No.287583

よろずやのおばあちゃん1

полесさん

途中で物凄くテキトーな場所で終わってるけど投稿テスト。元気なおばあちゃんっていいですよね

2011-08-29 03:48:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:294   閲覧ユーザー数:294

 
 

 ジメジメとした、薄暗い中学校の校舎裏。授業は終わり、もうすぐ火は傾き始めるだろう。湿った苔と土の臭いが充満していた。

 

「じゃあ遠慮無く金はいただいていくぜ」

 

 図体のでかい、制服を着崩した「どこからどう見ても」不良であろう生徒はそう言うと、明らかに自分のものでないであろう財布から紙幣を何枚か抜き取ると校舎裏を立ち去った。

 

 財布の持ち主の少年が校舎の壁によりかかり、座り込んでいた。不良にこっぴどく腹を殴られたのでどうも腹の痛みがおさまらないらしい。下腹部も上腹部も疼いてじわじわしていた。不良が少年に対してカツアゲ行為を行うようになって2ケ月ほどが経っていた。しかし、殴られた痛みに慣れることはない。少年は意地の悪い不良の顔を思い浮かべ、苦々しく思った。

 

 少年はしばらく立てなかったが、痛みがおさまると膝を動かし立ち上がった。紙幣を抜き取られいささか軽くなった財布をポケットに突っ込むと傍らのかばんを手に取り、家路につく。少年はひたすら惨めだった。なんとかあの不良生徒に復讐をしてやりたかった。しかし、少年は不良生徒と比べると小さな体格と言わざるを得ない。不良生徒は身長175cm以上あるだろうし、どうやって鍛えているのか定かでないが筋肉質であった。対して少年は身長155cm。しかも所謂「痩せ型」だった。少年は不良生徒にどうやっても勝てないだろうなあと思っていた。

 

 不良生徒がこの中学校に転校してきたのは2ケ月前のことだ。少年と不良は同級。中学2年生であった。少年はクラスでも1番小さな体格をしていて、大人しかった。そのため不良は少年に目をつけたのだろう。不良が転校してきた次の日から少年はいじめられた。少年を校舎裏に呼び出して殴りつけては金をせびる。それが2ケ月間続いている。少年は以前教師に相談したが、なあなあで済んでしまった。どうやら不良はこの街の有力者の親戚らしい。圧力が教師にかかっているのは明白だった。

 

 少年は片親で母親と一緒に二人で暮らしていた。母親は少年を養うのに一生懸命で毎日仕事で疲れて帰宅する。だが、それにもかかわらず少年は母親の財布から金を抜いていた。もちろん不良に献上するためである。少年は母親に迷惑を掛けたくなかったし、なにより財布から金を抜いていることへの引け目から母親にいじめられていることを話すことが出来なかった。腹に受けた痣や傷、そしてなにより財布の金の件が母親に露見するのも時間の問題である。そして、少年はこのまま不良のいじめがエスカレートしていくのではないかと懸念していた。諸々を考えると少年は気が気ではなかった。

 

 痛みがおさまったとは言えまだ腹部は疼いた。いっそ殴られたことを忘れようともしたが、疼きが忘却を阻害した。腹をかばうようにさすりながら歩いていく。この付近は住宅街でいつもは人通りも多い。だが少年は先程から人の気配を感じていなかった。少年と同じく下校する生徒がいても不思議ではなかったが、そのようなものは見られない。少年は少し不安に思えてきた。

 

 歩く内少年は、今自分が歩いている道に見覚えがないことに気づいた。間違い無く自宅への道を歩んでいたはずなのに。少年は考えを巡らす。だが、道を違えた覚えはない。見渡してみるが見覚えのあるものはなかった。学校を出発して15分ほど。そろそろ家に到着していい頃なのだが自宅さえ見つからない。

 

 少年は住宅街の中に一軒の店を見つけた。店は木造の青いトタン屋根の平屋で、コンクリート造りで2階建てが主流の住宅街の中では浮いていた。「よろずや」の看板が掲げてある。店の表にはカプセルトイ、一般にガシャポンとか呼ばれる自動販売機が10ほどと、アイスクリームの冷凍庫が置かれていた。少年はよくテレビで取り上げられる古き良き「駄菓子屋」を思い浮かべていた。

 

 だが少年はこのような駄菓子屋など見たことがなかった。幼い頃からこの町に住んでいるが、駄菓子を買う際は自宅近くにあるコンビニエンスストアを利用していた。このような駄菓子屋があるとも聞いたことがない。しかし、不思議な憧憬も感じていた。憧憬に誘われたのか少年はふらふらと吸い込まれるように駄菓子屋へと入っていった。

「いらっしゃい」

 割烹着を着た温和な顔の老婆が応対した。

「あ……」

 少年は少し狼狽えた。もとより店に入るつもりはなかったし、そもそも何を買っていいかわからない。

「慌てなくてもいいんだよ。ここにいるだけでいいのよ」

 老婆は少年に諭す様に言った。少年にとって老婆の顔に刻まれたシワは優しく感じられた。柔和な老婆の顔に安心したのか、少年は口を開く。

「あの、ここに駄菓子屋なんてあったんですね。僕、全然知らなくて……」

「昔からね、ここでお店をやってるのよ。ずっと昔から……」

「へえ……」

 だが、やはりこの付近に駄菓子屋があったことなど知らなかった。

 

「ところで坊ちゃん」

「坊ちゃん……、僕ですか?」

「そうよ。坊ちゃん」

 いままで人に坊ちゃんと呼ばれたことがないので、少年は少し驚いた。

「坊ちゃん、悩み事がお有りだね?」

 
 

 
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