No.289830

文学少女の恋



思いを伝える、勇気。
相手を信じる、勇気。
辛い現実に立ち向かう、勇気。

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2011-08-31 23:16:47 投稿 / 全17ページ    総閲覧数:562   閲覧ユーザー数:561

 

 

 

Prologue

 

 

 

 

 

―――貴方に出会えて、本当に良かった。

 

 

 

伝えたいことはいつだって、

言葉にしなくちゃ相手には伝わらない。

 

人を信じることを止めるのは、逃げでしかない。

傷つくことを恐れてばかりじゃ居られない。

 

どんなに今が辛くても。

生きていればいつかきっと幸せになれる。

 

逃げずに立ち向かえば、

変えられる現実だってきっとある。

 

 

 

 

 

 

 

 〔 序章 〕

 

 

 

 

 

 

 

 

――とある昼休み、とある学校に。

 

温かい春の風を切り、額に僅かに汗を浮かべて、廊下を走り抜ける黒髪の少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔 第一章:春の訪れ 〕

 

◆瑞希Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~っ、もう!なんで今日に限って遅くなるかなぁ!」

 

 

誰もいない階段を駆け上りながら、私はピンク色の腕時計を睨みつけ、ここで言っても何の意味のない文句と溜め息を吐く。

 

 

自慢の長い黒髪が、いつになく鬱陶しく感じる理由は考えるまでも無く。

 

男子がサボったせいで先生に怒られ、清掃時間が長引いてしまった苛立ちのせいだろう。

今日は同じ委員の増田くんが休みだから、早く図書室に行かなきゃいけないのに・・・。

 

 

「あれっ? 瑞希じゃん。 どこ行くのー?」

 

 

名前を呼ばれて振り返ると、コーラを片手に持った女の子がいた。

私を呼びとめた彼女の名前は、三浦 飛鳥(みうら あすか)。

 

飛鳥ちゃんはサバサバしてて、ちょっと短気なところがあるけど、優しくて。

なんていうか、頼りになる姉ちゃんみたいな感じな子。

中学時代からの友達なんだ。

 

 

「図書室っ!!」

 

 

急いでいた私はただそれだけ答えて、階段を全て降りきり、再び廊下を走った。

 

 

 

 

 

 

 

私は、“普通”か”普通じゃない”かと問われたら。

恐らく“普通”に分類される方であろう、普通の女子高校生、前田瑞希(まえだ みずき)。

 

一年生の時に続き、二年生になった今年も、図書委員になった。

ちなみに今時の子みたいに濃いメイクはしてなくて、しているものといったらリップやグロス程度。

 

だからと言って陰気なキャラという訳でもなく、普通に友達が何人か居て、普通に勉強は苦手で、普通に学校生活を楽しんでる。

 

 

 

そんな、どこにでも居そうな、普通の人間。

 

 

 

その普通の人間の私は今、非常に急いでいる。

それはもう、両手に抱えている教科書類を、勢いあまって転びでもして、ふっ飛ばしてしまいそうなほどに。

 

 

 

それぐらい、急いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆隼人side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふあぁ・・・。 失礼しましたー」

 

 

大きな欠伸をしながら棒読みで挨拶をして、保健室を出る。

携帯を開いて時間を確認すると丁度、清掃が終わっているであろう時間だった。

つまり今は昼休み。

 

正直寝足りないのが本音だが、本来この学校の規則上、保健室で休んで良いのは45分だけのところを一時間半ほど眠らせて貰ったわけだし、文句は言えない。

 

 

「・・・腹減ったし、食堂行くか」

 

 

俺はポケットから財布を取り出し、残金を確認する。

残金は1239円。 確か食堂のうどんは250円だったな。

ほぼうろ覚えで頼りない記憶だが、まあ、この学校の食堂は安いし、問題ない。

 

 

・・・・あー、でもコンビニに行くのも有りか。

コンビニの方が金かかるっちゃかかるけど、リプトンの期間限定のやつ飲みてぇしなぁ。 どーすっかな。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・はっやとくぅーん!♪」

 

 

鬱陶しい・・・、いや、明るい声が考え事をしていた俺の耳に届く。

このふざけた呼び方をする馬鹿は、あいつしかいない。

 

 

「気持ち悪い呼び方してんじゃねえよ、陸・・・」

 

 

心底呆れたように、俺はその声の主のいるであろう方向へ振り返る。

そこには満面の笑みを浮かべた大野 陸(おおの りく)がいた。

 

こいつとは同じクラスで、入学式ん時に声かけられてからの付き合いだ。

面倒くさがりな俺とは違って陸は、自分から進んで人に声をかけに行くような明るい奴で、ムードメーカー的なキャラ。

 

人の話を聞かず、自己中心的なところがあるのがたまに傷だけど、それさえなければ陸は普通に良い奴だ。

 

 

 

「なぁ、隼人!今日ひま?合コン行かねぇ?」

 

 

・・・気持ち悪いと言われたら普通、「酷っ!」などの反応をするのが普通だろう。

だというのに、こいつは全く脈絡のない話題を振ってきた。

 

わざとスルーしているのか、人の話を聞く耳がないだけなのか。

どっちかは分からないが、こいつがこうなのは、いつのものことだし、気にしないおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「行かねーよ。 別に今は女作る気ねえし」

 

 

俺が考える間もなく、呆気なく断ると陸は不服そうな表情で俺を見つめる。

 

こいつの場合、一度断った程度では引かない。

だから本来なら、面倒くさくても適当に相槌を打って調子を合わせてやるのが最善。

合コンに行くことよりも、こいつが諦めるまで断る方が、面倒で厄介なのだ。

 

 

・・・だけど今日はっていうか、いつもだけど。 全く気が乗らなかった。

何と言うか、今日はパーっと騒ぐ気分じゃない。

 

 

 

誰にも邪魔されない、静かなところで休みたい。

 

 

 

そんな気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

「んー・・・。 分かった! じゃあ、カラオケ行こうぜ!カラオケ! うちの学校のやつら適当に誘ってさ!」

 

 

いや、そういう問題じゃねーよ。

 

・・・と、俺は呆れ切った表情のまま、何も答えず小さな溜め息を吐く。

合コンだろうがカラオケだろうが、どっちにしろ行く気はない。

けれど俺の思いとは裏腹に、陸は携帯を取りだしてメールを打ち出した。

恐らく手当たり次第、遊べる人間を誘っているのだろう。

 

 

「・・・言っとくけど、俺は行かねーからな」

 

 

念のため釘を刺すと、陸は視線を携帯からバッと離し、涙目になって「そんなに俺と遊ぶのが嫌か!」と叫び出し、いじける始末。

「そうじゃねえよ」と軽く否定して、俺は再び溜め息。 困った奴だよ、本当。

 

 

「あー、つか俺メシ買いにコンビニ行くけど、お前も来る?」

 

 

放っておくと永遠にいじけてそうなので一応誘ってやると、陸は「行く!」と元気に答えた。

さっきまでのいじけ具合は、一体どこに行ったのやら・・・。

表情がコロコロ変わるやつだと、俺は鼻で笑って廊下を歩く。

 

 

――そして一階に降りるため階段に向かおうと、直ぐそこの曲がり角を曲がろうとした時だった。

 

綺麗な長い黒髪が目の前にふわりと現れたかと思えば、俺はその黒髪とぶつかり、黒髪は視界から消えた。

 

 

 

 

 

その黒髪とぶつかった直後に聞こえたのは、バサバサっと何かが落ちる音。

そして、それに続くように聞こえたのが。

 

 

「ごっ、ごめんなさい!」

 

 

・・・という女の子の動揺した声。

はっと我に帰って視線を少し下にずらすと、さっきの“綺麗な長い黒髪”の女の子が廊下に座っていた。

いや、この場合は尻餅をついていたと言う方が正しいのか。

 

彼女は、俺とぶつかったことで落としてしまった教科書や筆箱を慌てて拾っていた。

 

 

「・・・いや、俺の方こそ、ごめん」

 

 

本来なら一緒に拾ってやるべきだったのだが、突然のことに驚き切っていた俺は、それが出来なかった。

 

気づけば彼女は落とした教科書をさっさと拾い、もう一度深々と謝ると、どこかに去ってしまっていた。

 

 

 

 

「なー、隼人。 このノートあっちの方に落ちてたけど、たぶん今の子のじゃねぇ?」

 

黙って今までの会話を見ていた陸が差し出してきたのは、ピンク色の大学ノート。

名前が書いてあればと思い、ノートをひっくり返してみる。

けれど、ノートの裏面には名前もクラスも出席番号も、何も書かれていなかった。

 

普通、表面に教科名と名前ぐらい書いておくだろうに。

ノート提出のときとか困らないのか?と疑問に思う。

 

 

「つか今の子って、確かお前のクラスの図書委員だった気がー・・・」

 

 

俺は陸の発言に「・・・そうだっけ?」と疑問系で返した。

同じクラスのやつの名前ぐらい、何で分からないんだよ!と突っ込まれそうだが、俺は自分から声をかけて来るやつ等の名前ぐらいしか覚えてない。

 

 

「つかさ、結構可愛かったなあの子! 俺ギャル好きだけど、ああいう正統派っての?も結構いいもんだなぁ~」

 

 

思い出してニヤニヤし始めた隣のバカ陸の発言に、俺は適当に相槌を打つ。

さっきのことは本当に突然すぎて驚いたから、可愛いかったかどうかなんて、正直覚えてねえけど。

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、隼人! そのノートの中ちょっと見てみよーぜ!」

 

「はあ? バカかお前は。 知らない奴のノートとはいえ、勝手に見るとかデリカシー無さすぎだろ。 だからモテないんだよお前は」

 

「ちょ、モテないは余計だろ! ってか中に名前書いてあるかもしんねぇし、ちょっと見るぐらい良いじゃんか!」

 

 

結局この後、陸の巧みな話術に流されて俺は、ノートの中を確認することになってしまった。

もちろん、名前が書いてあるかどうか確認するだけだが。

 

 

「・・・・・・なあ、隼人、これって何のメモ?」

 

ノートを開いて見ると、中には何かの設定やネタ、台詞のようなものが細かくメモされていた。

字自体はとても丁寧で綺麗な字なのだが、いろんな設定が書き詰められすぎていて、隙間がほとんどないせいだろうが、ゴチャゴチャに見える・・・。

途中で集中力が切れたのか、ところどころラクガキしてあるし・・・。

 

・・・・・・でも、彼女にとってこのノートはとても大切なものなのだと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、陸・・・。 先コンビニ行っててくんね? ちょっと俺、これ届けてくるわ」

 

 

面倒くさがりな俺にしては、らしくない行動だけど。

元はと言えば、俺とぶつかったせいで落とした訳だし、届けてやるくらいの事はしてやるべきだろう。

 

それに、もし陸の言った通り、彼女が図書委員なら、きっとこの時間は図書室にいるはずだ。

 

 

「ん、分かったー。 じゃあ、隼人の分、適当に買って来とくからなー」

 

「おー! あー、あと、期間限定のリプトンあったら頼むー」

 

 

そんな感じで陸との会話を終わらせると、俺は急いで図書室へ向かった。

急がねえと、昼メシ食う時間がなくなる・・・。

 

 

 

 

 

 

続編に続く。

 

 

 
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