No.293541

【TB・虎兎】僕と貴方の砂糖菓子【腐向】

木守ヒオさん

■本編があんな展開なので、仲良しな二人に飢えて勢いのまま虎兎です…。あああ、心配! 心配!!■甘ったるい内容です。兎虎はすんなり勢いだけでまとまりそうなんですが、(兎が押しまくって虎諦めモードから始まるみたいな)虎が兎になにかするには、なんか越えなきゃいけないハードルがいろいろありそうで、子ども扱いしてるうちは難しいだろうなー。書いたけど! このお話は、空白の十ヶ月で。バニーのデレが絶好調になってるころ。虎徹は自分を信頼していろいろ素顔を見せ始めたバニーがかわいーなー、相棒って言うにゃまだガキだけどなーみたいな感じ? こじつけだけど! この二人の仲良しが見たかったんだから、いいんだ……。■ちょっと満足した。この次はもっとまとまった量で書きます。しかし本編、二人があんまり辛くなかったらいいな。いや、違う。最後はもう一度立ち上がって、みんなで笑ってくれますように!

2011-09-05 03:21:53 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:933   閲覧ユーザー数:925

 

 僕の初めてのキスの相手は、母さんだった。

 二回目は、父さん。

 両親は計算には入れないと知ってからは、誰ともそんなことをしなかった。する気にもならなかった。

 よく言われたけど、お堅い優等生だからじゃない。ただやらなくちゃいけないことが多すぎて、それどころじゃなかっただけだ。

 あのころの僕には両親の敵を取るのがなによりも大切な目標で、ほかのことはどうでも良すぎて、もう一生そんなことに興味なんか持たなかったんじゃないかとも思う。

 いや…それは、もしかしたら今もあまり変わらないのかもしれないけど。

 そんな僕が両親以外で初めてまともにキスをした相手は、一回りも年上のおじさんだった。

 合意の上じゃない。たぶん、お互いに酔ってたんだ。

 それからいろいろあって、だんだんおかしな関係になってしまって。

 本当に、人生ってなにがあるかわからない。

 今は、僕のベッドにそのおじさんが寝転がってる。それも裸で。

 ………僕も、裸で。

 

「さっきからずっと読んでますけど、面白いですか? その雑誌」

 

 汗をかいたらすぐにシャワーを浴びたい方だったのに、慣れって怖いな。今はそんなに気にならない。

 飽きもせず雑誌を見てる隣のおじさん、……虎徹さんは最初からそうだった。

 

「んー? まあな。バニーちゃんは自分が出てる雑誌とか、気にならねえのか?」

「……なりませんね。興味もありませんし」

 

 僕はどの雑誌でどう答えたか、大体把握してる。それに、インタビューに対してどう答えるか自分の中にマニュアルがあるから、内容を改ざんされでもしない限りは気にならない。

 

「もったいねえな。ほら、カッコ良く撮れてるぜ」

 

 そう言って虎徹さんが僕に見せたページには、赤いスーツ姿の僕が洒落たバーの高い椅子に腰掛けて笑っていた。

 ああこれ、ゴールドステージで最近オープンした会員制の店だ。宣伝を兼ねていて、僕も会員に登録されてる。

 興味もないし、行かないけど。

 顧客の中にはマーベリックさんも入ってると聞いた。年齢層が高めだし、僕が行くと浮くんじゃないかな。

 

「VIP専用の店だってよ。俺もぜひどうぞって会員カード渡されたんだ」

「行くんですか?」

「まさか。俺の財布じゃ無理だろ。それに、こういうとこは性に合わねえ。酒の味がわかんなくなりそうだ」

 

 嘘つきですね。

 何度かいっしょに高級店で接待したことがあるけど、意外なぐらい雰囲気に馴染んでた。

 好きじゃないのは本当だろうけど、その辺りは年の功だとあとでバイソンさんが笑ってた。

 でもそれは言わずに、僕の髪を手慰む虎徹さんの厚い胸元にもたれ掛かる。

 

「貴方は気楽なお店が好きですよね」

「おう。その方が楽しいだろ? 今度いっしょに行くか?」

「……考えておきます」

 

 実は二度ほど、虎徹さんと飲みに行ったことがある。でも、すぐに店を出て僕の家で飲むことになったんだ。

 僕は顔を出してるヒーローだから、どうしても目立ってしまって。あの時はいっしょにいたバイソンさんや、ファイヤーエンブレムさんにも少し申し訳ないような気がした。

 

「ああ、店だとおまえが落ち着かねえか。なあ、メガネを外して、帽子でも被ったらいいんじゃねえ?」

「メガネがなかったら困ります。コンタクトはしない主義ですし、帽子も好きじゃありません」

「頑固なヤツだな」

「お互い様です」

 

 雑誌を取り上げて言うと、虎徹さんが笑って僕の頬に手を添えた。大きくて、厚みのある手のひらだ。指も節くれ立っていて、いかにも力強い。

 僕のような若造とは違う。大人の、男の手だった。

 硬い指が優しく僕の耳に当たって、まだ汗で湿ってる髪に絡みつく。

 

「虎徹さん……くすぐったいです」

「くすぐってるからな」

 

 じっと僕を見つめた琥珀色の眸が細められて、甘やかな光が浮かぶ。ああ、なんだか蜂蜜みたいだ。

 いつまでも離れない僕の手が握られる。厚みのある手のひらをそっと握り返して見上げると、虎徹さんはすり寄せるように僕の頬に唇を押しつけた。

 硬いヒゲが当たって痛い。でも、嫌じゃない。

 お返しに僕も虎徹さんの頬にキスをする。

 なんだか照れてしまって、急に逃げたくなったのだけど、虎徹さんはなにも言わずに僕の背中にきつく腕を回した。

 それから、きゅっと目を閉じた僕のまぶたにキスをして、そのまま唇で頬を滑って…唇を重ねられた。

 こんなこと、しちゃいけない。今でも頭の片隅で危険信号が警告してくるのに、僕は逃げようとしなかった。

 僕に誰かの体温を思い出させてくれたのが、虎徹さんだからだ。

 この人は、僕に危害を加えたりしない。まるで父さんや母さんを信じていた幼いころのように、虎徹さんに対してはもう僕の心から警戒心が消えていた。

 

「バニー…嫌か?」

「いいえ……」

 

 なんだか、見てるだけで僕の方が赤くなるぐらい、優しい声で、優しい眸で囁かれて、今さら僕の心臓が慌て出す。

 そっとシャープなラインを描く頬に手を添えて、硬い髪をかき上げると、虎徹さんはまた笑って僕の鼻の頭にキスをした。

 触れ合う部分から、少しずつまた汗が浮かんでくる。虎徹さんの汗と、僕の汗。それに混じるボディシャンプーの匂い。

 もう一度、今度は唇にキスをする。今度はどっちが先だったかわからない。

 おかしいな。昼間は今でもよく言い合いをしてるのに、どうしてベッドに入るとケンカする気がなくなってしまうんだろう。

 ぺろり、と下唇を舐められて、僕は少し考えてからそっと舌で応えた。

 虎徹さんの舌と触れ合う。……やっぱり、嫌じゃない。

 虎徹さんが僕に教えたことはたくさんあるけど、これもその一つだ。

 キスがとても気持ち良いものだってこと。

 虎徹さんが僕を支えてもう一度ベッドに転がった。そのままぴったりと肌が重なって、唇がふさがれたままだったから、代わりに鼻からため息のような息が漏れた。

 

「あ…あぁ……」

「その気になってきたか?」

 

 訊くようなことじゃないでしょう?

 面白そうに笑う虎徹さんを睨むと、肩をすくめた虎徹さんの手が僕の腰から降りて、お尻を掴むように撫でられた。

 やっぱり、そういうところは恥ずかしい。

 

「そんなとこ…楽しいですか?」

「おう。すべすべしてて気持ち良いぜ?」

 

 虎徹さんはそう言うけど、僕に言わせると虎徹さんの肌の方こそ、しっとりとしていてとても気持ち良い。 言うこともやることもおじさん臭いけど、身体の線が全く崩れていないからなのか、虎徹さんはすごく若く見える。

 ただ、それにしてはよくトレーニングをさぼってる気がするんだけど、それはキャリアのたまものなのかな?

 

「やっぱり、寒いところの生まれだから肌理が細かいのかもな。おまえはどこもかしこも可愛いよ、バニー」

「そんなこと言われても嬉しくありませんよ」

「そうかあ?」

「当たり前です」

 

 すぐに僕を子ども扱いする。いくら一回り年が違ったって、僕も大人なのに。

 それが不満だけれど、笑った虎徹さんが僕の頬に伸ばした手の指に光るリングを見て思い直した。

 奥さんも、お子さんもいるんだから、仕方がないのかなって。

 子どもを持つと、本当にもう大人にならなくちゃいけない。だって自分がお父さんや、お母さんになるのだから。

 

「バニー、気持ちイイ顔してる」

 

 湿った背骨の終わりの部分から、割れた隙間に無骨な指が降りてきた。

 少しかすれた虎徹さんの声に含まれたからかいが悔しい。

 教えたのは、貴方でしょう? そう言ってしまいたい。

 

「明日は?」

「インタビューと…貴方はスーツのグラビアですね。僕はインペリアルホテルのプールで撮ります」

「水着か?」

「たぶん」

 

 じゃあ、痕はつけないようにしないとなって囁いた虎徹さんの唇が耳に当たって、僕の腰が砕けてしまった。

 コンビなのだけどスーツのグラビアは、ほとんど虎徹さんだけだ。僕だとまだあまり似合わないからだと言われた。

 年齢を重ねないと様にならないものもあるってことなんだろう。

 

「いやらしい…ことを……!」

「指だけしかしてねえだろ?」

 

 それがいやらしいって言うんです!

 きつく睨んで文句を言いたくても、先に鼻から甘ったるい声が抜けてしまって、僕は必死で唇を噛みしめて虎徹さんの肩に爪を立てた。

 

「バニーちゃん、痛いって、それ」

「僕の心は、もっと痛いです」

「えー? 難しいこと言うなあ、まったく……」

 

 僕の……その、すでに高ぶった部分じゃなくて、先にうしろに指が届く。まだ十分に潤んでるそこをゆるゆる指で撫でられて、噛みしめていたはずの唇が解けてきた。

 お腹に、虎徹さんの高ぶりが当たって恥ずかしい。

 

「参ったな、やっぱり俺も枯れてねえわ」

「……一般的にはそんな歳に当たるんですか?」

 

 たぶん、僕の父さんよりも年下だと思うんだけど、その辺りのことはよくわからない。

 そう思って尋ねると、虎徹さんも首を傾げて答えてくれた。

 

「んー…個人差があることだからなあ。けどまあ、たぶん俺の歳で枯れるのはまだ早いんじゃないか?」

「そうですか。それなら良かったですね」

 

 本気でそう思ったからしみじみ言ったのに、虎徹さんは目を丸くしてまじまじと僕を見て、それからまた頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。

 

「髪がもつれますから、やめてください」

「おまえもやれば?」

「貴方の髪はもつれないでしょう?」

 

 文句を言ってもう一度硬い髪に手を伸ばす。同時に、指が浅く僕の中にもぐって、息が詰まった。

 

「痛いことはしない」

「子ども…扱いを……」

「違うって。オジサンはまだイロイロと覚悟が足りねえんだよ」

 

 覚悟…?

 その意味を考える余裕は、僕にはなかった。

 僕の部屋に誰かがいる。

 僕のベッドに誰かがいる。

 そして、僕も相手も裸のままで触れ合って、今は……。

 僕の中を、誰かが触ろうとしてる。

 メガネを外すといつだって僕の世界は僕一人のものとして切り離せたのに、今はその境界線のない世界の中でももう一人には戻れない。

 そんな図々しいことをしてのけたのは、この人だけだ。

 

「バニー、バニー……」

 

 僕の名前。虎徹さんが勝手につけたのに、今ではこの呼び方にすっかり慣れてしまった。

 

「もっと……」

 

 呼んで下さい。

 最後まで言えずに太い指を受け入れると、きつく内股が張り詰めてお互いの硬い腹筋を先端が押した。

 

「バニー」

「…はい…」

 

 僕の声が、甘くなる。虎徹さんの声も。

 ぼんやりと目を開くと、僕に深く身を重ねた虎徹さんのたくましい肩が見えた。

 明日は、寝坊しないようにしなくちゃ。目覚ましを掛けたかな?

 ゆるゆると身体の中を探られて、仕返しに虎徹さんの高ぶりを握る。

 喉の奥で声を殺した虎徹さんの息がもろに耳に入って、じんっと背筋が痺れた。火照った頬がもっと熱い。

 そして、僕自身にも硬い指が絡みついた。

 擦られる。ここの皮膚がこんなに敏感だなんて知らなかった。

 まるで神経がむき出しになってるんじゃないかってぐらい、強く刺激を感じる。

 

「う…うぅ……」

 

 噛みしめようとした唇を深く割られて、柔らかい舌が潜り込んできた。

 深いキスは苦手だ。なんだかいたたまれないし、最初から全然上手く応えられない。

 だからなのかも知れないけど、深追いしてこない虎徹さんに、なぜか僕の方が少し焦れる。

 結局、僕はどうしたいんだろう? 嫌なのか、もっとしたいのか、自分の中でも答えが出ていないみたいだ。

 

「虎徹さん、べつに追い詰めてくれてもいいんですよ。たぶん怒りますけど」

「おい~、それじゃ意味ねえだろ」

 

 そうですか?

 意味はあると思いますけど。

 首を傾げると、虎徹さんが僕の脚を割りながら角度を変えて、いっそう深く僕の中を探る。硬い指が、ほとんど根元まで埋まった。

 

「…ッ」

 

 虎徹さんを握る僕の手にも思わず力がこもったみたいで、ちょっと痛そうな声が聞こえる。

 慌てて手から力を抜いて、ごめんなさいの代わりに先端を撫でると、虎徹さんは返事のように笑って僕の額にキスをした。

 灼けた肌に少し滲んだ汗がナイトランプの光で照らされている。まじまじ見上げると、意外とその…カッコいい、のかも知れない。

 スーツの撮影の時も思ったけど、もしかすると虎徹さんは、ヒーローじゃない時の方がカッコいい気がする。

 こんなこと言うと、きっと情けない顔をするだろうけど。

 

「すっかり覚えちまったな」

「部屋に上がり込まれた時も驚きましたが、まさか貴方に身体の中にまで入り込まれるとは予想外でした」

「まだ入った内じゃねえよ。心配すんな」

「心配もなにも……そんなところまで触っておいて、よくも……ぁあっ」

 

 腰が落ち着かない場所にかすかに指が当たって、とっさに仰け反った喉に硬い虎徹さんのヒゲが当たった。

 舐められる。汗をかいてるからやめて欲しい。

 ……やめて欲しくない。

 はあはあと乱れた息を吐く僕の背中を、あやすように叩く虎徹さんの視線を感じた。

 また、あの目だ。

 優しい、穏やかな、深い色の目。

 どうしてそんな目で僕を見るんですか?

 訊きたくても、僕の口はもう意味のある言葉を紡ぐことは出来なかった。

 

「こ…虎徹さん…ッ」

「ここにいる」

 

 幻じゃない。

 虎徹さんから手を離して汗ばんだ広い背中に腕を回すと、確かな体温が僕を包み込んでくれた。

 夢の中のように消えたりしない。

 熱いのに。まるで火の中にいるみたいに熱いのに、もう怖くはなかった。

 明日こそ、僕の方が早く起きよう。料理はできないけど、パンぐらいは焼けるから、せめてバターをぬってお皿に乗せて……。

 勝手に身体が暴れてベッドのスプリングが軋む。うしろに指を使われて、濡れた音が恥ずかしくてそんなどうでもいいことを考えていたのに。

 いつの間にか僕の意識はコーヒーに落とした砂糖のように、あっさりと溶けていった。

 

END


 
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