No.280709

真恋姫無双 夜の王 外伝6

yuukiさん

真恋姫無双、二次制作作品、夜の王の外伝です。

2011-08-21 13:39:28 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:10762   閲覧ユーザー数:7622

 

この作品の一刀は、性格、武力ともに原作とは異なっています。

また、一部キャラを否定する場面もございます。

ご理解をお願いいたします。

 

そして、登場人物等の年齢と時間系列が明らかに食い違っている問題等は、

璃々ちゃんの年齢が1*才なのだと受け入れる暖かい心で見て頂ける事を願います。

 

まだまだ誤字、脱字や分かりにくい表現などもあると思いますが、

 

こんな自分の作品でも楽しんでいただけたら幸いです。

 

 

「一刀様に、会わせたい子がいるのです!付いて来てください!」

 

明命に連れられて着いた部屋。

そこには、無垢な瞳で一刀を見上げる、小さな女の子がいた。

 

「周邵(しゅうしょう)と、名付けました。周邵、この人が周邵の」

 

「とと、さまなの?」

 

周邵の手が、一刀の身体に伸びる。

一刀ははっきりと、その手を払った。

 

 

男は絶望していた。

何もかもに絶望していた。

 

兵士「は、はは。こんなことがある筈がない。昨日まで、昨日まで、平和だったじゃないか」

 

死に絶えた仲間を見て、迫りくる敵を見て。

 

兵士「夢、、そうだ。夢なんだ。悪い夢、、、起きよう。今日は、息子と屋台を見て回る約束があるんだ」

 

迫ってくる白い敵を前に、男は手から剣を零した。

 

兵士「起きて、、祭りに行かないと」

 

 

「平和、か。一年。随分と長い夢を見たな。起きろ、そして見ろ。これが、現実だ」

 

 

一刀の剣が、男に迫っていた敵の全てを斬り裂いた。

白い敵は、切り裂かれた瞬間、塵芥となって霧散した。

まるで、そこに存在したことが夢幻であったかのように。

 

兵士「あ、あなたは、、貴方様は。生きて、おられたのですか、、鳳薦様」

 

一刀「東鳴、だったか?不抜けたな、一年の間に。昔のお前は、もう少し気骨があったぞ」

 

一刀は戦場に立つ。

昔のような、血で染め抜かれ、輝きを失った白い外衣ではなく、市井の者が普段着るような服を着て。

抜けば飛び散る水しぶき、を放つような長刀ではなく、二束三文で買える剣を握って。

それでもなお、一刀は戦場に君臨していた。

 

東鳴「鳳薦様、、貴方は死んだんじゃ」

 

一刀「ならば、夢幻だと見紛うか?それがお前の望みか?こんな訳も分からぬ敵に殺され、自分を失うことが」

 

東鳴「、、、、、、、、」

 

一刀「果たすべき、約束があるのだろう?」

 

東鳴「っっ、、、はっ、はい!」

 

東鳴は立った。

一年前、自分以上に信じた男の背中を見て。

剣を握り、立ちあがった。

そして、背中越しに、一刀の浮かべる笑みを見た。

それだけでもう、東鳴の身体は歓喜に震えた。

 

東鳴「みんな、、戻られたぞ」

 

歓喜のままに、東鳴は叫んだ。

 

東鳴「俺達の大義が、今ここに戻られたぞ!」

 

混沌渦巻く戦場で、何故か東鳴の声はよく響いた。

 

その叫びを聞いて、白い敵と戦っていた者全員が声のした方向を見た。

そして、半数は歓喜に震え、半数は恐怖に身を振るわせた。

 

「「「ほ、鳳薦様!我らが、王!」」」

 

「「「鳳薦、、魔王、鳳薦!」」」

 

歓喜に震えた兵士達は駆けた。

一刀の元へ、ある者は泣きながら、ある者は笑いながら。

ただ、駆けた。

 

兵士1「生きて、生きていたのですね」

 

獅堂「つーかよ。テメーら、陣形とかいいのかよ?」

 

兵士2「興煜様まで、、ご無事で何よりです!」

 

獅堂「無視かコラ」

 

一刀「獅堂、止せ」

 

一刀がただ言葉を発すると、兵士達の視線が集まる。

それを見て、一刀はただ笑う。一年前と同じ笑みを顔に浮かべる。

 

一刀「みな、集まってくれたこと嬉しく思う。俺の人望も、まだ捨てた物ではないということか」

 

東鳴「はい!我ら天兵、再び、鳳薦様の元に馳せ参じました!」

 

一刀「頭に“元”を付けろ。色々とまずいだろ。、、、全員、天軍での調錬は覚えているか?」

 

兵士達「「「はっ!」」」

 

一刀「ならば良し。一の陣より三の陣。連携で一気に敵を殺す。俺の後ろに続け」

 

剣を抜く一刀の前に、兵士が一人現れた。

 

兵士2「鳳薦様!その前に、、これを」

 

その手には、敵方に掲げられていた天の旗が握られていた。

 

兵士2「この旗は、貴方様こそが掲げるべき旗!どうか、お使いください」

 

一刀「ふっ、ああ、いいだろう。獅堂、旗を掲げろ」

 

獅堂「ああ」

 

そうして、戦場に二種の天旗が掲げられた。

その旗は対抗し、決して戻らぬ決別の意思を孕んでいた。

 

一刀「(于吉、、いや、一蝶。そして、俺の仲間達。まさか、お前達と剣を交えることになるとは、夢にも思わなかったよ)」

 

獅堂「迷うんじゃねえぞ、一刀。あの変態、それに鳳薦初代一番隊と二番隊の馬鹿どもは、躊躇して勝てるような相手じゃねぇ」

 

一刀「わかっている。昔の俺がそうであったように、今の俺も何も変わらない」

 

獅堂「、、、、、」

 

一刀「守るために、まずは殺そう。敵を、敵対するもの全てを。たとえそれが、嘗ての同胞であろうとも。己が手で、愛した者を守るために」

 

獅堂「ああ、それでいい。それでこそ、、、、、魔王だ」

 

一刀は剣を天に掲げ、叫んだ。

 

一刀「兵よ。我が天兵たちよ!一年前の雪辱を、果たす時が今来た。不甲斐ない魏兵に、呉兵に、蜀兵に、見せつけてやれ!この大陸を真に統べる者は、誰であったかを!さあ、始めよう。全ては、世の大義の為に!」

 

兵士達「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」

 

 

華琳「っっ、一刀の大馬鹿。やっぱり、出てきたわね」

 

桂花「華琳様!いかがいたしましょう。兵士達に動揺が広がっています!」

 

華琳「当然でしょうね。各軍に散りじりにされていた元天兵達にとっては御旗でも、それ以外の兵士にとって、一刀は厄災の象徴。恐れるなという方が無理だわ」

 

桂花「、、、、、あの変態。こうなることくらい、わかってたでしょうに」

 

華琳「今さら、恨み事を言っていても仕方ないわね。、、、聞けい!魏の兵達よ!」

 

華琳の声が戦場に響く。

 

華琳「あそこに立つ天旗は、紛れもなく一年前、我らが破った王の旗だ!けれど、大陸に厄災を振りまいた魔王も、今は我らの敵ではない!故に、今は目の前の敵に集中し、破ることだけを考えよ!」

 

魏兵達「「「お、おおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 

 

 

雪蓮「ありゃりゃ、、一刀。出てきちゃったんだ。まっ、らしいと言えばらしいけど。あはは」

 

冥琳「笑いごとではないぞ、雪蓮。このままでは、指揮が乱れる。前線に出ている蓮華様も心配だ。どうする?」

 

雪蓮「どうするって、ねぇ?やることは決まってるわよ。一刀の所為で戦場は混乱しちゃったけど、その分、兵士達の不安もあやふやな物になった。なら、あとはそれに乗ってしまえばいいだけよ」

 

冥琳「そうか。そう、だな」

 

雪蓮「駆逐するわよ。祭りをぶち壊しにしてくれた獣たちを。一人残らず、血祭りにあげるわ。さあ、行くわよ!呉の将兵達よ!友の屍を、越えて続けぇ!」

 

呉兵達「「「おおおおおおおおおお!!」」」

 

 

 

 

桃香「一刀さん、、どうして、もう、貴方は戦わなくてもよかったのに」

 

朱里「、、桃香様。どうしましょう」

 

桃香「、、戦うよ。次は私も、“舞台に立たなきゃいけないから”」

 

朱里「、、、桃香様」

 

桃香「やっと、大陸は平和になったんだよ。一刀さんを犠牲に、、、それなのに、それを壊そうとするのは“悪”だよ。敵が悪なら、、私達は“正義”だよ」

 

朱里「しかし、桃香様、そのお考えは「わかってる」、、桃香様、、、」

 

桃香「わかってるよ。けど、その思いが、人を強くする。なら、私は正義を語る。“勝つために正義を語る”、、、、やっぱり、私は狡いかな?朱里ちゃん」

 

朱里「、、、いえ、それで、救われる人がいるのなら、、桃香様は正しいでしゅ!」

 

桃香「うん。ありがとう朱里ちゃん。でも、大切な場面で噛んだりしちゃ駄目だよ」

 

朱里「はわわ。ごめんなひゃい!」

 

 

北郷一刀の登場と共に、戦況は敵軍有利に変わった。

それを見て、于吉は笑みを浮かべる。

 

于吉「ああ、舞台の演出としては上々。第一の演目は、これにて終焉」

 

纏黄「、、、、、、、、」

 

于吉「第一部、魔王復活の劇は見事だったでしょう?纏黄」

 

纏黄「、、、、、、、、」

 

于吉「名を聞いてようやく、私はあなたを思い出しました。魏軍、鳳薦隊歩兵部隊兵士。纏黄、蜀による魏王への奇襲おり、その身を呈して時間を稼ぎ、死した名もなき英雄」

 

纏黄「寛項じゃないあんたに、名を呼ばれる筋合いはない」

 

于吉「もう少し早く、あの戦が終わっていれば、新規参入にも関らず必ずや鳳薦一番隊に名を連ねていたであろう貴方は、この光景を見てどう思います?」

 

纏黄「無視するな」

 

纏黄のむすっとした顔を見て、于吉は微笑む。

 

于吉「ようやく、あの御方が再び物語の中心に立てた。ああ、これで、これで、よいのです。一刀様が居る場所は、温かな場所でなければいけません」

 

纏黄「あんた、寛項じゃないけど、寛項みたいなこと言うんだな」

 

于吉「無論です。私も。私でない私も、願うは一刀様の幸せなのですから」

 

纏黄「幸せを願って、やることは戦をけしかけることか?」

 

于吉「一刀様が、再び歴史の表舞台に立つには、こうするしかなかった。戦わねばならぬのです。我が主君の、道を照らす為に」

 

纏黄「、、、、その為に、俺らまで巻き込んだのか?」

 

纏黄の呆れたような顔をみて、于吉は微笑む。

 

于吉「還りたいというのなら、お還えしいたしますが、どうしますか?」

 

纏黄「、、、いや、いい。せっかく生き返ったんだ。もう少し見て居たい、この世界を。鳳薦様の生き様を」

 

于吉「ならば、共に来ますか?衣食住は保証致しますよ」

 

纏黄「、、俺は、あの人の為にしか動かないからな」

 

于吉「ええ、それでいい。というか、今、戦っている兵士達もそれは同じですよ。人形兵以外は、ね」

 

纏黄のいぶかしむ表情を見て、于吉は微笑む。

 

纏黄「自我を奪って、戦わせてるんじゃないのかよ」

 

于吉「まさか。嘗ての友に、そのような仕打ち、出来る訳がないではありませんか。彼らは、己が大義(君主)の為に戦っているのです。意思を持ち、思い、考えながらね」

 

纏黄「忠義、か?」

 

于吉「ええ、そして、、感謝、なのでしょうね。己の生に理由を与えてくれたことに対する」

 

纏黄「歪んでるな。感謝して、鳳薦様への恩返しに、することは他を犠牲にしてでも居場所を与えることかよ」

 

纏黄の悲しそうな声を聞いて、于吉は笑う。

 

于吉「彼らは、董卓軍の頃より一刀様に仕えてきた。そして見てきた、悲しいまでに間違っているあの御方の道を。私や、獅堂と同じようにね」

 

纏黄「、、、、、、、」

 

于吉「ならば、獅堂の様に狂っているのが普通。私の様に歪んでいて当然なのですよ」

 

纏黄「そっか。そうだよ、な」

 

纏黄の何とも言えない表情を見た後、于吉は天に声を響かせた。

 

 

于吉「御来賓の皆々様に、お伝え申し上げます。これにて、第一幕、魔王復活の劇を閉幕と致します。次劇、第二幕は、、死兆星の見える頃を予定しております。是非、御観覧頂けることを、、この于吉、伏してお願いいたします」

 

 

于吉の言葉と共に、白い人形兵達も、黒い大陸最強と呼ばれた兵士達も、一人残らず消え去った。

戦場には、わけも分からず立ち尽くす兵士達だけが、残されるのだった。

 

 

戦いは終わった。

それなりの犠牲を出して。

あくまでも、それなりだ。

百万の軍勢。

そして、二百人の最強兵達。

そんな者たちに唐突に、迎撃の準備も満足に整わないまま戦いながら、“それなりの犠牲”でしかなかった。

 

獅堂「つーかよ。明かにおかしかったろ、アイツら、やる気あったのか?」

 

獅堂は椅子に座り、血に塗れた剣をぞんざいに磨きながらいう。

 

一刀「アイツらって、会ったのか?昔の仲間たちに?」

 

一刀は膝に乗った猫三匹を猫じゃらしで愛子(あやし)ながら驚いた顔をする。

 

獅堂「あぁ、相変わらず、馬鹿ばっかだったぜ。ははは」

 

一刀「はっ、その顔なら、大丈夫だったんだな?元気だったか?アイツら」

 

獅堂「死んでるのに元気も何もねーだろぉがよぉ」

 

笑いながらそういう獅堂を見て、一刀も苦笑を返す。

獅堂が剣の手入れに戻ると、一刀もまた猫を愛子始めた。

 

一刀「ん?ここが良いのか?」

 

一匹の喉元を撫でれば嬉しそうに喉を鳴らした。

それを見たもう一匹が催促するように一刀にすり寄る。

一刀はその猫の頭を撫でた。

すり寄った猫は気持ちよさそうに目を細めた。

 

一刀に触れてもらえない三匹目の猫は気を引こうとしているのか舌で一刀の顔をなめ始める。

一刀は愉快そうに嗤うとその舌に自分の舌を絡ませる。

卑猥な水音が響いた後、猫と一刀の舌の間に糸が引かれる。

 

一刀「くっ、くく」

 

獅堂「、、、、相変わらの趣味だな」

 

獅堂の呆れたような声も意に反さず、一刀は嗤いながら猫達を見る。

一匹の猫は一刀の腕に褐色の肢体を絡みつかせていた。

二匹目の猫は未熟なその体を好きなように弄られていた。

三匹目の猫は不自由なその手をなんとか動かし、正面からその体に縋っていた。

 

一刀「鳴け」

 

恋 「、、にゃー」

 

小蓮「にゃー」

 

愛紗「にゃー」

 

一刀「っっ、くっ、はっ、はは」

 

くぐもった一刀の笑い声が部屋に響いた。

そうしていると、その部屋の扉が開き、人が入って来た。

 

華琳「あら、随分と楽しそうね。まさか、あなたまでそんなことをしているなんて、意外ね。関羽」

 

愛紗「なぁ!?そ、曹操!ちが、違うぞ。これはだな」

 

華琳「貴方の義姉が知ったら、どう思うのかしら?」

 

愛紗「だ、だからこれは、違くてだな!「愛紗」は、はい。一刀様」

 

突然現れた華琳に慌てふためく愛紗に、一刀は笑いながら言う。

 

一刀「続けろ」

 

愛紗「し、しかし、、、見られていては、、」

 

一刀「続けろと、俺は言ったぞ?」

 

愛紗「あぁ、、っっ、、はい。“ご主人様”」

 

愛紗は一刀の言葉で、もとの位置に戻り、再び一刀の顔をなめ始める。

時折、舌は下に降り首元や胸元を舐める。

 

華琳「へぇ?よく躾けられている愛玩動物ね」

 

一刀「まだまだだろ。他の二匹とは違って、まだ少し素直さが足りない。飼い主の許しなく、逃げ出すなんてな」

 

恋 「、、、にゃあ」

 

小蓮「にゃあ」

 

一刀「大体、猫なんだから、羞恥心なんて持ってなくていいだろ。なぁ?愛紗」

 

愛紗「、、、にゃー」

 

顔を真っ赤に染めてそう鳴く愛紗を見て、一刀の口元は最大までつり上がる。

そんな一刀を見て、華琳はため息を付きながら言う。

 

華琳「愛でるのもいいけれど、その辺にして頂戴。話し合わなければならないことがあるでしょう」

 

一刀「ああ、わかってる。三人とも、もう良いぞ」

 

一刀の言葉で愛紗はすぐ、恥ずかしそうに身体を離したが、

 

恋 「、、もうちょっと」

 

小蓮「シャオも~」

 

愛紗「こ、こら!二人とも早く離れろ!ご主人様、じゃなかった。一刀様の命だぞ!」

 

他の二匹はなかなか離れようとしなかった。

愛紗が二人を引き剥がした後、一刀は華琳の前に立つ。

 

一刀「、、、、、、」

 

華琳「顔つきが、変わってるわね。一年の倦怠から覚めたのかしら?一刀」

 

一刀「ああ、良い夢だったけど、後悔はない。元々の本性はこっちだ」

 

華琳「そう、後悔していないというのなら、良いでしょう。ついてきなさい、一刀」

 

部屋を出て、歩き出した華琳に一刀は続いて行く。

 

 

 

 

華琳の後に一刀が続き廊下を歩く中、華琳に付いていた秋蘭は獅堂に問う。

 

秋蘭「興煜。聞きたいことがあるのだが、いいか?」

 

獅堂「んだよ」

 

秋蘭「お前は、あんな光景を見ていても平然としていられるのか?一応、男だろ」

 

獅堂「なれちまったよ。、、、、、、なれたくなんてなかったけどなぁ」

 

秋蘭「そうか。、、、難儀だな」

 

 

着いた一室の扉が開く。

そこには魏、呉、蜀。

現在の王朝、北郷を支える三国の重鎮たちの殆どが揃っていた。

 

一刀「随分と豪華なメンツだな。乱世を駆けた英雄達がここまで揃ってるなんて、珍しいんじゃないのか?」

 

雪蓮「物珍しさでいったら貴方が一番じゃない。いいから、早く座りなさいよ。ま・お・う・さ・ま♪」

 

一人の王の楽しそうな視線にさらされながら、一刀は巨大な円卓の空いた席に座った。

よく見れば、呉、蜀、魏の各国の勢に分かれているのがわかった。

 

一刀が座ったのを確認すると、一人の王は足を組みながら話し始める。

 

華琳「で、どういうつもりなのかしら?一刀」

 

一刀「なんのことだ?」

 

華琳「忘れたとは言わせないわよ。一年前、この間で貴方は誓ったわ。もう二度と、“鳳薦”という名を名乗らないと。それなのに、貴方は戦場に立った。“魔王鳳薦”として」

 

射抜くような視線にさらされながら、一刀は笑う。

 

一刀「心外だな。まるで俺が誓いを破ったみたいじゃないか。「そうじゃない」違う。俺は一度も、自分から名乗った覚えはないぞ?ただ、俺を見た人々が勝手に名を呼んだけだ」

 

華琳「同じことじゃない。「違うさ。それに俺を呼んだのは、華琳達だろ?」、、、それは、私達が貴方がいなければ勝てなかったと言いたいのかしら?」

 

射すような視線は、あらゆる場所から一刀に突き刺さった。

 

雪蓮「へぇ、一刀はこの戦に勝てたのは全部自分のお陰だっていうのかしら?少し、調子に乗ってるんじゃない?」

 

桃香「一刀さんがいなくても、私達(正義)は負けませんでした。あんな人たち(悪)に、負けるわけありません」

 

あらゆる者達の気持ちを代弁した二人の言葉に苦笑いを浮かべながら、一刀は喋り出す。

 

一刀「獅堂がな、笑ってるんだよ」

 

それは、脈絡のない始まり方だった。

 

一刀「あの軍勢に居た、昔の仲間たちと戦ったのに、笑っていた。それは、こいつが狂ってるからか?友を傷つけることに快楽を覚えたのか?違う。こいつは狂っちゃいるが、心はある。人並み以下だが、友の死に涙するくらいはする」

 

一刀の後ろで、獅堂がおかしそうに声を押し殺しながら笑う。

 

一刀「なら、どうして笑っている?簡単だ。殺せなかったからだ、友を。元、俺の兵達は“死ななかったそうだぞ”」

 

一刀は心底おかしそうにそう言う。

一刀の言葉で、三人の王から表情が消えた。

 

華琳「春蘭」

 

春蘭「はい。その、白い兵士達は斬れば消えましたが、黒い兵士達は、、」

 

雪蓮「思春。貴方も、見た?」

 

思春「はい。この目でしかと」

 

多くの者の表情が消えた代わりに、一刀は笑った。

心底、おかしそうに。

 

桃香「、、、どういうことか、知っているんですか?一刀さん」

 

一刀「さあ?元々、死んでいた奴らが蘇ったんだ。なら、また蘇り続けるのは、ある意味当たり前のことなんじゃないか?」

 

桃香「でも、そんなあり得ないこと「あり得ない、か、なら、何かに縋って逃げ出すか?“また”」っっ、、逃げません。逃げるわけないじゃないですか」

 

一刀「なら、やることは決まりだな」

 

一刀は立ちあがる。

目の前に居るのは、嘗て共に戦った者たちと、嘗て争った者達。

一刀は、笑みを浮かべた。

 

一刀「戦うんだろ?力を貸す。、、、、貸させてくれ。俺と、俺が犠牲にした者達を土台に、作られた平和だ。それを、亡霊なんかに壊させたくはない」

 

浮かべた笑みは、後半になるとすぐに消えてしまっていた。

 

三人の王たちは、それぞれ仕方なさげに頷くと、微笑む。

 

雪蓮「民たちへの説明は、そうね。魔王は地獄からよみがえったとでも見聞しておくと面白いわね」

 

桃香「生活の場所はいま貸している屋敷をそのまま使ってください。必要な物があったら言ってくださいね」

 

華琳「貴方の所に帰りたがっている将と、兵達は返した方が良いのかしら?」

 

雪蓮と、桃香と、華琳の言葉を聞いて。

一刀は、笑顔になった。

 

一刀「よろしく頼む」

 

 

王としての談義も無事終わり。

華琳と桃香は一刀や罪人として洛陽を追われていた仲間と少し喋った後、一刀達が天として大陸に戻る為の準備に向かった。

各国に散りじりにされていた元天国の将達、

蜀の麗羽、猪々子、斗詩、音々、翆、蒲公英

魏の風、真桜、沙和

は、我先にと軍を移る手続きに向かった。

 

そうして、人少なくなった中、一刀は雪蓮に問うた。

 

一刀「そういえば、明命はどうしたんだ?ここに居なかったが、密偵か?」

 

雪蓮「あっ、そっか。まだ、一刀は知らなかったわね」

 

雪蓮はいま思い出したとばかりに手を叩くと、満面の笑顔になる。

 

雪蓮「待ってなさい。今、連れてくるから。良い物が見られるわよ♪」

 

そして、そう言うと何処かへ駆けて行った。

 

一刀「、、、良い物って何なんだ?雪蓮があんなに笑顔だと、碌な物じゃない気がするんだが」

 

蓮華「安心しなさい。確かに、良いものよ。私も証するわ」

 

そう微笑みながらいう蓮華を見ながら待っていると。すぐに明命がやってきて、

 

明命「はぅわ!一刀様お久しぶりです!さっそくですが、ついて来てください!」

 

手を握られて一刀は引っ張られていった。

 

 

 

 

一刀「いったい何なんだ?明命」

 

明命「一刀様に、会わせたい子がいるのです!付いて来てください!」

 

明命に連れられて着いた部屋。

そこには、無垢な瞳で一刀を見上げる、小さな女の子がいた。

 

明命「周邵(しゅうしょう)と、名付けました。周邵、この人が周邵の」

 

そう、明命は顔を赤らめながら笑顔でいう。

一刀は一瞬、何の事だか分からなかった。

 

周邵「とと、さまなの?」

 

しかし、目の前の少女の言葉を聞いて、理解しそうになってしまった。

周邵と呼ばれた少女。

褐色の良い肌に、綺麗な黒髪を頭の左右でまとめている、その姿を見て。

 

“理解してしまった”

 

周邵と呼ばれた、この少女が、明命の子だということを。

周邵と呼ばれた、この少女の、父親が誰かということを。

 

理解して、観察して、思考している間に、周邵の手が、一刀の身体に伸びる。

 

周邵「ととさま」

 

嬉しそうなその声を聞いて、一刀は覚悟して、自覚して、はっきりと、その手を払った。

 

周邵「、、、、え?」

 

一刀達の居る一室の空気が、凍りついた。

 

蓮華「な、、、、、、」

 

思春「、、、、、、、、」

 

雪蓮「、、、、、、、、」

 

亜莎「、、、、、、、、」

 

明命「あ、あの、一刀様「やっぱり、碌な物じゃなかったな」、、、え?」

 

一刀の顔から表情が消えていた。

笑顔も、哂顔も、嗤顔も、浮かべられてはいなかった。

 

一刀「明命。お前は、“こんなくだらないもの”の為に、俺を此処まで連れてきたのか?」

 

一刀の言葉で、明命の顔からも、表情が消えた。

 

明命「あ、あの、えっと、一刀様。この子は、私と、一刀様の子供、なのです。あ、あまり、一刀様とは似てないかもしれませんが、、で、でも、目などは一刀様のように、やさしい、輝きが、あると、思い、ます」

 

明命は周邵の肩を掴み、自分の下に引き寄せ、懸命に一刀に話しかけるが、いつまでも冷たい目の一刀をみて、徐々に言葉が詰まっていく。

 

一刀は明命が喋り終わる最後まで、周邵のことを見ようともしなかった。

 

明命「っっ、、、、、」

 

明命の視界がグラグラと揺れた。

吐き気にも似た何かが、込み上げてきた。

 

周邵「かかさま?どこか、いたいのです?」

 

明命を心配そうに見る周邵を横目で見ながら、一刀は部屋の扉へと向かう。

 

周邵「まって」

 

一刀「、、、、、、」

 

周邵の呼びとめる声で、一刀の足が止まる。

 

周邵「ととさまじゃ、ないの?」

 

周邵の問いで、一刀は初めて周邵の目を真っ直ぐと見た。

 

周邵「っっ」

 

とても、冷めた目で。

とても、冷たい目で。

 

周邵はその眼に、恐怖を覚えた。

 

一刀「お前に、父親なんていない」

 

音も立てずに部屋の扉は閉められた。

 

 

コンコン

 

扉をノックする音が聞こえた。

 

一刀「入れ」

 

兵士「失礼します」

 

一刀は書簡を捲る手を止めること無く、喋る。

 

一刀「どうした?」

 

兵士「はっ、曹操様より送られてきた書簡にございます。隊員名簿、必要経費、ならびに三国合同の警備態勢への割り込み日程などに加え、「いい。後で読むからそこに置いておいてくれ」はっ!」

 

一刀「、、、、、、、、、」

 

兵士「、、、、、、、、、、」

 

一刀「、、、、まだ何かあるのか?」

 

兵士「い、いえ、、、、その、本物、ですよね?」

 

一刀「それを聞くのは、お前で34人目だ。俺が本物かどうかなんて、自分で判断しろ」

 

兵士「その冷たい言い方は、間違いなく鳳薦様です。はは、失礼しました!」

 

大きな声で笑った後、元気よく出て行った兵士を見て一刀は目を顰める。

 

一刀「なんなんだ、いったい」

 

再び書簡に視線を落とす一刀、その手は忙しなく動き続けている。

国としてではなく、組織としての天の復興。やることは山積みだった。

二十九個目の書簡を読み終えて、三十個目に一刀は手を伸ばす。

 

「、、、一人じゃ、終わりそうもないな。風と音々、斗詩にも手伝ってもらうか」

 

表情も変えずに一刀がそんなことを呟いていると、

 

コンコン

 

扉をノックする音が聞こえた。

 

一刀「入れ」

 

ドカンッ

 

凄まじい音と共に、扉は木片へと変わり果て、一刀の部屋に飛散する。

 

雪蓮「失礼するわよ」

 

現れたのは南海覇王を抜き身で持つ雪蓮だった。

その眼は地獄の炎の様に赤黒く燃えていた。

 

一刀「必要経費、扉の修理代。っと」

 

一刀は書簡を捲る手を止めること無く喋る。

そんな一刀の首に、雪蓮は南海覇王を添えた。

 

雪蓮「ねぇ、一刀?こっち向いてくれない?とても大切な話があるのだけれど」

 

一刀「なんだ?見て分かる通り、俺は今、忙しいんだが」

 

雪蓮「へぇ、そうなの。、、、むかつく目つきね」

 

三ミリほど、南海覇王の刃が一刀の首に食い込んだ。

赤い血が一刀の首筋を伝っていく。

それを見て雪蓮は楽しそうに笑った。

 

雪蓮「本当なら今日やる筈だった、天下一品武道会。今ここで決着を付けようかしら?」

 

一刀「荒れてるな。らしくない。いや、らしいのか?仲間の為に、怒ってるんだもんな」

 

小さな声で一刀は笑う。

 

一刀「明命のことは、悪かったと思ってるよ」

 

雪蓮「なら、なんであんなことを言ったの?自分の撒いた胤を認知しないほど、屑な男じゃないでしょう?」

 

一刀「、、、、明命、泣いてたか?」

 

雪蓮「泣かないわよ。母親は、強いものよ。貴方が思っているよりずっと」

 

一刀「そうか。強くなったんだな、明命は。、、、周邵も、明命に似て強い子になってくれればいいが、どう思う?あの猫好きの癖だけは、うつってくれると困るんだが。くく、はは」

 

雪蓮「、、、、一刀。もしかして、あんな態度をとってのって、あの子の為?」

 

仕事の手を止め、一刀は雪蓮に笑顔を向けた。

 

一刀「雪蓮。俺の体は、血塗れなんだよ」

 

雪蓮「だからあの子を抱けないっていうの?言っておくけどね、一刀、そういう悩みなら乱世を生きた者なら誰だって持っているわよ。私の母様だって『慣らし』とか言って子供の私を戦場に連れ回したりしていたのよ。なら、貴方だってそれくらいの覚悟を「違うよ」、へ?違うの?じゃあ、、、、なんでなの?」

 

一刀「俺はな、雪蓮。血塗れの身体で誰かと笑いあうくらいの覚悟は、乱世に立った時からしているよ。いや、俺だけじゃない。雪蓮の言う通り、乱世を生きた者なら持っている覚悟だ。血に濡れた自分を、許す覚悟。けどな、あの子は別だろう?あの子が生まれたのは、乱世じゃない」

 

雪蓮「、、、、昔、母様が私を戦場へ連れ回した頃とは時代が違うってこと?」

 

一刀「そうだ。乱世は終わった、今の世は治世。そんな世で、俺は人を殺して笑って、血塗れになって笑う。その本性を知ってなお、周邵は俺を父と呼べるのか?その覚悟を、確かめるまで、俺はあの子を抱くわけにはいかない」

 

一刀の言葉を聞いた雪蓮は、呆れたように剣を引き、鞘へとしまう。

そして大きなため息をついた。

 

雪蓮「はぁぁ、貴方、意外と自分の子供には厳しいのね」

 

一刀「そうか?」

 

雪蓮「後、不器用すぎるわよ。もっとほかのやり方があったでしょう」

 

一刀「あとで、明命には謝っておくよ」

 

一刀は笑いながら、仕事を再開した。

 

 

 
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