No.294812

そらのおとしものショートストーリー2nd キャラ立て

水曜定期更新。
今回はtkさまの感想を元に作ってみました。
テーマはキャラ立てです。

最近、総閲覧者数と閲覧ユーザー数の乖離が激しいです。

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2011-09-07 00:17:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5735   閲覧ユーザー数:2401

そらのおとしものショートストーリー2nd キャラ立て

 

 ある日私は唐突に気が付いてしまった。

「私って、アルファやデルタに比べて影が薄いわよね……」

 私はアルファやデルタに比べてキャラが立っていないという恐ろしい事実に。

 

 アルファやデルタがボケ担当だとすると、私はツッコミ担当。

 良識と常識を常時携帯義務付けられている存在。

 何故ならツッコミが暴走すると話に収拾がつける者がいなくなってしまうから。

 故に私は“そらのおとしもの”の良心として頑張ってきたつもりだった。

 でも、その良心が皮肉にも私のキャラ立てを邪魔している。

 私を影の薄い、無個性ツッコミキャラへと導いてしまっている。

「このままじゃ私、ヒロインズから\アッカリ~ン/(フェードアウト)しちゃうかもしれない」

 そらのおとしものはボケキャラと天然キャラに溢れている。

 ツッコミ担当は私ぐらいしか存在しない。

 その意味で私に失業はないのかもしれない。

 でも、失業しないだけで私のポジショニングは空気と化してしまうんじゃないか。

 そんなことを考えてしまう。

 私に残された価値は智樹に恋する乙女という恋愛キャラとしての位置づけのみ。

 でも、それも──

「日和がいたんじゃ、私はもう要らないのかな?」

 ストーリーブレーカー風音日和がいたのでは私の存在価値が薄れてしまう。

 日和は私以上に健気で一途だ。

 更に登場した瞬間に智樹と結ばれてしまうという特殊な属性まで持ち合わせている。

 しかもその展開が読者たちに了承されてしまっている気がする。

 私が幾ら頑張って智樹に恋してもダメなのかもしれない。

「やっぱり私って、美香子やシナプスのマスターの言う通りポンコツ、なのかな?」

 コンプレックスに塗れていた、翼のなかった時期のことを思い出す。

 自信をどうしようもなく喪失していた、あの寂しさに溢れていた時期のことを。

「……って、イジけた自分を正当化するような真似をしてちゃダメなのよ。同じ轍を踏む訳にはいかないのよ!」

 あの時の私は智樹やアルファたちの優しさのおかげで立ち直れた。

 もう1度落ち込んでしまえば、また智樹たちの優しさに出会えるかもしれない。

 でも、そんなのはダメ。

 私を立ち直らせてくれた智樹たちの為に今度は自分の力で立ち上がってみせなきゃ。

「私のキャラが立っていないのなら、どうすればキャラ立てできるのか考えて実行すれば良いのよっ!」

 問題が明確なのだから、それに対する答えだって出せる筈。

 私は自分のキャラを立てる為に自分で頑張ってみることにした。

 

 

「やっぱり先人の知恵に学ぶべきよね」

 先行研究は新たな道を開拓する為には欠かせない過程だ。

 そこで私はキャラ立てに成功した先人を訪ねてみることにした。

 

「ね~、デルタ~。私、貴方に訪ねたいことがあるの~」

 澄み切った青い大空に向かって大声で叫ぶ。

 

(何ですか、ニンフ先輩?)

 

 すると空中の青いキャンバスにデルタの上半身が浮かび上がって見えて来た。

 デルタは既に私たちの心の中だけに生きる住民になっていた。

 原因はもう忘れたけど、とにかく既に違う世界の住人になっている。

 肉体なんてキャラ立てを極めたデルタには必要ないのだ。

 

「ねえ、デルタ。アンタ、初登場の時からキャラとしての軸が全然ぶれてないわよね。でもそれでキャラ立ちを極めている。どうしたらそんなことが可能なの?」

 死、バカ、不幸。

 デルタが持っているキャラとしての属性はたったこれだけ。

 初登場時から今まで何も変わりがない。

 でも、たったこれだけの属性を研ぎ澄ましてキャラ立ちを極めている。

 不幸な終わり方をしないだけで人々に驚かれて感想にまでそれを書かれるキャラ。

 それがエンジェロイド・タイプデルタ・アストレアなのだ。

 私にもこんな必殺技と化した属性があれば良いのになあと思う。

 死ぬのはごめんだけど。不幸になるのもごめんだけど。バカになるのもごめんだけど。

 

(ニンフ先輩は、アニメ版の1期後半から2期全般に至るまで事実上のメインヒロインだったじゃないですか。監督やスタッフたちに一番愛されていたじゃないですか)

 

 デルタから聞こえて来たのは意外な回答だった。

「確かにアニメ版では私が悩めるヒロインで、アルファは凛々しく戦うヒーローという立ち位置だった気がするわね」

 アルファが敵と戦っている間に智樹に心を救ってもらっていたのが私。

 それがアニメの基本構図だった気がする。

 

(みんなに愛されているニンフ先輩にそれ以上のキャラ立ちは要らないですよ)

 

「アニメはそれで良かったかもしれない。でも、今はそれじゃ困るの」

 このままじゃ私はこの二次創作世界で\アッカリ~ン/(空気化)してしまいかねない。

 

(十分な愛を受けられなかった私はキャラとして生き残る為に自分の属性を必殺技の領域に高めるしかなかった。ただそれだけのことです)

 

 デルタの声には誇らしさの中に寂しさが含まれていた。

「そっか。属性を固定するということは、他の未来を拒絶することでもあるのよね」

 デルタにも死なない未来が、インテリな未来が、幸福な未来が、その他にも様々な可能性の未来が待っていたのかもしれない。

 けれど、あの子はキャラ立ての為にそれら全てを放棄して己の属性を高めたのだ。

「……私にデルタみたいな石のように硬い覚悟はない、わね」

 私にはデルタのような生き方はできない。

 だからデルタのようなやり方でキャラを立てることもできない。

 

「……参考になったわ。ありがとう」

 暗い気持ちを抱えながらゆっくりと次の目的地に向かって歩き出す。

 

(ニンフ先輩も死を極めてみたらどうですか? 大空から地上を見守るのも乙なものですよ)

 

「絶対嫌よ」

 デルタは、もうあの子にしか辿り着けない境地に辿り着いていた。

 

 

 私が次に辿り着いたのはデルタとは真逆の方向でキャラ立ちに成功した子の所だった。

「ねえ、アルファ。ちょっと良い?」

「……何?」

 BLと百合同人誌を2冊同時に読んでいるアルファに声を掛ける。

 アルファはいつものように無表情のまま。

でも鼻からは2本の赤い筋が川を形成している。

「キャラ立てについてちょっと聞きたいんだけど」

「……キャラ立て」

 アルファが無表情のまま私の顔をジッと見た。

「……ニンフは進取の精神って言葉を知ってる?」

「新しい時代に対応する為に、自ら積極的に新しい分野にチャレンジしていく気概って意味だったわよね」

 私の回答を聞いて笑わない珍獣はコクりと頷いてみせた。

「……私は人間らしく生きる為にたくさんのものを積極的に取り込んでいくと心に誓った」

 “人間らしく”はアルファがずっと追求し続けているキーワード。

 アルファはどうすれば人間に近づけるのかをずっと考え続けている。

「……新しいものを取り込めば取り込むほど以前の自分とはかけ離れていく。それはどうしようもない事実」

 アルファは確かにアニメ版の頃と比べて大きく変わった。

 ヤンデレに始まり、妄想、BL、百合と次々に新しい属性を取り込んでいる。

 その為にアニメ版の時と比べてとても感情豊かになった。

 自主的に動ける方向性も格段に広がった。

 方向はいつも間違っている気がするけれど。

「……そしてこれからも新しいものを取り込み続ければ、私が今後どう変わっていくのか私にもわからない。私の生きる道は海図のない海を航海するのと同じ」

 アルファが目を赤く光らせて私を無表情に眺める。

「…………ニンフ、貴方にどう転ぶかわからない不確定な未来を歩み続ける覚悟はあるの?」

「そ、それは……」

 私はアルファの問いに答えることが出来なかった。

「…………過去の自分を捨て去る覚悟がないのなら、私の真似はやめなさい」

 アルファはすぐ近くにいるのに、アルファがとても遠くに見えた。

 

 

 結局私はデルタの道を歩むこともアルファの生き方を真似することも出来なかった。

 激しく消沈しながら空美の町を歩き続ける。

 すると川原で全裸のまま腕を組み仁王立ちの姿勢で水面を眺めている智樹の姿をみつけた。

「何してんの?」

 智樹は暗い表情で振り返った。

「いやな、自分のキャラ立ちのことで思い悩んでいてな」

「智樹も私と同じ悩みを抱えているの?」

 智樹と同じことで悩んでいるという事実がちょっとだけ嬉しかった。

 そして智樹がキャラ立ちで悩んでいるという告白がどうにも不思議でならなかった。

「智樹は十分キャラが立っているじゃない」

 そもそも大概の物語は智樹の願望を起点に始まっている。

 智樹は物語の中心の筈。

 けれど智樹は切なそうな表情で首を横に振った。

「俺はキャラじゃないんだ。作品の問題提起を行う為の状況、環境なんだ。俺は物語の導入部と結末を提示する為の装置に過ぎないんだよ」

「そ、それは……そう、かもしれないけれど」

 私たちヒロインズが行動を起こすのは大概が智樹絡み。

 もっと言えば如何にして智樹の気を惹くか。

 その探求が毎回ストーリーの中核を成しているのは間違いない。

 なので智樹が何らかの結論を下す時は自動的に物語の終わりを意味することになる。

 なるほど。その意味で智樹はキャラクターではなく、物語の始まりと終わりをもたらす装置なのかもしれない。

「俺だってさ、キャラとして立ちたいっていう欲望はあるんだよ。主人公に絡んで5秒でやられるモヒカンの役とかやってみたいんだよ」

「それで良いの? 智樹のキャラ立て?」

 偶に智樹の考えていることがわからなくなる。

「とにかく俺は装置じゃなく、生き生きとしたキャラクターとして物語に参加したいんだよ。その為にはキャラ立ちしないとダメなんだよ」

 智樹は大きく溜め息を吐いた。

「そっか。智樹は智樹で悩みがあるのね」

 智樹の横に並んで立つ。

「私もね、キャラ立てのことで悩んでいるんだ。このままじゃアルファやデルタに押されて\アッカリ~ン/(出番バイバイ)しちゃいそうで」

「反社会的、非社会的な属性ばかり募らせてそれを個性としているアイツらもどうかとは思うがな」

「でも、このまま何もしないと私は消えちゃう。ヒロインズから外されちゃうよ」

「ニンフも難しい問題を抱えてるんだな」

 2人揃って溜め息を吐く。

「まっ、ここで同じ悩みを抱える2人が出会ったのも何かの縁だ。どうすればキャラが立つのか2人で考えていこうぜ」

「そうね。独りで悩むより2人で考えた方が良いわよね」

 こうして私はキャラ立てについて智樹に毎日相談に乗ってもらうようになった。

 

 

 それから10年の月日が過ぎた。

 私は智樹と結婚し、2児の母としてごく平凡な主婦生活を送っている。

 インパクトのあるキャラ立てにはいまだ成功していない。

 生活には特に不満はない。

 けれど、目立つキャラクターになれなかったことを寂しく思うことが時々ある。

 いつの日かアルファやデルタのような濃いキャラになれることを偶に夢想しながら穏やかな日々を過ごしている。

 ヒロインとして生き残るキャラ立てって本当に難しいと思う。

 

 了

 

 


 
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