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リヴストライブ:第2話「背負うべき重荷」part1

リヴストライブというタイトル、オリジナル作品です。 地球上でただ一つ孤立した居住区、海上都市アクアフロンティア。 そこで展開される海獣リヴスと迎撃部隊の攻防と青春を描く小説です。 青年、少女の葛藤と自立を是非是非ご覧ください。 リヴストライブはアニメ、マンガ、小説等々のメディアミックスコンテンツですが、主に小説を軸にして展開していく予定なので、ついてきてもらえたら幸いです。 公式サイトにおいて毎週金曜日に更新で、チナミには一週遅れで投下していこうと思います。
公式サイト→http://levstolive.com

2011-09-03 00:11:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:332   閲覧ユーザー数:331

リヴストライブ

→挿絵入りは公式サイトにて →公式サイトhttp://levstolive.comから一週遅れでチナミに掲載(公式サイトと同じく毎週金曜更新)

 

第2話「背負うべき重荷」part1

 

「しっかし、変な奴らばっかりだったよなあ。なあ霞」

 いつかの帰り道。少年と少女は見果てぬ世界に思いを馳せていた。

 辺りは薄暗く、ほのかに香る雨上がりの匂いだけが鼻をくすぐる。

 両脇は、老朽化した集団住居が建ち並び、ときに若者のたまり場になっていることもある。ここは比較的低所得者の居住区域である。

 彼らはそんな治安の悪さもあってか、暗がりはいつも一緒に帰ることにしていた。

「…………」

 霞は、いつか存在していた和の国の女性のごとく、鉄平の後ろを一歩下がり、浮かない顔をしてとぼとぼと歩いていた。

 鉄平はそんな霞のことを知ってか知らずか、だらだらと特装三課のメンバーに対する自説を述べていた。

「隊長は隊長で面白みに欠けるし、何か根暗だよな。リィとかいう、ちびすけもわかんねーことだらけだし……、特にあの紋匁とか言う女。あいつは俺は嫌いだね。まったく偉そうに、あいつのやることなすこと鼻についてしょうがねえや」

「…………」

「霞? どうしたんだ、お前。さっきから黙りこくってよー。何かあったのか?」

「う……、うん。ねえ。鉄平君はさ、どうしてこの任務を請けたのかな」

 霞は重たそうに、その顔を上げると無意識に鉄平に尋ねていた。

「なんだよいきなり」

 それを聞いて鉄平は足を止めそうになったが、思いとどまった。というのも、また霞の弱音が始まるのか、と先読みしたからだ。

「え、いや何となく、聞いてみたくて……」

「そうだな。うーん……。正直あんまり深く考えずに承諾しちまったからな。改めてそう聞かれると返事に困るぜ」

 鉄平は、そう言って鼻をこすってみせた。

「そっか、そうだよね。鉄平君ってそういうのあんまり考えないもんね」

 湿り気のある路地に、乾いた元気が響く。霞はどこか無理をしているように笑った。

「お前なあ、それなんか俺が頭空っぽの人間みたいな言い方じゃねーか」

「え?」

「え、ってなんだよ。なんで意外そうな顔すんだよ。俺だってな、いろいろ考えてるんだ。考えてな、考えているんだぞ」

「そっか。そうだよね。鉄平君だっていろいろ考えてるよね」

「そうそう、失礼しちゃうぜ。ったく、どうしたんだ? いつものことといえば、いつものことだけどよ」

「うん、鉄平君が少し羨ましいなって」

霞は、防壁によって円形に切り取られた夜空に、少し背伸びをするような格好で身の丈を憂いた。

 まるでサイズの合わない大きめな服を着せられているような感覚。

 彼女自身、任務のことをそのように考えていた。

背筋は竹のようにしなるが、どこか心もとない危うさがつきまとっているように見えた。

「何だそれ?」

「私は……、私は、何でこの部隊に呼ばれたのかなって、何で入隊するって決めたのかなって、わからなくてさ。私、鉄平君と違って、その場の空気に流されやすいし、街を守るなんて、とてもじゃないけど私、自信ないよ。私に何かできることがあれば何でもやらせてほしいと思ってた。防衛学校に入ったのもこんな私でもって、考えたからなんだ。でも、いざ海に出てあれと戦うんだって実感が増していくうちに、段々と怖くなってきちゃって――」

 しなった竹は、気づけばそのまま根元から折れそうに消沈してしいた。

「霞……」

「あ、何でもないの。今のは、聞かなかったことにしてね。迷いがあるなんて、他の人に申し訳ないもんね。とっても名誉なお仕事だもん。街の人たちを守れるなんて。とっても……」

「…………あんまり無理、すんなよな。お前は、そうじゃなくても少し考え過ぎなとこがあるからよ」

「うん、大丈夫。大丈夫だから。でも笑っちゃうね、上之根商店街の魚屋の娘と、お好み焼屋の息子が、世界を救うスーパーヒーローになっちゃうんだもん」

「世界っつっても、地球上で唯一、海上都市だけどな」

霞は再度防壁によって囲われた空を見上げた。

「狭い世界だよね」

「でもやっぱり、俺はここ好きだからさ。できることなら守りたいよな。奴らからさ」

「うん。一緒に、みんなと頑張れたらいいなって、私も、私も……」

世界を守るということがどういうことなのか、彼らはまだ真の意味で理解できてはいない。今はただ漠然と、何かを〝守る〟ということを意識するに留めることしかできなかった。

世界を知らぬ若者たちは今日も穏やかに帰路に着く――。

ここは戦場。特装三課初の実戦であったが、開いたスペースより侵入したリヴスによって霞が命の危機にさらされていた。

絶命の危機に、霞は身構えた。頭を抱え、目の前の恐怖から目を反らさずにはいられなかったのだ。

そして、胸中から一言がこぼれ出す――。

(何で、私なんだろう……)

霞はこの状況下で、ふと、そんなことを思った。それは、この絶望的な状況を形容する言葉でもあり、もっと遡れば、「何故、私はこの隊に選ばれたのだろうか」ということでもあったかもしれない。

霞らしい、実直かつ誠実な愚問が頭を駆け巡る。

なんてことのないただの魚屋の娘が、なんてことのない人生を歩んできた。

そんな彼女には目の前の非現実的な光景が強すぎて、霞本来の現実が霞んでしまったのだ。だが――、いくら待てども、彼女に最期が訪れることはなかった。

目を瞑っているので、何がどうなっているのかわからない。しかし、その違和感はリヴスの軋り声という形で霞の耳に届いた。

――一体何が…………。そう思い、霞は恐怖で塞いだ顔を上げた。

そこで彼女が見たものは、振りかざした足もろともに、締め上げられたリヴスの姿だった。

「なに?」と彼女は、思わず驚きの声を漏らしてしてしまった。

黒光りする細い線が、ボンレンスハムの糸のように、二重三重にリヴスに巻きついているのだ。

(ワイヤー?)

霞が一時、それに目を奪われていると、どこからともなく命令口調な女性の叫び声がした。霞にとってそれはまるで救済の女神のような一声だった。

「舞浜!」

霞が聞いたことのない名前である。その声に呼応するようにして、

「合点!」

と気付けば霞の横に見知らぬ少女が、物騒な武器を持って構えていた。それは、いわゆるガトリングガンと呼ばれる類のものである。

霞は、彼女を瞬間的に少女だと認識したのだが一見すれば女の子のそれではない。

キリッとした瞳とボーイッシュな容姿から、男子として見ることもできるだろう。

少女の表情は、笑みこそ浮かべていないものの、あり余る自信と余裕がそこにはあった。

「下がってろ。跳弾が当たる」

それを聞いて、霞は慌てて腰を引きずった。

少女は、「忠告だけはしたからな」というようなぶっきらぼうな態度で、リヴスに銃口を向けた。

「これでも喰らって逝ってみっかー!」

少女はそう言って、容赦なくトリガーを引いた。けたたましい音と共に、銃口から放たれる光弾。銃身が猛烈に回転し、銃口から噴き出す火花が、際限なく少女の顔を照らした。

リヴスは、なす術もなくその光弾の嵐を一手に受け、死に至る乱射に押し戻されるようにして息絶えた。

その光景を見るやいなや、少女はトリガーからそっと指を離す。すると銃身が勢いで、ガラガラ、と空回りしたのちに停止した。

辺りに銃煙が立ち込める。

「さてと。ま、こんなもんだろ」

少女は銃口を下げると、肩に掛けたベルトを外し、がちゃり、と地にガトリングガンを降ろした。

「あ、そうでもねーな」

「?」

「おい、これ借りるぞ」

少女はそう言うと、霞が握りしめていたダガーナイフを、ひょい、とつまみ上げた。

霞は、その行為に疑問を感じたが、リヴスの方を見るに、頭部がまだかろうじて動いているのがわかった。壊れかけたロボットのように、ガクガクと微動している。

少女はナイフの刃先をつまむと、まるでダーツでもするような軽々しさでリヴスに投げつけた。

ナイフはピンポイントで頭部に突き刺さり、リヴスはようやく生命活動を停止した。

「あーヤダヤダ。まったくこれだからしつこい奴は……。俺の好みからはまず除外だな」

少女は男を見定めるような口ぶりで、沈黙したリヴスを蔑んだ。

そこへやや遅れ、咳を切って栄児が到着した。

「西堀、大丈夫か?」

栄児はボーイッシュな少女には目もくれず、一直線に霞の下へ駆け寄った。霞は、目の前の光景に釘付けになっており、栄児の声が届いていないようだった。

「おい」

頬を軽く叩くと霞はようやく彼の存在を認識した。

「台場さん……」

「西堀、負傷個所を正確に言えるか?」

「私は大丈夫です。危ないところを、あの方に助けていただいて……あれ?」

霞の見遣った先には、ガトリングガンを携えた少女と、先ほどまでは視認することができなかった、別の少女がいた。

おそらく一番始めに声を上げた女性だろう、と霞は察した。

先ほどまで見かけなかった少女は、片目を前髪で隠しているようで、表情から人となりを窺うことはできない。

安否の確認をし合う栄児や霞をよそに、片目を隠したを隠した少女はボーイッシュな少女とやりとりを重ねていた。

片目を隠した少女は会話をするかたわら、手に持つナイフの柄先に、掃除機の電源コードを回収するようにしてワイヤーを収納した。

「君たちは――」

栄児が二人に向かって声を掛ける。

ボーイッシュな少女は怪訝そうな顔をして、こう応えた。

「何だ、お前。俺達のこと聞いてないのか。おいおい、知らねーわきゃねーだろって。一課だよ、一課。俺は特殊武装一課の舞浜姫子さんよ。他にも二課の連中が来てるみたいだな」

「君たちは確か、別エリアの担当だったはずじゃ」

「すっとぼけた隊長さんだねえ。んなもんこっちは、片付けてから来たに決まってんじゃねーか。ついさっき、あんたんとこの課長さんにお呼ばれしたもんで、こうして来て見れば、この有様さ。感謝しろよ。おたくさえ良けれりゃ、ランチで手を打ってやっても良いんだぜ」

姫子は爽やかな笑みを浮かべ、さも得意げに語ると、一方で片目を隠した少女が被せるようにして言葉を発した。

「舞浜、ここはもういい。戦闘終了だ」

少女は、立つ鳥跡を濁さぬようといった具合に、姫子に現場からの離脱を促す。

「何とも忙しないねえ。了解、んじゃ先に行ってるわー。じゃあな、また会おうぜ、三課の隊長さん」

そう言って、姫子は軽やかな跳躍と共にその場を後にした。

栄児は、「戦闘終了?」と呟き、今いる射撃ポイントの出っ張りから海を見下ろすと、本来であればリィ、鉄平と紋匁しかいないはずのエリアに十数人の人影が見える。

一課と二課の合流である。

「これは――」

振り返ると、片目を隠した少女は、まるで栄児を避けるかのようにして背を向けていた。

「私も帰還します」

「待ってくれ。さっきは彼女を助けてくれてありがとう。礼を言わせほしい」

片目を隠した少女は陰鬱そうな目で振り返り、栄児を見入る。

「礼なんて……いらない。それより、私からもあなたに伝えたいことがある」

「伝えたいこと?」

「率直に言います。あなたは、このプロジェクトには向いてない。まだ傷が浅いうちに引き返すべきだと思う」

少女の唐突な物言いに戸惑う栄児。

「何を以ってそんなことを――」

「向いてないのよ。視野の狭さを筆頭に、あなたの欠点を挙げれば切りがないわね。いくら個が突出していても、それを群に生かす術を知らないあなたは、多分これからも隊員を危険にさらしてしまうんじゃないかしら」

彼女のつっけんどんな口調に、少々栄児も頭に来た。

「何故、君にそこまで言われなくてはならないんだ。俺のことをずっと見ていたわけでもあるまいし、君に俺の何がわかるって言うんだ」

「わかっ――」

少女は何かを言いかけて、咄嗟に口をつぐんだ。そのまま彼女は、ぶつけようのない苦悩を噛み砕くかのようにして俯いてしまった。

「…………」

(なんだ……?)

 数秒と経ったところで、それを見かねた栄児が、「君は」と口火を切って会話を再開しようとしたときである。

少女は顔を上げ、これ以上話すことは何もないと言った風体で、去り際の一言を残した。

「私はこれで失礼します」

再度、栄児に背を向けると、彼女は自身の首に手をあてがいインカムを起動した。

「こちら青山。白河、東雲、四ツ谷、お前たちも撤収だ。帰還しろ」

〝了解〟と即座に返答が返ってくる。

少女は微かに顔を栄児に向け、

「さようなら、栄児君」

それだけを言い残すと、少女はうなじ上で結った長髪をなびかせ、凛とした残り香を置き土産に彼の前から去っていった。

そこで栄児はようやく、入隊後に昭和から配布された資料の名簿に彼女のプロフィールが載っていたことを思い出す。彼女の名前は、青山零美(れみ)、特装一課の隊長で、栄児と同学年なのであった。

(何なんだ、彼女は……)

栄児が、もやもやとした感覚を胸にその場でしばし立ち尽くすと、霞が心配するようにして彼の名前を呼んだ。

「台場さん……?」

「ああ、済まない。つい呆けてしまった。立てるか、西堀」

そう言って栄児は霞に手を差し伸べた。

「はい。ご迷惑をおかけして、すいませんでした」

霞は、その手にしがみつくようにして起き上がった。

「無事で良かった。本当に」

霞は、栄児のこの一言で緊張の糸が切れたのか、突然、顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまった。

「あ、あの、ありがとうござ……」

「お、おい……」

「うう、う、ごめんなさい。私、もうここで死ぬんじゃないかと思って……」

溢れ返る涙をぐしゃぐしゃと拭う霞。

「ああ、わかってる。わかってるよ。戦闘は終了した。帰ろう、西堀」

栄児は、赤子をあやすかのように霞をなだめると、霞は安堵と共に何度も頷いて見せた。

その言葉は霞を気遣ってものだったのか、自身が冷静に帰るために口にしてみたものなのか。

気丈な彼の表情はそれを悟らせず、また霞自身その真意を推し量る術を持ち合わせてはいなかった。

丁度、陽が傾き始めた頃である。

激戦を経て、海が落ち着きを取り戻し、穏やかに揺れる波が横たえる。しかし、栄児はそんな風景とは対照的に、リヴスとの初交戦によって自身が請け負った使命が、想像以上に凄惨なものだと思い知ったのだった。

 

つづく


 
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