No.288313

【銀英伝】ある年のミッターマイヤーの誕生日

まふゆさん

8/30はみったんの誕生日なので、ちょいと小話。キルヒを出したかったので時系列を調べてみたら、この時期モノの見事に最前線にいらしたのよねーって事で無理矢理な展開です。

2011-08-30 02:50:53 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1208   閲覧ユーザー数:1207

8月30日。

この日、後に第四次ティアマト星域会戦と呼ばれることとなる同盟との大きな戦闘の為にイゼルローン要塞に駐留しているミッターマイヤーの元に、オーディンから一通のメッセージカードが届いた。

それを受け取り、差出人の名前を見た時の顔は、いつも彼が見せる自信に満ちた笑顔ではなく、宝物を見つけた、少年のような笑顔だったと渡した士官は同僚に語ったという。

そう言われているとは知らないミッターマイヤーは少し浮き足立ちながら割り当てられた自室に向かっていたが、途中自分とは反対方向へ向かう人の肩に軽くぶつかった。

「!!すまない!」

慌てて振り返り、自分がぶつかった人物に目をやると、そこには数ヶ月前に知り合った赤毛の友人が少しびっくりしたような顔でコチラを見ていた。

「ミッターマイヤー少将」

「あ、いや、キルヒアイス少佐……その、こちらの不注意で…あー……」

「何かよいことでもあったのですか?声をかけようと思ったのですが、何というか、とても幸せそうな顔をしてコチラに向かってきていたので……」

ぶつかったことなど気にもしていないという風ににこやかに話しかけてくるが、その言葉はミッターマイヤーにとってぶつかる寸前まで自分はどんな顔をしていたのかを想像させるには十分な威力を持っていた。

「いや、お恥ずかしい。年甲斐もなく浮かれてしまって……。その、オーディンにいる妻から自分宛にバースデイメッセージが届きまして、その、まさか誕生日当日に受け取れるとは思ってもみなかったので、その……」

「お誕生日でしたか……おめでとうございます」

それを聞いて、先ほど間でのミッターマイヤーの幸せそうな顔の理由を理解したキルヒアイスは、笑顔で祝いの言葉を述べた。

「こんな事態じゃなければ、奥様と水入らずで過ごしていたのでしょうね」

「全くです。同盟軍のおかげで、今年は妻の手料理にありつけませんでしたよ。あ、うちの家内の手料理はこう言ってはなんですが、そこいらの星付きレストランより旨いんですよ。よろしければ今度ミューゼル閣下と食べにいらしてください」

愛妻家の異名も持つミッターマイヤーは上機嫌でキルヒアイスにそう言い、キルヒアイスも是非にと言葉を返し、これからラインハルトの元へ向かうのだといい、一礼をしてミッターマイヤーが来た方向へ去ってった。

知り合ってまださほど時間も経っていないのに、少し慣れ慣れしくし過ぎたのではないか?と思ったが、彼のことだ、社交辞令として受け取ってくれただろう。

そう思い、ミッターマイヤーは再び自室に向けて歩きだした。

今度は先ほどのことがないように顔に感情がでないように少し気を引き締めながら。

「無事のお帰りをお待ちしてますわ、あなた」

妻であるエヴァンゼリンからのバースデイメッセージを見終えたミッターマイヤーは再度再生ボタンを押す。

メッセージの内容としてはごく平凡的だが、メッセージを向けられた本人としては、この状況下では何よりもうれしいプレゼントだった。

「来年はいっしょに過ごしたいものだな……」

再度流れているメッセージを見ながら、独り言を呟く。

軍に席をおいている身としては、今年の様にまた前線に経っているかもしれない。

運良くオーディンに居たとしても何らかの事情で家に帰れない日が続いているのかもしれない。

そう考えるときりがないので、先のことを考えるのをやめ、今はこの会戦に勝ち、再び妻の元に戻り彼女の手料理に舌鼓を打つことを考えることにした。

彼女のことだ、ミッターマイヤーが無事帰還すれば彼の好物だらけの食事を食卓に出してくれるだろう。

そんな考えを巡らせているときに、内線が鳴った。

 

「今から部屋に来ないか?」

そう、ロイエンタールから呼び出しを喰らい、少し離れたところにある彼の自室に向かう。

扉を開けると、どこから仕入れてきたのかワインクーラーがさほど大きくないテーブルの上に置いてあり、ワインを冷やしている。

同じテーブルには二つグラスがおいてあり、そのテーブル近くのソファに座った金銀妖眼の提督が片手をあげ挨拶をする。

「自分の誕生日に奥方の手料理を食べられないのはかわいそうだと思ってな」

「単に飲みたいだけだろ?」

苦笑しながら、ミッターマイヤーはロイエンタールの向かい側に腰を下ろす。

テーブルに置かれたワインクーラーの中身をみると、白ワインが冷えている。それも結構いいやつが。

「当たらずとも遠からずだな、まあ、強いて言うなら卿の声が聞きたくなった……と言うところか」

「なんだそれは?」

そんなことを言われたミッターマイヤーは、男に言うべき言葉ではないだろうにと心の中で思いながら、その言葉に思わず吹き出した。

「まあ、聞け。俺は元来神と言うものを信じないが、今日だけはその神とやらに感謝したくなるのさ」

ワインクーラーに入っていた白ワインのコルクを抜き、二つ並んだグラスにそれをそそぎ入れる。

「唯一無二の友人であるミッターマイヤー、卿をこの世に送り出してくれたんだからな」

白ワインが注がれたグラスを、今日誕生日を迎える友に手渡す。

「明日にでも開戦かもしれんのに、のんきなものだ」

「お互いにな」

そういうと、お互いの手にあったグラスはキンと音をたてた。

 

end

 

 


 
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