、袁術の軍を見て、扉の閉まらない汜水関を捨て、董卓軍は虎牢関へと退却した。

袁術の軍では董卓軍の追撃は無理だったらしい。まあ、あの袁術の軍の錬度では、追撃なんぞ無理だろう。

こうして、汜水関は反董卓連合の手に落ちた。

 

 

 

 

どうも、黒山羊です。

 

最近、薬を飲んでいます。喉が荒れていて咳が止まりません。

そのため、酒が飲めなくて、禁断症状が出そう……出ています。

はい。ごめんなさい。手が時々プルプル震えます。

 

で、今回のお話はどうだったでしょうか?

思春がスネークしてましたね。

MGSなら、ホールドアップさせると、無力化されるのですが、一刀は桔梗に会えない若しくは戦場に居ないことこそが己の死だと思っているので、生きる為に無茶をしちゃいました。

 

蒼と思春の一騎打ちどうだったでしょうか?

最終的には、思春の戦線離脱で終わってしまったのですが、一騎打ちの描写って言うのが難しい為、こんな感じで良いのかいつも悩んでいます。

 

では、いつもので、閉めましょう。

それでは、皆さん御唱和下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

へぅ( ゚∀゚)o彡°

 

 


 
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