No.280009

第2回同人恋姫祭り特別作 『仙女と木こり』 中後編

TAPEtさん

こんにちは、勝手に第二回同人恋姫祭り韓国代表TAPEtです。

今回は最初からすごい作品の波で、驚きながら思いつきの作品を挙げてみます。

その前に自分が普段書いてる作品です。前にも紹介した『鳳凰一双舞い上がるまで』です。雛里√を目指して描いていますが、かなりファンタジー高めな作品でちょっと違和感があるかもしれません。

続きを表示

2011-08-20 20:39:44 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3967   閲覧ユーザー数:3323

月SIDE

 

時間を流れて真夜中。

 

じょろろ

 

温くなった布巾を冷たい水の中に濡らして絞ってから、またそれをご主人さまの頭の上に乗せました。

左慈さんのおかげで触れることは出来るようになったご主人さまでしたが、まだ起きる様子はなく、熱も高いままでした。

左慈さんの曰く、

 

「その熱は体の病気から来ているものじゃなく、ここに居べき存在ではない彼がここに残ろうとして起きる摩擦熱です。薬でどうすることは出来ません」

 

私たちでは…今じゃ何もすることができません。

 

「………一姫…」

「……!」

 

たまたま、朝まで寝坊をしている時ご主人さまが言っていた名前です。

怖くて、ご主人さまに聞くこともできませんでしたけど、少し気になったりはします。

私が知っている人たちの中ではそういう名前はありませんから……

 

「彼の妹の名前です」

「へ?」

「北郷一姫、彼が元の世界に置いてきた血の繋がりの妹の名前です」

「あ……」

「……ぅ…」

 

ご主人さまは、今天の世界の夢を見ているのでしょうか。

 

「天の世界は……そんなにいい場所なのですか?」

「………」

「ご主人さまが私たちよりも、その思いに夜な夜な一人で泣きながら過ごしてはいけないほど、ご主人さまに愛おしい場所だったのですか?」

「…月さん、いえ、董卓さん、それは誰でもないあなたが一番良く知っていることです」

「……」

 

ご主人さまの顔は、とても苦しそうな顔をしています。

天の世界の夢を見ているのであれば、どうしてご主人さまはこんな苦しい顔をしているのでしょうか。

 

「あんた、ほんとに、その他に方法はないの?」

 

隣にいた詠ちゃんが左慈さんがそう聞きました。

 

「例えば、どんなですか?」

「あなたたちの力で、暫くだけ彼を天の世界に行かせてあげて、良くなったら帰ってくるようにしたりとか…」

「それでまた彼が懐郷病になったら、また同じことを繰り返すのですか?」

「それでダメなの?私たちはいつもそうしてるでしょ?」

「2つの世界をわたらせることはあなたが思うよりもっと危険なことです。世界を渡り合う穴を空かせるのですよ。そんな穴が増えるとやがては2つの世界が今の北郷一刀のように沸き上がるはずです。やがては2つの世界とも燃え上がってしまうでしょう」

「………」

 

詠ちゃんはその説明に何も言わずに口を開いてそれ以上何も言うことができませんでした。

どうして、どうしてご主人さまにこんな酷いことをしてしまったのでしょう。

私たちが乱世を鎮める天の御使いを望んだ結果が、こんな酷い結末を呼んだというのですか?

 

「……お二人には言っておきましょう」

「何をよ」

「……彼が天の御使いに選ばれる切っ掛けを作ったのは、実は僕です」

「「!!」」

「いつか僕はこの世界の根本を壊すために、彼が生きる世界であるものを奪ったことがあります。それを彼にバレて、戦う途中彼をこの世界に巻き込ませてしまったのです。それから彼はこの世界を守る守護者の任を任されてしまった」

「……それなのに、どうしてあなたがご主人さまを手伝ってくれようとするのですか?あなたの言い方だと、ご主人さまはあなたの敵なのでは?」

「…子供が一人居たの。純粋で、自分の身の危険なんてまるで気にしない子が一人…あの子と一緖にいながら相手のことを考えながら行動することを学んだ」

「………その子はどうなったのか聞いてもいいですか?」

「死んだわ。あぁ、輪生したから大丈夫よ。まぁ、長い話だからそれは置いておいて…そろそろ彼が目を覚めそうね」

「え?」

「うっ……うん……」

 

ご主人さまが……

 

「……ぁ……ゆ…え?」

「ご主人さま……ご主人さま!!」

 

私は病床の上のご主人様のことをおもいっきり抱きつきました。

 

「ご主人様………!」

「あ、…あれ、どうしたんだ、…俺…月、なんで泣いてるの?」

「あんたのせいよ、馬鹿」

 

詠ちゃんはいつものようにトゲトゲしく言いますけど、見なくても詠ちゃんが泣いていることぐらい分かるほど、詠ちゃんの声は割れています。

 

「……あ、そういえば、今日朝議あったのにな。ボク寝坊しちゃったかな」

「そんなのもうとっくに解散してるわよ。あんた、自分の体の状態ぐらい気づきなさいよ」

「………」

「ご主人さま…もう大丈夫ですか?」

「…ちょっと…疲れてるのかな。体も何かふわってしてるし……皆心配してる?」

「………はい」

 

こんな時も、ご主人様は皆さんに心配かけたことがもっと心配なんですね。

 

「あなたは変わらないわね」

「……!」

 

左慈さんの声を聞いて、左慈さんを見た一刀さんは一瞬驚いた顔をしました。

 

「久しぶりね。ああ、僕が左慈よ。さっき手掴んだ時その知識も入れたから分かるわね」

「左慈……お前……

 

 

 

お前もソッチ系になったのか?」

「…今なら何の迷いもなくあなたを殺せる気がしてきたわ(ニッコリ」

 

良くわかりませんが、取り敢えず今のはご主人様が悪いと思います。

 

 

 

 

一刀SIDE

 

月たちと左慈に詳しい話を聞いて俺は自分のことが憎くなってきた。

 

「……俺はただ…」

「結構。今まで帰れないと解っていたからこそ、他の娘たちを心配させないために何も言わなかったのでしょう?だったら、これはあなたのせいじゃない。近くであなたを好きだと言っていながら、あなたの異常さに気づけなかった彼女たちの業報よ」

「そんなことはない。皆に言わないで一人で悩んでいたのは俺の方だ」

 

しかも、その結果として、皆と離れることになってしまうなんて…そんなことは絶対に嫌だ。

………だけど…

 

「…ぁぁ…」

「ご主人様!」

「…嘘つきは嫌われるわよ、北郷一刀」

「………」

「あなたが彼女らのことを大事にしなかったとは言わない。あなたは自分がこの世界でやるべきことを成し遂げた。だけど、その対価としてあなたが払ったものはあなたにとって大きすぎた」

「…………」

「ご主人さま……」

「……俺は…」

 

いつからだっただろう。

ふと恋しくなってきた。

 

お母さんが作ってくれたご飯が、

道場の爺さんの掛け声が、

妹のご立腹な顔で理不尽なことを行ってくる様子。

悪ふざけを言う及川の怠けた顔……

 

この世界のことが嫌いになったわけじゃない。飽きたとか、そんなこと思えるはずもない。

だけど、…それでもだ。

 

「皆の顔が見たい」

「……アンタ……マジふざけてんじゃないわよ」

「…詠ちゃん」

「これだけ私たちに関わってきて、今更元の世界に帰りたいっての?そんなの勝手すぎるでしょ?」

 

そんなの分かってる。

俺は詠のことも、月も、もちろん、桃香や、華琳、蓮華、皆のことも全部好きだ。一度も嫌いになったことなんてないし、皆のためなら俺の全部を犠牲にしてもいいとも思っている。

だけど、この気持ちは…どうしても鎮めることができなかった。

過去の記憶が、薄れてくるほどもっと愛おしくなる家族や、友たちとの記憶が俺を引っ張る。

帰ってきなさいと、帰ってきてと……そして、気づいてみたら帰りたいと思う俺の姿が居た。

 

乱世じゃなかった時でも、こんな思いをしなかったわけじゃない。

皆と笑って、頑張って、嬉しく暮らしながらも、たまには空を見上げながらもう会えないはずの皆のことを恋しく思っていた。

だけど、平和になって、どんどんこの大陸が落ち着いていく一方で、俺が生きていた元の世界の想いがどんどん強くなってきた。

 

俺もどうすればいいのか分からなかった。

彼女たちの期待を拒むことなんて、俺にはできない。

俺が消えると言ったらきっと皆悲しむだろう。

それだけではない。今まで俺たちが築いてきたこの平和を、一気に崩す結果を呼ぶかもしれない。

俺はもう、この世界に居続けなければいけない人なんだ。

 

「義務感、それ何の役にも立たないわ」

「!」

「あなたが本気でこの世界に残りたいと思わない限り、あなたの故郷を恋しがる思いはどんどん強くなるだけ。そうなったらまたこんなことが起きるでしょう。今回は僕が手伝ってあげたけど、後々にもそうやり続けることはできない」

「だったら……俺は一体どうすればいいんだ」

「……あなたは普通の人間だった、北郷一刀」

 

左慈は冷静な顔で、だけど昔のような冷酷でなく、公明な目をしながら俺に言った。

 

「あなたがあの日俺の前に居なければ、この世界に来ることもなかったでしょう。最初からあなたには荷が重かったのかもしれない」

「……そう……かもしれないな」

「いや、阿呆か、否定しなさいよ」

 

え?

 

「お前がやったことなんて僕が一番良く知っているわ。この外史の基礎を築き上げたのは北郷一刀、あなたよ。あの権謀術数の中からその真っ直ぐな意志で彼女たちを救ってきたのは誰よ。本気でそれが普通の高校生に出来たことだと思ってるわけ?……こうでも言わないとあなたのメイドが僕を殺しそうなのでね」

 

月の方を見ると、いつもは優しい月がすごい剣幕で左慈の方を睨んでいた。

 

「…月、もういいよ」

「……ご主人さま」

 

月の顔……すごくかわいい。

ちょっと涙を汲んでいて、それでも俺のことを心配してくれているその思いが愛おしくて仕方がない。

こんな優しい娘を置いて行ってしまおうと思うなんてどうかしてると思われるだろう。

………俺はそんな最低の男だ。

 

「あ、そう、そう、北郷一刀、あなたが言っていたあのお伽話だけどね」

「?」

 

そんな迷いに落ち込んでいる俺に左慈は言った。

 

「その続きがあるのよね」

 

 

 

桃香SIDE

 

 

桃香「………」

鈴々「……鈴々たち、どうすればいいのだ?」

 

・・・・・・

 

三国が各々の将たちと話をして先ず意見を揃えることに決めて、私たちは私たちの屋敷に戻ってきた。

だけど、どうすればいいのか分からず、誰も、何も話すことができない。

 

愛紗「…私は信じません。ご主人さまが私たちもいるというのに、天に帰りたいと思われてるなんて、そんなことあるはずありません」

星「愛紗」

愛紗「大体、あの左慈という奴は一体誰なのだ!突然現れて、我々と一緖に居るとご主人様が苦しむと言っているのだぞ。そんなこと、嘘に決まっている」

 

タン!

 

桃香「そういう問題じゃないよ!」

 

机を叩いたのは、私の手でした。

他の皆が驚いて私の方を見ました。

 

桃香「あの人が言ったことが信じられないから嘘だとか、信じたくないからそんなこと嘘に決まってるとか、そんなことを言ってる場合ではないよ」

愛紗「ですが、桃香さま…!」

桃香「自分に嫌な結果が訪れると言って、現実から逃げちゃいけないよ、愛紗ちゃん。今まで私と見てきたじゃない」

 

そう。

こんな理不尽な光景、私は散々見てきた。

弱い人たちを助けたいと思っても助けなかったり、

助ける力がある人はそれを自分の欲望のために使ってまた人たちを苦しめ、多くの人たちが死ななければならなかったり、

そんな戦いを止めるために、また私たちも私たちを慕う人たちの命を犠牲にしながら戦場に飛び込まなければいけなかったり……

 

そんな理不尽なことを散々みてきた。

だから、

もうそんな逃げ方はしない。

そんなの時間のムダでしかない。

ご主人さまを助けることに何の役にも立たない。

私はご主人さまに会ってから今までそれを骨の中にしびれるまでわかってきた。

 

星「…桃香さま、ご成長なさいましたな」

桃香「……でも、だからってどうすることもできないじゃん」

 

だけど、だからこそどうすればいいのかさっぱりわからない。

 

桃香「…朱里ちゃん」

朱里「はい」

桃香「左慈さんが言っていたこと、私と、皆にもはっきり分かるように説明して」

朱里「…………」

雛里「朱里ちゃん」

 

朱里ちゃんは暫く何も言えずに無言のまま俯いていた。

 

ねね「要は、あのチ○コ野郎が私たちと一緖に居ると一生苦しみながら死んで、生きるためには私たちから離れて天の世界に戻らなければいけないってことです」

朱里「…はい、そんなことになりますね」

翠「待てよ!そんなふざけた話があってたまるものかよ!」

ねね「ねねは言われた通りに話してるだけなのです!理不尽なことだなんてことねねだってわかっているのです!」

鈴々「でも、今までお兄ちゃんは鈴々たちとずっと一緖に居たのだ!どうして今更になってお兄ちゃんと一緖に居ちゃいけないと言われなくちゃいけないのだ!」

星「主は、隠しておられたのだ。自分の奥にある気持ちを……」

愛紗「何故だ!ご主人さまが我々にそんな隠し事を…」

星「言っても無駄だからだ」

愛紗「何?」

星「そういうお前は、主を元の世界に行かせることができるのか?」

愛紗「それは………」

 

最初から、ご主人さまの悩みを知っていたところで、私たちには何もできない。

それでも私たちはまた自分たちの無力さに悲しんだでしょう。それを知っているからご主人さまも、そんな私たちの姿を見たくなかったから、それを隠していた。

だけど、一言でもそんなことを言ってくれていたら……私たちも態度を変えていただろうか。

 

……

 

桃香「ううん、私にそんなことができたら、あのお伽話の意味が分かった時にもうやってるよ」

紫苑「桃香さま……」

桃香「でも…聞くのが怖かったんだもん。ご主人さまに、天の世界に帰りたいと聞いてみるのが……もしご主人さまが本当にそう思っていたら、あのお伽話の中の仙女さんのように本当に天に帰ってしまうと思ったから……だから…」

桔梗「桃香さま。そう自分を責めても何にもなりますまい。それに、桃香さまのせいでもあるまい。こんなこと、誰の責任でもないのじゃ」

焔耶「……やっと、お館様に素直になれたと思ったのに……こんなことになるのだったら、もっとお館様と一緖に居たかった」

 

 

 

雛里「もう一つだけ、方法があるって左慈さんは言ってました」

桃香「!」

 

その時、雛里ちゃんは誰も敢えて話題にだしてないあの言葉を口にした。

 

雛里「左慈さんはこうも言ってました。ご主人さまの記憶を消してしまうことで、私たちとこれからもずっと居られるって」

蒲公英「でも、そんなことをしたらご主人さまは今までの私たちとの思い出を全部忘れちゃうじゃない!」

雛里「思い出はこれからも作れます。ご主人さまとの今までの記憶より、今からの記憶をもっと大切なものにして行くこともできます。左慈さんが言っていたのもそれでした」

蒲公英「だけど…そんなのひどすぎるでしょ?」

焔耶「そうだ!私たちの欲のために、お館様の今までの有様を消すなんて、そんな酷いことできない!」

 

そう、それは私たちが今できる一番残酷なこと。

ご主人さまに今まで着た恩を、仇で返すようなものだ。

 

恋「じゃあ…答えは決まってる」

 

だけど、雛里ちゃんが悪役をやってくれたおかげで、やっと結果に辿りつける。

 

星「そうだな。我々が本当に主のことを大切に思っているのであれば、例え主を失うとしても、主を汚すことは避けなければなるまい」

雛里「………」

 

雛里ちゃんはいつものように帽子のつばで顔を隠した。

でも、私は一瞬、雛里ちゃんが本気でそうしてでもご主人さまをここに置きたいと思ったのかもしれないって思った。

だけど、雛里ちゃんの気持ちも分からないわけじゃない。

私だって、私一人だけのご主人さまだったら、例えあんな酷いことをしてでも、ご主人さまを側に置きたいと思う。

例え私のことを全て忘れたご主人さまだとしても、優しいご主人さまとならきっとまた幸せな、新しい思い出を作り直せる。

…………ああ、私ってやっぱ最低だ。

 

 

 

華琳SIDE

 

 

風「お兄さんを助ける方法がそれしかないのだとすれば、そうするしかないでしょう」

春蘭「ふざけるな!貴様、私たちが北郷をどれだけ待っていたか忘れたのか!あいつはもう二度と私たちから離れないって約束したのだぞ!」

稟「ならあのまま一刀殿が壊れていくのを見守れというのですか?春蘭ならともかく、私たちはそれほど頑丈な心を持ってるつもりはありません」

沙和「でも、だからって隊長がまたいなくなった天下なんて考えられないの」

真桜「しかも、今回は外史の波とかそんなもんもちゃうだろ。隊長が帰りたいと思ってるんや。あの時のように、もう帰ってこないかもしれへん」

凪「……私は……いつも近くにいたというのに…隊長があんな思いをするということも気付かずに横でただへなへなと笑ってばかりいたんだ……くっ!」

季衣「流琉……お兄ちゃんって、私たちのことが嫌いになったわけじゃないよね」

流琉「もちろんだよ……でも、…季衣だって兄様のことが好きだからって村の人たちのこと嫌いになったわけじゃないでしょ?一緖だよ」

季衣「……うん…」

 

皆、一刀に対しての感情でまともな判断ができないまま居た。

当たり前のこと。

私だって今私が考えていることさえなければ、こんなことより一刀から離れないまま居られる方法を考えるためにこの無駄に有能な頭を使っていたでしょう。

だけど、そんなことよりも…

 

秋蘭「華琳さま……」

華琳「……桂花になんと言えばいいのかしら」

他の恋姫「!!!」

 

桂花はこの場にいない。

一刀が倒れたという話さえも言っていない。

事実を知ったら彼女と、彼女の中に居る一刀の子供にどんなことが起きるか考えたくもない。

だからって、もう隠すわけにもいかない状況に至った。

桂花は保養中と言って、ここ最近彼にちゃんと会っても居ない。

 

華琳「なのに私たちが突然言って、あなたが居ない間、一刀が懐郷病にかかったけど、それは私たちが彼の状態を気づけなかったせいよ。そう言ったらあの娘に何が起きるか考えたくもないわ」

他「………」

 

 

 

桂花「その心配は私のことを過小評価しすぎです、華琳さま」

 

!!

 

秋蘭「桂花、どうして、ここに……!」

桂花「朝議から帰ってくるのが遅いと思ったら、皆一つの場所に集まって悶々としているのを城の侍女たちにみんな見せておいて何を言っているのやら……私はこれでも魏の筆頭軍師だったのよ。妊娠中だからと言って頭まで休んでいるわけではないわ」

華琳「桂花、あなた、全部知ってしまったの?」

桂花「はい、大体のことは…」

華琳「…それでも、大丈夫だったの?」

桂花「………私は魏の軍師で、一刀の娘を宿している身です。大丈夫なわけありません。ですが、一刀がどれだけ苦悩していたかは知っているつもりです」

稟「どういう意味です?」

 

桂花はため息をつきながら風を見た。

 

風「………ぐぅ…」

稟「風?」

桂花「風、あなたは気づいていたでしょ?」

風「………」

宝譿「もうお前軍師やらなくてええんじゃねーかい」

風「…うるさいのです、宝譿」

華琳「風、桂花は何を言っているの」

風「……華琳さま、桂花ちゃんは療養中でもお兄さんに会っていたのですよ」

華琳「なんですって?」

春蘭「なんだとー、貴様!」

桂花「別に一刀に会ったのがあなたに怒られる理由になるわけじゃないでしょう?」

秋蘭「姉者、落ち着け、桂花の言う通りだ。…だが、大体桂花が妊娠中に北郷に合わないようにしていたのは…」

 

普段桂花が一刀のことを嫌いみたいにしているから、彼に会ってツンデレやってると子供に良くないと思って本人がそうしていたのだった。

もちろん私も同じ意見だったけれど…なのに今まで会っていたですって?

 

桂花「華琳さま、隠していても申し訳ありません。が、一刀は私が安定期に入ってから結構頻繁に私のところに来てました」

華琳「…頻繁というのは……?」

桂花「……ほぼ2~3日に一回ぐらい」

 

………こんな状況でさえなければ春蘭に今すぐ切らせて…いや、私が斬ってあげてたわ。

 

桂花「最初はいつもみたいに子供に会いたいとか、私に会いに来たとか、そういう話をしていたから、たまにはこういうのも悪くないと思っていましたけど、それが何ヶ月もつづくと、ちょっと心配になってきて私から聞いてみたんです」

 

 

 

蓮華SIDE

 

蓮華「そしたら、彼はなんと言ったの?」

思春「はっ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

思春「貴様、最近どうした」

一刀「……うん?」

思春「一回、二回ぐらいは腹の中の娘を見に来たと言ったらおかしくない。だが、最近の貴様はほぼ毎日のようにここに訪れているではないか。蓮華さまや他の国の連中に疎くしているわけではないだろうな」

一刀「そういうんじゃないよ。そんなわけ…ないだろ」

思春「なら何だ。どうしてこんなことをする」

一刀「……思春は俺がここに来るのがやっぱり迷惑なのか」

思春「そういう話では……!!!」

一刀「……」

思春「……北郷、本当にどうした」

一刀「……あ、今ちょっと動いたかも」

思春「あ?ああ……最近は良く足で蹴ったりするな」

一刀「元気な子だといいな…甘述も内心期待していたぞ。自分だけの妹が出来るって…」

思春「……そうか、最近甘述にもちゃんと会ってあげられなかったからな」

一刀「たまには甘述にも妹のこと見せてあげたらどうだ?あいつだって妹のこと見たかってるだろう」

思春「そうだな……」

一刀「…………当たり前だろ?」

思春「?」

一刀「家族の顔が見たいというのって……好きな人、愛してる人に会えないって辛いんだもんな」

思春「……そうだな」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

思春「あの時は単に、療養中の私に会えてないことについて話してるのかと思いましたが、事がこうなってみるとそうではなかったみたいですな」

蓮華「……」

雪蓮「蓮華」

 

頭を抱えて考え込んでいた私の肩に手を乗せながら姉さまは言った。

 

蓮華「お姉さま」

雪蓮「あなたが今思っている通りにやりなさい」

蓮華「!!」

 

姉さまは何の迷いもなくそう言った。

 

蓮華「どうして……お姉さまはそう簡単に言えるのですか?」

雪蓮「簡単に言ってるわけじゃないわよ。私だって一刀とずっと一緖に居たいと思うし、彼の居ない天下なんてもう考えられない。だけど蓮華、彼の欲を満たしてあげられなかったのは私たちの責任よ」

蓮華「………」

雪蓮「彼は確かに私たちの願いを叶えてくれた。だけど、そのために彼が犠牲にしたことを、私たちは今まで忘れていたわ。ただ自分たちの前にいること、後ろに置いてきたことだけを大事にして、目に見えない彼の犠牲に対して誰も彼を慰めてあげることも、手伝ってあげることもできなかった」

蓮華「だからと言って……それがもう一刀に会えないぐらいの罪ではないでしょ?」

 

帰してあげればいい。

最初から選択肢なんてない、彼を帰してあげない限り、私たちは今までの自分たちと何一つ違わないのだ。

彼の苦しみを見続けることも、彼の存在を空っぽにしながら彼をここに居させることも、今の私たちに出来ることの中で一番の外道だ。

 

蓮華「一刀は最後までこの世界に残ってみようと頑張っていました。だからこそ孫登たちに会いに来たり、思春に会いに来たりしていたのです」

雪蓮「そう。だけど、結果的にそれは無駄だったというわけよ」

祭「儂らが少し早く気づいていたならなんとかなったかも知れませぬ。が、もうそんなこと言っていられる場合じゃなさそうじゃし」

冥琳「祭殿は北郷を帰らせるべきだと?」

祭「そういう公瑾は彼奴が毎晩苦しみながらもここに居た方が良いと?」

冥琳「この国は北郷一刀というの象徴があってこその平和を保っています。彼が居なくなることは、すなわち更なる乱世を意味します。彼一人のためにわれらの民たちをまた戦乱に巻き込ませるわけには行きません」

穏「冥琳さま!?」

祭「………それを本気で言っておるのか?」

冥琳「…………北郷の体は彼一人のものではありません」

蓮華「っ!明命!」

明命「っ!!」

 

私が明命を呼ぶのが一歩遅かったら、冥琳は死んでいたかもしれない。

 

思春「明命、身を慎め!貴様のそのような様が北郷の役に立つとでも思うのか!」

明命「ですが…!」

蓮華「明命、思春の言う通りよ。彼のことを想ってるなら、彼が悲しむようなことは控えなさい」

明命「………じゃあ、私はどうすればいいのですか?」

蓮華「……」

明命「一刀様を助けるのもダメ。だからって離れることも嫌です。…どうして、どうしてこんなことにならなきゃいけないんですか………」

亞莎「…明命……」

 

剣を落として泣き崩れる明命を隣の亞莎が支えた。

 

蓮華「……小蓮」

小蓮「…お兄ちゃん、この前私と街ででぇとした時も私に何も言わないで二人で笑いながら楽しんでたよ。なのに、実は裏では笑えないほど苦しんでいたんだ……お姉さまもわかるでしょ?私の気持ち」

蓮華「……ええ」

小蓮「……お兄ちゃんと離れるのは嫌だけど、だからってお兄ちゃんがここに居るのが苦しいって解ってからも我侭言って居られるほど、私子供じゃない」

蓮華「……そうね…」

 

彼から離れたくない。

そんなのただの子供の駄々だ。

民のこととか、そんなの彼がなくても私たちが頑張ればきっとなんとかなる。

だけど、そのヤル気を与えるのが、北郷一刀、彼の仕事だった。私たちが今までやってこれたのは、全部彼のおかげ。

 

でも、私たちの無理な願いが彼を傷つけるとしたら、私たちはこれ以上一刀を傷つけることなんてできない。

 

蓮華「私は今から一刀の部屋に行くわ。私を止めたいなら止めてもいいよ」

他の将たち「………」

 

誰一人、これ以上私に意見を言わなかった。

私はそのまま一刀の所に向かった。

 

 

 

 

桃香・華琳・蓮華「ご主人さま(一刀)に別れを告げるために……」

 

 

 

 

左慈SIDえ

 

「お伽話の続き?」

「ええ」

 

仙女と木こりは中国から流れてきたお伽話だが、地域によってそのオチは様々。

 

そのうち、こんな続きもある。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

仙女が天の昇った後、妻と子供たちを失った悲しみでその場に膝をついて喚いていた木こりの前にいつかの鹿がまた現れた。

 

『だから言ったじゃないですか。子を三人まで生んでいたら、子の二人を両手に一人ずつ抱えても残った一人を連れていけないから仙女の羽衣があっても天に戻れなかったでしょうに…』

 

木こりは泣きながら鹿に訴えた。

 

『また妻と子たちに会える方法はないのか。お願いだ、教えてくれ』

 

鹿は少し考えてから

 

『木こりさんが仙女さんの服を隠してから、仙女たちはここに水浴びをしに降りてくることなく、代わりに天から釣瓶を降ろして水を汲んでいます。木こりさんはここに待っていて、空から釣瓶が降りてくると、水を捨ててそこに木こりさんが入ってください。そしたらその釣瓶が天まで木こりさんを連れていって、また妻と子供たちを会うことが出来るでしょう』

 

鹿の話を聞いた木こりは何日も食べずに空から釣瓶が降りてくるのを待った。

やがて本当に釣瓶が空から降りてきた。

木こりは鹿が言った通り、その釣瓶の水を捨てて、釣瓶に乗って天に昇った。

 

天では釣瓶を引いていた仙女は水の代わりに人間の男が来て驚いた。

木こりはその後天帝に呼ばれ、天帝の前で跪いて妻と子たちにまた合わせてくださいと訴えた。

天帝は木こりのことを可哀想に思い、木こりの妻の仙女とその子供たちと一緖に天で暮らせるようにしてくれた。

こうして、木こりは妻と子供たちと一緖に、天で暮らせるようになったのです。

 

 

・・・

 

・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「……つまり、どういうことだ?」

「…彼女たちには言わなかったけど、4つ目の方法もある」

「まさか……私たちも一緖に、ご主人さまの世界に行けるというのですか?」

 

月が察しよくそう聞いてきた。

 

「一人行かせるか団体で行かせるか危険なのは一緖よ。貴女たちさえ良ければ、北郷一刀と一緒に天の世界に行って、今までのように幸せに住むこともできる」

「でも、そうするとこの世界はどうなるのよ。私たちはともかく、桃香たちは国の王様に国の筆頭の将たひなのよ」

 

詠の反論。

でも、全部良い様になれたら最初から皆を叱ったりなんてしてない。

 

「天の御使いも、恋姫たちと残っていない外史は意味を無くす。消え去るでしょうね」

「「「!!!」」」

「誰も覚えてない過去の事実が歴史に成れないように、あなたたちが消え去った後の外史なんて、誰の記憶にも残らない。外史自らその存在を壊すでしょう」

「……そんなことダメに決まってるじゃないか」

 

まぁ、そうくるね。

あなたたちにとってはこの世界の人たちもまた大事な命だもの。

そこは、管理者である僕にしては、感じられないものがあるけどね。

所詮は天の御使いの存在があってからじゃなくては意味を成さない大陸の民も、恋姫たちも、こっちから見るとただ外史に操られる傀儡。

だけど、天の世界に行くと違う。

彼女たちもまた、北郷一刀のように自分の存在を独自的に残すことが出来る。だからこんなこと、元はしちゃいけない。

でも……まぁ、貂蝉がやっちゃいけないと言ったところで僕がそれをまんま従うようだったら左慈という名が廃る。

 

「僕たち管理者にとっては、例えこの外史の他の存在を全て消すとしても、乱世の鎮静を成せた天の御使いの意志を尊重しなければならない。だから、最後に決めるのは北郷一刀、あなたよ」

「………あ」

「覚えてるでしょ?これ」

 

僕が北郷一刀に出したのは、丸い銅鏡。

 

「割れば最後。彼女らの願いと、あなたの意志が赴くまま、外史は変わり、形を建て直す」

「…………っ」

 

鏡を受け取った北郷一刀は胸辺りが痛むのあ手で抑えた。

一日と言ったけど、そうも行かないようね。

あなたたち、早くしないと本当に僕の手で終わらせるしかならないわよ。

 

まったく、貂蝉のやつ、悪役は全部私に押し付けてやがる……

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

「?北郷一刀、どうした」

「……一姫」

 

ピカッ!

 

「へっ?」

「ご主人さま?」

「……決めた」

 

ピカッ

 

「!」

「月!」

「ちょっと馬鹿何やってるのよ!」

「左慈……!後は頼んだ」

「……あぁ、もう、好きになさい!こうなったらとことんまで悪役やってやるわ」

「…ありがとう。直ぐ……」

 

ピカッ!!

 

 

 

……トン

 

 

 

そして、鏡の光が消えた後、北郷一刀の姿は消えていた。

 

 

「…ご主人さま……?」

 

 

 

 

 


 
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