No.279413

双子の旅立ち・5

2011-08-20 06:24:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2444   閲覧ユーザー数:2427

「そうか、テルパドールまで天空の兜をもらいに……、」

「はい。このとおり、もらってきました。」

タバサは天空の兜を脱ぐとアベルに見せた。

アベルの体にはグランバニアを襲ってくる魔物たちと戦っているための傷跡が目立つ体を見て、そういえば城壁も傷ついていた、とタバサは思い出した。

「あの、お、お父……さん……」

レックスがぎこちなく腕を伸ばしながら気まずそうに話しかける。

お互いに親子だというのに8年の間で一緒にいた時間はたったの数時間なのだ。

タバサも同じように居心地が悪そうだ。

 

「…………そうだ!」

アベルの声に2人は驚き、顔を上げる。

「ぼ……おと……友達のヘンリーから手紙が来てるんだ。ラインハットに来るように、って。」

一人称をぼかしながらアベルが言う。

「僕」というのも父親としてふさわしいのかと思ったし「お父さん」と言えるものでもなかったのだ。

「天空の剣を置いていけばグランバニアは魔物たちに襲われることはないはずだし、一緒に行こう。」

 

「久しぶりだな、アベル!」

「ああ……僕からすると1年ぶりくらいだけどね。ヘンリーからすると9年ぶりになるんだね。」

「心配させやがって!そっちの子供たちがお前の子供だな?」

「う、うん……。」

アベルの答えはどこかぎこちない。まだ父親であるということに慣れていないのだ。

「す、すまん……。」

ヘンリーもそれに気づいたのかすぐに詫びる。

「タバサです。」

「レックスです。」

タバサとレックスもヘンリーに自己紹介する。

「おい、コリンズ。お前も出てきて挨拶しろ。」

「えー?……仕方ねえな。俺はコリンズだ。おい、お前らついて来い。」

 

それからしばらくして、

タバサがレックスの服の裾を引っ張って戻ってきた。

「お、お姉ちゃん……、ちょっと……、」

「冗談じゃないわ。なんで私たちがいきなり子分にならないといけないの!」

「おい、そこの女!いい加減にしないと……泣くぞ!」

後から追ってきたコリンズの目には既に涙が浮かんでいた。

「おい、コリンズ。お前、周りの子供達を無理やり子分にしようとしてるから友達がいないんだっていうのに……。」

「うるさい!どうせ俺は王になるんだからみんな子分になるんだ!」

「タバサちゃんかレックス君のどっちかは時期グランバニア王だ。

お前と対等だぞ。」

「じゃあ俺の半分しか偉くないじゃねーか!」

屁理屈をこねるが、

「人望がない王じゃ革命を起こされるだけだぞ。……養子でも取るか。」

コリンズはヘンリーの切り札についに泣き出し、部屋から走って出ていく。

「あ、コリンズ君……!」

レックスはコリンズの後を追う。

「ヘンリー……、」

「すまねえ。あいつ、見ての通り友達いなくてな。友だちになってくれないかと思ったんだ。……お前と俺の時と同じだな。」

アベルはタバサが拗ねて裾にしがみついてきたので抱きしめた。

初めて抱いた娘は、あまりにも大きかった。

 

レックスはコリンズを追いかけ、武器庫まで来ていた。

「あ、あのさ、コリンズ君……、」

「おい」

「な……何……?」

コリンズはレックスに向けて剣を突き出す。

レックスは跳びずさり、避ける

「決闘しろよ。お前に姉ちゃん、いるだろ。

俺が勝ったら、永遠にラインハットにグランバニアが服従する証として俺によこせ。

お前が勝てたら……、」

「何もいらないよ。」

「な、何を……!?」

「そのかわり、僕がいいって言うまでお姉ちゃんに近づくな。」

「そ、そんな顔したって怖くもなんとも……」

レックスの顔からは激しい怒りが見て取れ、コリンズはその気迫に押し黙るしかなかった。

「早く始めよう。」

レックスは近くにあった剣を取ると構えた。

コリンズも剣を取った。おっかなびっくりと言った感じで剣を構える。

(明らかに素人……、怪我はさせないけど、でも!)

「本気で行くよ。」

「こ、来いっ、来てみろっ!」

普段よりも低い声のレックスと上ずった声のコリンズ。しかし、レックスの意識はあくまで戦いに集中していた。

すでに勝負は決まっていると言えるだろう。

そして、

「う、うおおっ!」

レックスの剣が走り、コリンズは驚きの声を上げる。

「がっ、がああっ」

更に2発目。

コリンズは思い切り振りかぶる。

持ちなれない重さの剣に振り回されているといった印象だ。

傍目から見ても隙だらけであるが、レックスはあえて後ろに飛ぶ。

コリンズが剣を振り下ろすのに合わせ、レックスはなぎ払った。

剣がはじけ飛ぶ。

「あ……え……!?」

コリンズがそれに気づいたのは再び振りかぶり、振り降ろした時だった。

「お前の、負けだ。」

その迫力にコリンズは気を失った。

 

「そろそろかな。」

ヘンリーは独り言を言った。

「何が?」

「お前はついててやれ。タバサちゃんはコリンズのこと、苦手みたいだしな。」

そう言うとヘンリーは部屋から出ていった。

 

「ん……」

「コリンズ君、大丈夫?」

レックスが手を差し出したのをコリンズは振り払って言う。

「い、いらねえよ、お前の手なんか!」

が、体がこわばっているため尻餅をついてしまうが、硬直が収まったことで何とか立ち上がる。

「仕方ねえな、対等の関係ってことにしといてやる!」

コリンズは立ち上がって早々ふんぞり返って言った。

「対等……?」

「同じぐらいの偉さってことだよ。」

地位に限った語彙だけは年齢の割には豊富なコリンズはやはり威張って言う。

「城の外、行ってみるか?」

自尊心が満たされたためか、コリンズはレックスに提案する。

「え、できるの?」

「ああ。まずは俺の部屋に行こうぜ。」

 

コリンズは部屋に入ると、鍵をかけた。

そして椅子をずらすと、床を引いて、倒した。

「うわ、すごい!」

そこに現れた階段にレックスは歓喜の声を上げる。

「多分逃げ道なんだろうけどな。こういうふうにすれば」

「いつでも抜け出せるんだよな。」

ヘンリーがカゴと網を2つずつ持ち、さらに子供用の麦わら帽子を2つ重ねて頭の上に乗せて現れた。

「お、親父!」

「お前の考えなんかお見通しだ!実は30分ほど待ってたんだけどな!」

そう言って豪快に笑うヘンリーを見て、レックスはコリンズの性格にも頷ける気がした。

「ほら、ちょうど虫が取れそうな時期だ、裏の森にでも行って来い!」

 

レックスは網を振り回すが、なかなか取れないで悪戦苦闘している。

一方でコリンズは次々と取っていく。

「レックス、そんなんじゃ駄目だぜ。もっと虫にばれないようにそっと近づいてから取らないと」

言いながら、コリンズは更に1匹セミを取った。

「う、うん……。」

レックスはカブトムシに狙いを定め、そろそろと近づいていく。

網をとろうと振りかぶった瞬間、

「ほら、取った!」

コリンズの網がカブトムシを捕らえた。

「あっ、ひどいよ!」

「何言ってんだ、先に取った奴のもんだ!」

それでも夕暮れになる頃には二人の虫かごはいっぱいになっていた。

レックスは最初はなれなかったものの、身体能力の差から虫を取る技術はコリンズを上回っていた。

「クワガタ、カマキリ、バッタ……と。」

レックスは取れた虫を見て言う。

 

レックスとコリンズはヘンリーに虫かごを突きつけた。

「おっ。結構な数、取れてるじゃないか。」

「コリンズくんが教えてくれたので……、」

その横でコリンズは胸をはっている。

タバサは相変わらず不機嫌そうにアベルの裾を掴んでいた。

 

「じゃあ。僕達はこれで帰るから……」

「ああ。世界が平和になったら遊びに来いよ。」

 

「世界が平和になったら、って……私たちが平和にしないといけないのよね。」

ラインハット城から出ると、タバサは言った。

アベルは何も言えなかった。

そこでレックスがあくびをする。

昼間中ずっと走り回っていたため、疲れが出たのだろう。

アベルがレックスの前で屈んだ。

「お父さん……、」

レックスはアベルの首に手を回した。

「背中、あったかいや……。」

すぐに眠りに落ちたレックス。

アベルは初めて背負うにしてはその体があまりに重いことに、涙を流し始めた。

タバサはアベルの手をしっかりと握ると、ルーラを唱えた。

 

アベルはレックスをベッドに寝かせると、タバサが再び抱きついた。

「お父さん……。」

タバサが抱きしめると、アベルもまた、抱き返す。

気がつくと、タバサも気疲れしていたのか眠りに落ちていた。

レックスの隣に寝かせると、2人の顔を眺める。

初めて見る寝顔だった。

 

レックスは空腹のあまり目を覚ました。

タバサもそれに気づいて起きる。

「ん……ご飯、食べる?」

アベルはなんと声をかけていいのかわからず、それだけを言った。

「うん……。」

 

3人の前に夕食が並べられる。

レックスとタバサが並んで、アベルがそれに向い合って座っていた。

「レックス、どうしたんだい。食べないのか?タバサも?」

「いつも……いつも待ってたんだ……。もしかしたらお父さんがご飯を食べに戻ってくるんじゃないか、って……。」

「お父さんとこんなふうに向い合ってご飯食べるの、初めてだから……。」

アベルはレックスとタバサの間に行って片腕ずつで2人を抱いた。

 

「お風呂……?1人で入れるし、お父さんとじゃ恥ずかしいけど……。」

「でも今日入らなかったら、次はいつ一緒に入れるかわからないじゃない。」

「うん……。」

 

そして、寝る時間になって、2人はアベルの寝室の戸を叩いたのだった。

「お父さん……一緒に寝てほしいな……。」

 

次の朝、2人はアベルが自分たちの頭を撫でている感触で目が覚めた。

「お父さん……本当にお父さんなんだよね?夢じゃ、ないんだよね……。」

 

朝食をアベルと一緒にとると、そのあとでアベルはパパスが使っていた剣を渡した。

「そんなにすごい剣じゃないけど、父さん……、いや、お爺ちゃんが使っていた剣なんだ。2人に持って行って欲しい。」

「お父さん……私たちはエルヘブンに行くことにします。」

 

グランバニアを出ると、レックスは思い出したかのようにタバサに尋ねる。

「お姉ちゃん、昨日機嫌が悪そうだったよね。どうしたの?」

「……ちょっとね。」

「お姉ちゃん、もしかしてコリンズくんと仲良くなりたかった?」

「そんなわけないじゃない。」

タバサは顔を赤らめてから言う。

「レックスったら……鈍いんだから……」

「鈍いって、僕が?お姉ちゃんがコリンズ君のこと好きだってことぐらいはわかるからそんなことないよ。コリンズくんにはダメだって言ったけどお姉ちゃんがいいのなら僕は」

「レックスなんか知らない!それとお爺様の剣はやっぱり私が持つわ。」

「え?そんなに照れなくても……、」

「違うって言ってるでしょ。だって……」

「だって?」

「……なんでもない。」

タバサはレックスに持たせていたパパスの剣をひったくると走りだした。


 
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