No.299566

人類には早すぎた御使いが恋姫入り 幕間1

TAPEtさん

拠点話です。
対象は華琳、流琉、桂花です。
秋蘭はボイコットしましたすいません。ゆるして、殺さないで。

左慈と一刀ちゃんの話は後ほどに書きます。

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2011-09-13 21:44:37 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4354   閲覧ユーザー数:2981

拠点:華琳  砂糖で出来た男

 

コンコン

 

「一刀、入るわよ」

 

がらっ

 

「ぶっ!」

 

私が門を開けた途端、白い粉たちが私を出迎えた。

 

「けほ!けほ!一刀?!」

「………」

 

返事がない。

この白い粉は何?チョークの?一体どれだけ換気してないとこうなるのよ。

 

「一刀、居ないの?」

「………」

 

暫くして、白い粉末が外に出てきて、内側の方が見えてくるようになると、そこには……

 

倒れている一刀が居た。

 

「一刀!?」

 

私は驚いて倒れている彼の方に言った。

 

「一刀?生きてるの?しっかりなさい」

「………ぁ…い」

「何?」

「……た…ぃ…」

「え?」

 

何?

 

 

 

「……甘いモノが食べたい……」

 

取り敢えず一発殴らせなさい。

 

・・・

 

・・

 

 

 

一刀の部屋は一刀の要望によって改造されて、窓もなく、外からの光もろくに入らない上に換気性も悪い。

その上、彼自身が他の者に邪魔されたくないということで、周りは普段人も通らないし、侍女たちも彼の部屋には行かないことになっている。

 

「いつから何も食べてないのよ」

「……195時間24分3秒から記憶がない」

 

8日以上何も食べてないですって……

 

「よく生きていたわね」

「…即死寸前だった。孟徳が来てなかったら死んでいた」

「華琳って言いなさいとなんと言ったら分かるのよ」

 

タッ

 

私は換気されてもまだ白い粉末が残ってる机の上に皿を置いた。

 

「…これは?」

「砂糖水よ、取り敢えず糖分だけ摂取しておきなさい。そんな体じゃ何も食べられないでしょ」

「……どこのバ○だ」

「は?」

 

相変わらず何をいうのだか……

 

「そもそも一日三食は摂らずとも、おやつだけは食べるんじゃなかったの?」

 

むしろあなたは甘いものの方が主食でしょ?

 

「お前の新しい軍師が俺のスイーツに入る予算を全部削減しやがった。恩知らずめ」

「あぁ…そういえば桂花に予算の最終確認を任せていたわね」

 

あの娘そんなことしたの?

確かに一刀の甘食に当たる予算は結構痛いところはあるけど、それは一刀が城内運営において節約できた金に比べたらそれほどのものじゃないから放っておいたつもりだったんだけど…

 

「……<<ギロリ>>」

「そんな目で私を見ないで頂戴。私も知らなかったのよ。っていうかそんなことがあったなら、あなたが行ったらいいじゃない」

「俺はあいつとの賭けに負けたせいでお前お前及びあいつの近くにいけないようになっている」

「いや、なんで守ってるのよ」

 

あれはあなたが桂花を私の軍師にさせるために態とやったのでしょう?

 

「あなたが桂花に行ったって、あんな事実上負けた喧嘩で文句を言うほど桂花は鉄面皮じゃないわよ」

「………」

 

無言のまま砂糖水を飲む一刀を後にして、私は周りの光景を見まわった。

 

相変わらず訳のわからない記号らが黒版に書かれている。

これって他の人が見ると一体何をしているのかさっぱりだわ。

 

「それで、孟徳はどんな用件でここに来たんだ?」

「華琳。別に用はないわ。最近あなたが廊下を歩く姿が不気味だという陳情書が上がってこないからおかしいと思って見にきただけよ」

 

事実、一刀が目の下に大きなクマを作って腰を曲げて手を袋に突っ込んで廊下を歩いていると、通りすがってる人たちが怯えるそうだ。まるで幽霊に取り憑かれているみたいだどか、死神のようだとか。

この前の御前会議では結構長い間頑張ってくれた老文官が、彼を追い出さないと自分が出ていくと騒いだ。

結果的には追い出したけど

こいつは私が自分のせいでどれほど苦労しているのか分かってるつもりなのかしら。

 

「今回は何を企んでいるの?」

「……街の改善案だ」

「まだなの?この前に上がってきたものを見て素晴らしいと思っていたのだけれど」

「…あおれは実現不可能と判断した」

「どうして?」

「……現在の役人では量も質も足りない」

「そう……」

 

季衣と流琉が加わってはいるけど、うちのところはまだまだ人手が足りない。

街の治安に関しては、一刀に一任しているのだけど、一刀は自分の目に叶う副将級のものを見つけていないらしい。

 

「何なら流琉をあなたのところに回してあげようかしら」

「愚かなことをいうな、孟徳。そんな人事ができないということは、お前も俺もわかっている」

「華琳って言いなさい。あと、それほど無理なことも言っていないじゃない。事実、あなたはこうして昼夜を問わずに働いた挙句倒れるぐらいに仕事が大変なのだったら、あなたの健康のためにもあなたに将もう一人ぐらい回してあげるわよ。親衛隊は季衣だけでも足りるから」

「かの二人は元譲と妙才のように二人で一人のようなもの。離れていては己の100%の力を出せない。以前の賊との戦いで元譲が暴走して戦線を見だした挙句、孟徳を困らせたことを鑑みると、あの二人を違う部署に所属させることは後々よろしくない」

「華琳って言いなさいって言ってるでしょ?…別に完全に変えるというわけじゃないわ。あなたが早く他に使えそうな者を選んでくれればいいだけの話じゃない」

「…………」

 

一刀は少し黙り込んだ。

今頃頭の中で、流琉を臨時的に自分の副将にして、次の役人を探すまでどれぐらいかかって、またそれが私の軍にどんな影響を与えるだろうか慎重に計算しているのでしょうね。

 

「……これはまだないのか?」

 

暫くして燃料が切れたのか彼は私に向かって空になった杯を見せながら言う。

 

「私を水の給仕に使うつもり?」

「それほどの暇はあると見た」

「この城の君主の私が暇ですって?」

「俺より暇でなければ、どうやってここまで来る時間が出来る」

「押して作ってるのよ、馬鹿」

「その親切さに訴えて…」

「……まったく」

 

私はため息をつきながら外へ向かった。

 

・・・

 

・・

 

 

「孟徳」

「華琳よ」

「……何だ、これは」

「何って、砂糖水じゃない。……樽に入れた」

「……俺は○キじゃないぞ」

 

関係ないけれど、結局全部飲んだ

 

 

拠点:流琉 兄様が美味しく頂かれるために……

 

「兄様のお手伝いをですか?」

 

親衛隊の訓練をしているうちに、華琳さまが訪れて私に兄様のお手伝いをしてほしいとおっしゃいました。

兄様というのは北郷一刀さんのことです。初めて会った時は初面でなんと呼べばいいかよく分からなかったのですが、後で季衣に会って一緒に陳留に来る際に、兄様に出会ってその時正式に挨拶しました。

あ、後、街に一度戻って、街の長老さんたちに報告する時にも一緒に来てくださって長老さんたちを説得してくれてすごく助かりました。

 

「ええ、やっと親衛隊隊長として慣れたところに申し訳ないのだけれど、このままだと一刀がそのうち死にかねないから」

「死!?」

 

最近会ってないと思ったんですけど、いったい何が……

 

「そういうわけで、あなたさえ良ければ、一刀を引っ張り出して明日からでも彼の手伝いなどなど関わって欲しいわ。お手伝いと言っても、彼は一人で置くと外にも出ずに餓死するまで内側で黒版の相手してるから、あなたが力づくでももっと健康的な生活送るようにしてほしいのよ」

「……はい、分かりました!」

 

実際、私が考える時間はそれほど長く持ちませんでした。

 

・・・

 

・・

 

 

コンコン

 

「兄様」

「………」

 

返事がありません。

 

 

 

『このままだと一刀がそのうち死にかねないから』

 

 

 

まさか!

 

「兄様!」

 

ガターーン!

 

閉まってる門を無理やりこじ開けて白い粉末が蔓延するその部屋に入りました。

 

「兄様!」

「……ぅぅ…」

 

兄様は布団(というよりは床に布団を敷いただけの)

 

「!!」

 

い、

 

「典韋か…?何をs」

「いやあああああああああああああああああ!!!!!!

 

ドーーーーーーーーン!!!!

 

・・・

 

・・

 

 

「ごめんなさい!」

「……やってくれたな」

 

私が暴れたせいで酷い様になった部屋の中で私は跪いたまま頭を下げて謝罪しました。

部屋の壁を飾っていた黒版たちがあっちこっち半壊しています。

 

「これを新調してもらうと、また荀彧に酷い言われをされそうだ」

「本当にごめんなさい!」

 

だって兄様がわるいんです!何で上半身裸で寝てるんですか!?

 

「床が冷たくて寝心地がいいからつい……」

「ついじゃないです!/////////大体、なんでこんな時間に寝ているんですか。もう真昼間なんですよ?」

「朝日を見て眠りに着いた」

「何故夜には寝なかったのですか」

「眠くなかったからだ」

「……昨日はいつ起きたのですか?」

「日が暮れる頃だった」

 

ダメです。この人。

完全にダメダメです。

生活が完全に逆になってます。

 

「というわけだから、俺は寝る」

「いや、寝ないでください!」

 

また床に寝付こうとする兄様の布団を奪い取りました。

一瞬、しまったと思いましたが下の方はちゃんと着ていました。よかったです。

 

「人は十分な睡眠を取らなければいけない」

「人は昼生活して夜寝ないといけないと思います!」

「………」

 

華琳さまが私に任せたことがなんなのか分かりました。

このままだと、兄様が体を壊すかもしれません。

 

「…兄様、このままだと兄様の健康によくないです。取り敢えず、外に出て日光を浴びましょう」

「………」

 

上半身を起こしたまま寝てます、この人。

 

「甘いもの作ってあげますから」

 

タッ

 

「ひゃっ!いきなり起きないでください!」

「典韋の料理には興味がある。是非ともまた食べてみたいところだ」

 

さっきまで眠くて光を失っていた兄様の瞳が輝いています。

やっぱちょっとおかしな人です。

 

 

 

 

初めて兄様に会った時、兄様は季衣について話をしてくれました。

でも、私の名前を聞いて

 

「興味深い」

 

とつぶやいた途端、いきなりその場に倒れました。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「……そろそろ限界だ」

 

最初はどこか怪我でもしているのかと驚いて近くに行ったのですが、その時……

 

ぐぅ~~

 

「……あ、あの」

「……」

 

当時兄様が上がってきた街への道はかなり厳峻な地形で普段行かない人ならすごく疲れるようなそういう道でした。

 

・・・

 

・・

 

 

「おばさん、ちょっと厨房お借りしてもよろしいでしょうか」

「あら、典韋ちゃん、…その人は…」

「えっと、山を倒れていた人です。取り敢えず、砂糖水でも一杯飲ませてあげてください」

 

私は村に居るある飯店に兄様を負って行って、女将さんに断って厨房を使って頂きました。

見た目兄様は、厳しい道程を短時間で動いたせいで脱力していました。

何かすぐに力を出せるようなものをつくろうと、私は湯圓を作って兄様の前に出しました。

(※湯圓:湯入りの団子、餡は甘いのだけじゃなく肉などと色々。詳しくはGGR)

 

「はい、食べてください」

「……」

 

蓮華を取って湯圓を口に入れたら、一瞬兄様の目が変わりました。

 

「……これは君が作ったのか」

「あ、はい」

「おいしいでしょ?典韋ちゃんはね、この村で一番料理の腕が立つんだから、いつかいいお嫁さんになるわよ、典韋ちゃんは」

 

横にいた店の女将さんがそう言って私はびっくりして振り向きました。

 

「もうおばさん、そういう話は…」

「確かにこれほどの興味深い料理を作れるものはそうは居ないな」

「でしょ?」

「もう、二人ともからかわないでください」

「これぐらいの料理なら毎日食べたいぐらいだ」

 

……へ?

 

 

「……あの、それって」

「…最初は許緒を引き返すことだけを考えようとしていたが、これほど腕の立つものをここでおさらばにするのも個人的に惜しいな……ちょっと修正した方が良いか」

「あの、北郷さん」

「典韋」

「は、はい!」

「おかわりはないか?」

 

・・・

 

・・

 

 

 

「おかわり」

「はい」

 

季衣ちゃんの場合、私の料理を美味しく食べてくれますけど、ちょっと早く食べてしまうところがあります。

もちろん、味も構わず食べてるわけじゃないことはわかってます。季衣はああ見えてすごく美食家ですから。

でも、作る側としては、やっぱりもうちょっと味わいながら食べてほしいな、とは思うところもあります。

あの時、私の料理を食べてくれた兄様の顔が、疲れているものからどんどん明るくなっていくのを見て、私はそれをすごく嬉しく感じちゃいました。

 

「………」

「どうですか?この前は材料考えずちょっと大雑把に作ってましたけど、今回は結構念入れて作ってるんですけど…」

「………そうだな。俺としてはもうちょっと甘いのが好みだが、一般論で言うと一級料理師でもこれほどの料理を作れるものはそう居ないだろう」

「…兄様の観点では、あまり美味しくなかったのですか?」

 

おいしいと言ってくれると思って期待してたのに……

 

「俺の好みに合わせた料理なんて作っていたら、他人が食べれるようなものじゃなくなるからな」

「でも、今回は兄様だけのために作ったのですから……あ」

「?」

「いえ、なんでもありません!」

 

今一瞬ものすごく大胆なことを言ってました、私!

 

「じゃあ、あの、あの時のと比べては、どうですか?」

「……………」

 

器を口にしながら、兄様はすごく難しそうな顔をしました。

 

「…………正直に」

「はい」

「あの時の方が美味しかった」

 

ガーン

 

「そ、そうですか<<しゅん>>」

 

あの時の私さん、もし良かったら料理のコツを教えてください。

どうすれば兄様が喜ぶような料理が作れるのでしょうか。

 

「君はあまり自分に得しないことに興味を持っているな」

「はい?」

 

ふとしゅんとなってる私に、兄様はそう言いました。

 

「俺は君の疑問に正直に答えたつもりだが、正直に言うと、あの時の俺はお腹が空いて何を食べても美味しく感じていた。その分、あの時の俺は味なんてあまり分からずに食べていた可能性がある。それに…」

「それに……?」

 

 

 

「君が作ってくれるものはなんでも美味しい。君もっと自分の料理に自身を持ってもいいはずだ」

 

…………

 

………

 

……

 

 

「/////////や、やだ、兄様ったらー<<カーン!>>」

「ぶっ!」

 

君が作ってくれるもの『なら』なんでも美味しいだなんて、そんな……

それじゃまるで、私が兄様の……お、…およめ……さん…みたいな…1

 

「へ……へへへ」

 

その後、私が兄様の頭を後ろから打ったせいで、兄様が湯圓の器に頭をぶつけて、更に食卓が壊れて気絶したことに気づいたのは、結構後のことでした。

 

 

 

 

 

 

拠点:桂花  その智謀が忌々しい

 

「ダメよ!」

「……俺は至極正当な要求をしているつもりだが」

「何が正当な要求よ、ふざけるんじゃないわよ」

 

あの苛立たしい事件の後、初めてアイツが私の執務室に来たと思ったら、とんでもない話をしてきた。

 

「あなたの甘食のための予算を以前の倍にしろですって?」

「君が俺の予算を削減したおかげで仕事の効率が通常の3割を切っている。これ以上の横暴はこの軍のためにも謹んでもらおう」

「横暴ですって!?」

 

初めてあいつに当てられた予算を見た時、私はびっくりした。

あんなのどっかの悪政をしている豚どもが自分の贅沢のために勝手に民の税金を搾取するのと何も変わらない。

 

「あんたはね!自分の立場が分かってるの?華琳さまはあなたのおやつ係をするために、街の民たちから税金を頂いているわけじゃないのよ!なんで、あんたのおやつの小遣いを軍の資金から当てなければいけないのよ」

「それは俺と孟徳の契約上の約束だ。君がそれに水を差す資格はない」

 

まったく、こいつのことは気に入らな行ったらありゃしない。

どうして華琳さまはこんな奴を城に置いているのよ。

………理由が分からないわけじゃないのだけど。

 

確かにこいつのことは苛つし、男な上にしかもすごくブサイクだけど、その頭だけは誰よりも良い。

この私よりも何手先、いや、何十手先を読んでいるのかも知れない。

実際あの時、私はあいつと私の能力の差に泣いてしまった。

どうしてこいつが華琳さまの軍師にならなかったのか、どうして私なんかのためにこんなことをするのか、さっぱりだった。

今になっても、こいつがいったい何を考えているのか、私も全部は分からない。

だけど、ひとつだけ言えることがある。

 

「何で前の倍にしなければいけないのよ」

「今まで我慢してきた分を摂りたいからだ」

 

あんた、何で虫歯しないのよ。

 

・・・

 

・・

 

 

 

タッ

 

「……何だ、これは」

「何って、見ればわかるでしょ?象棋盤よ」

 

というわけで、私はあいつともう一度勝負をすることにした。

 

「私と賭けをしましょう。あんたがもしも勝ったら、あんたのいう通り予算を倍に当ててやるわ。だけど、あんたが負けたらもうこの話で私のところに来ないでちょうだい、いやそうと言わずに永遠と来るな」

「……なるほど、賭けを建前にして、俺の実力を測ろうとしているんだな?」

「っ!!」

 

こいつ…やっぱ油断ならないわ。

 

「そうよ!で、何?やるの、やらないの?」

「……良いだろう。先に二勝した方が勝ちでいいな?」

「良いわ」

 

あなたの本当の実力、今回でこの目で確かめてあげる。

 

 

一戦目

 

トッ

 

「ちょっ、あんた馬鹿じゃないの!?そんなとこに弓兵配置させても打てないじゃない!」

「………」

 

さっきから何よ、こいつ。

騎馬で森の中に突っ込ませて火矢にやられたり、歩兵で騎馬を追いかけてきたり、弓に低い地勢を歩かせたり…負けたくて仕方がないように動いてるじゃない。

普通の文官にやらせてもこれよりは良い勝負できるわよ。

それとも何?私に自分の実力を明かさないとでも言うの?

良いわ、それはそれで、あなたの分の予算を他のところに回せるようになるのだから…

 

トン

 

「本陣空にして引っ張られて来るな!」

「………」

 

・・・

 

・・

 

 

 

結果は当然、私の勝ち。

私が本陣を取るまで、あいつの部隊は完全に崩壊していた。

 

「あんた、やる気あんの?」

「………ルールは大体分かった」

「は?」

「二戦目に行こう」

 

 

 

そして、二戦目、私は一戦目のあいつのような気分になっていた。

 

 

「…あんた……さっきにやったのは何?」

 

私は二回目の象棋盤の上に起こった異変に無言では居られなくてあいつに問いただした。

 

「言っただろ。この遊戯のやり方が分からなかったから、適当に打って君の様子を見たんだ。…何故俺が一回勝負にしなかったと思ってる」

「!まさか……一回やっただけで私のやり方を見て象棋の打ち方を覚えたっていうの?」

 

しかも、こんな打ち方なんて知らない。

いや、こんな用兵の仕方なんて聞いたこともない。

最初は一戦目とそう変わらないと思った。

相変わらず騎馬は森に突っ込んでいたし、歩兵が騎馬を追いかけていた。

でも、気づいてみたら、歩兵に突進してから悠々と逃げている先の森の中を迷ってると思っていたあいつの騎馬が出てきて挟み撃ちにされたり、伏せていた兵たちが、普段通らないはずの道を歩いていた弓兵が打った火矢にやられたりなど、完全に変則的な攻撃が続いた。

一旦、何の意味もないように見えた用兵がひとつにつながるとまるで無敵のような強い軍隊を化した。

 

これは…もしかしたら私、とんでもない奴を相手にしているのかもしれない。

 

「最後の一戦だな。先手はお前に譲ろう」

 

淡々と述べる奴の言葉に更に苛立った私は…

 

「ふん!」

 

音が鳴るように激しく駒を動かした。

 

・・・

 

・・

 

 

三戦目はなかなか膠着状態から手が進まなかった。

私も三戦目は気を引き締めて動いて、奴の変則的な動きに釣られないようとしていた。

こいつの手に乗るとさっきのように片っ端から戦線を崩れ落とされかねない。取り敢えず今は、この膠着状態を維持しながら、こいつの弱点を……

 

「……引き分けにするか?」

「…は?」

「両者攻めに向かう気がない。勝つ気がない戦いなんてして無駄。実戦でこのような膠着状態が続いたら軍はどうなる」

「…………!」

 

こいつ、私に喧嘩うってるの?

 

「答えは両方負け。互いにジリジリを削られてる所を、他の第三の勢力が現れて全て喰らい尽くすだけだ。勝つこともできない戦いを長引くことぐらい愚かなこともない」

「そういう言い方するのだったら、あんたの方から責めてきたらどうなのよ」

「……」

 

トン

 

「!」

 

私の文句に、あいつは自分の戦線を下げてきた。

何?

何を企んでるの?

 

トン

 

トン

 

また下げてきた。

こっちが戦線を上げてくるように誘ってる?

 

「追わないのか?」

「あんた、何考えてるの?」

「………俺が考えていることは全て象棋盤の上に置いてある。あんたの目が狭すぎて見えてないだけだ」

「…っ」

 

あくまでも私を挑発する気ね。

その手には乗らないわよ。

 

・・・

 

・・

 

 

その後もあいつはずっと戦線を下げて、本陣周りを包囲されるところまで至った。

このまま総攻撃をかけたら、被害は大きいとも、私の勝ち。

 

「あんたの負けよ」

「そうだな…戦はこのままだと俺が率いる赤の負けだ。だが……

 

君の袖下に隠れた俺の駒が、君の大将の頸を立つ」

 

「何!?」

 

その時、私は目を開いた。

まるでついさっきまで目が眩んでいたかのように、私の側の象棋盤の端っこに、あいつの部隊一つがぴったりと置いてあった。

あいつが本陣に着くまで、包囲網を構築している私の部隊は間に合わない。

あいつの部隊で戦線から抜けだしてきたものもないから、最初から残すものもなく全部包囲網に投入したのだ。

なのに、何故あんなところにあいつの駒があるのよ!

 

「その駒なら最初からそこにあった」

「は!?そんなわけないでしょ?最初に部隊を敵側に配置するなんて…」

「ルール違反で不戦敗だ。それがどうした。これが実戦だったとしたら、君は負けている」

「…!」

「お前は俺の変則的な動きに目をとられて、動かない駒になんて見なかった。それ以前に、自分の側に最初から敵の駒が置いてあったにもかかわらずそれに気づかない狭い目で大局を見ていたんだ」

「………!!」

 

……言い返せない。

最初から敵は戦線にあるものじゃなくて、内側に存在していた。

本陣の大将の頸を絶つ敵はもう内側に居たのに、私はそれに気づいていなかった。

基本中の基本、あまりにも当たり前すぎて忘れてしまっていたこと。

 

象棋としては不戦敗になる戦。でも、実戦の戦場なんて象棋盤の上より遙かに広い。

こんな狭い象棋盤も見ることができないのに、どうやって大局に乗って行くつもりなの…私?

 

「囲碁を打っている時とかよくあることだ。一隅になかなかいい具合に目をおいたと思ったら、他のところで自分の大馬が死んでいるのを見極めずに負けてしまうことなんて、一瞬気を抜いたらあっという間に出来てしまう。いつも全てを見ていないと、孟徳を支える軍師にはなれない」

「……あんた、私に説教する気?」

「…お前は孟徳の軍師にならなければならない。そして、孟徳の軍師はこの大陸のどんな奇才をもった軍師の前でも一頭地を抜くものでなければならない。俺は俺のために、孟徳の実力を全て活用できる状況を創り上げてあげなくてはならない。そのためには、お前は孟徳の頭脳になってもらう。大陸の誰よりも賢い頭脳が…」

 

そして、あいつは立った。

 

「三戦目は不戦敗。お前の勝ちだ。俺に当てていた予算は警備隊隊員たちの給料にでも当ててもらおう」

 

去っていこうとするあいつに、私は惨めすぎる声で叫んだ。

 

「なってやるわよ!」

 

ピタッ

 

「なってやるんだから!大陸一の軍師に…!あんたのその生意気な口がもう二度と自慢気に私を教えるような物言い吐けないよう、誰よりも強い、誰よりも賢い、華琳さまの頭脳にやってやるわ。だからあんたも覚悟してなさい!」

「……期待しておこう」

 

・・・

 

・・

 

 

その後、私は暇ができたらあいつのところに突っ込んで象棋など囲碁などで勝負を申し出るようになった。

その度々、あいつに木っ端微塵たるまで砕けて泣きそうになって、ある時は本気で泣いた時だってあるのだけど、

でも、いつか絶対に勝ってみせる。

大陸の誰よりも、あいつよりも強くなってみせる。

 

あいつがそう言ったからじゃない。

私が華琳さまのためにそうなりたいからよ。

 

 

 

 

 

 

 


 
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