真・恋姫無双 ifストーリー
蜀√ 桜咲く時季に 第21話
【汜水関への一番乗り】
《雪華視点》
「ま、待ってください。ご主人様~~~っ!!」
ご主人様は雪蓮様に連れ去られてしまいました。
私や桃香様、朱里先生も必死に追いかけますが全然追いつけません。
「ふぇぇぇ。早すぎて追いつけません……はぁ、はぁ……」
やっぱり鍛錬が足りなかったのでしょうか。もっとご主人様に稽古をつけて頂いておけば良かったです。
「ま、待って、雪華ちゃん!」
「ふえ?」
桃香様に呼ばれて振り返ると桃香様と朱里先生は私以上に息を切らせていました。
「はぁ、はぁ……しぇ、雪華ちゃん、足速いね……はふ~。全然追いつけないよ」
「はぁ、はぁ……やっぱり鍛錬をしていると体力の差が目に見えて分かりますね」
私に追いついてきた桃香様と朱里先生はそれぞれ羨ましそうに私を見ながら言ってきました。
「ふぇ……わ、私はお父様に稽古もつけてもらっていましたからそれでかもしれません」
「あ、そっか。でも、雪華ちゃん早いよね。何か早く走るコツとかあるのかな?」
「コツ、ですか?そうですね……」
ご主人様の走り方を教えてもいいのかもしれませんがきっと桃香様たちには無理かもしれません。
私も最初は何度も転んでしまいましたから。
そうなると、お父様が教えてくれた走り方になるのですが……お父様はなんて言ってたかな……確か……
「えっとですね……確か、腕の振りを大きくしてさらに腕を早く振ると早くなるってお父様に言われました」
「なるほど!それじゃ雪華ちゃんが教えてくれた走り方でご主人様達を追いかけよう!」
「はわわ!そうでした!早く追いつきましょう!」
「そうでした!早く行かないとご主人様が連れ去られちゃいます!」
急いで追いかけないと!
「あ、あの雪華ちゃん?」
「は、はい?何ですか朱里先生」
走り出そうとしたところで朱里先生に呼び止められました。
「別にご主人様は連れ去られたわけじゃありませんよ?」
「ふえ!?だ、だって雪蓮様に連れられて……」
「雪華ちゃん落ち着いて。私たちと雪蓮さんたちとで同盟を結んでるから。それに雪蓮さんそんなことしないよ」
「あ……」
桃香様に言われて思わず声を上げてしまいました。
そうでした。雪蓮様たちとは同盟を結び、今は仲間でした。
ふぇ……私としたことが忘れていたなんて。
「ふぇ~。は、恥ずかしいです」
恥ずかしさの余り顔を赤くして両手で顔を隠しました。
「あわわっ!え、えっと……ほ、ほら!ど忘れは誰にでもあるよね!私も偶に書簡を書いてる時にど忘れしてるし……あはは」
「そ、そうですね。人間誰しもそういう時はありますよね」
朱里先生は桃香様の言葉に苦笑いをしながらも頷いていました。
「うんうん!ほらほら、雪華ちゃんもいつまでも顔を隠していないで早くご主人様達を追いかけよ!」
「ふぇ!と、桃香様!そんな急に引っ張らないでくださ~い!」
桃香様は私の顔を隠してる手を取り笑顔で走り出しました。
「だめだめ!走らないと早くご主人様に追いつけないでしょ?それに雪華ちゃんの方が足が速いんだから」
「ふぇ!で、ですが、こう引っ張られていると体勢が保てなくて転んでしまいます~」
「大丈夫大丈夫!雪華ちゃんなら!」
桃香様は私の言葉を聞きながらも大丈夫と笑顔で答えてきます。
ふぇぇ~。本当に転びそうです。
私は必死に転ばないように着いて行きました。
(コツンッ)
「ふえ?」
ですが私は何かに躓き宙を浮きました。
「え?きゃっ!」
「と、桃香様。雪華さん!」
このままじゃ地面にぶつかっちゃいます!
私は衝撃に備えて目を強く瞑りました。
(ふにゅ)
でも、来る筈の衝撃が来なくその変わりに何か柔らかい物が顔に当たっていました。
ふぇ~。一体何なんでしょう。この柔らかい物は……
ためしに揉んで見ることにしました。
(もみもみ)
とても柔らかいです。でも、柔らかい中に手を弾き飛ばすような弾力もあってとても揉みごたえがあります。
こんな感触、今まで触ったことが無いです。これは一体何なんでしょうか?それにとても良い匂いがします。
(もみもみ)
「んんっ」
もう一度揉んで見ると何処からかくぐもった声が聞こえてきました。
「と、桃香様、雪華さん!大丈夫ですか!って、はわわっ!?」
「う、うん……私は平気だよ。雪華ちゃんもだいじょ、ひゃん!」
「はわわっ!しぇ、雪華さん!なにしてるんでしゅか!?」
「しゅ、朱里先生?……ふえ?」
朱里先生に呼ばれて起き上がる。そして、目の前の膨らみに首を傾げる。
「えっと……あのね雪華ちゃん。どいてくれないと起き上げれないな~。なんて」
「ふえ?」
桃香様の声に顔を上げると目の前に桃香様の少し困ったお顔がありました。
「……っ!ふえええぇぇぇっ!?!?」
そして、桃香様のお顔と膨らみを何度も見返し状況を把握した私は大声を上げながらその場から起き上がりました。
「も、申し訳有りません桃香様!転んで桃香様にぶつかっただけでなく、胸まで揉んでしまい。本当に申し訳有りません!」
私は何度も桃香様に頭を下げる。
許してもらえないかもしれないけど、私のしたことはとてもいけないことです。ちゃんと謝らないと!
「わわっ!別に平気だよ。何処も怪我してないし」
「で、ですが!」
「いいからいいから。それに私が引っ張って走ってたせいで雪華ちゃんがこけちゃったんだから。私の方こそごめんなさい」
そう言うと桃香様は行き成り頭を下げてきました。
「ふ、ふえ!?そ、そんな頭を上げてください桃香様っ!悪いのは全て私なんですから!」
私は慌てて桃香様に顔を上げるように言いました。
「ううん。雪華ちゃんは何も悪くないよ」
「ふえ、ふえ……しゅ、朱里せんせ~~~~~」
私はどうしたらいいか分からなくなり朱里先生に助けを求めました。
「あ、あはは……桃香様、ここはお互い様と言うことにしてはどうでしょう。その方が雪華さんも納得できると思いますし。そうですよね雪華さん」
「は、はい!」
朱里先生の提案に私はすぐさま返事をした。
「うん。朱里ちゃんや雪華ちゃんがそう言うなら私はそれでいいよ」
なんとか桃香様に顔を上げていただく事ができました。やっぱり朱里先生は凄いです。
「それじゃ、気を取り直してご主人様を追いかけよー♪」
桃香様は笑顔で走って行きました。
「私たちも行きましょう雪華さん」
「はい!朱里先生!」
走り出した私たちはなんとか汜水関の前で追いつくことが出来ました。
《一刀視点》
「派手にやってるわねぇ。優未たらいいところばっかり持っていくんだから。やんなっちゃうわ」
雪蓮に引っ張られて汜水関に到着すると激しい攻防が繰り広げられていた。
上からは矢の雨が振り、下では汜水関に進入しようと大きな丸太で門に突撃を何度も繰り返していた。
雪蓮はその状況を見て口を尖らせていた。
「あわわ。ご主人様」
(トテトテトテ)
兵に指示を出していた雛里は俺に気がついて小走りで近寄ってきた。
「お疲れ様雛里。戦況はどうなってるのかな?」
「はい。今現在、星さんと優未さんが汜水関に進入し開門しようとしています。鈴々ちゃんはここに残って私とは反対側で兵に指示を出しています」
雛里の簡潔な状況報告で大体の状況は分かった。
これなら俺が出て行かなくても大丈夫だろう。
「そっか。星たちが入ってどれくらいたつんだ?」
「そうですね……大体一刻ほどかと」
「そっか。ならもう少しで落とせそうかな?」
「そうですね。相手の攻撃も段々と少なくなって来ています。門が開くのも時間の問題だと思います」
「ちぇ~。面白くな~い!。こうなったら下に居る敵兵でも八つ裂きにしてやろうかしら」
なんだか物騒な事を言ってるけど。止めた方がいいんだよな。
「あ、あのしぇれ」
「何を馬鹿なことを言って居るのだこの戯けが!」
(ゴチンッ!)
「っ!?いった~い!何するのよ。もう!」
後ろから行き成り大きな声で怒鳴られて雪蓮は頭に拳骨を貰っていた。
「まったく。なぜこの様なじゃじゃ馬に育ったのか……」
「それは母様の教育の賜物でしょ。まったく、こーんな小さい時から戦場に連れて行かれればそうなるわよ」
呆れる祭さんに雪蓮はしれっと答えていた。
でも、雪蓮が手で表現した身長って年齢的に言ったらまだ小学低学年くらいだろ……孫堅さんって一体どんな人だったんだ?
「まったく、策殿は呉に無くてはならないお方。少しは我慢をしてくだされ」
「ぶー、ぶー!私が戦闘に立って敵を倒した方が有名になるじゃない」
「勇敢と蛮勇は別物だぞ雪蓮」
そこへ凛とした声と共に冥琳が現れた。
「げっ。冥琳……はぁ。はいは~い!分かりましたよ~っだ!」
雪蓮は冥琳に睨みつけられて渋々諦めたみたいだった。
「もうこうなったら一刀に慰めてもらうんだから」
「うぉ!?ま、また!?」
「あらなに?こんな美人に抱きつかれてるって言うのにイヤだって言いたいの?」
「そ、そういう訳じゃないけど……」
「じゃぁ、どう言う訳よ。言って見なさいよ」
雪蓮はニヤニヤと笑いながら更に体を押し付けてきた。うぅ~……絶対わかっててやってるだろこれ。
「はぁ、はぁ。やっと追いついたよぉ~」
「はわわ……疲れました」
「ふえぇぇ……」
と、そこへ息を切らせて桃香たちが追いついてきた。
「ご主人様。鈴々ちゃんたちは無事な、の……あーーーーーーっ!!」
「はわわっ!ど、どうかしましたか桃香様!」
「ふえ!?な、なんですか!?」
「ど、どうしてまだ雪蓮さんはご主人様に抱きついているんですか!?」
「ん?そりゃ~。気に入ったからよ。私、気に入った人はこうやって抱きつく癖があるのよね~♪(すりすり)」
「っ!?だ、ダメです!ここは戦場なんですから離れてください!」
「そうケチケチしなくてもいいでしょ?ほら、もう片方の腕が空いてるんだからいいじゃない♪」
「なっ!」
俺は思わず絶句してしまった。雪蓮はあろう事か俺のもう片方の腕を指を差してきた。
「はぁ……まったく」
「め、冥琳!?み、見てないで助けてくれよ!」
「無理だな。こうなった雪蓮は手が付けられないからな。まあ、気が済むまで諦めてくれ」
なんとも死の宣告に近い事を言われてしまった。
「むぅ~!ご主人様っ!」
「は、はい!」
(むぎゅ)
桃香は俺を睨みつけながら腕に抱きついてきた。
うぅ……俺が何したって言うんだよ。
「はっはっはっ!モテモテではないか北郷!」
「笑い事じゃないですよ祭さん」
「まあ、それも男の甲斐性だ。しっかりするんだぞ」
ひ、他人事だと思って……
「そ、そうだ!お、俺も汜水関に星たちの手伝いに……」
「「「「それはダメ(です)っ!」」」」
「は、はい……」
その場に居た、桃香、朱里、雛里、雪華に声を揃えて却下されてしまった。
「危険だから絶対ダメだからねご主人様っ!」
「はわわ。も、もう少しで星さんが門を開けてくれると思うので待っていてください」
「……(こくこく)」
「ふえ、ご主人様が行かなくても大丈夫だと思います!」
四人にこう言われてしまえば俺は行く事も出来ない……うぅ。は、早くしてくれ星!
《雪蓮視点》
ふふっ。ホント面白いわね。一刀は……こ~んなに顔を赤くしちゃって。もう少し胸を押し付けてみようかしら。
(むにゅ)
「っ!?!?」
私は腕に押し付けていた胸をさらに押し付けた。すると一刀はさらに体を硬直させてきた。
あははっ!面白い。でも、流石にこれ以上やると桃香に同盟破棄されちゃいそうだしやめておこうかしらね。
そういいながらも密着した状態から離れない。
本当なら私も戦場で存分に暴れたいんだけど冥琳が睨みを利かせてるから無理だし。
だから仕方なく。仕方なくよ?こうして一刀で遊んでいるんだから。
あっ。でも、この状況を見たら優未怒るかしら?なんだか優未も一刀のこと気に入っていたみたいだし。
まっ!その分あの子は暴れてるんだからおあいこよね。
「あ、そ、そうだ雪蓮。ちょっといいかな?」
「なにかしら?」
一刀は赤面しながらも私に話しかけてきた。
「冥琳も聞いてくれ」
「いいだろう」
「汜水関の門が開いたら先に入城してくれ」
「なに?」
「……どういうことかしら一刀?まさかお情けのつもり?」
私は一刀から離れて睨みつける。冥琳も顔を険しくしていた。
そりゃそうでしょ?目の前にある手柄を譲るって言うんですもの。
どう見てもお情けにしか聞こえない。
いくら一刀の事を気に入っているからと言ってこういうことをされるのは正直頭にくるわ。
「勘違いしないでくれ。これにはちゃんとした理由があるんだ」
「言って見なさい。私たちを納得できる理由じゃなかったら、わかっているでしょうね」
「……(こくん)」
一刀は無言で頷いた。
「俺たちは愛紗のおかげで華雄を討ち取る事ができた。これである程度の風評も得ることができるだろう」
「なら、汜水関も先に入城してさらなる風評を手に入れようとは思わないわけ?」
私はごく当たり前な事を伝えた。
そりゃ誰でも名声や良い風評は欲しい。だから我先にと言う輩が多いんだから。
「それも考えてみたけど、俺達が先に入城したら袁紹に目を付けられそうだからさ。袁紹ってなんだか執念深そうだろ?」
「……」
「……」
一刀のあっけらかんとした言葉に私も冥琳も目を丸くしてしまった。
「え……そんな理由で譲るの?」
「ああ。だってまた無茶なこと言われたら嫌だろ?それに俺達は同盟を結んでるんだから片方が手柄を独り占めするのは良くないと思うんだ」
「くくっ……中々の気前の良さではないか!更に気に入ったぞ北郷!」
(バシバシッ!)
「い、痛いですよ祭さん」
笑いながら一刀に近寄って行った祭は一刀の背中を力一杯叩いていた。
痛そうにしてるけど痣になってないかしら?
祭ってそこらへん手加減しないのよね。
「はぁ……あなた達には欲ってものがないわけ?少しは持ちなさいよ」
「あはは……まあ、そのうちに」
「そのうち、ね……あなたの主大丈夫なわけ?」
私は呆れながら横に居る桃香話しかけた。
「そこがご主人様のいいところですから!」
ダメだわ。この子も天然だったわね……その割りにちゃんとした芯も持っているから侮れないのよね。
それも一刀のおかげなのかしら?
「まあいいわ。それじゃ開門したら私たちが一番に入城してもいいのね」
「ああ。俺達はそのあと入城するよ」
「了解。なんだかまた貸しを作った形になっちゃったわね」
「そんな事無いさ。こっちは華雄を討ち取り。雪蓮たちは汜水関の一番乗り。数的には問題ないだろ?」
「数で言えばね。でも、どう見てもおつりが来る状態だと思うのだけれど?」
「俺達はそんなの気にしないよ。な、桃香?」
「はい!同盟を結んでいるんですから気にしないでください!」
「わかったわ。でも、こっちは冥琳が貰った望遠鏡の分があるからその分に関しては覚悟して置きなさい」
ニヤリと笑って一刀に言うと一刀は苦笑いを浮かべた。
「べ、別に大した物を渡したわけじゃ……」
「対した物だからそれなりの物を贈るのだ。そうだろ諸葛亮よ」
「はわわっ!そ、そうですね!」
冥琳は有無を言わさぬ喋り方でちっちゃな軍師ちゃんに行き成り話を振った。
「そういうことよ。だから覚悟しておきなさい♪」
私はそう言うと軽く片目を瞑って見せた。
「孫策様」
一刀たちと話していると汜水関の方から斥候が戻ってきた。
「なんだ」
「はっ。汜水関の中に居る太史慈様より報告です」
「言ってみろ」
「直に門は開くので前進せよ。とのことです」
「了解。お前は持ち場に戻れ」
「はっ!」
兵は礼を取ると持ち場に戻っていった。
「聞いた通りよ一刀」
私は横に居る一刀に目を向けた。
「ああ。星たちも無事みたいで良かったよ」
一刀は安心したのか笑顔を見せた。
「まあとにかく私達は先に入城させてもらうわよ」
「ああ。俺達も雪蓮が入城したら向かうよ」
「そっ。行くわよ冥琳、祭」
「ああ」
「おう」
こうして私達は先に汜水関へと向かった。
「策殿」
「ん?」
汜水関へ軍を進めていると横に居た祭に話しかけられた。
「小耳に挟んだのじゃが」
「?」
「なんでも北郷と張遼の戦いを見ていた者がわざと張遼を逃がしたのではないかと言っておったんじゃが」
「わざと?」
祭の言葉に疑問が浮き上がった。
あの一刀が見逃した?
一刀は見た目は何処にでも……いや、見た目通り強そうには見えない。だけど明命の気配を察知するほどの人物が弱いはずが無い。
「何か、ありそうね。どう思う冥琳」
「そうだな……きっと北郷たちには北郷のやるべき事があるのだろう。私たちのようにな」
「つまりそれは放っておけってことかしら?」
「ああ。こちらに火が及ぶようなら考えるがな。だが、その心配はないだろう。あの性格だ、こちらから事を起こさない限り同盟破棄はしないだろう」
「なるほどね。でも、なんでかしらね。一刀なら神速の張遼だって討てると思うんだけど」
「ほう。策殿もそうお思いか」
「ええ。明命や噂で聞いていたけど、この目で見てはっきりしたわ。一刀は強いわよ。黄巾党を一人で三万人倒したって噂の呂布なんかより自分の目で見た一刀の実力の方が信用できるわ」
噂は噂。それが本当だったとしても私はこの目で見たものでないと信じないわ。その点、一刀は噂通り、否。噂以上の人物だったわ。
「うむ。呉に欲しい人材ですな。もし本当に天から来たのなら我々の所に降りて来て欲しかったですな」
「そうね。まあ、もしそうなったら。優未の玩具にされちゃいそうだけどね」
「はっはっはっ!それは違いない。あやつ好みの男ですからな」
「はぁ。おしゃべりはそこまでよ。そろそろ汜水関につくわよ」
冥琳は溜息を一つ吐いてから目の前に迫ってくる汜水関を見上げた。
目の前にそびえ立つ大きな門。これが私達を拒み続けていた汜水関の扉だ。
(ギギギギギッ!!)
汜水関に近づいてくと鈍い音とともに門が開き始めた。そして、その門の向こうに二つの人影が見えた。
「お待ちしておりました。孫伯符様」
「どうぞお入りください。孫策殿」
「……うむ」
待っていたのは先に潜入していた優未と一刀の所の星だった。
「開門ご苦労であった。太史子義よ」
「はっ!」
「お前もだ趙子龍よ」
「ありがたきお言葉」
礼を取る星。そんな二人を私は通り過ぎて汜水関へと足を踏み入れた。
「我、孫伯符!汜水関に一番乗りを果たす!」
「「「おおおおおおおおおっ!!」」」
天に向かい南海覇王を掲げ一番乗りを宣言した。
それと同時に周りの兵から大きな雄たけびがあがった。
「さてと、王としての勤めはこれで良いかしら冥琳?」
「ああ。十分だ」
クルリと冥琳に振り返り笑顔を見せる。
冥琳はやれやれといった感じだったけど頷いてくれた。
「そ♪じゃ、そう言うことだから優未もいつも通りに戻っていいわよ」
「……ふへ~。あ~疲れた~~~!」
その場にへたり込む優未。
「お疲れ様、優未。どう?久々に袁術の邪魔無く暴れられた気分は」
「にしし♪最高!もう気分は晴れ晴れだよ!」
「やれやれ。先ほどまでのあの勇ましい優未殿は何処へ行ってしまったのやら」
優未と話しているとそこへ星がよって来た。
「これがいつもの優未なの!癖なんだよ。戦闘になるとなぜかああなっちゃうんだよ。喋り方も変わっちゃうしさ」
口を尖らせる優未を見て一安心する。
どこも怪我は無いようね。よかったわ。
「それにしても無茶してくれるわね。梯子を上って侵入しようだなんて」
「え~。雪蓮だって同じ事考えてたくせに~。雛里ちゃんから聞いたよ!」
「あら、ばれちゃった?」
「ばれちゃった?じゃ、な~~い!もう!人には無茶するなって言っときながら自分は無茶するんだから!」
「はいはい。冥琳見たいなお小言は聞きたくな~い!それでさっき散々言われたんだから」
冥琳にネチネチと言われた事を思い出してげんなりする。
「まあ、仕方ないか」
「仕方なくないではないぞ」
「ひゃっ!な、なんだ冥琳か脅かさないでよね~」
冥琳は優未の後ろに立ち腰に手を当てて立っていた。
眼鏡が光に反射して目が見えない分、怖さが倍増してるわよ。
「まったく……雪蓮だけでなく、お前にも説教をしなくてはならんとはな……」
「え゛……」
「さぁ、来て貰おうか」
「そ、その……ほ、ほら!優未さ、汜水関の戦いで疲れちゃったから遠慮しとこうかな~なんて」
「ふっ。遠慮する必要は無いぞ。そうだな、一刻ほどで済ませてやろう。感謝するといい」
「ええっ!?い、一刻!?」
「なんだ。一刻では足りないか?ではついでにもう一刻追加してやろう」
「っ!(ブルブルッ!)い、一刻でいいです!」
「そうか。なら後ほどゆっくりと話してやろう」
「うぅ~。優未の活躍は一体なんだったのぉ~」
冥琳のお説教が決まった優未はうな垂れていた。
「はっはっは。大変ですな優未殿」
「うぅ~。人事だと思って~」
恨めしそうに優未は星を睨みつける。
「他人事ですからな」
「そうも言ってられないと思うわよ?」
「はて。それはどういうことですかな?」
「直ぐにわかるわよ。あ、来た見たい」
目を門に向けると一刀たち劉備軍が門をくぐって入って来た。
《一刀視点》
門をくぐると其処には雪蓮たちの他に汜水関の門を開けるために侵入していた星と優未も居た。
なぜか優未はうな垂れていたけど。
まあ、多分だけど説教するって言われてうな垂れてるんだろうけどさ。
その横で星が面白そうにニヤニヤと笑いながら雪蓮と話していた。
「ありゃ、優未を見て楽しんでるな……自分も説教されるとは思ってもないんだろうな」
でもな。俺が説教したところで星がすんなりと話を聞いてくれるとは思えないんだよな。
あの性格だ。きっとのらりくらりとかわされるだろう。
「どうしたものか……」
「ん?どうかしたのご主人様?」
「ん?なんでもないよ。ただ、どうしたら星にお説教できるかなって思ってさ」
「ん~。星ちゃんって旅をしてたせいかな。そういうの逃げるの上手そうだよね」
「そうなんだよな~。どうしたら……ん?」
待てよ……確か星は……
「おや。主、随分と遅くのご到着ですな」
「ん?あ、ああ。まあね」
考え込んでいる事に星がやってきた。
「ところで星。少し無茶しすぎだぞ。汜水関に乗り込むなんて」
「そうだよ!私もご主人様も心配したんだからね」
「はて?私は無茶した覚えは無いのですが?」
ニヤニヤと笑う星。
やっぱり一筋縄じゃいかないか……なら試してみるか。
「星」
「なんでしょうか主」
星は凹ます事が出来るなら凹まして見ろと言いたげに口元を吊り上げて俺を見ていた。
「はぁ……身に覚えが無い、と?」
「はい」
「雛里」
「は、はひ!」
「雛里は星に汜水関に侵入するように命令したか?」
「い、いいえ。その提案は元々は雪蓮様がお考えになり、それを優未さんが引き継ぎました」
「それじゃ、星は命令を無視したってことでいいのかな?」
「あ、あわわ。しょ、しょれわ……」
「ご、ご主人様」
「ん?どうかしたか桃香」
桃香は不安そうに俺の袖を掴み見上げてきた。
「星ちゃんも私たちの事を思ってやってくれたことだから。その……」
「わかってるよ。でも、軍師の雛里を無視して行動したことに罰を与えないとね」
「ほう。では私にはどのような罰が下されるのですかな?」
「そうだな……」
俺は考える素振りをする。
「……(ごくん)」
「はわわ……」
「あわわ……」
「ふぇ。星さん……」
何故か罰を受けるはずの星より桃香たちのほうが緊張していた。
「……趙雲には一月の禁酒を命じる」
「なっ!」
俺の罰に驚きの声を上げる星。
「何か異論でも?」
「大いにある!なぜ禁酒なのですか主!」
「そりゃ、これが星にとって一番辛い事だろうと思ったからだよ。辛い事与えないと罰じゃないだろ?」
「くっ!で、ですがこれでは余りにも!」
「それじゃついでにメンマも一月禁止にする?」
「な、なんですとぉ!?」
禁止項目が追加されたことで星はさらに声を上げた。
「め、メンマまで禁止にされては生きてはいけませぬ!あ、主よ。ど、どうかそれだけは!」
「ん~。どうしようかな~」
「主ぃ~」
星は目を潤ませて懇願してくる。
ぐっ……演技だとわかっていても流石に途惑うな……
「仕方ない。それじゃ一月お酒だけ我慢で許すよ」
「おお!流石は主!わかっておいでだ!」
「ただし!呑んでるところを見つけた場合。追加で一月の禁酒とメンマも禁止ね」
「うむ。この趙子龍、約束を違える事は致しませんぞ」
「よし。それじゃこの話はもう終わり。怪我も無いみたいだし無事でよかったよ」
「っ!」
「にゃにゃっ!」
「はわわっ!」
「あわわっ!」
「ふえ!?~」
俺は星の無事を喜ぶように星に抱きついた。
「主よ。抱擁もその辺にして置いたほうがよろしいかと思いますぞ」
「え?」
「私は構わぬのですが……」
「?」
星はそう言うと視線を周りに向けた。
「む~っ!ふんだ!」
「鈴々も抱きつきたいのだ!」
「はわわ……ご主人様大胆でしゅ」
「……(こくこく)」
「星さん……いいな」
「あらあら。こんなど真ん中で意外とやるわね一刀♪」
「っ!あ、あは、あはははは……と、とにかく無事でよかった!うんうん!」
俺は慌てて離れて星の肩を叩いて何度も頷いた。
「ふふっ。ここに愛紗が居なくて命拾いしましたな主」
「?なんで愛紗が居ないと命拾いなんだ?」
「ふふっ。分からぬなら分からないままが幸せですぞ主」
「?」
星の言っていることが良くわからなかったがとりあえずよかったってことか?
「ご主人様っ!」
「え、あ。どうかしたか桃香?」
桃香に呼ばれて振り返るとなぜか頬を膨らませて怒っているようだった。
「ご主人様の……」
「?桃香?」
「……ばか~~~っ!!」
(バチーーーーンッ!!)
「いっ!?」
桃香は手を振りかぶると俺の頬に思いっきり平手をしてきた。
「ふん!鈴々ちゃん、朱里ちゃん、雛里ちゃん、雪華ちゃん!愛紗ちゃんの所に行こっ!」
「わかったのだ!お兄ちゃんまたなのだ~!」
「はわわ!ま、待ってください桃香様~っ!」
「あわわ……ま、待って~」
「ふえ?え?あ、え?と、桃香様お待ちくださ~い!」
桃香は鈴々たちを連れて愛紗の元へと行ってしまった。
「お、俺、まずいことしたかな?」
「主よ。もう少し女心を勉強した方が良いですぞ」
「朴念仁は重罪よね。そう思わない優未?」
「だね~。優未も可哀想だけど、桃香の方が可哀想だな~」
「北郷。お前は本当に男なのか?」
「はっはっは!愉快な奴じゃない!」
なに?俺がやっぱり悪いのか?それより冥琳、それ酷くない?どう見ても男ですよ?
なぜかみんなに言いたいほうだいいわれ凹む俺だった……
《桃香視点》
汜水関も無事に入城して今は兵の皆を休ませる為に一日ここで休息を取る事にしていた。
休息をなぜ取る事ができたかと言うと、袁紹さんに『あなた達は次は後局で待機していなさい!』と言われたからです。
ご主人様や朱里ちゃんたちが言うには、まさか本当に汜水関を突破出来るとは思ってなかったからこれ以上手柄を与えたくないってことらしいです。
それよりも私には今重大な悩みがあります。
「……あぅ~~~~~~~~」
私は一人、火を見詰めながら唸っていた。
「なんであんなことしちゃったのかな……」
それは汜水関での出来事だった。
ご主人様が袁紹さんの武将さん、えっと確か顔良さんだったっけ?その人と楽しそうに会話しているを見て思わず睨み付けちゃった。
他にも色々とあるんだけどとにかくご主人様には色々と酷い事しちゃったよ。
「うぅ~、でもでも!私だって女の子だもん。好きな人があんなことしたら許せないよ~」
「私って酷い女なのかな?」
自問自答するけど当然、答えが出てくるはずも無く……
「はぁ~~~~~~~~」
私は大きな溜め息を吐いた。
「ど、どうされたのですか桃香様?」
「あ、愛紗ちゃんか……はぁ~~」
そこへ現れたのは見回りをしていた愛紗ちゃんだった。
「何かあったのですか?」
心配そうに話しかけてくる愛紗ちゃんに聞いてみることにした。
「ねえ、愛紗ちゃん」
「なんでしょうか」
「私って嫉妬深いのかな?」
「……は?言っている意味がよくわからないのですが」
「実はね……」
私は昼間のやり取りを愛紗ちゃんに説明した。
「……」
「どう思う~?」
「なんと言いましょうか。きっと私も同じ行動に出たと思います」
「愛紗ちゃんも?」
「はい。私がその場に居たらすぐさまご主人様と二人っきりで話をしますね……フフフ」
愛紗ちゃんは自分の得物を握り締めて笑っていた。
「まあ、それは良いとして。ご主人様は少々……いえ、かなり女性にお優しすぎる所があります」
「そうだよね。でも、そこがご主人様のいい所でもあるんだよね」
「ですが、少々控えて頂きたいところでもあります。……これ以上増えるのは困りますから」
「うんうん!だよねだよね!」
私は思わず力強く頷いて愛紗ちゃんの手を取った。
「少しはご主人様に自制してもらわないと!」
「ですが一体どのようにして自制を?ご主人様は意識していらっしゃらないご様子ですよ」
「あっ、そっか……う~ん。どうすればいいかな」
「お~い!桃香、愛紗こんな所でなにやってるんだ?」
愛紗ちゃんと悩んでいるとご主人様と朱里ちゃんと雛里ちゃんが歩いてきた。
「……」
「……」
「え、な、なに?」
愛紗ちゃんと二人でご主人様の顔をじっと見つめるとご主人様は途惑った様子で私たちを見ていた。
「愛紗ちゃん」
「ええ」
愛紗ちゃんに合図を送ると愛紗ちゃんは分かってくれたのか頷いてくれた。
「「せ~のっ!」」
「?……っ?!いひゃいいひゃい、にゃんへ?!」
私と愛紗ちゃんとで同時にご主人様の頬を抓りました。
「ご主人様がいけないんだからね」
「そうです。これは罰です。甘んじて受けてください」
そしてさらに指に力を入れる。
「~~~っ!?い、いひゃいほ!ご、ごめん!あひゃまふから!は、ははひへ~~~!」
「と、桃香様?もうその辺にしてもよろしいのではありませんか?」
「そうかな?どう思う愛紗ちゃん」
「そうですね……では、そろそろ良いのではありませんか?」
朱里ちゃんの言葉に愛紗ちゃんももう十分だと思ったみたいで頬から指を放した。
「愛紗ちゃんがそう言うなら」
私もご主人様の頬から指を放した。
「だ、大丈夫ですかご主人様?」
「あわわ。ほっぺが赤いです」
「いつつ……ああ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとうな朱里、雛里」
むっ!言ってる傍からご主人様ったら!
「ご主人様っ!」
「えっ。な、なに桃香?」
「其処に座って下さい」
私は焚き木の前あった丸太を指差した。
「ここに座ればいいのか?」
ご主人様は言われた通りに丸太に腰をかけました。
「……えい!」
私はご主人様の横に座り腕に抱きついた。
「なっ!」
「桃香様!?」
「はわわっ!」
「あわわっ!」
ちょっと意識して恥ずかしいけど胸をご主人様の体に当ててみる。
「っ!?と、桃香……」
「どうしたんですかご主人様?」
「あ、いや……な、なんでもない」
話しかけてきたご主人様を笑顔で見るとご主人様は何も言えなくなっちゃったのか顔を赤くしてそっぽを向いちゃいました。
えへへ♪恥ずかしいけど、こんなご主人様を見れたからいいかな♪
「……失礼します」
「あ、愛紗!?」
「愛紗ちゃん?」
「はわわっ!」
「あわわっ!」
愛紗ちゃんは少し不機嫌そうにしながらも私とは反対側に座りました。
そして愛紗ちゃんは恥ずかしいからかご主人様の腕には抱きつかず身を寄せていました。
と、そこへ……
「あ~っ!ずるいのだ!」
「「「「え?」」」」
「っ!り、鈴々!?」
大きな声を出して鈴々ちゃんは立っていました。
「桃香お姉ちゃんと愛紗だけずるいのだ!鈴々もお兄ちゃんに抱きつくのだ~~~っ!」
「ちょ!り、鈴々!そんな速さで来たら!」
ご主人様は慌てだし、鈴々ちゃんを止めようとしてたけど鈴々ちゃんは走り出してもう止まりそうになかった。
「と~~~~っ!」
「ぶはっ!」
鈴々ちゃんの助走をつけた飛びつきは見事にご主人様のお腹に当たりました。
「はわ~~っ!ご、ご主人様?!」
「あ、あわわ!ご、ご主人様しっかりしてくださ~い」
「ぅ……み、見事な体当たりだ……り、ん……りん……(ガクッ)」
受け止める事が出来なかったご主人様はそのまま倒れて意識をなくしちゃいました。
「ご、ご主人様!」
「こら鈴々!お前はなんて事を!ご主人様!目を開けてください。ご主人様!」
鈴々ちゃんに怒る愛紗ちゃんだったけど。すぐにご主人様の心配をしだす愛紗ちゃんだった。
《華雄視点》
「……う……こ、ここは」
目を覚ますと最初に目に入ってきたのは天幕の天井だった。
体の自由が聞かない……私は一体……
気絶する前のことを思い出してみる。
「……そうだ、私は……っ!」
私は関羽に敗れたのだった……くっ!と言うことは私は捕虜になったのか!
不覚っ!あのような無様な戦いをしてしまった自分に嫌気が差す。
「なんとかしてここを逃げ出さなければ……」
しかし、怪我が酷いせいか全身に力が入らず己の得物すらもてない状況だ。
「やっと目が覚めたか」
「だれだっ!」
気配の察知を怠り、天幕に誰かが入ってきたことにも気がつかなかった。
「それだけの声が出せるのであれば直ぐに怪我も治るであろう」
「貴様は……関羽!」
入り口に居たのは私を倒した関羽だった。
「貴様~~っ!」
「落ち着け。傷に障るぞ」
「煩い!ぐっ!」
「やれやれ。言った傍から……」
関羽は呆れた素振りを見せる。
「負けた私に何のようだ!貴様らに話すようなことは何も無いぞ!」
「いや。話して貰わねば困るのだ」
「ふん!だったら拷問にでもかけてみるか?そんな事をしても絶対喋らないがな!」
「……なら試してみるか?」
関羽は己の得物を私の目の前に向けた。
「……」
「……」
「ふっ、見事な度胸だな……少し待っていろ我らがご主人様がお前に聞きたい事があるそうだ」
「袁紹に尻尾を振った貴様の主か。直々の拷問、受けてたとうではないか」
「ご主人様はその様な非道な事はしない……それと、それ以上ご主人様を愚弄するようなら私が容赦しないぞ。覚えておけ」
そう言うと関羽は天幕から出て行った。
「くっ」
私は怒りを抑えるように歯を噛み締めた。
董卓様……必ずやお助けいたしますぞ……
「いつつ……やあ、怪我の具合はどう?」
「……誰だ貴様」
関羽と共に入って来たのはお腹を押さえたなんともぱっとしない男だった。
「俺は北郷一刀。とりあえず天の御遣いって事で愛紗、関羽たちの主をしてる」
こいつが北郷……黄巾党を一瞬で倒したと噂される男……
しかし、どう見てもそんな事が出来るような男には到底見えなかった。
「それで一体、私に何のようだ。お前達に話すようなことは一切無いぞ」
「其処を何とか」
な、なんだこいつは……そんな事を言われても話す訳が無いだろ。
「はぁ、ご主人様。捕虜なのですからもう少し厳しく追及しても良いのですよ」
「そんな事言ってもさ。女の子に拷問とかするのって酷いと思わないか?」
「なっ!私は武人だぞ!貴様!私を愚弄するつもりか!」
「別に愚弄なんてしてないよ。本当の事を言ったまでだよ」
「き、貴様~~~っ!!」
思いだけで人が殺せるのならこの男を今すぐにでも殺してやりたい!
だが実際はそんな事は出来ない。この体さえ動けば今すぐにでもあいつをっ!
私は北郷を睨みつけた。
「まあ、とりあえず体の傷を治そうか」
「なっ!ご、ご主人様危険です!話はこのままで聞けるはずです!」
「それじゃ本当に俺達が拷問してるみたいじゃないか。ちゃんと怪我の治療しないと」
「で、ですが……」
「貴様らの施しなぞ受けん!それに貴様らに答えることも無い!さっさと殺せ!」
「そういうのは感心しないな。命は平等だよ。君が死んだら悲しむ人が居るだろ?」
「なにをいけしゃあしゃあと!貴様らが攻めてこなければこんな事にはならなかったのだ!」
そうだ。貴様らさえ攻め込んで来なければ董卓様は……
「……ごめん」
「なっ!」
「ご、ご主人様!?」
あの男、北郷は私に頭を下げてきた。
「ご主人様、頭を上げてください!」
「ダメだよ。攻めてきたのは事実なんだし……頭を下げたくらいじゃ許されないだろうけど」
なんだ……なんなんだこの男は!仮にも主だろ!なぜそう簡単に頭を下げられるのだ!これではまるで董卓様の様ではないか……
私は北郷の行動にわけが分からなくなってきた。
「くっ……お前が謝ったところで死んだ私の兵たちは戻ってこないのだ!」
「そのことだがお前が気を失った後、抵抗する者も居たが殆どのお前の兵は投降して来た」
「なんだと!私の兵にそんな軟弱な兵は居ない!」
「あいつらも莫迦ではない。状況を見て投降したのだろう」
「くっ!」
なんということだ私の兵はそんなにも腑抜けているのか!
兵の不甲斐無さに怒りがこみ上げてくる。
「とりあえず傷を治そう。これを飲んでくれるかな?」
「なんだそれは。毒か!」
「違うよ。ただの水だよ。少し変わった水だけどね」
「信用できるか!毒ではないのならお前が飲んで見ろ!」
ふん。どうせ飲めまい。毒なのだからな。
「ああ。いいよ……ごくごく」
「なっ!」
この男は何の躊躇も無く、水を飲んだ。
「これで信用してくれたかな?毒は入ってないって」
「……体を起こせ」
「わかった」
北郷は私の背中に手を入れゆっくりと起き上がらせた。
「これくらいでいい?」
「ああ……ん、ん」
杯に入った水を飲む。
普通の水に比べ微かだが甘いな……
「っ!」
そんなことを思って居る時だった。急に喉の奥から熱くなって来た。
「効いて来たようだね」
「くっ!き、貴様!やはり毒を!」
「違うよ。体が怪我を治しているんだよ」
「そんな直ぐに傷が治るわけないだろうが!」
「うわっ!」
「なっ!動くだと!?」
自分でも驚いた。関羽との戦いで傷付いた私の体は動くことすらままならなかったのだ。
だが、今私の腕は痛みも無く動いていた。
「毒、ではなかったのか?」
「だから水だって」
「普通の水が私の傷を治すわけがないだろ!」
「ま、まあそれはいいとして。話を聞いてもいいかな?」
「……」
「やっぱり話してくれませんか?」
「無論だ。いくら傷を治してもらった恩はあれど、主を裏切ることは出来ん!」
「華雄よ。それは!」
「いいんだ愛紗」
「ですが!」
北郷は手で関羽の言葉を遮る。
「華雄さん。会って貰いたい人が居るんです」
「会って貰いたい人、だと?」
誰だ。私が知っている人はそう多くない。
「どうぞ。入ってきてください。菫さん」
「なっ!その真名は!」
《To be continued...》
葉月「ふぃ~。とりあえずこれで汜水関編は終わりました~」
愛紗「しかし、なんだか気になる終わり方だな」
葉月「まあ、話なんて次を読んでもらえる様にするのが普通ですからね。あの人がどういった行動を取るのか次回のお楽しみです」
愛紗「うむ。しかしだな……」
葉月「どうかしましたか?」
愛紗「いや。その……さ、流石にご主人様の隣に座るのはやりすぎではないか?」
葉月「は?何言ってるんですか?恋に目覚めた子供じゃあるまいし。アレくらい普通でしょ」
愛紗「ふ、普通なのか!?」
葉月「どんだけ初心なんですか」
愛紗「うぐっ!」
葉月「もう少し大胆になってもいいんじゃないですか?ほら、桃香みたいにその豊満な胸を一刀に押し付けるとか」
愛紗「そ、それ以上言うなーーーーーっ!!」
葉月「ぶへっ!」
愛紗「わ、私がそんなこと出来る訳が無いであろう!そんなはしたない事!」
葉月「いてて……そのはしたない事を桃香がしてるんですよ?」
愛紗「う゛……と、桃香様は良いのだ。桃香様はご主人様の事を好いておいでなのだから」
葉月「愛紗だって一刀の事好きなんですよね?だったら別にいいじゃないですか」
愛紗「そ、それとこれとは話は別だ!」
葉月「まったく、どれだけ奥手なんですか。あっ!あんな所に一刀が」
愛紗「なっ!ご、ご主人様だと!……居ないではないか!葉月、嘘を……」
一刀?「愛紗」
愛紗「ご、ご主人様!?」
一刀?「可愛いよ愛紗」
愛紗「な、なな何を言っているのですかご主人様!わ、私が可愛いなどとそんなことあるわけが」
一刀?「もっと自信を持って。愛紗は可愛いんだから」
愛紗「あ、あわ、あわわ」
一刀?「慌てる愛紗も可愛いよ……」
愛紗「ご、ご主人様!?な、なにを!?」
一刀?「……」
愛紗「ちょ!ま、待ってください。ご主人様!」
一刀?「(ボフンっ!)」
愛紗「……へ?ご主人様が消えた?」
葉月「ふぅ。口寄せ一刀君は疲れるな~」
愛紗「……」
葉月「あれ?顔を赤くしてどうしたんですか」
愛紗「……ろ」
葉月「はい?今なんと?」
愛紗「もう一度……ご主人様を召喚しろっ!」
葉月「あれは一日一度しか召喚できないので無理です!」
愛紗「無理にでもやれ!気合でやれ!死んでもやれ!」
葉月「無茶苦茶な!それに死にたくないです!」
愛紗「無茶苦茶でもいいからやれ!」
葉月「まさか偽者でもいいからキスされたいんですか!」
愛紗「なっ!そ、そそそんなことはないぞ!」
葉月「なら別に召喚しなくてもいいじゃないですか」
愛紗「うぐっ!そ、それはそうだが……良いではないか!少しくらい夢を見ても!」
葉月「夢じゃなくて現実にすればいいじゃないですか」
愛紗「それが出来たら既にしている!出来ないから言っているのだろうが!」
葉月「はぁ……戦じゃ鬼神と呼ばれる愛紗でも恋となると一般人以下とは」
愛紗「~~~~っ!き、貴様~~~~っ!」
葉月「ふふふっ!今の愛紗の攻撃は単調で簡単に避けられますよ!」
愛紗「煩い!動くな葉月!その首、叩き落してやる!」
葉月「それは困る!それじゃ愛紗と一刀のにゃんにゃんが書けなくなるから逃げます!」
愛紗「にゃ、にゃんにゃんだと!?」
葉月「それでは皆さんまたお会いしましょ~」
愛紗「ご主人様とにゃんにゃん……ご主人様とにゃんにゃん……はっ!ごほん!ではみなの者!また会おう!……待てーーー葉月っ!その話を詳しく教えろーーーっ!」
葉月「追いかけられる理由が変わった!?」
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取りあえずはこれで汜水関編は終わりです。
まあ、殆ど雑談になってるんですけどね。
前回からのあらすじ
一刀と張遼の戦いは張遼の撤退と言う形で幕は閉じた。
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