「・・・ソファーで寝る・・・?」
「あぁ、それで何か毛布でも余っていれば貸してくれれば助かるんだが・・・」
部屋中を見回したが、地べたもアレだったので、やはり妥当にソファーで寝ることにした真司。
今の格好が格好だけにせめて毛布1枚くらいは欲しかった。
「・・・せっかく風邪をひかないように泊めてあげるのに意味なくなっちゃうじゃない」
「・・・いや、まぁ、平気だろう」
真司の涼しそうな格好を見て怪訝な表情で文句を言う綾音。
一応はシャワーで暖まったし、毛布1枚で平気だろうと踏んではいたが、言われると多少自信が無くなる。
「幸いなことに二人くらいなら寝れるから」
「いや、流石にそれは・・・」
何故か拗ねたようにスタスタと寝室へと向かっていく綾音。
「日比谷クンがそっちで寝るなら私もそっちに行くから」
「・・・分かった、分かった・・・」
ベッドの上で枕を持って、何時でも行けるとアピールしながら脅してくる。
流石に家主に、しかもレディにソファーで寝させるのは忍びない。
仕方なく重い足取りで真司もリビングから寝室、そしてベッドへと向かう。
・・・十数分後。
部屋の照明は消され、聞こえてくるのは時計の針の進む音のみ。
真司が最後に見た時計では短針は既に二時近くだった。
(・・・眠れるわけがない・・・)
綾音の言っていた通り、ベッドのサイズは大きめでギリギリ二人とも寝れるサイズだった。
ここでも風呂場同様に背中合わせで寝ている。
仰向けになって寝ると綾音が視界に入ってしまうので色々と危惧することが発生しそうだったので止めておいたのだ。
だが、見えていなくとも上半身は何も着ていない真司の背中に綾音の長い金髪の感触が伝わってくる。
それだけでも妙な妄想をしてしまう。
「・・・委員長、起きてるか?」
「・・・えぇ」
妄想を止めるためか静寂に耐えられなくなったためか、話しかける真司。
「・・・ひとつだけ聞いていいか?」
「どうぞ」
話しかけてしまったついでに、ひとつだけ聞いておきたいことがあった。
「・・・何で泊めてくれたんだ?」
「・・・」
部屋に上がる前に一度聞いた質問だった。
答えはその時に聞いている。
だが、今改めて聞いておきたかった。
「・・・言ったでしょ?私のためよ・・・」
「・・・納得はするが、あまりこういうことはしない方がいいぜ?」
綾音の部屋に入ってからと言うもの、今の今まで何度も理性と激戦を繰り広げてきた真司。
現在進行形で戦っていた。
「・・・しないわよ」
「・・・そうか?なら、いいんだが・・・」
泊めてくれた理由と先ほどの答えがイマイチ噛み合っていない気がしたが、眠気で思考が深いところまで回らない。
「・・・」
「・・・」
しばしの静寂。
やがて綾音の静かな寝息が聞こえてくる。
ドタバタと色々あった上にこんな時間では起きている方が珍しい。
真司も例外ではなかった。
(流石に・・・眠い、な・・・)
気になっていたことも聞けたことでいよいよ頭の中が朦朧としてくる。
「・・・」
なんと無しに仰向けになってみる。
横を向けば綾音の寝顔が見える。
肩は既に触れている。
今の状況で真司がその気になれば何でも出来る状況だった。
本人が寝ている隙に気づかれずに悪戯なんてことも出来るのだ。
(・・・だーめぇだぁああぁッ!!!寝込みを襲うとか最低だろう・・・)
聞こえてくる男としての悪魔のささやきに必死に抵抗し、逃げるように視界を塞ぐ。
力強く瞼を閉じ、必死に寝ることに集中する。
(・・・だが・・・静かに寝ていれば可愛いんだよなぁ・・・いや、違う。そうじゃない・・・)
一人で自問自答を繰り返しつつ夜は更けていった。
・・・・・・
「・・・クン、日比谷クン・・・」
「んぁ・・・?」
夢で見ていた綾音の声が鮮明に頭に聞こえてくる。
朦朧としている頭で夢か現か考える。
微かに聞こえてくる雀の鳴き声が現実だと知らせてくれた。
「やっと起きた・・・寝起きが悪いからいつも遅刻するのね・・・」
「・・・生まれ持ってのものだ、仕方ないだろう」
重い瞼をゆっくりと開けると朝日が差し込む室内に笑顔の綾音が映えていた。
「・・・おはよう、体調は大丈夫?」
「・・・おぅ、おはよう。おかげさまで眠いだけだぜ」
ふと思い出してみれば綾音のこんな自然な笑顔を見たのは初めてな気がした。
「・・・やっぱり可愛いよな」
「ッ!?き、着替え取ってくるからっ」
綾音はまさに目にも留まらぬ速さで寝室を飛び出していった。
「・・・学校、面倒だなぁ・・・」
時計を見れば朝の七時。
まるで恋人と一夜を明かした後のような気だるさを感じつつ、重い身体をベッドから起こす。
綾音のまた絶妙な味の朝ご飯を食べ、一緒に学校へと向かう二人だった。
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