それは小さな町の片隅にある小さなアーチを描いた渡橋。
その日は雪がとんとんと降り積もり、川を透明に止まってしまっている姿を形作っている。
少女はその端の中間地点で橋の端っこにもたれかかっていた。
ハァ、ハァと呼吸は苦しく、きっともう指一本も動かすこともできない姿だ。
そこへ一人、旅人が通りかかった。
旅人は少し汚れた衣を纏い、橋に足を載せて進んでいく。
旅人は少女に気がつく、そして立ち止まる。
けれど少女は気がつかない、気がつく余裕ももう無い。
「君、大丈夫?」
少女はその言葉に気が付き、震えながらそっと顔を上げた。
少し汚い姿ではあるけれど、とても可愛らしい顔だった。
少女は言葉を震わせながら言った。
「だい……じょう……ぶ……。」
「とても大丈夫そうには見えないけれど?」
そう言って旅人は持っている荷物から不思議な入れ物を取り出し、それを取り出した筒に入れた。
その筒からは白い湯気がもくもくと上がっていた。
青年はそっと少女の口へ運び、少女もそっとそれを口の中へと受け入れた。
「ありがとう……」
そう先ほどよりもなめらかに声を奏でる。
「どういたしまして」
旅人もそれを返す。
旅人は一度空を見上げ、少女へ視線を再び下ろし、語りだす。
「君はどうしてここにいたの?ここにいては凍えてしまうよ」
「どうして……?」
少女は少し考えこんでしまった。
きっと自分がどうしてここにいたのかも忘れてしまうくらい長い間、ここにいたのだろう。
少女は顔をおろしたまま、そっと言った。
「お母さんを待っているの、”きっと迎えに来るから大人しくココで待っててね”って約束したの、だからここにいるの」
「それはどれくらい前のこと?」
「分からないよ、でも指じゃ全然足りないくらいお日様が沈んでいったよ」
旅人は目を瞑り、「そうか……」とそっと呟いた。
少しの間、沈黙は続き、それでも尚、誰もそこを通ることは無かったし通り過ぎたいとも思わなかった。
「君はこれからもココでお母さんを待つのかい?」
旅人がそっと聞く。
「うん、きっと来てくれるから」
「待っててもきっと来ないよ?」
「どうして?どうして来ないって思うの?」
「君はどうして来ると思うんだい?」
「うーん、何で来ないのか分からないから」
「それはきっと君のお母さんが君を捨ててしまったからだよ」
「そうなの……?」
「きっと、間違い無くね」
「そう……なんだ……」
少女はしょんぼりとしてすっかり下へ俯いてしまった。
旅人はこう言った。
「だから君は私が辿ってきた道を真っ直ぐ進みなさい、雪もなくなってきっと町につけると思うよ、君はココへいてはいけない。そうすればきっとこの先の道へ進んでしまうことになるからね」
「この先に進んではいけないの?」
「そうだ、この先にも町がある。でもココよりずっと寒い。行ったら戻ってこれない。きっととても辛い」
「う~ん、よく分からないよ」
「分からなくてもいいんだよ。君はまだ知ってはいけない。そうだ、これを持って行きなさい。きっと君をまだ進ませないでくれるから」
そう言って自分が纏ってた衣を少女にかぶせる。
少女もぶるぶると振るわせて自分を衣で包み直す。
「あったかい……」
「うん、それは良かった」
「ありがとうおじさん!」
「ハハハ、私ももうそんな歳か……。 さぁおいき、ずっと、ずっと戻っておしまいなさい。 もっと遠くへ」
そういうと少女は小さく目を瞑る。
周りが崩れて旅人が消えて行く感覚を感じた。
見えていないけれどきっとそんな感覚。
少女は目を覚ました。
場所は分からないけど一面に草っ原が地平線まで続いており、少女はその草っ原にある茶色の道の真ん中にそっと目を覚ました。
少女はそっと涙を流し、旅人からもらった衣で涙を拭いた。
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短編オリジナルです。
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