No.279263

郷愁思惟

やえまきさん

もしも、フレイがアジェンダを継いでファリスをお嫁にもらったていたら? という最終巻後のもしものお話。
(以前、サイトにアップしていました)

2011-08-20 01:43:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1013   閲覧ユーザー数:1011

 
 

「楽園の魔女たち」二次創作

フレイ×ファリス

※最終巻から数年後の話

 

 ファリス・トリエがこの島に来て、ちょうど二ヶ月が過ぎた。

 最初、彼女がこの島に居る期間は一週間という約束だったが、彼女がまだこの島に居るには理由がある。この島に、いや、フレイ・アルフォイの元に嫁いだのだ。

 この朗報を聞いた時、彼女を知るものは皆、様々な反応を示し祝ってくれた。特にエイダは一番喜んでくれて、島民全員を呼んで式を挙げようとまで言い出すほどだった。けれど、主役二人の希望により、身内だけでひっそりと行われた。

 島での彼女の生活は楽園に居た頃と然程変わらなく、時々エイダと談笑したり、元気な甥っ子と姪っ子と遊ぶということが加わった位だ。

 

 この日も、ファリスは庭で甥っ子らとかくれんぼをして遊んでいた。彼女が鬼なのだが、この屋敷の全てを知り尽くしている彼らが相手では、なかなか見つけることが出来ない。次はどこを探そうかと悩んでいると、屋敷の中からガウンを羽織った老婦人が現れた。

「ファリス、島にはもう慣れたかしら?」

 老婦人、エイダは優しい笑みを浮かべファリスに声をかけた。ファリスは淡いグリーンのシンプルなドレスを揺らし、老婦人の方を向こ笑みを浮かべる。

「えぇ」

「そのドレス、着てくれているのね」

「もちろんですよ」

 そう言って、彼女はエイダがプレゼントしてくれたドレスの裾を軽くつまんだ。結婚が決まるや否や、エイダとマリアはまるで競い合うかのように自分用にドレスを作ってくれた。

 気を使わなくて良いよ、と彼女が言い出せば「花嫁さんは遠慮なんてしなくていいの!」と笑顔で一蹴されてしまった。気持ちはありがたいのだが、数が数なので袖を通したことの無い服が何着かあったりする。

 サラは「花嫁のたしなみだ」と、言って白い総レースの下着をくれた。正直、どの辺がたしなみになるのか、ファリスはいまだに分かっていない。

 殿下は一言「幸せになりなさい」とだけ言ってくれた。

 皆に祝福され、草原の娘はその日海の民となった。

「本当に、貴方が来てくれてよかったわ。あれから、あの子もよく島に帰ってくるようになったし」

 あの子、つまり彼女の夫であるフレイの事だ。彼女と出会う前は結婚を迫られる事が嫌で、なかなか島に帰ってこない状態だった。

 だから、フレイはファリスに一週間だけ恋人のフリをしてくれるように頼んだ。最初はフリだけだったはずの婚約は、いつの間にか本当になっていた。本当にいつの間にかで、ファリス自身もいつから自分にそういった感情が芽生えていたのだろうかと不思議にすら思っていた。

 まさに、嘘から出た真だった。

 

 すっかり日も暮れて部屋に戻ると、ファリスはラモーネがくれた真珠の髪飾りを外し、ドレスを脱だ。ラフな部屋着に着替えると、髪を後ろで一本に結び、軽く背を伸ばした。

 ふと思い返せばもう二ヶ月なのだ。一人になり、それを確認した途端に、ファリスは楽園が恋しくなった。連絡用にでんでんは置いてあるものの、通信することと直接会うことはまったく違う。

 家族とも結婚式以来会っていない。此処から故郷までは遠いので、手紙を出したとしても届くのはずいぶん後になってしまうだろう。

 会いたい。

 そんな気持ちが彼女の中で起こった。今まで思わなかったことが不思議な程に強く、胸に響く。

 そんな封に郷愁に浸る彼女の耳に、大きく一度だけのノックが響いた。

 相手が誰かなんて、ドアを開けなくてもわかる。一度だけ大きく叩くノックは自分達だけの合図だ。彼女は急いで脱いだドレスを畳むとドアを開けた。

「おかえりなさい、フレイ」

「ただいま」

 フレイはそう言って軽く笑むと、出迎えてくれた妻の前髪に軽くキスをした。彼女は顔を赤くして軽く俯いた。島の生活には慣れた彼女であったが、これにはまだ慣れていない。

「島にはもう慣れたかい?」

「貴方まで同じ事を聞くんですね」

 彼女はそれが可笑しくて、小さく笑った。フレイはそんな彼女の様子に、幸せそうに顔を綻ばせる。

 どうやら慣れたようだ、彼はそう実感し嬉しくなった。そんな彼とは反対に、ファリスは少し戸惑った様な表情を浮かべる。

「なんだい?」

 彼は何か言いだげな彼女に気づき、尋ねた。ファリスはまだ言い出そうか迷っていたが、せっかく尋ねてくれたのだからと言うことにした。

「少しだけ、里帰りしてもいいですか?」

「いいとも、ただし……」

 急に真顔になったフレイに、何を言われるかとファリスは不安になった。一週間だけ、と言われたら行き来する時間も無い。

「僕もついていくからね」

「それが、条件ですか?」

「そうだよ」

 あっさりとそう答えられてしまうと、拍子抜けしてしまう。

「ところで、どっちから先に帰るんだい?」

「え?」

「君の実家は二箇所にあるからね、さ、どっちから行くんだい?」

 ちゃんと「楽園」と「故郷」の両方を実家として数えていてくれた、それが無性に嬉しくて、彼女はフレイの手を取った。ふと、ファリスは彼の仕事の事を思い出しだ。

「あの……仕事はどうするんですか?」

 心配そうにファリスは夫を見上げてたずねる。フレイは妻の前髪に触れながら、にこりと笑んで答えた。

「あぁ、それなら大丈夫さ。明後日から三ヶ月ほど休暇をもらったからね。」

「それならよかった。ありがとう、フレイ」

 ファリスは安堵の息をつき、仲間と家族に久しぶりに会うための準備をするのだった。

 

 後日、海軍の方で一騒動有ったことをファリスは知らない。

【Fin】

 
 

 
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