No.300038

two in one ハンターズムーン10「八尺瓊勾玉」

泡蔵さん

月神神社のつながりを聞いた双葉は、自分の使命を知ることになる。そして、理解できないまま戦いに巻き込まれていく。
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2011-09-14 17:12:03 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:430   閲覧ユーザー数:430

   10 八尺瓊勾玉

 

 瑞葉の話は簡単に理解しろと言われても、理解しがたい話ばかりだった。

「それじゃあ、瑞葉さんも〈双心子〉なんですか……」

 今まで混乱してなにも聞けなかったが、やっと双葉が理解できたことから質問する。

 〈双心子〉であることが一番理解しやすかった。実際に一葉と双葉は、同じ体の中に魂を宿しているのだから別段驚く話ではない。

 しかし、そうなるとなにかが変だ。話の流れからすると瑞葉も〈双心子〉として産まれてきたことになる。それでは何故、この世界にもう一人の瑞葉が存在していないのだろうか。

「かつては〈双心子〉でした。丁度あなた達の年齢くらいまでは……〈双心子〉とは力を覚醒させる前までの呼び名。力を覚醒した後は、〈月の狩人〉〈月の守人〉〈月の繋人〉と呼び名が変わるのです」

「力を覚醒……」

 その力とはいったいなんなのだろう。それがこの世界に瑞葉が一人で存在している理由なのだろうか?

「力を覚醒させるためには、厳しい試練が用意されています。とても辛く悲しい試練が……」

 瑞葉の表情がかげった。その表情が辛い試練だったことを物語っている。どんな辛い試練を瑞葉は乗り越えてきたのだろう。

「……どんなことなんですか」

 聞きたくはないが、聞かなくてはいけない。もしかすると一葉達も乗り越えなくてはならない試練になるのかも知れない。

「月の力は、二つの魂を一つにしなければ、強く発揮されないのです」

 「二つの魂を一つに」その結果が、瑞葉がこの空間に一人で存在している理由なのだ。

「一つになるってどういうことなんですか。じゃあ、もう一人は……」

「私、瑞葉と呼ばれていたのはこの体です。魂を二つ宿していた時に、魂の名前はありません。名前を次ぐために魂を一つにしなければならないのです……私は、もう一人の私が好きだった。本当ならもう一人の私に力を残して私が消え去るつもりだったのに……でも、もう一人の私も同じことを考えていた。そして、私に力だけを残して笑顔で消えてしまったのです……私は悲しかった。一つになったはずなのに半身を失ったような気がしてならなかった。その悲しみに耐えられず私は光を閉ざしてしまったのです。でも、これが神無月の家に生まれてきた宿命。〈双心子〉として産まれてきた運命だと諦めるしかありませんでした。そして、私は〈月の守人〉八咫鏡を継ぐ者として生まれ変わったのです。それが力を残してくれた者への私にできるただ一つのことだから……」

「それじゃあ、咲耶達の兄貴も……」

 一葉には高彦方が気になっていた。あの咲耶と知流に接する態度を見ていると瑞葉のように、平和的に魂を一つにしたとは思えなかったのだ。

「はい、高彦も既に〈月の狩人〉天叢雲剣を継ぐ者として覚醒しています。でも、あの子は違っていた。いえ、あの子達は違っていたと言うべきでしょう。同じ身の内にありながら相手を憎んでいたのです。そして、高彦はもう一人の高彦を倒したのです」

 それは、恐ろしい話だった。高彦は身の内で、もう一人の高彦と戦い、相手の力を奪い取ったのだ。

 その戦いは壮絶なもので、高彦は一週間床に伏せることになった。その間、互いの力を奪うために内なる世界で戦い続けたのだ。

 魂の戦いの傷は、肉体にも影響を及ぼした。刀で切られたような筋が無数に現れ、今もその傷痕は消えていない。しかし、その戦いは今いる高彦だけが望んだわけではなかった。互いの合意の元で戦いを選んだのだ。月の力を継ぐ者になるために……

 その話を聞かされた二人は愕然としていた。〈双心子〉とは、なんと過酷な運命を背負わされているのだろうか、そんな過酷な試練にこれから望まなくてはならいと言うのか。

「でも、なんでボク達が〈双心子〉として産まれたんです。なんで、この家に生まれた。咲耶と知流じゃないんですか」

 〈月の守人〉も〈月の狩人〉も、月神神社を守る神無月家に産まれてきた。それなのに、何故〈月の繋人〉だけが、茜の元に産まれてしまったのだろうか?

「そうですね……本来であれば、咲耶と知流は一つの体で生まれ〈双心子〉となるはずでした。でも、一つの体で生まれ出ることができなかった。その為に、あの子達がどんなに辛い思いをしたか……」

 この時、一葉と双葉は、高彦が言った「一つの体で産まれてくることもできなかった出来損ない」と言う意味を初めて理解した。本来であれば咲耶と知流が〈双心子〉として生まれてくるはずだったのだ。

「なんで……なんで、一つにならなかったんですか」

「それは、茜様が身ごもってしまったから……一葉さん。あなた達の生まれた日は、いつですか?」

「9月18日です……まさか」

 咲耶達が〈双心子〉として産まれてこられなかったことと一葉達の誕生日がなにか関係している。一葉は直ぐに察しがついた。

「はい、16年前の満月の夜。あなた達と同じ日に生まれました。きっとあなた達が咲耶達よりも早くに産まれてしまったのでしょう……いえ、早い遅いは関係ないのかも知れません。茜様が身ごもってしまったことで〈繋人〉は月神神社には生まれ出ることができなくなってしまった。〈月の使者〉は世に三人だけ、三人目が茜様の元に産まれてしまったのです。咲耶と知流が双子で生まれてくるのは必然だったのです」

 茜が神無月、月神神社の掟を破り秀明と駆け落ちをしたことが運命の始まりだった。その結果が一葉達だけではなく、咲耶達にまで過酷な運命を背負わせてしまったのだ。

「そんな……そんなこと言われたって、ボク……」

 自分達が産まれてこなければ咲耶と知流を苦しめることはなかった。実の兄にあんなヒドイことを言われることはなかったのだ。それを考えると二人の心は痛んだ。しかし、一葉達にはどうすることもできない。生まれてきたのは一葉達のせいではないのだから……

「ごめんなさい。こんな言い方をしてしまって。あなた方を責めているのではないのです。それに、茜様も幸せだったからこそ、あなた方を身ごもったのです。それをどうして責められましょう。ただ、辛いかも知れませんが〈月の繋人〉になるのは一葉さん。双葉さん。あなた方しかいないのです。鬼を倒し、人々を救う力を持っているのは」

 凛とした声が二人の心に響いた。瑞葉は運命を告げる女神だったのだ。しかし、なんと辛く悲しい運命をこの美しい女神は告げるのだろう。

 現実は、常に過酷である。〈双心子〉はもう産まれてこない。〈月の繋人〉八尺瓊勾玉を継ぐ者は、一葉と双葉しかいないのだ。しかし、〈月の繋人〉になると言うことは……

「嫌だ! ボクは双葉と戦わない。一つになって双葉と話せなくなるなんて──」

「私だって同じだよ。一葉ちゃんがいるから、安心できるし、強くなれるんだよ……でも、どちらかが残らなくちゃならないなら私が消える。私が一葉ちゃんの一部に──」

「バカ双葉! その先を言ってみろ。絶対に許さないからな! ボク達はずっと二人でいるんだ。一つの体に一緒に……」

 突然一葉が泣き出し双葉に抱きついてきた。意外な一葉の行動に双葉も驚いている。そして、一葉の深い愛情を感じるのだった。

「ごめんなさい。一葉ちゃん……ごめんなさい」

 もう何年も見せていない一葉の涙に、双葉は深い絆を感じた。そして、その絆の強さを瑞葉も感じ取り、嬉しそうに微笑むのだった。

「泣かないで下さい一葉さん。勝手なことを言って申し訳ありませんでした。お二人を見ていると、もう一人の私を思い出します。いいのですよ。無理をして一つにならなくとも。茜様もそんなことは望んでいないはずです。だからこそ、あなた方に、一葉・双葉と言う二つの名前を残されたのでしょう」

 運命の女神は、慈愛に満ちた笑みで二人を包んでくれた。その笑顔は、一葉の瞳から涙をぬぐい去り、双葉の心を温かくさせた。

「でも……私達が〈月の繋人〉にならないと……」

「はい、三種の神器の真の力は引き出せないでしょう。でも、ほんの僅かですが咲耶と知流にでも力を引き出すことができました。〈双心子〉である一葉さんや双葉さんなら、あの子達よりも強く、八尺瓊勾玉の力を引き出すことができるはずです。私が告げたかったことは、お二人に鬼と戦うことを承諾して頂くこと。ほんの少しだけ、神無月の使命に加わって欲しかったのです。〈双心子〉のままでも、戦う術はあるはずです」

 瑞葉も京滋同様、一葉と双葉を無理に〈月の繋人〉に仕立てるようなことは考えていなかった。それは、瑞葉にしても高彦にしても産まれた時から月の力を得るために厳しい修行をしてきた。今からでは間に合うわけがない。それならば、今のままで八尺瓊勾玉の力を引き出せる方法を考えた方がいい、鬼は直ぐそこまで来ているのだから。

「でも、ボク達どうやって戦えばいいかなんてわかりません」

 いきなり鬼と戦うことを了承しろと言われても、どうしたらいいのだろう。

 そんな一葉の質問にも、瑞葉は優しく微笑んでくれた。

「あなた方が直接戦う必要はありません。八尺瓊勾玉の力を引き出すことができたなら、その場にいて頂けるだけで結構です。あなた方の身は、神無月の者が守ります。さあ、もうそろそろ現実の世界に戻りましょう。咲耶と知流が部屋に向かっていますし、高彦を呼ばなくてはいけませんからね」

「でもどうやって、その力を引き出すんですか?」

「それは色々試してみなくてはわかりません。とにかく色々なことを試してみましょう。力をうまく引き出せないと先のことは考えられませんからね。でも大丈夫、きっとうまく行きますよ」

 意外と楽観的な瑞葉の言葉に、一葉達は拍子抜けしてしまった。それでも今は瑞葉の言葉を信じて着いて行くしかないのかも知れない。

 お互いの顔を見合わせて悩んでいる一葉達を瑞葉は嬉しそうに眺めていた。悩んでいると言うことは、どう協力するか考えてくれていることなのだから。

「さあ、こちらに来て下さい。元の場所へ戻りますよ」

 一通り話し終わった瑞葉は、鏡の世界を解いて現実世界への扉を開くのだった。

 

 光に包まれ戻ってきたのは、内なる世界だった。しかし、一葉も双葉もスポットの中には立っていない。

《凄いことになっちゃったね……》

〈うん。でも、双葉はボクが守るから。それに、ここはお母さんの家だし、これはお母さんが残していった使命だと思うんだ。咲耶や知流に、きっと悪いことをしたんだと思う。ボク達が生まれてこなければ、兄貴にあんな言われ方をされることはなかったんだから……その為にきっと辛い目に遭ってきたんだよ。これからは、咲耶と知流はボク達で守ってあげないといけないと思うんだ〉

《そうだね……そうだよね。一人じゃないんだもんね。四人で頑張ればなんとかなるよね》

〈うん。きっとなるよ〉

 そう言って、一葉は微笑むとスポットの中に入るのだった。

 

 目を開けると一葉の横には、咲耶と知流が巫女装束に身を包んで座っていた。

「あっ、あの……大丈夫ですか」

「うん。大丈夫だよ」

 鏡の世界にいたのは、ほんの数分の出来事だった。何時間と瑞葉の話を聞いていたはずなのに、鏡の世界と現実では時間の流れ方が違うらしい。長い話になるので、瑞葉もその場所を使ったのだろう。

「高彦も、今来ます。ほら」

 瑞葉が、そう告げると同時に襖が開いた。廊下を歩く音が聞こえてこなかったのに、瑞葉はどうしてわかったのだろう。

「呼んだか姉上」

 颯爽と入ってきた高彦は、真っ白な剣道着に身を包んでおり手には木刀が持たれている。額からは汗が滲み出ている姿を見ると剣術の稽古をしていたのだろう。

「なんだ。この前の転校生か、何故ここにいる。貴様のような奴が入っていい場所ではないのだぞ。お前達が連れてきたのか、場所をわきまえろ」

 相変わらずきつい言葉を浴びせかける。その言葉を聞いていると、お互いにつぶし合ったのがわかるような気がした。

「高彦。なんてことを言うのですか、あなたこそ慎みなさい」

 一葉が言い返す前に、瑞葉の声が飛んだ。その言葉に、意外にも高彦は口をつぐむと一葉の横に腰を下ろした。

「それで、なんなのだ姉上」

「〈繋人〉が見つかりました。あなたの横にいる方がそうです」

「なに、どのようにして見つかったのだ」

 瑞葉の言葉に、高彦は驚きを隠せないでいる。それもそのはず、今まで散々〈月の繋人〉を探し続けていたのに、見つからなかったのだから。

「咲耶と知流が探し出してくれました」

「お前達が? 少しは役に立ったと言うことか……姉上。この者は、もう〈繋人〉になっているのか。八尺瓊勾玉を使える者に」

 高彦にとって〈月の繋人〉が誰であろうとどうでもいいらしい。興味は既に三種の神器を扱えるかどうかに変わっていた。

「いいえ、まだ〈双心子〉のままです」

「なに、まだのうのうと二つの魂を宿しているというのか。さっさと決着をつけてしまえ!」

 その言葉に、今度は瑞葉よりも早く一葉が反応した。

「嫌だ。ボクは絶対に双葉と戦わない。瑞葉さんもそれでいいって言ってくれた」

「本当なのか姉上。なんと甘いことを……貴様は、神無月の宿命をわかっておらん」

 道場で美しい剣技を見せてくれた高彦の姿はそこにはなかった。あれほどの美技を見せてくれたのだ。きっと真っ直ぐな心の持ち主なのだと思っていた。一葉はあの美技を見ただけで、尊敬の念を抱いていたというのに、その思いは無惨にも砕かれていく。

「そんなことわからないよ。だって──」

「高彦! 口を慎みなさいと言ったはずです」

 瑞葉の凛とした声が部屋に響き、光を失った瞳が高彦を見据えている。そのただならぬ迫力に一葉は言葉を続けることができなかった。

「一葉さん達は、神無月の宿命など知らなかったのです。その教育も受けていません」

「しかし、神無月の使命を果たさなければならないのは、姉上もわかっているはず」

「それはわかっています」

 二人の話を聞いていると瑞葉の話は、全てではなかったようだ。

「神無月の宿命ってなんなんですか、三種の神器を守るのだけじゃないんですか」

「はい、それだけではありません」

 悲しい顔をしてそう告げると、瑞葉はゆっくりと話し出した。

 「神無月」とは「神の無い月」と書く。すなわち月に宿る神「月詠」がいなくなった時、月に神を返す役目を果たすのが神無月の宿命であった。月詠が存在する時、夜(闇の時間)に、魔物の力を弱らせることができる。しかし、月詠が月を離れた時、闇の力は活性化し世界を魔界に変えようと魔物が溢れ出すのだ。その周期は300年。

 そして300年ごとに〈双心子〉が産まれ、〈月の使者〉を月詠として月に送り込むのだ。しかし、その為には世に出た魔物達を排除してからでなくてはならない。月の力を持つ者達は三種の神器を使い魔物を退治して神の力を得ていくのだ。

「そんな……神様を作るなんて……それじゃあ、ボク達が一つに──」

「三種の神器の力を出せれば大丈夫です。それに月詠を月へ送るのはもっと先のこと」

「そうだ、それに月詠となるのは私だ。月詠のことを心配することなどお前はしなくていい。〈双心子〉のままでは月詠にはなれぬのだからな」

 高彦の言いぐさは気に入らないが、たしかにこのままで月詠になれるなどと考えてもいなかったし、なりたくもなかった。

「でも、どうやってボクが勾玉の力を……」

「咲耶達の前で言うのは酷ですが、咲耶達でも八尺瓊勾玉は力を僅かですが引き出すことができました。〈双心子〉ではなく、単に〈月の巫女〉として修行を積んだ咲耶達でも力が出せたのです。〈双心子〉であるあなた達が、力を引き出せぬはずはありません」

「しかし姉上。この者達は〈月の巫女〉としての修行も行っていないのですよ」

「そうです。〈月の巫女〉としての修行を行っていない者が、一つになったからと言って、完璧な〈月の繋人〉としいて覚醒できましょうか……所詮無理な話なのです。ならば、一葉さんと双葉さんが力を合わせられる今の状況の方が、八尺瓊勾玉の力を強く引き出せるかも知れないではありませんか。それをこれから試そうというのです。わかりましたか高彦」

 瑞葉の宣言が、不満を持っていた高彦を黙らせた。しかし、高彦は不満顔を隠そうとせず立ち上がり、祭壇に近づくと天叢雲剣を手にしたのだった。

「さぁ、後は貴様だけだ。祭壇にある八尺瓊勾玉を取ってみろ。そうすれば貴様が、役に立つかどうかわかる。或いは咲耶達の方が使えるかもしれんからな」

 威圧的な瞳を一葉に向ける。しかし、そんな瞳にひるむことなく一葉は立ち上がると祭壇に近づいた。

《一葉ちゃん。大丈夫かな……》

〈大丈夫って、なにが大丈夫なのかわからないよ。どうすればうまく行くのかだってわからないもん……そりゃ、彼奴は嫌な奴だけど瑞葉さんの役に立ちたいとは思う。双葉もそうでしょ〉

《うん。私もそう思うよ。瑞葉さんは私達の味方だと思うもん。瑞葉さんの為にも、咲耶ちゃん達のためにもうまく行くといいのに……》

 心の中の会話を瑞葉は聞いていたのだろう。八咫鏡を胸に抱きながらソッと囁く。その言葉は、一葉達の心の中にだけに響いていた。

『落ち着いて下さい。大丈夫、きっとうまく行きますよ』

〈瑞葉さん。でも、ボク達どうすれば……〉

『二人の力を合わせるのです。一人だけが前に出るだけではいけません。二人の力を一つに』

〈二人で……そうか。双葉、こっちに来てボクの横に〉

《でも、一緒になんて入れないよ。一人一人じゃないと体は使えない》

 今まで、一緒に体を動かそうなどと考えたことはなかった。いや、運転席は一つしかないのだ。二人で動かすことなどできるわけがない。

〈いいから、とにかく準備しておいて〉

 そう双葉に告げると一葉は祭壇に祭られている八尺瓊勾玉を掴んだ。

 勾玉は30センチほどの銀糸に繋がれており、両端に一つずつ、そしてまん中に一つの計三つの勾玉が付けられている。この繋ぎ方からしてネックレスというわけではなさそうだ。

 手にした勾玉を見つめながら、一葉は思いついたように両端についている勾玉を一つずつ握ると片膝をついた。

「なにも反応はなしか。コレなら、咲耶達の方がましだな」

「ちょっと待ってよ」

〈双葉、スポットの中に入って〉

 一葉は双葉の手を取るとスポットの中に入れた。お互いに体半分ずつしか入っていないが、瑞葉が二人でと言ったのだ。やれることと言ったらこれくらいしか思いつかない。

 そして、双葉が光の中に入った途端、八尺瓊勾玉が光り出した。続いて八咫鏡、天叢雲剣も輝きだす。八尺瓊勾玉が一葉達に反応を示したのだ。

〈ぐっ……頑張って双葉〉

《うん……でも一葉ちゃん。これって……》

 今まで一度も試したことなどなかったが、スポットに体を半分ずつ入れていることがこんなに辛いことだとは思っても見なかった。かなり集中していないとスポットからはじき出されてしまいそうになる。

 二人は集中すると必死になってスポットの中に入り続けた。

 そんな苦労も知らずに、高彦は天叢雲剣を見ると薄く笑っていた。

「ほう、咲耶達よりも役に立ちそうだな。姉上これで少しは戦えます。この力があれば先日の鬼などたやすく倒せるでしょう。なんだ……」

 突如空間が揺れ、風が吹き抜けるような感覚が走った。

「結界に、魔物が取り憑いた様子ですね」

 瑞葉が、八咫鏡に手をかざしそう告げる。鏡の中には鳥居にへばり付いた大きな蜘蛛が映し出されていた。

「ほう、なんとタイミングのいい。この剣の試し切りができる。貴様が本当に役立たずでないかも確かめられるというものだ」

 そんな高彦の声など一葉達には聞こえていなかった。

 現状を維持するのでさえ苦労していると言うのに、一葉と双葉の初陣は直ぐそこに迫っているのだった。


 
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