「ただいまーっと・・・」
家に帰る頃には既に日付は変わっていた。
久しぶりに手こずった仕事と言うこともあり、すぐにでも風呂に入ってベッドに倒れこもうと決めていた。
鍵を開け、灯りをつけ・・・乱雑に靴を脱ぎ捨てる。
重い足取りでリビングへの扉を開ける。
『あ、おかえり~』
「・・・着替え着替え・・・」
リビングの灯りをつけ、竹刀袋を立てかけ、タンスから着替えとタオルを探し出す。
そしてそのまますぐさま風呂場へ・・・
『ちょっと!!無視するなぁッ!!』
「・・・疲れてるんだ」
またもや不法侵入していた凛香に深いため息と共に一言告げる。
『だからー、そのお礼をしに来てあげたんでしょう!』
「・・・それなら大人しく寝かせてくれ・・・」
一人で騒がしくしている凛香をスルーしつつリビングを出ようとする真司。
『むぅ・・・』
後ろで何か唸っている凛香は最早完全に無視して風呂場へと入る。
風呂を沸かすのも面倒だったのでシャワーで軽く済ませるだけにした。
・・・・・・
「・・・何時まで居るんだ・・・」
『だ~か~ら~、お礼しに来たんだってば!』
風呂から戻ると同じ位置で凛香が待っていた。
さっぱりし、濡れた髪を拭きながらベッドへ腰掛ける。
「・・・いや、お礼は良いから、寝かせてくれ・・・」
『この前のお札はまだあるんでしょ?』
「・・・あるにはあるが・・・」
薄々まさかと思っていたが、で考えないようにしていたことが現実味を帯びてきた。
・・・・・・
疲れた身体をだらだらと動かし、ロクに集中も出来ない中、何とか前回同様結界を張る。
だが、明らかに前回よりも札から放たれている光は弱弱しい。
「ん~ひっさしぶりぃ~♪」
「・・・ご機嫌なところ悪いんだが俺は非常に疲れているんだ」
久しぶりに現実のものに触れる喜びを噛み締めている凛香に酷くローテーションな真司が呟く。
「大丈夫、今日勉強の成果を見せに来ただけだから」
「・・・勉強・・・?」
記憶違いでなければ確か以前が初体験だったはずだった。
このしばらくの間に何があったのだろうか。
「知り合いのお姉さんにね」
「・・・そいつって・・・」
「私と同じで死んじゃってるんだけどね~」
「・・・」
とても死という単語が似つかわしくない表情で喜々として話している凛香。
「成る程・・・霊体同士なら触れられるのか・・・既に場数は踏んだってことか・・・」
「馬鹿言わないでよ!そりゃ幽霊同士なら頑張れば喋れるし触れられるけど、そんなに軽く許さないんだから!」
(・・・説得力がないぜ・・・)
以前の経緯があったのでとても信じられたものではなかったが、ここで嘘を吐く理由も考え付かないので本当なのかも知れない。
「まぁ、そんなわけで~・・・今回は私に任なさい」
「・・・まぁ・・・疲れてるしな・・・丁度いいっちゃ丁度いいけどさ・・・」
何処からそんな自信が沸いてくるのか謎だったが、今回は任せることにした。
・・・・・・
「そ、それじゃあ・・・いくわよ?」
「・・・改まって聞かれても困るんだが・・・」
ベッドに腰掛けている真司の両足の間にすっぽりと挟まるような形で凛香が座り込んでいる。
こういった場面で改まって聞かれても返事の仕様も無いと言うものだった。
・・・・・・
「なぁ・・・」
「今日はここまで~♪」
勉強の成果を発揮して、真司を驚かすことにも成功した凛香は上機嫌だった。
「真司も今日は疲れてるって言ってたじゃない?」
「・・・いや、それはそうなんだが・・・やはり一度こうなるとだな・・・?」
一度付いた火種はそうそう消えるものではなく、まだまだイケる自信はあった。
「残念でした~、また今度お願い聞いてくれたら考えてあげる~♪」
「・・・またって、まだ何かあるのか・・・」
「んふ~♪それじゃ、まったねぇ~!」
「・・・」
去り際に意味深な捨て台詞を残し、いつものように壁をすり抜け帰っていく凛香。
そして一人半端な状態で取り残された真司。
(・・・俺、このまま良いように扱われるんじゃなかろうか・・・)
ふと疑惑がわきあがった。
だが、それよりも思うことがあった。
「・・・いい加減、彼女でも作るかぁ・・・」
そんなことを切に思う夏の夜だった。
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