あの時もこんな雨だった。
朝から降り続く小雨が昼を過ぎても止まず、寧ろその雨の勢いは増すばかりだった。
携帯にメールが来ているのに気が付き内容を確認する。
『いつもの喫茶店でコーヒーでも飲みながらお話しませんか?
仕事も終わって暇しているんです。どうでしょう。
あ、自分はもう飲んでますので行くと言うのなら早めに連絡下さいね。』
女子のような文で書き込まれていたメールは高校時代の男の後輩から来たものだった。
丁度仕事も休日で何かしたい、というつもりも無かったためすぐに行くと返信。
軽く着替え傘を持って部屋を出る。
俺が住んでいるマンションから、そう遠くない所にある“珈琲屋”といういかにもな名前の喫茶店。
さっきメールを寄越した後輩と話す時はその喫茶店をよく利用している。今回も同様だ。
店は決して広いものとは言えず、自営による営業で大型チェーン店などというめぼしいものではない。
しかし、どこか独特で落ち着く。クラシック曲や雰囲気はとても自分好みだ。
店に入り後輩の元へと歩を進め足を留め、向かい側になる椅子に腰を下ろす。
「久しぶりですね。先輩」
どこか大人びていた声だった。
会うのも約半年振り。社会人になって少し温厚そうな雰囲気をまとっていた。
「一応暇だし、来てはみたが、何か相談事か?」
こいつ、毎度俺を呼んでは何をするでも無く話しや指揮を取り持てと言ってくるのだ。
もしそうでなければ別にどうとでもいい相談をしてくる。
決して嫌いなタイプではないが周りを気にしすぎていてどこか苛立ちを覚える所は困りものだ。
店のマスターなる影山さんにウィンナ・コーヒーを注文して一息つく。
「あの、今回は……ですね……。なんと、言えばいいか」
ウジウジと落ち着かない仕草を取り始める。
今回も何かの相談事なんだろう。網戸の締め方とか仕事の書類のまとめ方とかの類の。
コーヒーが机に乗せられた。
意外と時間が経つのは速いものだ。
部屋を出てから三十分ちょい。
いつもの休日なら昼食を準備している時間だった。
「――桜雪(さゆき)さんの話し。聞かせてもらえませんか?」
懐かしい響きを感じた。
「……桜雪の?」
「はい。……こういうことホントは聞いたら駄目なんでしょうけど、気になってて……つい」
桜雪とは俺が高校の頃に付き合っていた幼馴染の子だ。
最近は顔を合わせる機会が無く、仕事も多忙で合いたいなんて気も無かった。
実際多忙って程でもないけど。フレックスタイム制だし。
「うーん……。別に話してもいいけど」
「えっ! いいんですか?」
「ああ、いいよ」
どうせ過去の話しだからな。
「あっ! その代わり一つ頼み事良いか?」
「先輩が頼み事ですか……。珍しいですね、何ですか」
「うむ。ズバリ今日の会計をまけてくれ」
「……。まぁ……いいですよ。上限三千円までなら」
「おう、サンキュー」
「え、三千円でいいんですか?」
「自分で決めといて何聞き返してんだ。後輩から大金巻き上げるのも気が引ける悪いしな」
「さすが先輩です」
「マスター! スパゲティカルボナーラとナンタコス。麺はフィットチーネ、タコスはエビ多めね!それから……オススメのデザート」
「……。さすが、先輩です」
「で、話しを戻すか」
「先輩……豪快ですね」
「ん、そうか? 朝食抜いてたの忘れてたからさ、ハハハ」
「大変なんですね、先輩も。引きずって無くて安心しました」
本題に入るまでにはそんな無駄話しが飯を食い終わるまで続いた。
「で、なんだっけ?」
「桜雪さんのことですよ。先輩」
「ああ、そうだった。てかお前、桜雪のこと好きだったの?」
「……えぇ。お恥ずかしながら」
少し照れ視線を落とす辺り此奴はまだ童て……彼女居たこと無いな。
実際俺も桜雪一人しか彼女は居なかったけど。
「ふーん。まぁいいや。なんでこんな話しを今になって聞きたがるかは詮索しないけど。まぁ好奇心だったらしゃあないか。まぁ話すけど、ちと気分が青くなるから覚悟しとけ」
無理にテンション、声を上げる。
正直このことはあまり人に言いたくない。
俺は……まだ、どこかで今ある現実を受け入れられていないのかもしれない。
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長いのは読む方も疲れるので前振りだけの話しです。
続きが気になるようであれば続きを書こうかなとも検討してます。
あまり読み応えもない内容です。というか普通に駄弁ってるだけってのを上手に演出するって難しいですよね(汗)。内容はやや薄暗い雰囲気仕様です(一応そういうつもりで書いてます)。