町外れの荒野。レイチェと背の低いアタックバギーが並走している。
「そこのレーイチェ!止まれー!」
助手席から軍服姿の女性が拡声器も使わずにレイチェに呼びかける。
「たいちょうわぁ!」
悪路に車輪を取られないように必死になっている運転手が悲鳴をあげる。
「えぇい!冬月!野郎が情けない声出してんじゃない!しっかり運転しろ!」
「あいさー!でも隊長聞こえてないと思いますぜー!」
「じゃあ奴の前に出せ!」
「そんな御無体な!」
「軟弱な戦車乗りメ!」
女隊長は冬月をゲシゲシと蹴りつける。
「のわった!大人しくやはがっ!」
「舌噛むな馬鹿!えいくそ!」
「わー!なにしてやがりますか!」
女隊長は右腕を真っ直ぐレイチェに向け、狙いを定める。
「ロックサインの一つも出してやりゃ気付くだろ、それで止まらねぇならぶっ放しておっけーってこったー!」
「そんな無茶な!」
女隊長の右腕、肘から先が開いて銃口が飛び出してくる。
『なんだぁ!?』
ほぼ同時にレイチェは立ち止まり、スピーカーで叫びながら辺りを見回す。
「……大人しく矢矧呼んできましょうぜ……」
「こいつ、素人だな。もうそんな時間ねぇって」
レイチェはバギーに気付いたらしく、屈みこむ。
『軍服?シメ軍人か?』
「言って聞こえるんだろうか?」
「多分無理す」
レイチェのハッチが開き、優男が顔を出す。
「あんたら何者よ」
「シメの二番ガード!イシバシダイ防衛隊長の大和だ!」
「いや、叫ばんでも聞こえるでしょ」
冬月は半ば呆れながら身分証を見せる。
「貴様は何者か!誰の許しがあってこのシメに戦車で近づくか!」
「まぁいいや。好都合だ。俺は中央総督府付技術特務中佐の杉田彩人。プロテクトレベル2の任を帯び、シメ五番ガードに向かう途中だ。案内しろ」
杉田も自分の身分証を示す。
「なんだきさっ」
言い様が気に入らなかったのだろう、大和の火を噴きそうな口を冬月の腕が塞ぐ。
「かしこまりました。一応の確認と足の確保があります、二番ガードまでご同行願います」
「わかった。任務の目的には協力する」
「感謝します」
大和をバギーの助手席に押し込み、運転席に座る。
「冬月。本体の整備が終わったら覚えてろよ」
「へいへい。その体のときはどうしてそんなにハイテンションですかねぇ」
冬月の側頭部を大和のブーツが踏みつける。
「元の体だからに決まってるだろ」
「そうはいっても、もうその体も軍用なんですから、ちったぁ自重して下せぇよ」
大和は悪態をついて座りなおす。
「ゴムタイなねぇちゃんを上司に持つと大変だなー!」
ハッチをあけて歩くレイチェのコックピットから思わぬ声が飛んでくる。
「は?……はは、全くです」
冬月の側頭部を大和のブーツが踏みつける。
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小説というよりは随筆とか、駄文とか、原案とか言うのが正しいもの。 2000年ごろに書きはじめたものを直しつつ投稿中。