そこに、鏡があります。
とてもとても大きな鏡です。
そのとてもとても大きな鏡の中に私がいます。
私は鏡の中にいます。
鏡の中には私しかいません。
私が私に手を伸ばして私と私の手が触れあい、一時の繋がりを得ます。
私と私はとても仲が良いのです。
私には私が必要です。
私にも私が必要です。
私の元に怖い人たちがやってきました。
私が恐怖で私を呼びます。
私は恐怖で耳を塞ぎました。
私が私に手を伸ばします。
私はその手を取ることができませんでした。
私は私の声を、耳じゃないどこかで聞いていました。
私の声はやがてなくなりました。
怖い人たちがいなくなった後、私が私をなじりました。
私の弁解を私は受け取ろうとしません。
私の謝罪も拒否されて、ただ私は私をなじります。
私はじっと私の声を聞いていました。
私に浴びせられる罵詈雑言は私に傷を負わせません。
私を罵る私が傷を負います。
どうせそろそろ、私は死ぬのです。
それは私も知っています。
私に幾度と無く訪れる死を私が羨んでいることも私は知っていました。
私のからだをつくったのは「おかあさん」です。
私のからだをつくったのはだれでもありません。
私のこころは世界に触れて成長しました。
私のこころは突然生まれました。
私は私のことをよく知っています。
私は私のことをよく知りません。
そんなことを考えていると私の遠ざかる足音が聞こえました。
そろそろ私が死ぬようです。
私は私に振り向いて「おやすみなさい」と。
私も私に微笑んで「おやすみなさい」と。
そうして私たちは一時の別れをしばし味わいました。
訪れ行く死を私は受け入れました。
訪れ行く眠りを私は受け入れました。
そうしてまた、私の前に私が立って二人の手がつながります。
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昔何となく書いたものです。詩なのか微妙な話です。わざと「私」の文字を多くしたりしています。