<解答部分>
遺言(暗号解析後)
温泉郷の皆、これまでよく頑張ってくれた。その最後の感謝の意を表す意味で、以下に示すとおりに、私の財産を分与する。
但し、以下の内容を完全に説明でき理解した者が現れるまでは、私の遺産には一切、公私共に手を着けてはならないものとする。
きのこ温泉郷 領主 咲音 望日郎
内容
いつもは右から左へ眺めていたが、今日は、左から右へ大地を眺めてみる。“花 又や 朝 変わらん”
いつもは上から下に目線を動かすが、今日は下から上へ空を見上げてみる。“青い上”だ
整数で割り切れない 端数分は 切り捨てて計算する
我が孫 メイコに 三分の一
ルカさんに 六分の一
リンさんに 九分の一
九分の一を 他の巡咲庵の皆で 均等に分ける
九分の一を 中華料理屋 大三軒へ 寄付する
以下の店に 十八分の一ずつ 寄付する
休憩所 とおね
土産物屋 ある
ゲーム屋 はくらく
残った端数は 募金箱に 入れよ
<ゆけむり旅情・きのこ温泉郷の謎 第6話 遺言状の秘密>
(午後1:00付近・ミクの部屋)
トントン
レン:入っても宜しいでしょうか?
ミク:どうぞ
レンはミクの宿泊部屋に入った。
レン:学歩より話は聞きました。今回の件に関する情報をお訊きしたいそうですね
ミク:はい。でも文面に関するヒントとか、そういうことではありません。遺言そのものに関してお訊きします
レン:? どういうことでしょうか?
ミク:先にお伝えしておきます。私はあの遺言の謎を解きました
レン:!! 本当ですか! なら早速皆を集めて発表を!
ミク:そういう訳にはいきません。理由は、“アノ”遺言の内容、内容が暗号で隠されていたこと、そして、あなた達関係者の発言に大きな違和感があるからです
レン:あなたは“遺言の謎”を解いて記事にするために、暫定的ですが無料でココに泊めて貰っているんですよ! 解いたらすぐに報告して、仕事場に戻ってその記事を書くのが“筋”というものではないですか!? あなたは“探偵”でも“刑事”でもないんですよ!
ミク:あの文面から発生するのは、“該当者への巨額の冨の譲渡”。大きなお金が動く内容ですから、私が例え一般人でも“解いた責任”は必ず発生するんですよ。だから、この遺言状その物の“確からしさ”まで証明して、初めて、“謎を解いた”事になるのではないですか? 望日郎さんの文にもちゃんとそう書いてあったはずですよ
レン:“以下の内容を完全に説明でき理解した者が現れるまでは”という一文ですか? あれは・・・
ミク:レンさん、前にもあなたにヒントを貰うために、遺言に使われている“キーワード”に関してお訊きしたとき、あなたは遺言の一文を部分的にですが正確に覚えていましたね。そして今も遺言の説明文を正確に覚えていました
レン:関係者なら全員覚えていますよ。遺言の文面くらい
ミク:ところがそうでは無かったんです
レン:!
ミク:私は昨日あなたに質問して回答を貰ってから、“関係者は全員文面を部分的にでも正確に覚えている”、事に疑問を持っていました。だから、昨晩から今日にかけてあの件の関係者全員に、本当にそうなのか“あなたに訊いた内容と同じ質問”をしてみました
レン:・・・・・・
ミク:結果、あなたと同じように、“部分的にでも正確に文面を覚えていた”のは合計二人でした。一人は勿論あなた。そしてもう一人はメイコさんだけ。他の人は、“最初から他人任せ”で、全然文面を覚えていなかったんです。この宿の直接の関係者であるリンさんやルカさん、学歩さんやカイトさんですら、そうでした
レン:・・・・・・
ミク:そして遺言の文面を解読した結果出てきた、遺産相続の内容は、孫のメイコさんに1/3を始め、それほど“隠さなければいけないほど奇抜な内容”ではなかったのです。文頭の説明文の通り、“温泉街に貢献した分与”でしたし
レン:・・・・・何が言いたいんです? はっきり仰ってくれた方が私としてもスッキリします
ミク:その前に1つだけあなたの答えを聞きたいんです。いいですか?
レン:答え? まあいいです。仰って下さい
ミク:あなたは、“『本当の財産分与』を選び、望日郎さんの本当の意志を継ぐ”のか、それとも、“『作られた遺言状』に従って、メイコさんが作ったシナリオを完遂して、メイコさんの意志を継ぐ”のか、どっちなんですか?
レン:意味が分かりかねます。両方のちゃんとした説明を聞いてから答えます
ミク:良いでしょう。では私の推理を述べます。両方に共通した『ある事』、それは、この遺言状が、『メイコさんが作った偽物』、であること。そしてその偽物を、他人が解くか、もしくは、頃合いを見計らって、既に解答を知っている状態で『解く役割』を受けていたあなたが行う事になっていたこと。この温泉郷の遺言状の謎は、メイコさんとあなた、二人によって作られた“シナリオ”で動いていた事
レン:つまり、『本物の遺言状は別にあった』ということですね
ミク:そう。私があなたに話した2つのことの前者は、『このシナリオ』があった事実を、遺言状の謎を任せられている私に伝え、『本物の遺言状』を私に貸して解いて貰い、第三者である私から、全ての謎の答えを発表させて『本当の財産分与』の事項を伝える事により、望日郎さんの意志を継ぐ、事にする
ミク:もしくは、私の推理を、全て“所詮憶測であり推理。そして物的証拠不足、警察などの有資格者でない人物の戯言”と斬って捨てて、私が解いた偽物の遺言状の解答を押し進めて、財産分与して、メイコさんの意志を継ぐ、事にする。そのどちらかです
レン:・・・・・どうしても“この遺言状が偽物”と決めつけるんですね
ミク:レンさん、私は公証人の資格を持っておりません。だから本来、私が口を出して良いのは、謎解きの依頼程度だと思います。でも一般人の意見から言わせて貰うと、財産分与における“遺言状”は、ほぼ絶対の物。それは知っていると思います。だからこそ、内容が明確になった後は、行政書士とか公証人とか色々な人に依頼して、最後まで解決していきます。だからこそ、明確にした人物の意見は、公証人の判断でなくても、大事な物なんですよ。私が疑問や疑念を抱いたまま、内容の開示をしてしまうと、大変な事になるんです。そうですね、推理というより、“意見”と取っていただいても宜しいです
レン:・・・・・
ミク:まだ“相続に関するお金が動いた”わけではないんです。今ならまだ間に合うんです! お願いします! 本当の事を私に教えて下さい!!
レン:・・・答えは前者、望日郎おじいさまの意志を継ぐ事です。その遺言状はメイコさんが作った偽物です
ミク:!!!!
レン:これから簡単に経緯を説明します。なんで“遺言状をすり替えてシナリオを作る”事を行わなければいけなかったのか
ミク:・・・レンさん・・・
(レンが知っている真相)
レン:遺言状のある場所は、望日郎おじいさまから生前、孫のメイコさんと経理を担当している私の二人に伝えられました。そして程なくして望日郎おじい様は亡くなりました。老衰でした
ミク:大往生だったんですね
レン:ええ。自分の死期を知っていたのかも知れません。遺言状はちゃんと教えられた所にありました。1枚だけでした。ここから先は信じて下さいよ、それも“謎解き”だったんです
ミク:!!
レン:しかし、メイコさんはその謎を解きました。そして怒りに打ち震えました。『こんな遺言、認められないわ!』、と。実はここの理由は今でも知りません。教えてくれませんでした。それから数日後、“コノ”偽物の遺言状を持って、メイコさんは私の所に来ました
ミク:この“偽物の遺言状”を使ったシナリオに強制参加する事を認めさせた・・
レン:はい。私は断ることが出来ませんでした。どうやら本物の遺言状の通りに財産分与した場合、私にかなりの額が相続されるそうです。私はこれでも経理担当、“裏がある”、と怪しまれる確率は残念ながら高いです。そこで提案されたのが、“メイコさんが作った、誰もが納得する遺言状”を使って、問題なく財産分与が行われる事でした
ミク:・・・・・
レン:あの遺言状を解読できたのなら、ご存じだと思いますが、あの偽物の遺言状だと、私の扱いは“他の巡咲庵の皆”になり、均等分けされた程度の額しか入りません。親戚の経理担当が受ける扱いとしては“普通”になりますよね。でも、メイコさんは、自分の配当からある程度、私に廻してくれる、という意見を出してきました。そして作られたシナリオは、先ほどあなたが推理した通りです。文面の解読は、第3者か、最初から解答を知っている私が頃合いを見計らって解くことで、遺産相続は完了する・・・・はずでした
ミク:でも、私という、想定外の回答者が現れてしまった
レン:ここまでが私が知っている真相です。メイコさんは、まだ今の時点では、あなたのことを“偽物の遺言状を証明する役割”と思ってます。私に付いてきて下さい。『本物の遺言状』が保管されている所に案内します
ミク:自分で言って置いてなんですが、私が“それ”を借りていってしまって大丈夫ですか?
レン:メイコさんはこの遺言状はもう無いものだと思っており、1回目の解読依頼、一度もそこへは行ってないです。そしてこれからも、そこへ確認しに行くことはないと思います。何せ知っているのは、シナリオを構成する“メイコさんと私”、それと伝えたあなただけですから
ミク:わかりました。行きましょう
(生前の望日郎の部屋・戸棚前)
レン:ここは生前、望日郎おじいさまが使われていた部屋の戸棚です。ここの上から2番目の引き出しにあります
レンは戸棚の上から2番目の引き出しを開けた。文面が上になっている『1枚の遺言状』が置いてあった。
ミク:これが・・・『本物の遺言状』・・・・
レン:そうです。扱いは厳重にお願いしますよ
ミク:はい・・・・・あれ? あの・・・
レン:なんでしょうか?
ミク:この遺言状があった所の下に、もう1枚、同じ材質の紙があるんですが。上は白紙ですけど、なにか書いてあるのなら“文面が下”になっていると思いますが・・・・
レン:え!?・・・・・・あ! これ・・・・なんでしょうかね? 私がメイコさんと確認したときは、気が付きませんでした。これと同じ状態で私たちもここから遺言状1枚を持っていきましたから。紛らわしいですね。どうします? 一応持っていきますか?
ミク:はい。一応、お借りいたします
レン:あの、わかっていると思いますが、私もここでの出来事は、絶対に口外せずメイコさんには“ミクさんはまだ謎を解明中”と話します。あなたも全てがわかるまで、同じようにして下さいよ
ミク:はい。私も全ての真相が分かるまで、今までと同じように振る舞います
レン:では、静かに退室して、ご自分の部屋にお戻り下さい。メイコさんはこの時間は別の所に行っているので、ここにはいませんので
ミク:あの・・・本当に有り難う御座います。そして協力、感謝します
レン:私もこんな事、ずっと貫けるとは、内心は思ってなかったですから。もう最後の頼みはあなただけです。それだけは心に刻んで置いて下さい
ミク:はい!
こうして、ミクは本物の遺言状を入れたA4ファイルを大事に持って、部屋に帰った。
(ミクの部屋)
ミクはA4ファイルをテーブルの上に置いた。
ミク:これから始まるのね、最後の決戦が! やってやろうじゃないの! 勝負よ! メイコさん!
ミクはA4ファイルからレンが言っていた本物の遺言状1枚を取り出した。もう1枚の方は“単にあっただけだが一応借りてきた”ものだったので、とりあえず据え置きとしておいた。
(本物の遺言状)
遺言状
以下に示すとおりに、私の財産を分与する。
但し、以下の内容を完全に説明でき理解した者が現れるまでは、私の遺産には一切、公私共に手を着けてはならないものとする。
是非とも私の最後の遊戯につきあって欲しい。
きのこ温泉郷 領主 咲音 望日郎
内容
横に広がる48の山々、“色は緑”
縦にそびえるは、“五重塔”、その数11基也
め→り↑ろ←お←せ↑き↓゛そ←ち↑さ↓゛す→あ→゛あ↓わ←
う↑や←す←ろ←せ↑を←ち↑ゆ→
あ↓よ←お←た←い↓ぬ↑を→れ←す↑ね↓き←゛ろ←あ→す→る→
ひ↓゛す→か→せ↑を←
ふ↓゛す→き↑゛や←く→ゆ←゛み→゛き→小ね←け↓む→す↑゛か→小む→ね↓れ←も↑な↓
れ←あ↓そ↑そ→ほ←そ→わ→て↑小あ←に→す↑う↑
き↑わ→゛し←ぬ↓る↓す→ほ← え←゛へ↑゛す→お←う↑り←
よ←わ→゛め→ぬ↓ぬ←す→ほ← け↓゛ひ↓゛す→お←ろ←た↓
ゆ→き↓゛ち→つ→り↓わ→は→ さ↓゛め←小い↓へ↑゛す→ね↓ろ←た↓
え↓す→も→す→か↓か→小む→ね↓み→た←小い↓よ←゛ね←小け↓え↑ほ←
さ↓゛き→小い↓こ←゛す→ね↓ろ←つ↑
(き↑お→わ→゛ち↓小ふ→む→は→さ→す→ち←い↓は→を→く↓れ↑え←て↓)
***
ミク:こ・・・これは・・・偽物とよく似た感じの文面・・・。これをメイコさんは解いたというの・・・。それにあの難解の偽物まで作り上げたんだから・・・・恐るべし・・・・でも、私は負けるわけにはいかないのよ! もう時間がない! すぐに取りかかんなきゃ!
ミクは文面をメモに正確に写し取り、原本をA4ファイルにしまった。
ミク:暗号解読の前に、1つだけ解ったことがあるわ。『内容の暗号化』は、偽物はメイコさんのシナリオのための必須条件だったから存在していたけど、望日郎さんは“内容を隠したいから暗号にした”んじゃなかったのね
『是非とも私の最後の遊戯につきあって欲しい』
ミク:つまり、“最後に遊びをしよう”と、それだけの理由だったのね。“子供が好きだった”のも頷けるわ。よし、メモしたし、解読に移るか! ミクミクぅ!
ミクの最後の解読が始まった。
(続く)
***
CAST
<雑誌“ゆけむり”編集部>
温泉雑誌の記者・初音ミク(ミク):初音ミク
<温泉宿“巡咲庵”(じゅんしょうあん>
大女将・咲音 女威子(メイコ):MEIKO
女将・巡音 瑠香(ルカ):巡音ルカ
若女将・鏡音 鈴(リン):鏡音リン
板長・神威 学歩(がくぽ):神威がくぽ
経理担当・鏡音 蓮(レン):鏡音レン
パティシエ・工藤 海斗(カイト):KAITO
その他のスタッフ:全部、はちゅねさん
<きのこ温泉郷>
休憩所“透音”の主・透音ミリアム(ミリアム):MIRIAM
土産物屋“亜瑠”の主人・大場 亜瑠(アル):BIG・AL
射的&コリントゲーム屋“迫楽”の主・迫楽レオン(レオン):LEON
中華料理屋“大三軒”の3人娘・赤の服アン、緑の服プリマ、白の服ローラ:Sweet・Ann、Prima、LOLA
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
○ボーカロイド小説シリーズ第3作目の” ゆけむり旅情・きのこ温泉郷の謎“シリーズの第6話です。
☆遺言状の謎に迫ります!
○雑誌記者ミクが取材で訪れた温泉郷で起こる謎解きミステリー!