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真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第20話

葉月さん

遅れてしまい申し訳ありません。
色々と立て込んでしまい……

さて、気を取り直して!前回、汜水関はこれで終わりといいましたが申し訳ありません。
もう一話続きます。なんだか色々書いてたら収まりきらなくなっちゃいまして。

続きを表示

2011-09-06 19:45:12 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:11550   閲覧ユーザー数:6700

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第20話

 

 

 

 

【汜水関の戦い】

 

 

 

《斗詩視点》

 

「もう、文ちゃん!よそ見してないで手伝ってよ!」

 

私は前線に目を向けて羨ましそうにしている文ちゃんに文句を言った。

 

「あたいはそう言うの苦手だから斗詩に任せる!……お!いいな~、あたいも前線に行きたいぜ~」

 

文ちゃんは私の文句も気にした様子も無くずっと目線は前線を見ていた。

 

「そんなこと言ったってよ~。体が疼いて仕方ないんだよ。なあ斗詩、あたいも言っていいか?」

 

「だ、ダメだよ文ちゃん!私一人じゃ姫を押えてられないよ~」

 

私は涙目になりながら文ちゃんに訴える。

 

「わ、判ってるって。だから泣くなよ斗詩」

 

「な、泣いてないもん。それより本当にここにいてよ?私一人じゃ本当に無理なんだからね?」

 

「わかってるって。何度も言わなくてもさ……ん?」

 

「もう、本当にわかってるのかな~。はぁ~」

 

ずっと前線を食い入るように見ている文ちゃんに私は半分呆れながら溜め息をついた。

 

「なぁ斗詩。あれ何だと思う?」

 

「どうしたの文ちゃん?何か気になるものでも見つけたの?」

 

文ちゃんは目を細めて戦場を見ながら指を指していた。

 

「なんかさ。汜水関の近くでキラキラ光ってるんだよ」

 

「キラキラって武器が陽に反射して光ってるんじゃないの?」

 

「いや。得物があんな光り方しないぞ。そんな感じじゃないんだよ」

 

文ちゃんは戦闘の事になると、凄く鋭くなるからなぁ。だからきっと違うんだろうけど。

 

この戦場で光る物って何かあったかな?思い当たらないけど。

 

私は考えてみるけどまったく思い浮かばなかった。

 

「ん~~っ……」

 

「まだ見てるの?それより姫の所に行こうよ」

 

「わかった!」

 

「きゃっ!ぶ、文ちゃん?急に大声出さないでよぉ」

 

急に文ちゃんは大声を出してきた。

 

「わかったんだよ!斗詩!」

 

「ぶ、文ちゃん。痛いよぉ」

 

文ちゃんは笑顔で私の肩を叩いてきた。

 

「ああ。ごめんごめん。わかったのが嬉しくてさ」

 

「それで、何がわかったの?」

 

「あのキラキラだよ!あれは間違いない服だな!」

 

「服?そんなキラキラ光る服なんてある訳……」

 

そこで私はあることに引っ掛かった。

 

光る服?あれ?何処かで見たことがあったような……

 

「む~。本当なのにキラキラ光る服だぜ絶対に。斗詩はあたしの言うこと信じられないのか?」

 

「ご、ごめん文ちゃん。ちょ、ちょっと考えさせて!ここまで出掛かってるの!」

 

「お、おう……よくわからないけどわかったよ」

 

文ちゃんは私の勢いに押されて思わず頷いていた。

 

キラキラ光る服……キラキラ光る服……

 

ここまで来てるのに思い出せないよぉ。

 

「むぅ~。斗詩が相手してくれないから戦場でも見てるか」

 

文ちゃんは少し不機嫌そうにしてまた戦場に目を向けていたい。

 

「あ~。ありゃ男だな。にしてもあんな服何処で手に入れたんだ?姫だってもって無いぜ」

 

……男?男……キラキラした服……っ!

 

「文ちゃん!」

 

「うぉ!ど、どうしたんだよ斗詩。行き成り大声出して」

 

「どこ!そのキラキラ光る服を着た男の人って!」

 

「え?どうしたんだよ急に」

 

「いいからどこ!」

 

「こ、ここから見て左手の汜水関付近だけど」

 

文ちゃんは私が普段出さないような声で迫ってきて戸惑いながらも場所を教えてくれた。

 

「……っ!本当だ!キラキラ光ってる」

 

間違いなく一刀様だ、よね?やっぱり来てたんだ……でも、戦場に出てるって事は……確か姫は先方を平原の相の劉備さんに任せたって……

 

「なあ、斗詩。本当にどうしたんだ?いつもと様子が違うぜ?」

 

「文ちゃん!」

 

「は、はい?」

 

「ちょっとここお願いできるかな?」

 

「ええ!?ど、何処に行くつもりだよ斗詩!」

 

「顔良隊の皆さん。少数でいいので私に着いて来てください!残りは文ちゃんに従って行動をお願いします!」

 

「御意!」

 

私は自分の隊に指示を出し行動に移った。

 

「それじゃ。文ちゃん!後よろしくね!直ぐに戻ってくるから!」

 

そう言って私は馬に跨り一刀様の居る戦場へと向かった。

 

本当はこんな単独行動しちゃいけないのはわかってるんだけど、どうしても確かめないと。

 

本当に一刀様なのか……

 

「……どうしたんだ、斗詩のやつ?」

 

私が居なくなった後、文ちゃんはただ呆然と私が行った方を見ていた。

 

「あ、あの文醜将軍、我々はどうすれば……」

 

「あー、とりあえず待機してろ。斗詩も直ぐに戻ってくるだろうから」

 

「は、はあ……」

 

生返事をする兵を気にする事もなく文ちゃんは私が向かった方を見ていた。

 

《曹操視点》

 

「桂花、ここの守りは誰だったかしら?」

 

「はい、猛将華雄に神速の張遼です」

 

なるほど世に名高い猛将華雄と神速の異名を持つ張遼か。

 

「中々いい人選ね。名のある武将を置けばそれだけで兵の士気も上がる。突破は難しそうね。北郷たちは一体どうやって突破するのかしら」

 

「定石では通常、守りの三倍は居ないとまともに攻城は出来ません。ですが、今の劉備軍にはそれほどまでの兵は居ません。いくら袁紹から兵を借りたからと言って上手く出来るとは思えません」

 

「そうね。それに麗羽の兵ですもの。まともに仕えるのは一握りでしょうね」

 

「はい。私も袁紹の元で偶に調練を見ていましたがまったく持って練度が低いです。恐らく劉備軍の方がまだましかと」

 

桂花は呆れながら説明をしてくれた。おそらくそれほどまでに麗羽の所の兵は酷かったと言う事。

 

ただ、どうしてこれまで居られたかと言えば、門地とその兵の多さだけでしょうね。

 

「前線より報告!」

 

「なんだ」

 

そこへ前線に放っていた斥候から報告が来た。

 

「は。汜水関を前に劉備軍の関羽と袁術の客将である孫策が前に出てきたとの事」

 

孫策?あの江東の麒麟児か。それにしてもなぜ孫策が劉備軍と?

 

「なぜ孫策が劉備と共に前線に出ているのだ」

 

私の疑問に気づいた秋蘭は報告に来た兵に尋ねていた。

 

「は。詳細は調査中ですがどうやら同盟を結んだとの事」

 

「なるほど。弱いもの同士手を組みましょうという事か。引き続き監視を続けろ!」

 

「御意!」

 

礼をとると兵はすぐさま天幕から出て行った。

 

「口上でもするのでしょうか?」

 

「それなら孫策も出て行く必要も無いでしょう。きっと何かあるのよ」

 

「何か……策と言うことでしょうか」

 

「ええ。きっとそうでしょうね」

 

「しかし華琳様。篭城をする相手に口上は意味が無いのではありませんか?」

 

私と桂花が話していると春蘭が話しかけてきた。

 

「鈍いわね春蘭。これだから戦闘馬鹿は」

 

「な、なんだと!?誰が戦しか出来ない突進武将だ!」

 

桂花は呆れたように春蘭に言うと春蘭は自ら悪態を追加して怒り出した。

 

ふふっ。ホント春蘭たら。

 

私は桂花と春蘭のやり取りを微笑みながら見ていた。

 

「其処まで言ってないでしょ!?さっき華琳様が仰ったでしょ。口上だけなら孫策が一緒に出て行く必要は無いって」

 

「?どういうことだ?」

 

春蘭は理解できていないようで首を傾げていた。

 

「姉者。つまりだな。口上するなら関羽一人で良いということだ。孫策が一緒に居るという事は口上以外の目的があると桂花は言っているのだよ」

 

「なんだ。だったらそう分かりやすく云えば良いではないか」

 

「さっきからそう言ってるじゃない!」

 

「前線より報告!」

 

桂花が春蘭に怒りを露にしていると斥候からの報告が来た。

 

「ふふ。さぁ、遊びは其処までよ。前線の状況を聞こうじゃない」

 

「はっ!」

 

「なによ。脳筋馬鹿の癖に」

 

「はいはい。いじけないの桂花」

 

「よし。話せ」

 

私が桂花を宥めていると秋蘭は兵に話を進めるように言っていた。

 

「はっ。関羽と孫策は城に向かい口上を始めました」

 

「なんですって?本当にそれだけか?」

 

それだけのはずが無い。何か違う目的があるはず……しかし、一体何を……

 

「報告します!」

 

すると直ぐにもう一人の斥候が戻ってきた。

 

「なんだ」

 

「はっ!どうやら。汜水関に居る華雄将軍を挑発しているようです」

 

「挑発?はっ!馬鹿なのか?篭城しているのに挑発したところで出てくるわけが無いだろ。私でもそんな事はしないぞ」

 

「……」

 

「……」

 

「……はぁ。姉者」

 

「な、なんだ?私は今、なにか変なことを言ったか?」

 

「あんたなんて直ぐに挑発に乗って出て行くでしょうが!」

 

「なんだと!そんなことあるはず無いではないか!そうですよね華琳様!」

 

「……それで、状況はどうなっている」

 

私はとりあえず春蘭を無視することにした。

 

「うぅ~華琳様~」

 

私の横で泣いているがとりあえず状況の判断が先だ。

 

「はっ。少し城壁の上で騒いでいるようでしたが今のところ出陣する様子はありませんでした」

 

「そう……どう思う桂花」

 

「華雄は自分の武に相当自信を持っていると聞きます。それを貶されたとあれば黙っているとは思えません。きっと騒いでいたのも華雄本人でしょう」

 

「なるほどね。それでも出てこないという事は張遼が抑えているのね」

 

ふむ。武も状況判断も申し分無し、か。董卓には惜しい人材ね。

 

「ほ、報告します!」

 

「なんだっ!騒がしい!」

 

「も、申し訳ありません!で、ですが」

 

「ですがでは無い!華琳様の御前だぞ」

 

「ひっ!」

 

春蘭の怒気に兵は竦み上がってしまった。これじゃ戦場の報告が聞けないじゃないの。

 

「春蘭。八つ当たりは見苦しいわよ」

 

「うぅ。華琳様~」

 

春蘭は端で蹲り地面に何か書いていた。

 

「あ~。はいはい。後で慰めてあげるから少し黙っていなさい春蘭」

 

「か、華琳様~!!」

 

私の言葉に春蘭は嬉しそうに顔を綻ばせた。まったく、春蘭たら。

 

「姉者が済まなかったな。報告を聞こうか」

 

「は、はっ!汜水関に篭城していた華雄が単身出てきました」

 

「どうやら張遼は華雄を抑え切れなかったようですね」

 

兵の報告に秋蘭が話しかけてきた。

 

「そのようね。それにしても猛将か……もう少し賢いかと思ったけど、とんだ猪だったみたいね」

 

「まったく。猪は春蘭だけで十分だって言うのに……」

 

「ふっ。桂花には姉者の良いところがわかっていないようだな」

 

「分かりたくも無いわ……華琳様。いかがなさいますか」

 

「別に何も。私達は北郷たちの戦いをただ見ていればいいのよ」

 

桂花の問いに簡潔に答える。

 

「多分、華雄が出てきたことにより張遼も出ざるをえないでしょう。後は誰が相手をするかと言うところだけど……秋蘭。あなたなら誰が出てくると思うかしら?」

 

「そうですね……ここは、同盟を結んだ孫策たちの誰かではないかと思いますが……張遼がどう動くかにもよりますね」

 

「そう……」

 

「桂花はどうかしら?」

 

「私も秋蘭と同じ意見ですが、強いて言わせて頂くと張遼に対抗出来うる相手は認めたくないですがあの馬鹿男しか居ないかと」

 

「確かにそうね。でももう一人居たでしょ?張飛が。あの子も相当な力を持っていると思うわよ」

 

黄巾党討伐でもあの小さな体で大の男を軽々なぎ払う力がある。武についても関羽の次くらいはあると見てもいいでしょうね。

 

「確かにそうですが、おそらく力は同等くらいかと。この場合、均衡した状況では決着がつきません。ここは一気に畳み掛けるのが定石かと」

 

「それが妥当でしょうね。さて、一刀たちはどうするのでしょうね」

 

私は楽しそうに笑った。

 

その半刻後に関羽が華雄を討ったと言う知らせが届いた。

 

ふふっ。やっぱり良い腕をしているわあの猛将華雄を倒したんですもの。ますます私の元に置いておきたくなったわよ関羽。

 

「……(ぺろっ)」

 

私は関羽を手に入れたことを想像して舌なめずりをした。

 

《一刀視点》

 

「蒼竜神速撃!」

 

張遼は叫びと共に堰月刀を振り上げて突進してきた。

 

これは流石に避けられそうにないか……かといって、受け止めるのも危険そうだ。

 

そう判断した俺は袋から一つの宝玉を取り出し青龍飛天に装着した。すると青白い刀身は茶色く色を変えた。

 

その間も張遼はどんどんと俺に迫ってきていた。

 

くっ!間に合うか!

 

俺は青龍飛天を地面に突き刺し叫んだ。

 

「土龍壁っ!」

 

(ドドドドドドドッ!!)

 

間一髪、張遼が来る前に地面が盛り上がり土の壁を作り上げた。

 

(カキンッ!)

 

「なっ!なんやて!?」

 

目の前に土の壁が現れ攻撃を防がれた張遼は驚きの声を上げた。

 

「そ、そんなんありかいな!ずるいわ!」

 

「いや。そんなこと言われても。当たったら痛そうだからさ」

 

「い、痛そうてあんた……はぁ。止めや止め!もうやる気のうなったわ」

 

そう言うと張遼は溜め息をつきながら堰月刀を肩に担いだ。

 

「それじゃ投降してくれるのかな?」

 

「んにゃ。しないで」

 

「え?」

 

「おいお前ら!汜水関を捨てて虎狼関まで撤退すんで!しっかり着いてくるんやで!」

 

ニカッと笑うと張遼は声を張り上げて兵たちに指示を出し始めた。

 

「北郷一刀!」

 

自分の兵に指示を出し終えた張遼は振り返り俺の名前を叫んだ。

 

「は、はい!」

 

その声に俺は思わず背筋を伸ばして返事をしてしまった。

 

「次会う時は覚悟しいや、必ずその首貰いに来るで!」

 

「え?あ……えぇ?!」

 

「ほな。さいならな~!」

 

そう言うと張遼は馬に跨り兵たちを連れてあっという間に汜水関に引き返してしまった。

 

「おらおら!どかへんと怪我すんで!」

 

張遼は馬に乗りながらも堰月刀を自由自在に操り俺達の兵を蹴散らしていった。

 

「……さ、流石は神速の張遼、なのかな?」

 

「み、御遣い様。追いかけなくても良いのですか?」

 

「う~ん。とりあえず汜水関には鈴々に星。それに孫策たちが向ってるから簡単には抜けないと思うんだけど……」

 

だけどその考えが甘かった。張遼は鈴々達が着く前に汜水関に戻ってしまったのだった。

 

「御遣い様……」

 

兵たちの目線が俺に刺さる。

 

「……さ、さぁ。切り替えていこう!みんなは鈴々たちに合流して汜水関を攻めてくれ!」

 

俺は居心地の悪さに大声で指示を出す。

 

うぅ。俺って情けないな……

 

「一刀様~っ!!」

 

「ん?」

 

誰かに呼ばれたような気がして辺りを見回した。

 

「一刀様~~っ!」

 

「あれは……斗詩?」

 

馬を走らせてこっちに向かってきたのはおかっぱ頭で金ぴかの鎧を来た斗詩だった。

 

「一刀様っ!」

 

「やあ、久しぶり。傷の具合はもうよさそうだね」

 

「はい!あ、あの一刀様も参加していたんですね」

 

「まあね、斗詩が袁紹さんの所の武将だって言ってたからいつか会えるだろうとは思ってたけどさ」

 

「私はまさか劉備軍に居るとは思いませんでした。この連合の中でも一番のじゃく……す、すいません!」

 

斗詩は言ってはいけない事を言ったと思い勢いよく頭を下げてきた。

 

「ははは、確かにうちが一番の弱小だろうね」

 

「うぅ、すいません……」

 

「気にしてないからいいよ」

 

落ち込んでしまった斗詩の頭を優しく撫でてあげる。

 

「あっ……」

 

するとなぜかさらに俯いてしまい表情が全然分からなくなってしまった。

 

もしかして、子供扱いしたのがまずかったかな?

 

「も、もしかして頭撫でられるのいやだった?」

 

「と、とんでもありません!は、恥ずかしかったですけど。決して嫌じゃなりません!」

 

「そ、そっか。ならよかった」

 

「はい!」

 

斗詩の勢いに押されて思わずどもってしまった。

 

「あ、あの一刀様、なにか私にお手伝いできる事はありませんか!」

 

「そうだな……今のところは特に無いな」

 

「そうですか……」

 

なぜか残念そうにする斗詩に俺は言い訳っぽく説明した。

 

「袁紹さんに言って兵を借りたばかりだからさ。今のところ大丈夫なんだよ」

 

「そう言えば、姫に言われて兵を劉備軍に行かせる様にって」

 

「まあ。そう言うこと……所で、斗詩は何でここに?袁紹軍は本陣だろ?」

 

「え?あ、はい。文ちゃんがキラキラした服を着た男の人が居るって言ってたからもしかしてと思って」

 

「そっか。でも、危険だからこんな危ないことしちゃダメだよ」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

シュンとする斗詩に俺は微笑み頭を撫でながら話しかけた。

 

「でも態々俺に会いに来てくれたことはとても嬉しいよ。ありがとうな斗詩」

 

「い、いえ。そんな……」

 

お礼を言われたのが嬉しかったのか斗詩は顔を綻ばせてくれた。

 

《ナレーション》

 

「な、御遣い様っていつあんな可愛い子と知り合ったんだ?」

 

一人の兵士が横に居た兵士に話しかけていた。

 

「さあな、でもあの鎧ってたしか袁紹軍のところだよな」

 

「ああ、無茶な作戦を言ってきた袁紹の所の将軍だな」

 

「まあ、それはもう終わった事だからいいけどよ」

 

「「いいのかよ!」」

 

終わったことだからもう良いと言った兵士に複数人がツッコンだ。

 

「いいんだよ!そうしないと、やりきれないだろ?」

 

「「……」」

 

その場に居た兵士達は無言になってしまった。

 

「なあ。もしかしてあの袁紹軍の将軍様ももしかして御遣い様の事……」

 

「「……」」

 

「「ま、まさか~」」

 

顔を見合わせて同時にありえないと言う。

 

「でもよ、頭撫でられてあんなに顔を赤くしてるんだぜ?」

 

「……確かに」

 

「なあ、もしここで劉備様が兵を進めてきたらどうなると思う?」

 

「「え゛……」」

 

兵たちは一様に顔を青くした。

 

「そ、それってやばくないか?一度見たことがあるんだけどよ」

 

「なんだよ、何を見たんだよ」

 

「御遣い様が侍女と楽しく話してるのを見た劉備様の顔がよ。顔が笑ってるんだけど感じる怒気が半端なかったんだよ」

 

「「……~~~っ」」

 

それを想像したのか数人の兵士は身を震わせた。

 

「あれはきっと嫉妬してたんじゃないかっておも「誰が嫉妬してたの?」……え?」

 

思いもよらぬところから声が聞こえ兵士達は恐る恐る振り返った。そこに居たのは……

 

「「り、劉備様!?」」

 

「??」

 

そこに居たのは笑顔で首をかしげている桃香であった。

 

「誰が嫉妬してたの?」

 

「い、いえ!何でもありません!な!」

 

「は、はい!さ、先ほど御遣い様が敵将張遼を退け汜水関に撤退して行きました。我々も汜水関へ援護に向かうところです!」

 

「ホント?!やっぱり凄いんだねご主人様!こっちも愛紗ちゃんが華雄さんを倒したんだよ!二人とも凄いよね~」

 

桃香は嬉しそうに喜んでいた。

 

「桃香様。そうでなければこの作戦は成功しませんよ」

 

「あ、そっか。ごめんね朱里ちゃん」

 

さらに桃香の後ろには朱里と雪華が立っていた。

 

「そ、それで、あ、あのご主人様は……」

 

雪華は一人の兵士に話しかけていた。

 

あまり兵士達と話したこの無い雪華は朱里の後ろに隠れながら話しかけていた。

 

しかし、朱里よりも身長がある雪華はその体を隠せては居なかった。

 

「ああ!ええっとですね……」

 

一人の兵士が言い辛そうに周りに目線を送る

 

(お、おい。どうするよ!)

 

(どうするったって……俺じゃどうしようも出来ないぞ!)

 

(こ、ここは正直に言ったら……)

 

(それじゃお前が言えよ!)

 

「?ど、どうかしましたか皆さん?」

 

「「「い、いえ!なんでもありません姜維様!」」」

 

不思議そうに傾げる雪華に兵士達はそろって声を上げた。

 

「ふぇ!」

 

「しぇ、雪華ちゃん。く、苦しいです……」

 

「ふぇ!す、すみません朱里先生!」

 

兵の声に驚いた雪華は朱里の首に抱きついてしまい朱里の首を絞める形に待ってしまった。

 

「あれ、桃香?朱里も雪華ももう来たんだ」

 

一刀は桃香たちが来たことに気がつき近づいて来てしまった。

 

(((っ?!場の空気を読んで下さい御遣い様!!)))

 

兵士達は一斉に心の中で叫んだ。

 

「あ!ご主人さ、……誰ですかその人は?」

 

桃香は手を振ろうとしたが一刀の隣に女の人が立っているのに目が入り一気に場の温度が下がった。

 

(お、おい。少しずつ離れるぞ)

 

(お、おう)

 

(御遣い様。どうかご無事で……)

 

兵たちは少しずつその場から後ずさりをはじめた。

 

「そっか。桃香たちは初めてだったよね。この人は顔良。前に話したよね。白蓮の城に居た時、愛紗と黄巾の賊を退治しに行ったときに助けた人だよ」

 

「ああ、あの時の人なんですね、でもなんでここにいるのかな?……」

 

桃香は笑顔を崩さす話しを聞いていた。

 

しかし、その後ろでは朱里と雪華は肩を抱き寄せ合い震えていた。

 

「え、えっと……あっ。この度は姫……じゃなかった。袁紹様が無茶な命令を申し付けて申し訳ありませんでした」

 

斗詩は正直に一刀に会いに来たと言うのが恥ずかしく、違う理由で誤魔化していた。

 

「そんな!全然気にしてないよ。最初はちょっとびっくりしましたけど」

 

深々とお辞儀をする斗詩に桃香は慌てて両手を振った。

 

「そうですよね……はぁ」

 

斗詩は苦笑いを浮かべて溜め息を吐く。

 

「気苦労が絶えないね斗詩」

 

「そうですね。大変ですけど、姫の事好きですから♪」

 

「そっか」

 

「はい!」

 

一刀は嬉しそうに話す斗詩の顔を見て微笑んでいた。斗詩もまた一刀の笑顔に頬を染めながら元気良く返事を返していた。

 

「む~……」

 

しかし二人が楽しそうにしている前で桃香は面白くなさそうに頬を膨らませていた。

 

「……」

 

(クイックイッ)

 

「ん?どうしたんだ桃香?」

 

桃香は一刀の服の袖をクイクイと引っ張り寄せていた。

 

「ご主人様、早く汜水関に行きますよ!」

 

「え?でもまだ突破されてないんだろ?」

 

「それなら私たちも鈴々ちゃんのお手伝いに行きましょう!」

 

「うおあああ~~っ?!と、桃香!?こ、転ぶ!転んじゃうから!」

 

桃香に引っ張られて一刀は前のめりになりながら桃香に連れられて行ってしまった。

 

「朱里ちゃん!雪華ちゃん!兵の皆に指示お願いね!」

 

「はわわっ!わ、わかりましゅた!」

 

「ふえ!ぎょ、御意です!」

 

「と、斗詩!ま、またな~~~~~~っ!」

 

「は、はいっ……」

 

一人残された斗詩は、ただ一刀を見送る事しかできなかった。

 

「……なんか、すっごく睨まれちゃったな。やっぱり、劉備さんも一刀様のこと好きなのかな」

 

斗詩は一刀たちが消えていった方を見ながら呟いていた。

 

「私も一刀様とご一緒したかったな……」

 

その後、自軍に戻った斗詩は文醜に根掘り葉掘り聞かれ、袁紹からはお仕置きされるのであった。

 

《星視点》

 

「ふむ。張遼を逃がしてしまったか。これでは主に顔向けできないな」

 

私と鈴々、そして雛里は汜水関を攻める為に向っていたが一足違いで張遼が汜水関に戻ってしまった。

 

「あ、あの、星さん。そんな悠長な事を言っている場合ではないと思うのですが……」

 

「おお。それもそうだな。よし、雛里よ。我々はどうすればよいか意見を聞かせてくれるか」

 

「門を破れば問題ないのだ!」

 

雛里に質問したのだが鈴々に返されてしまったな。

 

だがしかし、最もな意見なのだがそれが一番難しい問い事をわかっているのだろうか?

 

「り、鈴々ちゃん。それが難しいから作戦を立てるんだよ」

 

「わかったのだ!なら早くその方法を教えるのだ!」

 

「あ、あわわ。そ、そんな直ぐに出てこないよぉ」

 

雛里は目尻に涙を滲ませて困っていた。

 

中々良い反応をするではないか、これだから遊び甲斐があるというものだ

 

「随分と楽しそうじゃない?そんなに余裕なのかしら?」

 

鈴々が騒いでいると私の背後から声が聞こえてきた。

 

「これは雪蓮殿ではございませぬか。如何いたしましたかな?」

 

「あら。気配を消して近づいてきたのに全然驚かないのね」

 

「我が主に鍛えられておりますからな」

 

主との調練で今まで以上に周りの気配を感じ取る事が出来るようになり、雪蓮殿の気配も僅かだが感じ取れた為驚く事は無かった。

 

「ですが、雛里は驚いているようですぞ」

 

「あわ、あわわ。び、びっくりしましゅた……あぅ」

 

「この様に、噛むくらい驚いていますぞ」

 

「う~ん。軍師ちゃんに驚かれてもね。冥琳と違って武は期待できそうにないし」

 

「あぅ……」

 

「こら~!雛里を苛めるななのだ!」

 

「あらごめんなさい?別にそんなつもりじゃなかったんだけど。そう感じたのならごめんなさいね」

 

「なら許すのだ!」

 

「いや。なぜ鈴々が許すのだ?そこは雛里だと思うのだが」

 

「細かい事は気にしちゃダメなのだ!」

 

鈴々の言葉に私だけでなく雪蓮殿も苦笑いを浮かべる。

 

「ふふっ。話を戻すわよ。汜水関の攻略だけど」

 

「うむ。我々も攻めようとしているがやはりそう簡単にはいかないようだ」

 

城壁を見上げて溜息を吐く。

 

この門を越えても次はこれ以上の虎狼関がある。まったく、守りにはこれほど心強いものは無いが、攻めに回るとこれほど厄介なものは無い。

 

「ええ。こちらも同じよ。そこで提案があるのよ」

 

「提案ですかな?」

 

「ええ。軍師ちゃん、ちょっとこっちに来てくれるかしら?」

 

「は、はひっ!」

 

雛里は雪蓮殿に呼ばれて緊張のあまりカチカチになってしまっていた。

 

「ふふっ。ちっちゃくて可愛いわね。ちょっと耳貸してね……」

 

そう言うと雪蓮殿は雛里に耳打ちをした。

 

「あわわ。しょ、しょれは危険だと思いましゅ!」

 

「だからいいんじゃない。冥琳に言ったら絶対阻止されるもの」

 

「そ、それは当たり前かと……」

 

「だからこうして秘密に軍師ちゃんに説明したんじゃない♪」

 

慌てる雛里に悪戯を思いついた子供のように笑う雪蓮殿に私も鈴々も首を傾げるしか出来なかった。

 

「雪蓮殿。一体何を雛里に話したのですかな?」

 

「ふふっ。それはね……」

 

「あーっ!やっと見つけたよ雪蓮!」

 

雪蓮殿が話し出そうとしたときだった。

 

声を荒げて孫策軍の将である優未殿が現れた。

 

「もう!探したよ雪蓮」

 

「あら。私に何か用かしら?」

 

「用が無かったらこんな所に来ないよ。冥琳が今すぐ戻って来いって」

 

「え~っ!なんでよぉ~」

 

優未殿の話で文句を言い出す雪蓮殿。

 

「そりゃ。雪蓮が変なことを企んでると思ったからでしょ」

 

「何でそんなことが分かるのよ」

 

「ほら。あれ分かる?」

 

そう言うよ優未殿は汜水関とは逆の方を指差していた。

 

………………

 

…………

 

……

 

「ふむ。この望遠鏡は便利だな。雪蓮の顔がよくわかるぞ」

 

「あの顔は何かを企んでいる顔だからな。優未を向かわせて正解だった」

 

「むぅ。少しは儂にも見せてくれんかのぉ」

 

「ダメです。祭殿に渡すとろくな事がおきませんから」

 

「そんなこと無いぞ。少しは儂を信用せい」

 

「ダメです。我慢してください」

 

「むぅ……」

 

「はぁ。一刀も冥琳に変な玩具を渡さないで欲しいわね。これじゃ私が楽しめないじゃない!」

 

「それを私に言われも困るんだけど。とにかくここは私が引き継ぐから雪蓮は戻ってよね。そうしないと私が怒られるんだから」

 

「わかったわよ。もう……こうなったらこの埋め合わせはしてもらうんだからね冥琳!」

 

雪蓮殿は誰も居ない方を向いて大きな声で叫んでいた。まあ、その方向には孫策軍が居るのだが。

 

「はぁ。それじゃ私は戻るけど。優未、無茶だけはしないでよ」

 

「一番無茶する雪蓮に言われたくないけどね」

 

「言うじゃない。まあいいわ。それじゃぁね♪」

 

雪蓮殿はそう言うと手を振って自分の陣地に戻っていった。

 

「ごめんね~。雪蓮がなんか無茶言ったでしょ」

 

「あわわ。びっくりしました。あんな作戦を思いつくなんて」

 

「雪蓮殿は何を言っていたのだ雛里よ」

 

「鈴々にも教えるのだ!」

 

「じ、実はですね……」

 

雛里の話しを聞き、雪蓮殿がしようとしていたことに思わず苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「あ、あはは……雪蓮らしいな。それ……まあ、この状況じゃ一番良いやり方かもしれないけどね」

 

それを聞いていた優未殿も呆れていたが私達ほど驚いてはいなかった。

 

「う~ん……ねえねえ。えっと……」

 

「あ、雛里です」

 

「そうそう雛里ちゃん!ちょ~っとお願いがあるんだけど」

 

「なんでしょうか?」

 

「うん。少しの間だけでいいんだけど上に向かって弓を撃ってくれないかな?」

 

「う、上にですか?それは構いませんが当たらないと思いますよ?」

 

「うん。当たらなくていいよ。少しの間だけ敵が壁から離れてくれればね♪」

 

「あわわっ!まさか優未さん。雪蓮さんがやろうとしたことを行うつもりですか!?」

 

雛里は優未殿が何をしようとしているかに気づき慌てだした。

 

確かにあのような突拍子も無い事をするのは驚きではあるがな。

 

「あったり~♪だってさ~。門は中々破れないし。正直、兵に指示を出すのも飽きてきちゃったんだよね」

 

「でも、敵陣に単身で乗り込むのは危険でしゅ!」

 

「それじゃそっちからも一人来れば?そうすれば問題ないよね!」

 

「あわ、あわわ……で、ですが……」

 

「鈴々行きたいのだ!」

 

すぐさまに行きたいと言い出したのは鈴々だった。

 

「あわわっ!だ、ダメだよ鈴々ちゃん!鈴々ちゃんは兵の皆に指示を出さないと」

 

「うにゃ~。そういうむつかしいことは鈴々得意じゃないのだ」

 

「それでもここにいてもらわないと困るのぉ」

 

「むぅ……わかったのだ」

 

まあ、無理も無い。確かに私も鈴々も暴れたり無いのは事実ではあるが雛里に泣かれてはな。

 

「え~。誰も来てくれないの?」

 

「いや。私が行こう。身軽さなら私が打て付けだろう」

 

「あわわ!?」

 

「よし!決定だね!それじゃ雛里ちゃんよろしくね!こっちもありったけの矢を打ち込むからさ!」

 

「あぅ~わかりました。で、では直ぐにとりかかります!鈴々ちゃん、弓兵さんを全員ここに連れてきてください」

 

「わかったのだ!」

 

鈴々は元気よく駆け出していった。

 

「すまんな。雛里よ。少し無茶をしてくるが心配は無用だぞ」

 

「あわわ。それでも気をつけくださいね星さん」

 

「ああ。肝に銘じておこう」

 

鈴々には悪いが私は存分に暴れさせてもらうとしよう。

 

私は愛槍の龍牙を強く握り締めた。

 

「そうだ。雛里よ」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

私はあることを思いつき雛里に話し出した。

 

「多分だが、主も同じことを言うかもしれないからな」

 

「あ、あのそれは何でしょうか」

 

「うむ。それはな……」

 

私は雛里に耳打ちをした。

 

「あわわっ!しょ、しょれは!?」

 

「まあ、そういうことだ。では私は言ってくるぞ」

 

「あわ、あわわっ!ま、待ってくださいよ。星さ~~んっ!」

 

慌てる雛里を背に私は笑いながらその場から離れた。

 

「さて、主よ。私が思ったようになるか楽しみですぞ」

 

《優未視点》

 

「そいじゃ。かる~く、行きましょうか!」

 

自分の得物である双虎戟を手に持ち軽く振るう。

 

「おや、随分と変わった得物ですな。両の端に刃を持っているとは」

 

「ん?ああ、これ?変わってるでしょ?」

 

星が珍しそうに私の得物を見てきた。

 

「ふむっ……それにしても些か短めではないですかな?これでは敵との間合いが近すぎる気もするが」

 

「にひひ~♪そう思うでしょ?でも!そうじゃないんだな~」

 

私は得意そうに笑いながら答えた。

 

「ふむ。気になるところだが……」

 

「だね。まずはさっさと開門させに行かないとね」

 

二人で汜水関を見上げる。

 

「太史慈様!準備が整いました!」

 

「あいよ~。こっちは準備整ったけど。そっちはどうなのかな?」

 

「こ、こちらも整いました~」

 

ちっこい軍師の雛里ちゃんがパタパタと走りながら報告してきた。

 

「……」

 

「あ、あの。どうかしましたか?」

 

「いい……」

 

「え?」

 

首を傾げる雛里ちゃん。その仕草も可愛いっ!うぅ~~~~っ!!我慢できない!

 

(がばっ!)

 

「あわわっ!?」

 

「や~ん!何この可愛い生き物!我慢できない!すりすり~~」

 

「あぷ!ゆ、優未ひゃん!?」

 

「ああん!さんだなんて他人行事じゃなくて『優未ちゃん』って呼んでいいんだよ~」

 

「あわ、あわわ~~~~っ!!」

 

「ん~~~っ!その声も可愛いっ!雪華ちゃんも良かったけど……ああ~!お持ち帰りしたい!」

 

このモチモチのほっぺ!明命ちゃんに引けをとらないよ!

 

「せ、星ひゃん!み、見てないでたふけてくだひゃい~~~」

 

「お、おお!すまんすまん。余りにも優未殿が幸せそうだったのでな。優未殿、そろそろ行こうではないか」

 

「ん?ああ。そうだね。名残惜しいけど早くしないと冥琳に怒られちゃうからね」

 

「ふむ。でしたら終わった後に存分に抱きつけばよいですぞ」

 

「せ、星さん!?」

 

「うん!それいいね!よぉ~し!俄然やる気が出てきたよ!」

 

「あわわっ!そ、そんなにやる気出さないでくださいぃ~~~っ!」

 

悲鳴を上げる雛里ちゃんだったけど、もう私のやる気は誰にも止められないよ!

 

「よ~し!野郎共!私の欲望の為に弓を一斉照射!行くよぉ~!」

 

「よし!我らも続くぞ!遅れるなよ!」

 

「あわわ!よ、欲望ってなんでしゅか!?」

 

「「ってーーーーーっ!!」」

 

(ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!!)

 

私と星の合図で一斉に弓が放たれる。

 

「いいねいいね!私の桃源郷の為にがんばれー!」

 

「と、桃源郷ってなんでしゅか!?」

 

「雛里よ。いちいち反応しなくても良いと思うぞ」

 

「あわわ……」

 

にひひ~♪ああ、慌てる雛里ちゃんもかわいいなぁ~もう!

 

「太史慈様っ!梯子かけました!」

 

雛里ちゃんの慌てる姿を堪能していると梯子が掛かったと報告がきた。

 

「よぉ~っし!それじゃ行くよ!」

 

「うむ!雛里、行って来るぞ。お前のスリスリ権を頂くために!」

 

「あわわっ!?い、いちゅのまに!?」

 

「なにぉ~!雛里ちゃんのスリスリ権は譲らないんだからね!」

 

「では、どちらが多く倒すか競うということで如何かな?」

 

「よぉ~っし!それ乗った!負けないんだからね!」

 

「わ、私に拒否権はないんですかぁ!?」

 

「「ないっ!」」

 

「あわわっ!」

 

声をそろえて言うと雛里ちゃんは目を丸くして慌てた。その仕草も可愛いよぉ!

 

「っと、こんな所で身悶えてる場合じゃないよね。そんじゃま、すー……はぁ~……」

 

私は目を閉じて一度深く深呼吸をした。

 

「……孫伯符の友!太史子義、いざ参る!」

 

「ほう……これは中々……」

 

私の豹変にも驚くことなく星は頷いていた。

 

珍しいな。大体、私のこの状態を見ると驚くのに。

 

「いいかお前達!矢を射続けろ!敵に隙を見せるな!」

 

「「「おう!」」」

 

「では行くぞ。趙子龍よ!」

 

「うむ。太史慈殿の武。しかと見させていただこう」

 

頷く星とそれぞれ掛けられた梯子に向かい駆け出した。

 

「て、敵将が上ってきたぞ!撃て撃て!」

 

敵が矢を撃って来るが私にはそんな飛び道具は聞かない。

 

「ふん!邪魔だ!死にたくなければそこを退くことだな!」

 

「ひっ!」

 

私は矢を弾き、睨みつけながら敵兵に殺気をぶつけるとそこに居た敵兵は小さく悲鳴を上げていた。

 

「な、何を恐れている!恰好の的では無いか射続けろ!そのうち当たる!」

 

はぁ、わかって無いな~。確かに普通の兵なら恰好の的だろうけど、そん所そこらの兵と一緒にしないでもらいたいよまったく……

 

「ほらほら、どうした!もう少しで着いてしまうぞ!」

 

「く、くそ!おい!岩をもってこい!梯子に落とすんだ!」

 

むっ……それで梯子を折られるのはちょっと厄介だな~。

 

「如何する太子慈殿!」

 

星も少しあせってるみたいだね。

 

天辺に着くにはまだ距離があり、このままだと確実に岩を落とされるな……

 

「仕方ない……趙雲よ!こちらに飛び移れ!」

 

「なに?」

 

「私が一気に上まで運ぶ!」

 

「……」

 

「信用しろ。それに悩んでいる暇は無いはずだ!」

 

「確かに……では、行くぞ!とうっ!」

 

星は高く飛び上がり私の梯子の方へと移ってきた。

 

「よし!双虎戟の刃に乗れ!」

 

私は梯子の段に足を絡ませ踏ん張る体勢を整えた。

 

「行きますぞ太子慈殿っ!」

 

「いつでも!……っ!!」

 

星は私の双虎戟に上手く乗ってきた。

 

「ぬ……ぬぁぁぁああああああっ!!!」

 

(ブンッ!)

 

私は星が乗った双虎戟を思いっきり上へと振り上げた。

 

「なっ!なに!?」

 

星は見事に城壁を通り越して敵兵の頭上に舞い上がっていた。

 

「二人の連携技しかと見たか!さぁ!この趙子龍の槍。しかと見届けよ!はいはいはぃぃぃいいいいっ!!」

 

空中の落下を利用しながら星ちは槍を自在に操っていた。

 

「ほらほら!上ばかりに気を取られてると……」

 

(ザシュッ!)

 

「ギャーーーーーーッ!!」

 

「い、いつの間に!」

 

「お前達が上に目を取られているうちにさ!さぁ、次は私の舞を見てもらおうか!」

 

私はそう言いながら双虎戟を十字にして構えた。

 

「……双虎十字戟。これがこの子の本当の姿だよ!」

 

(ブンブンッ!)

 

「ぐはっ!」

 

「な、何だの攻撃はっ……がはっ!」

 

「くそ!攻撃が出来ない!」

 

私は十字戟をまるで独りでに動いているかのように体の回りを回しながら敵を切りつけていった。

 

「ふん!お前達ごとき雑魚が私に敵うと思うなよ!」

 

「むう。このままでは私が負けてしまうではないか。ここで雛里のスリスリ権を逃してなるものか!」

 

そう言うと星ちゃんも城壁に居る敵兵を倒し始めた。

 

「太史慈様!」

 

一人の兵が私に駆け寄ってきた。

 

よく見たら梯子から何人かの兵たちも上がってきているようだった。

 

「来たか。急ぎ門開けろ!そして我らが主をお迎えするのだ!」

 

「御意!」

 

兵は門を開けるために数人の兵とともに下へ続く階段を下りていった。

 

「あらかた上の敵を片付けた。我々も下に行くぞ。趙雲よ!」

 

「あいわかった!お前達も気を引き締めるのだぞ!」

 

「おう!」

 

こうして汜水関は着々と占拠して行った。

 

あ~疲れた……この状態ってホント疲れるんだよね~

 

とにかく早く終わらせて雛里ちゃんにスリスリしたいよ!

 

あっ!雪華ちゃんでもいいな~。二人ともほっぺがもちすべで気持ちがいいんだよね~。

 

もう、やめられない止まらない!って感じなの!

 

私はそんなことを思いながら双虎十字戟を振り回していた。

 

《一刀視点》

 

「ちょ!と、桃香!引っ張りすぎだよ!」

 

「……」

 

桃香はあれから無言で俺を引っ張っていた。

 

その後ろでは朱里と雪華がなぜか怯えていた。

 

「よ、よくわからないけど俺が悪いなら謝るよ。ごめん」

 

「……はぁ。ご主人様っていつもそうだよね」

 

「え?」

 

桃香は立ち止まり振り返り俺の目をジッと見てきた。

 

「なんで私が怒ってるかわかって無いでしょ」

 

「えっと……うん。ごめん」

 

「はぁ。もういいよ。ご主人様のそう言うところ慣れちゃったから」

 

よ、よくわからないけど機嫌は良くなった、のかな?

 

「それより!早く鈴々ちゃんたちに合流しよ」

 

「そうだな。これ以上長引くのも犠牲が増えるだけだ。門がまだ開いてないようなら手伝わないとな」

 

「うん!えへへ♪」

 

「うぉ!と、桃香?」

 

桃香は行き成り俺の腕に抱きついてて俺は慌てて離れようとした。

 

「もう!これは罰なんだから離しちゃダメだよ!」

 

「うぐっ……そう言われると」

 

「ほらほら、早く行かないと!」

 

「わ、分かってるけど……」

 

うぅ~。こんなに抱きつかれると思うように歩けないんだよ。

 

「……」

 

「えへへ♪」

 

「ま、まあ。桃香が喜んでるならいいか」

 

「ん?何か言いましたかご主人様?」

 

「何も言って無いよ。それより鈴々たちに合流しよう」

 

「はい!」

 

桃香は笑顔で返事をする。やっぱり桃香は笑っている時が一番可愛いな。

 

「あわわ。やっぱりご主人様は凄いです」

 

「ふぇ~。怒った桃香様の機嫌をこんなに直ぐに直してしまうなんてやっぱり凄いですよね」

 

「うん。でも……」

 

「どうかしましたか?朱里先生」

 

「はわわっ!な、なんでもないでしゅよ!」

 

「?そうですか。でしたら早く行きましょう。ご主人様たち行っちゃいましたよ」

 

「おーい!朱里、雪華!早くおいで」

 

後ろを振り返り着いて来てると思われた朱里たちがまださっき居た場所から動いていなかったから大声で呼んだ。

 

「今行きます。ご主人様!」

 

「はわわっ!ま、待ってください雪華さ~~ん!!」

 

慌てて俺のもとに駆け出す朱里と雪華。

 

「ふふっ。随分と賑やかね。こんな戦場のど真ん中なのに」

 

「それがうちらのいいところだよ雪蓮」

 

朱里たちを見ていると背後から声を掛けられた。

 

「あら、あなたも驚かないのね。面白くないわね」

 

「気配を消しているのが分かったので驚かそうとしているのは分かりましたよ。その証拠に桃香は驚いているからね」

 

「び、びっくりした~。もう、驚かさないでください雪蓮さん!」

 

「ふふっ、そうみたいね。それで汜水関の状況だけどそちらは分かっているのかしら?」

 

「は、はひ!今、星さんと鈴々ちゃんが責めていいます、ですが……」

 

いつの間にか追いついた朱里が説明を始めた。

 

「まだってことでしょ?私もその場に居たからわかっているわ」

 

「な、なんで雪蓮が前線に?」

 

「だって~。戦場でジッとしてるなんて私の性に合ってないんですもの」

 

そう答える雪蓮だったけど……

 

「……えっと。なんで縛られてるんですか?」

 

よく見ると雪蓮は腰に縄で結ばれていてその縄の先は冥琳が握っていた。

 

「無謀なことをしでかさないようにな」

 

「ひっどいわね~。ちょ~~っと汜水関の上に行こうとしただけじゃない」

 

「あ、あの……十分無謀だと私は思いますけど」

 

桃香の言葉に俺も頷いた。

 

「さすがに呉の王がそう言うことをするのは如何なものかと思いますよ?」

 

「もう、一刀までそんなこと言うの?いいじゃないちょっとくらい……」

 

「どこがちょっとか分からないけど……それじゃ今攻めてるのはここにいない優未か祭さんってことでいいのかな?」

 

「ああ。今は優未だ。祭殿は今、兵に指示を出している。だが……はぁ」

 

そこで冥琳はなぜか溜息を吐いていた。

 

「あ、あの。何か問題でも?」

 

「ああ。大問題だ。まだ祭殿に汜水関へ行かせれば良かったと後悔をしている」

 

「えっと……それは?」

 

「……優未も雪蓮と同じように壁に梯子を掛けて上に登ったのだ」

 

「え……それって危険だろ!」

 

「ああ。だが優未だけでは無いぞ」

 

……な、なんだか凄く嫌な予感がするぞ。そんなことをしそうなのはうちでただ一人……

 

「も、もしかして星……とか?」

 

「ああ。そのまさかだ。望遠鏡で覗き確認した」

 

や、やっぱりか……何考えてるんだよ星のやつは……

 

「はわわっ!本当です!星さんと優未さんが上で戦ってます!」

 

「はぁ~。とにかく汜水関に向かおうその内、門が開くだろうから。その後ゆっくり説教だけどな」

 

「ああ。こちらもだ雪蓮共々たっぷりと灸をそえなくてはな」

 

「や~ん。冥琳たらこわ~い!助けて一刀~~♪」

 

雪蓮はそう言うと俺に抱きついてこようとした。

 

「ご主人様に抱きついちゃだめ~~っ!」

 

「そうはいかんぞ雪蓮!」

 

(ぐいっ!)

 

「きゃん!ぶー!ぶー!冥琳のイジワル!」

 

冥琳は縄を引っ張りなんとか俺は抱きつかれずに済んだ。

 

「はぁ。済まないな北郷。雪蓮は気に入った奴だと抱きつく癖があるんだ」

 

「そ、そうなんですか……って、と、桃香?腕が痛いよ!」

 

「え!?あ、ご、ごめんなさいご主人様!」

 

慌てて離れる桃香。ま、まあ胸が当たって気持ちよかったのもあるんだけど……って何思ってるんだ俺は!

 

「と、とにかく汜水関に行きましょう!もしかしたら星たちが門を開けてくれるかもしれない!」

 

「それもそうね。冥琳、聞いたとおりだからもう縄解いてくれない?どうせ、もう戦闘も終盤なんだし無茶はしないわよ」

 

「……仕方ない。約束だぞ雪蓮」

 

「は~い♪」

 

「その返事は信用できないんだがな……まあいい」

 

そう言うと冥琳は雪蓮の縄を解き始めた。だけど……

 

「ふふ♪隙あり~♪」

 

「なっ!」

 

「あーっ!」

 

「うぉ!?」

 

「はわわっ!」

 

「ふえ!?」

 

雪蓮はみんなの隙をついて俺に抱きついてきた。

 

「さ~行くわよ一刀♪早くしないと門が開いちゃうでしょ」

 

「ちょ!し、雪蓮!?の、のわーーっ!!」

 

急に雪蓮は俺の腕を取り走り出した。

 

「……っ!ま、待ちなさい雪蓮!約束が!」

 

「私は無茶はしないっていっただけよ。別に一刀に抱きつかないなんて言ってないも~ん♪」

 

「……え、あ……待ってくださいご主人様!雪蓮さん!ご主人様から離れてくださ~~~い!」

 

「はわわっ!ま、待ってくだいしゃ桃香しゃまーーーっ!!」

 

「ふぇぇぇえええっ!わ、私を一人にしないでくださいご主人様ーーーっ!!」

 

もう何がなんだかよくわからない状態になってきたな。でも……

 

「ふふっ♪」

 

雪蓮が楽しそうならいい、のかな?

 

《To be continued...》

愛紗「終わったな」

 

葉月「はい。終わりました……」

 

愛紗「さて、言い訳を聞かせてもらおうか葉月?」

 

葉月「えっと……その前にいいですか?」

 

愛紗「なんだ」

 

葉月「取り合えず、挨拶しませんか?」

 

愛紗「……みな、よく来てくれた。今宵は私が葉月に説教するところをたっぷりとごらんに頂こう」

 

葉月「それ、挨拶じゃないですよね!挨拶じゃ!あ、どうもこんにちは説教され中の葉月です。さて、なぜ説教されているかといいますと……」

 

愛紗「この話で汜水関編は終わりではなかったのか?それと私が今回は出てきて無いではないか!まだあるぞ!なぜ雪蓮殿はご主人様に抱きついているのだ!」

 

葉月「さ、最後のは今回の話しに関係ないですよね!」

 

愛紗「煩い!さっさと答えんか!さもなくば……(チャキッ)」

 

葉月「っ!せ、誠心誠意お答えさせていただきます!」

 

愛紗「うむ。ではまずは確か汜水関編は前編と後編だったな。なのになぜ終わっていない」

 

葉月「それはですね。自分の文才能力が無いせいで長々と書いてしまい。収集が着かなくなったと言いますか……」

 

愛紗「つまり、書きたいことが多すぎた、と。そう言いたいのだな」

 

葉月「はい」

 

愛紗「書きたいことが多い割りになぜ私が出てこないのだ?」

 

葉月「あ、それは元々書く予定が無かったからです」

 

愛紗「……あっさりと言ってくれるなーーーーっ!!」

 

葉月「わっ!な、何するんですか正直に答えたのに!」

 

愛紗「煩い!まったくお前と言う奴は……」

 

葉月「だって前回は愛紗が活躍したんだからいいじゃないですか少しは他の人たちに花を持たせて上げましょうよ」

 

愛紗「それは構わん。だが、一言もましてや姿さえ見せていないのだぞ!これが黙らずに居られるか!」

 

葉月「もしかして。一刀と一緒に居られなかったことに嫉妬しちゃってます?」

 

愛紗「なっ!何をバカなことを!そんなことあるわけがないであろう!」

 

葉月「ですよね~。天下の関羽とあろうお人がそんなことで怒るわけないですよね~」

 

愛紗「う、うむ。その通りだ」

 

葉月「ですよねですよね。ちょ~っと他の人が一刀とイチャイチャしてたくらいで関羽将軍が怒るわけないですよね~」

 

愛紗「ぐぬぬ……」

 

葉月「いや~。本当はもう少し斗詩か雪蓮と絡ませたかったんですけどね~。ああ、次回は優未と一刀って展開でもいいかな!」

 

愛紗「~~~っ!!ふ、ふざけるな~~~~~っ!ご主人様は誰にも渡さぬぞ!ご主人様は……ご主人様は……私のものだーーーーーっ!!」

 

葉月「(カチッ)はい!頂きました!」

 

愛紗「……へ?」

 

葉月「はい。ポチッとな」

 

『ご主人様は誰にも渡さぬぞ!ご主人様は……ご主人様は……私のものだーーーーーっ!!』

 

愛紗「な、な、なーーーーーーーっ!!」

 

葉月「ふっふっふ。この言葉を一刀に聞かせに行って来ます!」

 

愛紗「なっ!ま、待て!そうはさせぬぞ!そんな恥ずかしい言葉を聴かれては武人として一生の恥!」

 

葉月「ならいっそうの事、一刀のこれになっちゃいましょうよ。これ」

 

愛紗「……何だその小指は意味が分からぬぞ!」

 

葉月「あ。知らないのか。なら今度一刀に『私はご主人様のこれです』と言ってみてください。そこに桃香や星が居るとなおいいですね」

 

愛紗「なんだか嫌な予感がするが。意味を教えろ!」

 

葉月「意味は一刀に聞いてください。もちろんさっき言ったのをやった後にですよ」

 

愛紗「な、納得出来ないが致し方ない」

 

葉月「っと言うわけで、次回も汜水関編です。長くなって申し訳ありませんが次回もよろしくお願いします!ほら、愛紗。皆さんに挨拶挨拶!」

 

愛紗「え?ああ。ごほん!ではみなの者。また次回もよろしく頼むぞ」

 

葉月「では、ご機嫌よ~~~」

 

愛紗「って!まだ説教は終わってないぞ!待てーーーーーーっ!!!」


 
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