「お月見泥棒?」
祭事の予定表を確認していた一刀がふと洩らした言葉が気になった華琳。
「こっちでも月見ってやるだろ? あれのイベントの一つだよ。俺はやったことないけど」
この時期限定のハンバーガー食べたいな、と思いながら返す一刀。
「えーっ! 天の国ってお月様を盗んじゃうの!?」
満月のように目を丸くして驚く桃香。
「さすがにそれはないでしょう?」
呆れた顔の蓮華。
三国の首脳が集まり都の行事の確認をしていた。
「ま、まさか
「へぅ」
真っ赤な
「それも面白そうね」
華琳の瞳が輝き、
「冗談よ」
「あんた嫁泥棒やったでしょ!」
いまだ
「ええと、たしかお供えを盗むんだよ」
困った顔で頬を掻きながら一刀。
「お供え? それは罰当りではないのですか?」
愛紗が疑問を口にする。
「その日だけはいいんだよ。たしか子供のイベントだったし」
「で、結局何を盗むんだ?」
お供えと聞いたのをすっかり忘れている春蘭。
「団子だよ、月見団子。……ってこっちじゃ団子じゃなかったんだっけ?」
「月餅ね」
「そうだった。中秋の規模はこっちの方が凄いよ。むこうじゃ、お供えして月を眺めるぐらいの印象しかないもんなあ。俺はお月見泥棒やったことなかったし」
「お団子を盗むの?」
「なんか棒の先に針とかつけて引っ掛けて盗るんだって。お供えする方も縁側とか盗みやすいとこにお供えして」
「面白そうなのだ!」
今度は鈴々が瞳を輝かせた。
「そんなの槍といっしょだろ? 簡単じゃねえか」
エア槍をつく翠。
「お団子……」
「恋殿! ねねがたくさん盗んでくるのです! だから早く団子を供えるのです!!」
恋の呟きのせいもあってか張り切る音々音。
ふと、華琳が気付いた。
騒ぐ蜀勢とは対照的に静かな呉の首脳に。
「……どうしたの雪蓮? いつもなら真っ先にやろうと言うあなたが黙っているなんて」
「お月様見るんでしょ。なら月見酒に決まってるじゃない」
キッパリと言い切った雪蓮に祭もうんうんと頷く。
「それに、子供のいべんとなんでしょ? シャオ大人だからそんなの気にならないも~ん」
呉で雪蓮の次にこんなイベントを喜びそうな小蓮がそう言ったのを聞いて、なにかを思いついたのか華琳が微笑む。
「そう。ならば呉は不参加でいいわね?」
「華琳?」
「この日数で町民にいきなり浸透させるのは無理でしょうから、この城や各国の屋敷で場所を設けて子供たちに盗ませましょう」
「子供たち喜びそうだね!」
華琳の計画に桃香も同意する。
「誰の団子が人気があるかしらね?」
「なるほど。先に無くなった方が勝ちという勝負か。面白い」
挑発に乗ったのは星。
「ちょちょっと、星ちゃん? むこうには華琳さんと流琉ちゃんがいるんだよ! 無理に勝負にしなくても」
「あら? 朱里と雛里の菓子も見事だと聞いてるわ」
桃香の動揺を楽しみながら軍師二人を名指す華琳。
「ご安心を。我に秘策あり、ですぞ」
自信たっぷりの星。
――どうせメンマ団子とか言うんだろ。
オチが見えた蜀一同。
蜀のテンションが微妙に下がった時、ついに呉も動いた。
「あ、あのっ!」
意外にもそれは、呉の首脳で控えめな性格トップの亞莎であった。
いつもは指名でもされないとあまり意見を述べない亞莎の行動に多くの者が驚いたが、切り出した質問で納得する。
「お団子はごま団子でもよろしいのでしょうか?」
「亞莎、子供に盗ませるのじゃから自分では食べられんぞ」
からかうように祭が聞く。
「この機会に子供たちにもごま団子の素晴らしさを知ってほしいんです!」
「そういえば亞莎がごま団子を初めて食べたのってつい最近だったっけ」
「はい。ぜひあの感動を子供たちにも!」
熱の入った亞莎に蓮華は顔を雪蓮に向ける。
「姉様」
「はいはい。呉も参加しましょ。でも華琳、勝負だからってあんまり高い素材使うのは無しよ。毎年続けられなくなるわ」
勝負となると張り切る雪蓮。適当な理由で少しでも有利になるように条件を付けてきた。
風もまた別のルールを提案する。
「一人いくつまで、という制限も必要ですね~。子供は盗んだ数を競うと思うですよ」
「……たしかにな」
頷いた一刀たちの視線の先にその証明が。
「鈴々の方が春巻きよりもたくさん盗ってやるのだ!」
「ボクなんてちびっこの倍は盗ってやるもん!」
「はははは。一番多く盗るのはわたしに決まっているだろう!」
一人、大きな子供も混じっていたが。
「姉者……。武将用には別の供え場所がよろしいかと」
子供の行事だと止めずにその場所を用意するように頼む姉思いの秋蘭だった。
「あ~……うん、周りに被害出ないとこじゃないとね」
「月と優勝した団子を肴にするというのも悪くないわね」
中秋の晩、満月の下で三国の主プラス数名が囲んだ卓の上に出された団子は、都の主、つまり北郷一刀の城で供えられた団子であった。
「へぅ」
作ったのは
「天の国の味、って書かれた紙張ってあったら目立つもんね~。うん。たしかに美味しい~♪」」
幸せそうに団子を頬張る桃香。
「それだけじゃないでしょう? 一見盗り難そうな配置だったじゃない。そうすることで逆に挑戦する子供が増えた」
「小さな子は見ただけで諦めてたみたいだけど?」
「それがいいんじゃない。どんなに盗りやすくしても下手な子は時間がかかって他の子が盗るのの邪魔になっていたもの」
華琳の評価にその光景を思い出す者が数名。
「あ~、あれは微笑ましくてよかったな」
「でも、盗れなくて泣き出した子にはまいったの~」
子供たちが怪我をしないように見張っていた警備の一人、沙和が愚痴る。
「結局、制限時間内にできなかった子はかわりに盗ってあげたのか」
「それでも無駄な時間がかかるでしょ」
得意そうなのは城のお供えの配置を決めた詠。
「
「今回は
「残念だったな、華琳」
食通にして最高の料理人と謳われる曹操の団子。
それが手に入るとということで魏の屋敷に集まったのは子供たちだけではなかった。
子供に扮した料理人が集まったのだ。それも子供たち以上の数が殺到した。
「済みません。排除だけで時間がかかり過ぎてしまいました」
「大人でも武官用のお供えを用意した武闘場なら参加してもいい、って最初からやってれば良かったね~」
団子はもう満足したのか桃香は月を眺めながら言った。
「亞莎?」
「か、一刀さま」
「どうしたの? ため息ついて」
「い、いえ……」
「華琳に駄目出しされたんだって」
華琳が亞莎に指導した事を思い出した一刀。
「……はい」
亞莎は目の前の皿のごま団子をそっと手に取る。
「同じ材料と道具をつかってこんなにも違うなんて……」
「亞莎……」
一刀が慰めの言葉をかけるよりも先に亞莎はごま団子を口にする。
「美味しいです! 凄いです!」
ぱああああっと亞莎の顔が明るくなる。
「とっても美味しいです! 奥が深いです!」
「え? あの?」
「華琳さまのごま団子、もったいなくて食べようかどうか迷ってたんです。一刀さまのお顔を見て決心がつきました。良かったです」
「そ、そう……」
「……はっ。……え? あれ?」
「良かった。文ちゃんやっと気がついた」
寝台で寝かされていた猪々子を心配そうに斗詩が見ている。
「やっぱ月見はお酒よね~」
そう言った雪蓮の唇は真っ赤に腫れて膨れていた。
武闘場で行われた武官たちのお月見泥棒は、蜀の愛紗団子、魏の凪団子というルールの穴をついた作戦により被害者が多発していた。
「子供に出すワケにいかないでしょ」
とは桂花の談である。もちろんメンマ団子もこちらにまわされていた。
だが、彼女の誤算は参加人物だったらしい。
「なんであの万年発情男、参加してないのよ!」
なお、食欲三魔神は本能で危険を察知、癖の強い団子を回避することに成功していたが勝負はつかなかった。
「春巻きは何個だったのだ?」
「たっくさん! ちびっこは?」
「それよりたくさんなのだ」
「なんだと。ボクはその倍はたくさんだ!」
言い争う鈴々と季衣。
しかし比べるはずの団子はそばにはない。
「恋どのはおいくつでしたか?」
音々音が上手く盗ることができず結局、恋が自分で団子を盗っていた。
「……数えてなかった」
「そうでしたか。恋殿が食べるのを数えていればよかったのです」
三人は、盗ってすぐに全部食べてしまったため、計測不能だった。
<あとがき>
今日は中秋の名月ということでこんなネタを。
思いついたのが今日なのでやっつけで荒いですが、なんとか間に合いました。
中秋のお祝いは凄いらしいですが調べてないので描写無しに。恋姫の時代はやってたのかな?
始めは継い姫の方で考えましたが、団子……ごま団子……亞莎となったので萌将設定です。
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お月見のイベントです
こひはやった事がないのでいい加減です
萌将伝設定です