No.289603

真・恋姫無双~君を忘れない~ 四十七話

マスターさん

第四十七話の投稿です。
桃香たちの入蜀後、初めてその姿を現した一人の少女。今後の活躍を夢見つつも、ついに一つの戦が終わりを告げる。そして、それは新たな戦いへと繋がるのだ。
今回は次回への繋ぎです。誹謗中傷はお控えください。では、どうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2011-08-31 20:09:10 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:11720   閲覧ユーザー数:7453

一刀視点

 

「騎馬隊の増設?」

 

「そうよ」

 

 ある日の軍議でのことだった。その日の議題は軍の再編についてだった――桃香たちが加入したことによって、将の数が増えたためである。再編には詠を筆頭にして、朱里と雛里が相談して決めたようだ。

 

「天水にいた頃から通じていた馬商人から多くの馬を買い付けることが出来たわ。だから、この機に騎馬隊を増強したいの」

 

「あぁ、それは構わないが、わざわざ軍議で話し合う理由は?」

 

「はわわ……、それはですね。この部隊は三千騎の騎兵のみで構成する予定なんでしゅ……はぅ」

 

「三千騎? それだけで良いのか? 少なくないか?」

 

「確かに敵軍と正面からぶつかる部隊だったら少ないのだけれど、この部隊は言わば遊軍よ。神出鬼没、神速の如き速さで敵を断ち割り、敵を翻弄する。敵にとってこれほど厄介な部隊はないわ」

 

 なるほど。それだったら三千という数にも納得がいく。数が多過ぎるとどうしても動きが鈍くなってしまい、奇襲には不向きだろう。

 

「でも問題が残っている?」

 

「あわわ……その通りでしゅ……あぅ」

 

「はぁ……。もう朱里も雛里も話さなくていいわよ。問題は誰がその部隊を率いるかってことよ」

 

「それならば、鈴々や星がおるではないか?」

 

 愛紗の言葉には頷ける。調練を見る限り、二人の騎馬隊の扱いには目を見張るものがある。縦横無尽に部隊を動かす姿に俺は見惚れてしまった程だ。あの二人なら上手く指揮してくれそうなものだけど。

 

「勿論、二人のどちらかにはやって欲しいのだけれど、本隊の指揮を任せなくちゃいけないでしょ? 今までは斗詩と猪々子を頼りにしてばかりいたけど、これからもっと戦線を広く見なくちゃいけないから、鈴々と星にはこの部隊を任せるわけにはいかないの」

 

 反乱終結から騎馬隊は斗詩と猪々子が指揮してきた。しかし、反乱での傷も癒え、さらに桃香たちの参入により、益州軍の規模も大きくなってきているため、本隊の騎馬隊自体も増設されているのだ。

 

「そうだね。だったら、別の将に任せるべきだ」

 

「だけど、二人以外に相応しい将がいないのよ」

 

「それならば、私が率いようか?」

 

「愛紗は駄目よ。騎馬隊を率いてもその武を存分に活かせるけれど、あんたには主力を率いてもらわなくちゃいけないわ」

 

「ふむ、そうか」

 

 現在、益州軍で主力の歩兵を率いているのが、桔梗さん、紫苑さん、竜胆、愛紗の四人だった。そこに騎馬隊を率いる斗詩、猪々子、鈴々、星が加わる。この布陣はなるべく崩したくないというのが、軍師たちの意見だった。

 

「恋に指揮させるわけにはいかんのか?」

 

 桔梗さんが恋さんを見ながら言った。

 

「そうね。確かに恋が率いるのが一番理想的ではあるわ」

 

 恋さんはかつて董卓軍で最強の名をほしいままにしてきた。かつて彼女が率いた部隊は、相当の兵力差がありながら、曹操さんと互角以上に渡り合ったという。

 

「何か問題があるかの?」

 

「恋は確かに強いわ。それは皆も分かっていると思うのだけれど、問題は恋には将才がないということなのよ。董卓軍に所属していたときは、恋の部隊はどの部隊よりも精強で、かつ兵士たちが独自に判断して動いていたの」

 

「ふむ……、つまり恋自身が指揮したわけではないのか?」

 

「そうよ。恋は野生の勘で自由に動き回り、副官の高順を筆頭に兵士たちが恋の動きに合わせていたわけ。だから、今の益州の騎兵の錬度では、残念ながら恋の動きに合わせられないわ」

 

「なるほどの」

 

「そして、もう一つの問題が、この部隊は本隊とは別に独自に動いてもらうの。だから、将自身にある程度の判断が下せるだけの冷静な思考力がなくてはいけないのよ」

 

「それはかなり無理があるのではないかしら? 将自身が鈴々ちゃんや星ちゃん並みの統率力も持ち、尚且つ冷静な判断力を持つ将なんているとは思えないわ」

 

「そうね。この部隊がいるだけで、戦の勝敗に大きく関わるのだけど、確かに現実的ではないのかもしれないわ」

 

 紫苑さんの言葉に詠も残念そうな表情を浮かべながら、席に座ろうとした。

 

「待ってくれよ」

 

 俺の言葉に皆が注目する。

 

 俺としてはどうして彼女の名が挙がらないのか不思議で仕方ないのだ。鈴々や星並みとは言えないかもしれないが、彼女には騎馬隊を率いた実績があり、かつ判断力に関しても申し分ない。

 

 だから、俺は彼女の方を見ながら、呼びかけた。

 

「白蓮がいるじゃないか」

 

 

 俺の言葉に、今度は視線が白蓮に集中する。当の白蓮はというと、俺の言葉の意味を理解出来ずにいるのか、目を白黒させていて反応は薄かった。

 

 白蓮こと公孫賛――麗羽さんに領土を奪われてからは桃香のところにいて、あまり表立った活躍はしていない。しかし、その用兵は堅実かつ実直、そして何よりも彼女はたった一人で幽州を治めていたのだ。

 

 優秀な家臣に恵まれなかった彼女は、一人で君主と将と軍師の役目を果たしていた。ひとつの才を取れば、他の者に劣るのかもしれないが、総合力では負けないだろう。彼女には欠点と言えるところがないのだから。

 

 白馬義従と称する騎馬隊を率いて、烏桓族から白馬長史と恐れられた勇名は、この世界でも変わりはないだろう。

 

「どうだ、白蓮?」

 

「わ、私でいいのか?」

 

 白蓮の言葉に頷く。

 

「いや、確かに白蓮殿ならその役に申し分にないと思う。私は誰よりも白蓮殿と長い付き合いだが、白蓮殿ならその才を如何なく発揮してくれると思う」

 

 星が俺の言葉を後押しした。他の面々もその言葉を受けて頷いていることから、どうやら白蓮がその独立した騎馬隊の指揮官になることに反対はないようだ。

 

「…………」

 

「ぱ、白蓮殿……?」

 

 俯いて微妙に震えている白蓮を心配してか、隣に座る星が声をかけた。

 

「うぅ……、北郷ぅ……。お前って奴はぁ……」

 

「白蓮殿、何も泣かなくても……」

 

 俺と星が白蓮を部隊の指揮を任せようとしたことに感動したのか、白蓮は大粒の涙を流していた。鼻を啜りながら、星から渡されたハンカチで涙を拭う。

 

「だって、麗羽に滅ぼされるわ、桃香の許でも活躍できないわ、挙句の果てには名前が少しだけ出ただけじゃないかよ。今日が初登場だぞ」

 

「そのようなことを言ってはまずいのでは……」

 

「ええい、星には私の気持ちなんて分かるまい。麗羽だって、何故か知らないけど別人みたいになっているし、人気もあるじゃないか。私だって活躍したいんだ!」

 

「まぁまぁ白蓮ちゃん、落ち着いて……ね?」

 

 桃香の台詞でやっと落ち着く白蓮。いろいろといけない言葉があったような気がするが、それは無かったことにしよう。それ以上はきっと困るから。

 

「詠、白蓮に任せて問題ないか?」

 

「いいわよ。調練を見た限りでは、騎馬隊の指揮には問題ないし、星の言葉が正しいのならば、自分で判断も出来るでしょう」

 

「よし、じゃあ正式に白蓮をその騎馬隊の指揮官に任じよう」

 

「分かっていると思うけど、この部隊はどの部隊よりも精強でなくてはならないわよ。それに私たち軍師から直接指示を仰げるわけじゃないから、責任は全てあんたにあるわ。それでも任せて平気ね?」

 

「安心しろ! 私が部隊を率いる以上、負けはない! 白馬長史の名が偽りでないことを証明してみせる!」

 

「分かったわ。それじゃ、本隊から選りすぐりの兵士三千名をこれよりあんたの指揮下に置く。調練の仕方や副官の任命もあんたに一任するから、この部隊を大陸に轟くような部隊にしなさい」

 

「任せろ! これで私の活躍の場が増えれば、もう空気のような人とか、残念な人だなんて呼ばせないぞ! あーっはっはっはっは!」

 

 上機嫌になった白蓮は、すぐに兵士の選抜のために軍議の場を後にした。いろいろと爆弾発言をしていたけど、本人がやる気なのならばもはや語るまい。

 

 軍議で話し合う内容もほとんど消化し、解散しようとしていたときであった。一人の兵士が駆けこんできた。

 

「どうした! 騒々しいぞ!」

 

 愛紗の一喝に委縮する兵士に、俺は何があったのかを訊いた。

 

「はっ、漢中より伝令が参りました!」

 

 漢中からの伝令――兵士はそれをその場で読み上げた。その内容に俺たちは驚きを隠しきれることが出来なかった。特に元から益州にいた面々はあからさまに動揺していた。

 

 ――西涼連合の敗戦、及び馬騰の長女馬超が漢中に落ち延びた。

 

 とうとう曹操軍と西涼連合軍――翡翠さんの軍との戦が終結したのだ。俺たちは桃香たちの侵攻で忙しかったため、詳細は雅から上げられてくる報告書を通してしか知らなかったが、予想よりも早い決着だった。

 

 何よりも驚いたのが、報告では翡翠さんが優位に戦を進めていたという事実があったため、おそらくは翡翠さんが曹操軍を撃退するだろうとの予測が立てられていたのだ。

 

「分かった。ありがとう」

 

 俺が礼を述べると、兵士は直立してその場を後にした。

 

「お館様……」

 

「御主人様……」

 

 俺を見つめる紫苑さんと桔梗さんは神妙な表情を浮かべていた。二人は翡翠さんとは旧くからの友人であり、あの人の強さを誰よりも知っていたのだから。

 

「分かっています。これから漢中に赴き、馬超さんを迎え入れます。紫苑さんと桔梗さんは同行して下さい」

 

 俺の言葉に二人は頷いた。

 

「ちょっと待って! 曹操が西涼での戦に勝利したのなら、次は必ず荊州を落とすために兵を向けるわ」

 

 詠が声を荒げた。確かにそれは問題である。桃香が既に益州入りをしている以上、孫呉と桃香による同盟が今のところ存在していない。

 

 それはすなわち、赤壁の戦いにおける勝敗が変化する可能性を示している。いや、赤壁の戦いが起こることすらないのかもしれない。

 

「……わたくしにお任せ下さりませんか?」

 

 詠の言葉に答えたのは麗羽さんだった。普段と変わらぬ妖艶の微笑みを浮かべながら、そう告げる麗羽さんの表情には自信が漲っていた。

 

麗羽視点

 

「どうするつもりなの?」

 

「わたくしたちも荊州に攻め込みますわ」

 

「麗羽、本気で言っているの?」

 

 わたくしの言葉に師匠が鋭い視線を向けてきました。わたくしはそれを正面から受け止めます。師匠はそれでわたくしが本気であることを悟ったのでしょう、話を続けるように促しましたわ。

 

「華琳さん――曹操軍は確実に南下しますわ。最初の標的はおそらく襄陽でしょう。許都から兵を発し、新野を併呑。そこから一気に攻め込むはずですの」

 

「そうね。西涼連合との戦でどれ程の被害を被ったのかは分からないけれど、すぐに南征を始めてもおかしくはないわ。そのために水軍の調練を以前から行っていたみたいだし」

 

 わたくしたちも荊州へ侵攻するということは、そのまま華琳さんたちの軍と本格的に争うことを示している。

 

「そして、問題なのはおそらく孫策軍も既に軍を発していますわ」

 

「それは、確証はあるの?」

 

 師匠の言葉にわたくしは首を横に振りました。しかし、その情報はおそらくすぐにでも雅さんから報告されるでしょう。華琳さんの西進に対して、孫呉の地では凄まじい速度で軍備が強化されていると報告が入っています。

 

 それはおそらく華琳さんとの戦いに備えるため。そして、華琳さんが西涼で争っている隙に、先に荊州を押さえてしまう目論見だったのでしょうが、華琳さんが予想より早く戦に勝利したため、焦って兵を発するはずですの。

 

「まぁ麗羽の意見も尤もね。おそらく孫呉も長江を伝って荊州に進軍するでしょう。それで、麗羽? あんたには勝算はあるのよね?」

 

「勿論ですわ。しかし、その戦いには、七乃さん? 貴女の力が必要ですの」

 

「へー? 私ですかー?」

 

 軍議の間、ずっと膝の上に美羽さんを乗せながら、話半分に聞いていた七乃さんが、わたくしから指名されて調子の抜けた声を発した。

 

 相変わらず何を考えているのか悟らせない表情を浮かべていますわね。わたくしの考えていることをどれくらいまで察しているのかしら。

 

「七乃さん、断ることは出来ませんわ。貴女は一刀さんに保護される際に、わたくしたちに協力することを条件にしていますもの」

 

「ええ、まぁ確かにそんなことを約束しましたけど、お嬢様と離れるのは嫌ですねー」

 

「安心なさってくださいな。この戦には美羽さんにも協力して頂きますわ」

 

 わたくしの言葉に将たちが少しざわつきましたわ。美羽さんは、誰が見ても明らかな程に戦には向いていませんわ。連れて行っても足手纏いになることは目に見えていますもの。

 

「この戦にはわたくしと斗詩と猪々子、それから美羽さんと七乃さんで参ります。兵力は、そうですわね。およそ四万程度で結構ですわ」

 

「麗羽殿、お待ちくだされ。いくら麗羽殿でもたったそれだけの軍勢では、曹操殿と渡り合うことはおろか、荊州を落とすことすら不可能ではないのか? 少なくとも私や星などの部隊を連れて行くべきだ」

 

「愛紗さん、この戦いはわたくしたちだけで参ることが勝利への条件になっていますわ」

 

「それはどういう意味だ? 我々では力不足だとでも言うおつもりか?」

 

 怪訝そうな瞳でわたくしを凝視しまう。さすがは愛紗さんですわね。目を合わせるだけでも、背筋に寒いものが走りますわ。戦場で彼女と対峙しようものなら、それだけで腰を抜かしそうですわね。

 

 ですが、此度の戦では貴女のその武は必要ないんですの。猛将も、精強な兵たちもわたくしの策には不要――わたくしのような弱き者と、四万の兵士だけで成立することが出来ますわ。

 

「七乃さん、どうですの?」

 

「…………」

 

 七乃さんはわたくしの瞳を見ながら逡巡すると、溜息交じりに首肯してくださいましたわ。おそらく、彼女にはわたくしが頭に描く策を見透かしたのでしょう。

 

「全く、仕方ないですねー」

 

「七乃? 妾も行くのかえ?」

 

「そうですよー。ちなみにそこには孫策さんも来ますよー」

 

「そ、孫策……じゃと?」

 

「はい。きっとお嬢様を見たら、悪鬼みたいな顔をして追いかけてくるでしょうねー」

 

「ぴぃぃぃぃっ!」

 

 七乃さんの言葉に美羽さんは完全に怯えてしまい、ガタガタと震えてしまいました。その姿に、他の皆さんも呆れ果ててしまいましたわ。

 

「美羽さん、貴女はわたくしがお守りしますから、安心なさってくださいな」

 

「……麗羽姉さま」

 

 優しく美羽さんに微笑むと、落ち着きを取り戻したようですわ。勿論、わたくしとしても美羽さんを危険に晒すことなんてしたくありませんもの。誰に言われなくても、守ってみせますわ。

 

「一刀さん、如何かしら? わたくしに賭けてみませんか?」

 

 ここで策を披露しても、おそらく皆さんを納得させるのは難しいでしょう。しかし、華琳さんをよく知るわたくしと、かつて孫策さんと争っていた美羽さんと七乃さんならば、彼女らを翻弄することも出来ますわ。

 

「……分かった」

 

一刀視点

 

「北郷、本当にいいの?」

 

「詠、俺は麗羽さんを信じてみるさ。それに、俺たちも漢中で馬超さんと合流したら、すぐに荊州へ向かう。いずれは曹操さんとも孫策さんとも争わなくちゃいけないんだ。だったら、なるべく情勢が変わらない内が良いだろう」

 

 詠は俺の言葉に静かに頷いた。

 

 俺も皆の意見は分かる。麗羽さんたちだけで、荊州に攻め込むことはかなり無謀なことだ。だけど、麗羽さんがそんなことに気付いていないはずがない。何か秘策があるに決まっている。

 

「やはり私は納得が出来ない。この場で黙って見ていることなんて武人として屈辱だ」

 

 愛紗は自分たちが参戦できないことが不満なのだろう。厳しい目つきのまま意見を言った。彼女の心情としても、ここで戦功を上げることで、桃香たちを認めてもらう機会としたいのだろう。

 

「愛紗さん、何もわたくしは貴女方にここで待機させるわけではありませんの。桃香さんと共に別にやって頂きたいことがありますわ」

 

「それは……?」

 

 麗羽さんは机上に大陸の地図を広げた。荊州を指しながら策の一部を示してくれた。おそらく、桃香たちの動きが関係しているから、麗羽さんたちが四万という小勢で荊州に攻め込むのだろう。

 

「確かに、それは相手の意表を突くことが出来るかもしれないけど、麗羽、あんた分かってんの? 所詮、あんたは四万しか率いてないのよ? 下手すれば、全滅――あんたも無事では済まないわ」

 

「わたくしは一度死んだ人間ですわ。死など恐れません。それに一刀さんと約束しましたので、おめおめと敗北する気もありませんわ」

 

 その表情は死を覚悟する人間の顔ではなかった。その表情は必ず勝利すると心に誓った将の顔だった。確固とした意志の許、麗羽さんは戦場へ向かおうとしているのだ。

 

「麗羽さん、荊州侵攻に関して、あなたに全権を委任します。俺たちが荊州に到着するまでに勝利しろ、とは言わない。だけど、負けることのないようにして欲しい」

 

「分かっていますわ。この袁本初、必ずやこの戦に勝ってみせます」

 

 麗羽さんは俺の言葉に優雅に拝礼した。

 

「それでは麗羽さんたちが荊州へ向かうのを見送ってから、すぐに俺たちも漢中へ向かいます。各員、準備を始めて下さい」

 

「御意!」

 

 すぐに荊州侵攻のための軍備が整えられた。麗羽さん、斗詩、猪々子、七乃さん、美羽が四万の軍勢を永安の門外に終結させた。

 

「麗羽さん、御武運を祈っています」

 

「ええ。それでは参ります」

 

 麗羽さんは包拳礼をすると、身を翻して兵士の前に立った。側には斗詩と猪々子が控えている。

 

「斗詩、猪々子、麗羽さんを頼む。必ず守ってくれ」

 

「分かっているぜ。アタイがいれば曹操だろうが、孫策だろうが、ボッコボッコにしてやるぜ!」

 

「お任せ下さい。麗羽様も文ちゃんも、必ず私が守り抜いてみせます」

 

 斗詩と猪々子の言葉に大きく頷いた。

 

「全軍、出撃致しますわ! わたくしに続いて下さい!」

 

 四万の軍勢は粛々と出陣していった。小勢ではあるが、精強な兵を多く回したから、容易に壊滅するなんてことはないとは思う。しかし、相手はあの曹操さんと孫策さんだ。油断は禁物である。

 

「お館様、それでは我らも参りますぞ」

 

「はい。それじゃ、桃香、後は任せるよ。」

 

「大丈夫だよ。私たちの働き次第で麗羽さんを助けられるんだから、私たちも頑張るよ!」

 

 俺たちも漢中へ向けて出発した。

 

 馬超さんは漢中まで落ち延びたみたいだけど、他の将たちはどうなっているのか。翡翠さん自身は無事なのか。軍議の間は押し込めていた不安な感情が、溢れ出そうになるのを感じながら馬を疾駆させる。

 

 俺には翡翠さんが敗北するなんて想像も出来なかった。あの人は誰よりも気高く、誰よりも強く、そして誰よりも厳しい王だった。

 

 あの人とかつて対峙したとき――恐怖心なんて言葉で語り尽くせない程の覇気を纏わせたあの人は、美しくすらあった。無意識にあの人の佇まいに魅せられていた。

 

 しかし、敗れた。あの翡翠さんですら曹操さんに勝てなかったのだ。乱世の奸雄――その実力はやはり史実通り圧倒的なものなのだろう。正しく覇王たる器の持ち主――果たしてそんな相手に俺たちが勝てるのか。

 

 その不安に心が押し潰されそうになるのを必死に鼓舞しながら、漢中への道を駆ける。道程は遠く、どれだけ馬を走駆させても、三日は必要だろう。

 

 翡翠さんたちの安否を気にしながら、俺たちは漢中へと向かうのであった。

 

次回予告

 

 荒涼たる大地に馬具も鎧も漆黒に塗り固められた五千の騎兵の姿がある。

 

 

 漆黒の馬旗――その許にいるのは西涼の絶対的王、翡翠こと馬寿成。

 

 

 黒騎兵――そう呼ばれる彼らは、翡翠直属の精兵部隊である。

 

 

 迫り来る曹操軍と互角以上に渡り合い、渭水の畔が血に染まる。

 

 

 華琳こと曹操は自らの死力を尽くし、自らが覇王たることを証明する。

 

 

 王と王のぶつかり合い――それは正しく死闘であった。

 

 

 大陸の王が己の誇りを懸け、決して敗北の許されない戦いへと向かう。

 

 

 そして、長い対陣の末に導かれる結末。

 

 

「小娘、あんたの力を見せて御覧よ」

 

 

「この戦で曹孟徳の覇道を叶えてみせるわ」

 

 

 これは己一人で立ち続けた二人の王の物語。

 

あとがき

 

 第四十七話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 さて、まずは白蓮ファンの皆さん、とうとう白蓮さんの登場です。

 

 これまで名前が何度か出てくるだけで、その姿は一向に見られなかった彼女が、ついに満を持してこの作品にも登場することになりました。

 

 ちなみに作者は彼女の存在を忘れていたわけではありませんよ。作者もまた白蓮ファンの一人であり、彼女の活躍を心から願っておりました。

 

 しかし、残念ながら、劉備邂逅編からいつ白蓮を登場させれば良いのか、そのタイミングを計りかねていましたが、やっと今回初登場です。

 

 まぁ彼女の発言に関しては目を瞑って頂けると幸いです。普通に登場させるのは如何なものかと思い、あのような形になってしまいました。

 

 本文でもある通り、彼女はこれから独立した騎馬隊の指揮官となります。勿論、この部隊は活躍します。それが具体的にいつ頃になるのかは未定ですが、スタイリッシュな白蓮を描きたいと思います。

 

 さてさて、それからその後の展開。ついに西涼での戦が終結しました。

 

 勿論、史実に則り曹操軍が西涼を制圧することになりましたが、詳しい模様は次回に書きます。

 

 そして麗羽さんの出陣。彼女は前々回でも描いたように、軍師としての才能を開花させようとしていました。

 

 曹操軍の南征、孫策軍の出兵、それを受けて彼女が放つ策とは。

 

 それは今後の展開で明らかにしたいと思います。

 

 さてさてさて、予告にあるように、次回は番外編として華琳様と翡翠さんの戦を描こうと思います。王同士の争いはどのようなものだったのか、勿論、シリアス成分豊富にお送りします。

 

 最近は、ややスランプ気味のようで筆の進みが遅く、文章自体も上手く纏められません。今回もやや無理を通してやった感が否めませんでした。従って次回の投稿は遅れるかもしれません。

 

 華琳様と翡翠さんの戦いを上手く描きたいと思いますので、次回をお待ちください。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
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