一昨日の夜、またカレンダーをめくった。
その1枚は特別な1枚だった。
今年の夏は意地悪だ。
9月1日は日曜で、2学期は2日から始まる。
きっと、喜んでいる生徒のほうが多いんだろうな、と思う。
すこし前なら、わたしも喜んだだろう。
氷室先生と顔をあわせずに済ませられるから。
その棘が抜けたいまは、2学期が待ち遠しかった。
始業式が嬉しくて眠れない高校生なんて滅多にいないだろう。
小学生の遠足のようだ。
遠足より、もっと素敵だ。
こらからの毎日が特別の日。
眠るのに苦労したのに、目覚まし時計より先に目覚めた。
夏休みよりは、混雑している電車。
夏休みよりは、人の姿の多い通学路。
夏休みより、早い時間にくぐる校門。
夏休みの間にも見慣れていたはずの学校が、
まるであたらしく見えた。
これから毎日、ここに氷室先生がいる。
これからまた、同じ校舎で氷室先生に会える。
おはよう、と心の中で挨拶をした。
おはよう、と校舎に、校庭に、心の中で挨拶をした。
嬉しいというのは、こうした気持ちを言うのだろう。
校庭の端を彩る緑にも、
まだ夏の色の空にも、
おはよう、といった。
そして、待ちわびていた早目の足音が聞こえてきた。
その足音が通り過ぎたら、わたしのとびきりのおはようを言おう。
「おはよう」
そのとき、斜め後ろから声がかかった。
「始業式から感心だ。節度ある生活を心掛けていたようだな」
「おはよう、ございます」
そして、挨拶は繰り返された。
「おはよう」
いつものように、軽く頷きながら、その言葉は繰り返された。
そして、わたしを追い抜いて、歩み去った。
わたしは、立ち止まっていた。
そして、その後姿をずっと見つめていた。
いつもは、立ち止まったりしなかった。
見つめていたりしなかった。
でも、今日は特別の朝だ。
先生からさきにおはよう、と言ってもらった。
はじめての、特別の朝だ。
おはよう ――。
おはよう ――。
そう胸のなかで繰り返しながら、
絵の中に、ずっととどめておきたい瞬間がある、と思った。
エピソード完
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ときメモGSの二次創作です。夏休みがおわって、また学校で氷室先生に会えるのが嬉しい主人公なのです。