「・・・郁先生って・・・スタイルいいよね・・・」
授業も残り僅か。
思う存分プールを満喫したクラスメイトたちは徐々にプールサイドへ上がり、談笑タイムへと移行していた。
恵理佳たち三人もそんなグループの中のひとつだった。
そして未だにプールで元気にクラスメイトと遊んでいる郁を見てため息混じりに恵理佳が呟いた。
「何だ?まーだ気にしているのかぁ?」
陽那は去年同様にスタイルのこと、厳密には胸のことを気にしていた恵理佳に呆れながらも突っ込む。
「陽那はいいね。栄養が全部身体に言ってるみたいで」
「・・・どう言う意味だよ・・・?」
「・・・羨ましいって言うこと」
明らかに小ばかにした口調で霧月が横槍を入れてくる。
「霧月の栄養は全部頭の中にしか行ってないみたいだけどさ」
「・・・別に、いらないし」
負けずと陽那も上から目線で凹凸の少ない霧月の身体をジロジロと見ながら挑発する。
霧月は冷静を装ってはいるが、少なからずムッとはしているようだった。
三人の定位置なのか、恵理佳を挟んで二人が座っているため、喧嘩腰になっても手は出ない。
「・・・私もそこまで欲しい訳じゃないけど・・・ね」
二人の言い合いをしばらく聞いていた恵理佳が自分の胸を見つつ呟く。
「別に気にすることはないって。あっても運動するときに邪魔なだけだしさ」
「・・・そう、かも知れないけど・・・」
落ち込み気味の恵理佳に陽那が慣れないフォローを入れる。
「あっても別にいいことないって」
「うぅん・・・」
イマイチパッとしない恵理佳を見ていた霧月がぽつりと呟く。
「・・・お兄さんが大きい方が好きなんでしょ?」
「べ、別に・・・そういう理由で欲しい訳じゃないんだけど・・・でも、それは、好きとは言ってたけど・・・」
「へぇ~、男なんてそんなものなのかね?」
冷静に指摘された恵理佳の反応は明らかだった。
そんな反応を見て楽しむ霧月と全く気がつかない陽那。
「またいつものことで悩んでいるのかしら?」
「か、郁先生?」
三人が談笑しているといつの間にか郁が傍に居た。
噂の人物の登場に驚きを隠せない恵理佳。
「そうなんですよ。何とかしてあげてください」
陽那が親切心で余計な一言を言ってしまう。
「そうねぇ・・・教師として教え子の悩みは解決してあげたいけど・・・」
「い、いえ、結構ですから・・・」
不敵な笑みを浮かべつつにじり寄って来る郁を手で制止する恵理佳。
恵理佳の目の前まで来ると隣に居た二人を手で合図して少し距離を取らせる。
「結構と言う事はお願いしますってことね」
「そ、そんなわけ・・・」
むぃっ
恵理佳がほんの少し油断した瞬間、郁は瞬時に後ろに回りこむ。
そして無防備となっていた小振りな胸をわっしと掴む。
「ちょ、ちょっと!!先生!?」
「昔から言うでしょ?揉めば大きくなるって」
慌てて制止しようとする恵理佳を無視して郁はお構い無しに揉み続ける。
「そ、そんなこと、迷信に決まってるじゃ・・・ないですかっ!?」
「ん~・・・そうかしら?」
経験があるのか慣れた手つきで恵理佳の胸を攻め立てながら郁は霧月に質問してみた。
「いえ、本当ですよ。本当」
「ちょっと!!霧月ぃ・・・!」
そう答える霧月はとても真剣な顔をしていた。
だが、明らかに演技だった。
そして内心とても楽しそうだった。
「よかったなぁ、コレで悩みも解決だな」
そんな三人を傍観しつつまるで分かっていない陽那は一人暢気に眺めていた。
「それに、小さめでも需要はあるから安心していいとは思うけどね」
「な、何言ってる・・・」
郁は恵理佳の反応を楽しみながら冗談なのか、フォローなのか分からないことを呟く。
「や、やめて・・・くださいっ」
いい加減に色々と危惧したのか、必死に抵抗する恵理佳。
「もう少しなんだけど・・・真司だったら良かったのかしら?」
「ッ!!?」
胸を弄りながらそっと耳元で囁く。
今までの胸の攻め立てよりも急激に赤面して行く恵理佳。
そして・・・
「いい加減に・・・してくださいッ!!!」
ぶんっ
ばしゃーん
「「「・・・・・・」」」
座っていた恵理佳は身体を起こしつつ見事な背負い投げを郁に決めた。
まさか投げられると思っていなかった郁はそのままプールへと沈んでいった。
波立ち、気泡が出ているプールを眺めている三人。
「・・・残念」
「・・・霧月・・・」
心底残念そうに呟く霧月にため息混じりに突っ込む恵理佳。
「それで、大きくなったのか?」
「・・・なるわけないじゃない・・・」
郁の話を鵜呑みにしていた陽那にも何とか突っ込んでおく。
「・・・もう、授業も終わるし・・・並んでおきましょう・・・」
心身ともにヘトヘトの恵理佳が二人を誘う。
「でも」
「郁先生がアレだけど」
二人に言われて先ほど投げたプールの辺りを見てみる。
見ると何とかプールから出てこれた郁がその場でへたっていた。
水面へ叩きつけられたダメージは大きかったようだ。
「はぁ・・・もう・・・」
深い深いため息と共に思い足取りで郁の下へと歩いていく恵理佳だった。
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