No.288278

第五回東方紅楼夢原稿

Mariaさん

第五回東方紅楼夢で出した小説です 初の同人創作ということもあり色々思い入れもある作品 楽しんでもらえたら幸いです

2011-08-30 01:48:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:445   閲覧ユーザー数:443

 

 ここは、幻想郷。

 人間の世界とは隔離された世界。

 その一角に聳え立つ紅き城、紅魔館。

 その館内のとある薄暗い一室で、この館の城主である吸血鬼レミリア・スカーレットは頭を悩ませていた。

「うーん、何にしようかしら……」

 顎に手を当てて、深々と肘掛椅子に腰掛けながら何やら難しい顔をしてうんうん唸っている。

「……あ、そうだわ!」

 何を閃いたのか、突然立ち上がると小走りに部屋を出ていくのだった。

 

 

 レミリアが向かった先は、館内一の広さを誇る書斎、ヴワル魔法図書館。そこの管理人である、魔法使いパチュリー・ノーレッジと二人で机を囲んで話し合いをしていた。

「誕生日プレゼント?」

 レミリアの突然の発言にパチュリーは小悪魔の淹れてくれた紅茶を飲みながら眼を細め、怪訝な表情を浮かべた。

「そう。明日は咲夜の誕生日でしょ? 何かプレゼントしようと思ってるんだけど、何がいいかしら?」

「何よ、藪から棒に。今までそんなことしなかったのにどういう風の吹き回し?」

「い、いいじゃない別に。誕生日の序でに日頃の行いを労ってあげようと思っただけよ」

 質問を質問で返されたレミリアは、少し頬を赤らめながら照れ臭そうに言った。

「と、兎に角! 何かいい案は無いの?」

「そんな事急に言われてもねぇ。何でもいいんじゃないの? プレゼントっていうのはどんな物でも貰ったら嬉しいものよ」

 パチュリーは自身に興味が無いのか、ただ面倒なのか、素っ気ない返事をする。

「何でもって、そんな適当な……」

「私なんかより他の人に相談した方がいいんじゃない?その方がよっぽど参考になると思うけど」

「……分かったわよ。悪かったわね、読書の邪魔をしちゃって」

 パチュリーの、まるで相手にしていない様な態度にレミリアも愛想が尽きたのか、ぶつぶつと文句を垂れながら図書館を後にした。

 レミリアが出て行くと、パチュリーは溜息を一つ吐き、温くなった紅茶を啜り、そしてぼそっと一人小さく呟いた。

「レミィ、貴女は一つ大切なことを忘れているようね。自分でそれに気付くといいんだけど……」

 

 

 図書館を出た後、レミリアは色々な人の意見を聞くために、出掛ける準備をして玄関の扉を開けた。

「あ、そうだわ。美鈴にも聞いてみようかしら」

 そう言うとレミリアは、開いた日傘を片手に門に続く道を歩きだした。普段昼間に出かけるときは日傘を咲夜に差してもらっているのだが、今日はそんな訳にもいかないので仕方なく自分で差している。

程なくして、門前までやってきたレミリアは紅魔館の門番である紅美鈴の名前を呼ぶ。

「美鈴、私よ。ここを開けてくれるかしら?」

「……………………」

 しかし、名前を呼んでみるが返事がない。どうしたのかと思いつつも、レミリアはもう一回呼び掛けてみた。

「美鈴?いるんでしょ? ここを開けて頂戴」

「……………………」

 再度呼んでみるも、返事は無し。何かおかしいと思い、レミリアは已む無く自分で門を引いて外に出た。そして周りを確認してみる。

「美鈴? 何処に……」

「……………………」

 レミリアは、全てを把握した。

「……………………」

「……………………zzz」

 その後、美鈴がどうなったのかは語るまでもない。

 

○     ○     ○

 

 場所は変わって、ここは博麗神社。幻想郷と人間界の狭間に建てられており、双方の世界が干渉出来る唯一の場所である。

 レミリアは、この神社の管理人である巫女の博麗霊夢に相談しにここへ足を運んだ次第である。

「霊夢ー? 居るかしらー?」

 レミリアは神社の裏手に回り、裏庭から中へ呼び掛けてみた。すると、間もなく返事が返ってきていつもの巫女服を纏った霊夢が姿を現した。

「あら、レミリアじゃない。どうしたのよ急に」

「えっと、ちょっと相談したいことがあってね」

 レミリアの態度がいつもと少し違ったように見えたが、霊夢は突っ込まずに話を続けた。

「まぁこんなとこじゃなんだし、中入る? お茶くらいなら出すわよ」

「いえ、ここでいいわ。そんなに長い話じゃないし」

 そう言ってレミリアは日傘を畳みながら縁側に腰を下ろした。霊夢は「お茶持って来るわねー」と少し面倒臭そうな顔を浮かべながらも、奥へお茶の用意をしに行った。

 

 

 湯呑と急須を用意して戻ってきた霊夢に、レミリアは早速今日の相談事を簡単に説明した。霊夢は話を聞いている間にお茶を淹れ、レミリアが話し終えると、軽くお茶を啜った。

「誕生日プレゼントねぇ……」

「どんな些細なことでもいいわ、何か意見が欲しいんだけど」

 霊夢は腕を組んで少し考え込む。淹れたての緑茶が湯気を立たせている。

「そうねぇ、在り来りかもしれないけど咲夜の好きなものとかでいいんじゃない?」

「咲夜の好きなもの……ってそう言えばあの子の好きなものって何なのかしら?」

 レミリアのこの発言に、霊夢は呆れ顔を示した。

「私に聞かないでよ、っていうかそんな事も知らないの? 仮にも紅魔館の主でしょ?」

「別に主だからといってそんなの知ってるって事にはならないじゃないの。確かに咲夜には一番身の周りの世話をしてもらってるし、雑談相手にもなってもらってるわ。けど、好きなものの話なんてしたことないわよ」

「もう……。それならまた話は振り出しに戻っちゃうじゃない」

 二人が同時に溜息を吐いたとき、背後に何者かの気配と前方に箒に跨った人物が現れた。

「あら、紅魔のお嬢様なんて珍しいわね。何の話をしてるのかしら?私も混ぜて頂戴」

「よう、霊夢! 茶をもらいに来たぜ、ってレミリア、お前も来てたのか。何話してたんだ? あたしにも聞かせてくれよ」

 上から箒で降りてきたのは霊夢と同じ幻想郷では珍しい、人間である魔法使いの霧雨魔理沙、後方で上半身だけををスキマから出して現れたのは、長年この幻想郷に住んでいる妖怪の八雲紫である。

「あら、いらっしゃい。丁度良かったわ、二人にも聞いてもらえばいいんじゃない?」

「そうね、いい所に来たわ二人共。ちょっと相談に乗ってもらえるかしら?」

 霊夢は相談相手の矛先が変わったことに内心安堵しつつ、レミリアが二人に話している間にもう二人分のお茶を用意しに向かった。後から来た魔理沙と紫はレミリアの話を興味深げに時折顔をニヤつかせながら聞いていた。霊夢が用意をして戻ってくると、丁度レミリアも話を終えたところだった。

「ねぇ、何かいい意見無いかしら?」

レミリアは困り果てた顔をしながら二人に尋ねた。

「そうねぇ、プレゼントとかしたこと無いから私にはあまり分からないわ」

 紫はごめんなさいね~と謝りつつも、表情はどこか楽しんでいるように見える。レミリアは、それをある程度予想していたのでそれ程怒る様子もなく、さっさともう一人の魔理沙の方に意見を求めるために顔を向けた。

「うーん、そうだなぁ……。あ、こういうのはどうだ?」

「何? 何かいい案があるの?」

 レミリアは漸くちゃんとした意見を聞けると思い、胸を躍らせながら先を促した。魔理沙はまるで世紀の大発見をしたかのような誇らしげな態度で語り出した。

「何をプレゼントすればいいかで迷ってんだろ? で、霊夢は好きなモンをプレゼントすりゃいいって言ったんだよな。咲夜は嫌々お前の身の周りの世話をしてる訳じゃないんだろ? って事はそりゃレミリアが好きだからに決まってる。つまりだ、レミリアは自分をプレゼントすりゃ良いわけよ。要は、こう……先ず裸になって要所要所を紅いリボンとかで隠して、咲夜の前で『あたしをプ・レ・ゼぐふぅっ」

 魔理沙が意気揚揚と話していると突然二つの鉄拳が彼女の顔面を直撃した。

「な、なん……で……」

 魔理沙は最後まで言い切らないうちに気を失った。

 レミリアは、顔をこれでもかと言わんばかりに紅潮させて俯いており、霊夢は半分怒り半分呆れ顔で、二人とも突き出した拳から煙が上がっていた。紫はというと、一部始終その光景を傍からニヤニヤしながら眺めていただけだった。

 

 

 取り敢えず全員が落ち着いたところで、レミリアが話を切り出した。

「まぁ、話を聞いてくれただけでも感謝しておくわ……」

 その言葉には全く感謝の意は籠められておらず、ただ落胆の気持ちだけが滲み出ていた。

「なんだよ、あたしの考えは……」

 そこまで言ったところで、魔理沙は二人に睨まれて口を噤まざるを得なかった。

「ま、私はまた別の所をあたってみることにするわ。それじゃ」

「頑張ってね~」

「いいプレゼントができることを願ってるわね」

 レミリアは、三人と其々別れの言葉を交わすと日傘を差して飛び立っていった。

レミリアの姿が見えなくなると、魔理沙がぽつりと呟いた。

「そういやあいつ、何時になく真剣な感じだったなぁ。そんな大事なことだったのか?」

「レミリアにとっては初めての試みだからなんじゃない? それとも他に理由でもあったのかしらね」

 霊夢が魔理沙に対して適当な返答をすると、紫はふふっと小さく笑い、話し始めた。

「まぁまぁ、それはそうと中に入らない? 雑談の続きはお茶を飲みながらゆっくりしたいわ」

「それもそうね。さ、魔理沙も上がって」

「おぅ。お邪魔するぜ」

「いらっしゃ~い」

「なんであんたが言うのよ」

 三人はいつもの日常会話に話を戻し、ふざけ合いながら中へ入っていくのだった。

 

○     ○     ○

 

 レミリアが次に向かった先は、白玉楼。

 春には西行妖が咲き乱れ、得も言えぬ幻想的な光景を映し出す場所である。

 そこの主である幽霊の西行寺幽々子、庭師で半人半霊の魂魄妖夢に相談を持ちかけようと考えたのである。

 神社から飛び立って十数分、レミリアは白玉楼の前に降り立った。そして、誰か居ないか確認するために中に呼び掛けてみた。

「幽々子ー? 妖夢ー? どっちか居ないの?」

 すると間も無くして奥からエプロンを着けた妖夢が現れた。

「はーい、ってレミリア様!? どうしてこんな所に……」

 妖夢は意外な人物に驚きを隠せなかった。何せ紅魔館の主が態々一人でこんな所にやってきたのだ。余程の事なのだろうと妖夢は少し身を固くした。

「ちょっと相談事があってね。今時間あるかしら?」

「え、ええ。構いませんが」

「そう言えば、何故エプロンなんか着けてるのかしら?」

 レミリアの素朴な疑問に妖夢は思い出したようにはっとして、恥ずかしそうにしながら説明した。

「あ、えっとこれはですね、只今昼食を作っている最中でして」

「あら、そうだったの。何だか邪魔したみたいね」

「いえ、別にそんな……。あ、昼食がまだでしたらレミリア様もご一緒に如何です?」

「そうね、じゃあお言葉に甘えて有り難く頂こうかしら」

 レミリアは、今が昼時だと妖夢に言われて初めて気付いた。まだそれ程お腹は空いていなかったが、断るのも悪い気がしたので快くその誘いを受けることにした。

 レミリアは吸血鬼なので、主食は言わずもがなだが血液である。しかし、だからと言って血液ばかり摂っているわけではなく、普通の食事も嗜み程度にはしている。血液ばかりだと流石に飽きてくるらしい。

 

 

 妖夢に連れられて、中の居間へ通されたレミリアはそこでもう一人の住人である幽々子に出会った。

「あら、いらっしゃい。珍しいわねぇ、どうしたの? こんな所まで来て」

「相談したいことがあって、此処に来たら昼御飯に誘われたのよ」

「では、私は昼食作りに戻ります。もう間もなく出来上がると思いますので、居間で待っていて下さい」

 妖夢はレミリアにそう告げると、台所へ向かっていった。レミリアは立っているのも何なので、幽々子と向かい合うように座った。

「で、相談事って何なのかしら?」

 幽々子が早速本題に入ろうとしたが、レミリアはちょっと待ってと話を進めるのを制した。

「妖夢が揃ってから話すわ。もう何回も同じことを言うのは面倒だし」

「そう? じゃぁ他の事でも話しながら待ってましょ」

 そう言うと、二人は他愛のない世間話をしながら妖夢が昼食を作り終えて来るのを待った。

 

 

 暫くして、妖夢が焼き魚の良い匂いを漂わせながら居間へとやってきた。

「お待たせしました。今から配膳致しますので」

 幽々子は待ち侘びていたのか、早く早くと妖夢を急かしていた。妖夢は手早く配膳を終えると、二人の間に座った。

「それじゃ、頂きま~す」

 幽々子の威勢の良い号令で昼食は始まった。

「早速だけど、相談の話をさせてもらうわね」

 レミリアは此処に来た本当の目的を二人に話した。妖夢は箸を止めて、幽々子はお構いなしに次々と食べ物を口に運びながら其々話を聞いている。話終えると二人ともうーんと一声漏らし、そして食事を再開した。暫く無言であったが、先に口を開いたのは妖夢だった。

「そうですね……。誕生日なんですからやはりケーキとかどうでしょうか?」

 妖夢の提案にレミリアは少し考える素振りを見せたが、直ぐに首を横に振った。

「うーん、ケーキは何時も食べてるものだし、やっぱりプレゼントって感じじゃないわね」

「そうですか……」

 妖夢は残念そうな顔をしたが、レミリアはそこまで気負って考えなくてもいいと妖夢に付け加えて言った。すると今度は幽々子が一つ案を提示した。

「私はシンプルに花束とかいいと思うわよ? 目出度い事なんだし相手も喜ぶと思うわ」

「そうね、それは有りかもしれないわね。あぁ、なんだか初めて良い意見が聞けた気がするわ……」

 レミリアは何だか言い様のない達成感を感じた。此処に来て初めてまともな意見を聞けたのだから無理もない。

「そんなに嬉しがるような事かしら? まぁいいけど」

 幽々子は理解しがたいというような顔でレミリアを見ていたが、本人にとっては非常に重要な事そうだったので深くは追求しなかった。

 しかし、ここでレミリアはふと疑問に思うことを口にした。

「そう言えば、花束はいいんだけどどうやって用意すればいいかしら?」

「花なら幽香さんの所に行けば宜しいのでは?」

 妖夢がそう提案したが、レミリアは頭を抱えて嫌悪の表情を示した。

「厭よ、幽香の所は。あいつに頼み事なんか死んでもしたくないわ」

「そんな事言ってる場合ですか!」

 妖夢がレミリアの我儘発言に突っ込みを入れる。しかし、レミリアも頑として譲らない。

「とにかく、私は行かないわ」

「はぁ、それならこの案も没ですね……」

 妖夢は呆れ顔になり、これ以上レミリアを説得するのを諦めた。

「それよりも御飯食べちゃいましょ。冷めちゃうと勿体ないわ」

 すると突然幽々子は一旦話を置いて、昼食の続きをしようと言い出した。二人もこれ以上話が進まないと思ったのか、幽々子の言葉に同意して食事を再開した。

 

 

 妖夢の作った昼食は確かに美味であった。だが、三人は場の空気によってもう一つ味を楽しむことが出来なかった。

 昼食後、話を続けてもこれ以上話は進展しそうに無いと判断したレミリアは早急にお暇することにした。

「二人とも、話を聞いてくれて感謝するわ。昼食も御馳走様、美味しかったわ」

「いえ、こちらも力になれず残念です」

「悪いわねぇ」

 二人は申し訳なさそうにしていたが、無理を言ったのはこっちだから気に病まなくていいとレミリアは弁護した。

「それじゃあね」

 二人に別れを告げ、白玉楼を飛び立ったレミリアは次の目的地まで向かった。

 

○     ○     ○

 

 その後、レミリアは様々な所へ相談をしに足を運んだ。永遠亭、守矢神社、地底の旧都や地霊殿、香霖堂など、あらゆる者達に話を聞いて回った。だが、それでもレミリアの納得するような意見を出したものは遂に現れなかった。

ふと気が付くと、あれだけ明るくて不愉快極まりないと思っていた太陽も、西の空に姿を隠そうとしていた。レミリアは日傘を畳み、これ以上粘っても無理だと判断して、仕方なく紅魔館へ戻ることにした。

 

 

 紅魔館へと帰ってきたレミリアがロビーを歩いていると、図書館から出てきたパチュリーとばったり会ってしまった。

「あら、おかえり。今帰って来たのね。で、どうだったのかしら?何かいい案でも得られたの?」

 パチュリーのその言葉に、少しばかり棘があるように感じた。実際、全くそんな事は無いのだが、結局何の収穫も得られなかったという事実がそのように感じさせたのだろう。

「ど、どうだっていいじゃないの! もう放っといてよ!」

 レミリアは自分の不甲斐無さに、思わずパチュリーに八つ当たりしてしまう。

「はぁ……。その様子だと駄目だったみたいね。ま、明日になれば色々と分かると思うわ」

パチュリーはそう言うと、含み笑いをしながらレミリアの横を通り過ぎて行った。レミリアは何故パチュリーが笑ったのか理解出来ず、頭の上に?を浮かべていた。

 

 

 その夜、レミリアは寝付けずにいた。

 明日の事を考えるとどうしても目が冴えてしまう。

「パチュリーが色々分かるって言ってたけど、明日って他に何かあったかしら?」

 レミリアは何があったか思い出そうとしたが、あと少しというところで思い出せない。喉の奥で何かがつっかえており、それが吐き出せないという感じだった。

 色々考えを巡らせているうちに眠気も仕事を始めたようで、レミリアはいつの間にか夢の中へ旅立っていた。

 

○     ○     ○

 

 そして遂に迎えた翌日。

 レミリアは寝覚めこそ良かったものの、気分は決して良くはなかった。

「結局思い出せなかったわね……」

 昨日の事が頭を過ったがうだうだ考えていても仕方がないと思い、手っ取り早く朝の支度を済ませると、レミリアは不安と緊張を抱えながらも、咲夜を探しに部屋を出た

 

 

 部屋を出て少し歩いた廊下の先で、直ぐに咲夜を見つけることが出来た。丁度主人を起こしに来たようだった。

 レミリアが咲夜に近づいていく。胸の鼓動が高鳴っていく音が自分でも聞こえる。今更になって昨日もっと考えておくんだったと後悔した。

 咲夜もレミリアが歩いて来るのに気付き、こちらに向かって来た。

「お早う御座います、お嬢様。もう起きていらっしゃったのですね」

 咲夜は軽く一礼しながら、定型文の挨拶をを口にした。

「ええ、少し早くに目が覚めてね」

「えっと、お嬢様、あのですね……」

「あ……一寸待って。その前に話したいことがあるんだけど……」

 咲夜が何か言おうとしたのを遮り、レミリアは意を決して話し出した。

「咲夜、誕生日……おめでとう」

「え? あ……」

 咲夜は最初何を言われたのか分からなかったが、直ぐに自分の誕生日が今日であることを理解した。

「そういえばそうでしたね……。お嬢様から祝言を頂けるとは思いませんでした。どうもありがとうございます」

 咲夜は恭しくお辞儀をした。そこでレミリアはプレゼントの話を切り出そうとした。しかし、今度は咲夜の方が話を遮って話し始めた。

「こちらも話したいことがありまして……」

 そう言うと咲夜は、懐から年代物の懐中時計を取り出した。そしてそれをレミリアの方に差し出した。

「これは?」

「お嬢様、私をこの紅魔館に雇って頂き本当にありがとうございます。今日は私が紅魔館で勤め始めた記念日ですので、これは私からのささやかなプレゼントです」

 咲夜に言われて漸くレミリアは思い出した。今日は咲夜をこの紅魔館へメイドとして招き入れた日なのだ。咲夜はそのお礼として懐中時計をプレゼントしようというのだ。

「でも、この時計って大切なものなんじゃ……」

 レミリアは懐中時計を受け取るのを遠慮しようとしたが、咲夜はそれを制した。

「いいんです。そもそも私は幻想郷に迷い込んで、右も左も分からないまま力尽きようとしていたところをお嬢様に助けられ、更には仕事まで与えて下さいました。お嬢様は私の命の恩人なんです。これぐらいのお礼はさせて下さい」

「そう……。分かった、貰っておくわね、ありがとう」

 レミリアはそんなこともあったなと当時のことを感慨深げに振り返った。そして咲夜の想いを無碍にも出来なかったので、懐中時計を有り難く受け取った。

 そこでレミリアはふと思いついた。

「……そうだわ咲夜、ここで待ってて頂戴。直ぐ戻るわ」

 レミリアは急いで自分の部屋へ戻って行った。そして暫くしてから何かを手に握り締めて帰って来た。

「お待たせ。実は、咲夜の誕生日だっていうのにプレゼントを用意してなくてね。けど、咲夜がこんな大切な物をくれるなら私もこれをプレゼントするわ」

 レミリアが手渡したのは、大きなルビーが一つ装飾されたネックレスだった。

「これは私がこの館の主になったときに作らせたものよ。プレゼントとしては十分だと思うわ」

 咲夜はそれを聞いて目を丸くした。そんな大切な物をくれるというのだ。

「と……とんでもない! そのような大事なもの、私なんかが……」

「いいのよ、等価交換だとでも思えば。それにいつも仕事頑張ってもらってるし、そのお礼も含めてよ」

 レミリアは有無を言わさず、咲夜にペンダントを渡した。咲夜も最初は驚いていたが、レミリアの真摯な想いを感じ、受け取ることにした。

「貴重なものをありがとうございます。一生大切にします」

「そう言ってくれるとこっちも嬉しいわ」

 そう言うと二人は互いに微笑みを交わした。その笑顔は昇り始めていた太陽よりもずっと強く、明るいものだった。

 

 

「お嬢様、朝食の準備を致しましょうか?」

「そうね、早く起きたからお腹が空いたわ」

「では、少々お待ち下さい」

「咲夜」

「はい?」

「いつまでも私のそばにいなさい……命令よ」

「……畏まりました」

 

FIN

 

 

 
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