(意外と委員長は家庭的なのかも知れんな・・・)
休憩室からホールへと戻り、適当に掃除をしつつ時間を潰す真司。
先ほど綾音に貼ってもらった人差し指の絆創膏を眺めながらボーっとしていた。
「もしかして変な風に貼っちゃった・・・?」
「あ、いや、そんなことはない」
自分が貼った絆創膏を眺めていたのが気になったのか、綾音が少し心配そうに話しかけてきた。
(・・・うぅむ・・・小言がなければなぁ・・・)
目線を絆創膏から綾音の顔へと移す。
「な、何・・・?」
「いや、黙っていればいい感じだよなーと・・・」
観察視線を勘違いしたのか、綾音は何故か頬を染めていた。
「・・・口煩いのは性分よ」
「・・・ぁー・・・」
かと思いきや、今度は捨て台詞を吐いて厨房へと早足で向かって行ってしまった。
思わず考えていたことがそのまま口に出てしまった。
(手当ての借りもあるし、後で謝っておくか・・・)
軽いため息と共に清掃作業へと戻る真司。
閉店時間まで後僅かだった。
いよいよお客さんも片手で数えられる程度になり、後は閉店まで待つばかりとなってきた遅い時間。
珍しく入り口の自動ドアが開く音がした。
綾音や他のバイトもホールには見当たらなかったので仕方なく真司が接客へ出向く。
「いら・・・」
「頑張ってるわねぇ」
「働いている真司も素敵♪」
入り口には見知った顔が二人居た。
郁と雪菜だった。
「・・・冷やかしなら帰ってくれ・・・」
「違うわよ。雪菜にバイトのこと話したら来たいって言うものだから」
とりあえず仕方ないので席へと案内しながら用件を聞き出す。
「・・・はぁ・・・それでー・・・何か頼むのか・・・?」
とても接客をする態度ではなかったが、それにイチイチ文句を言うほど二人は細かくはない。
「私はいつものジャンボパフェで~♪」
「私はー・・・バニラアイスクリームゥ~♪」
「・・・はぃはぃ・・・」
こんな遅い時間に食って太る・・・。と言いたかったが、敵にすると恐いのでグッと我慢した。
注文を厨房へと頼んでいる間、二人は綾音とも会話をしていたようだが、すぐに綾音は作業へ戻ってしまった。
(・・・折角だし話していればいいものを・・・)
注文の品が出来上がるまで厨房傍から綾音たちの様子を眺めていた真司。
(まぁ、委員長の性格じゃ・・・無理な話か・・・)
そんなことを考えつつボーっとしていると厨房のバイトから注文の品を渡される。
「ほれ、お待たせ」
「「待ってました~♪」」
注文の品を二人の下へと届ける。
こう見れば明らかに親しい友人か姉妹にしか見えない。
郁が若いのか、雪菜が若いのか・・・はたまた両方か。
「やっぱりここのパフェはリーズナブルなのに美味しいわ~♪」
「・・・どうも」
満面の笑みで巨大パフェ(5人分)を素晴らしい速度で削っていく郁。
修行中の厳しい表情などは想像も出来ない。
「やっぱり今の時代はバニラアイスだわ~♪」
「・・・腹壊すなよ・・・」
こちらも満面の笑みでどんどんアイスの山を減らしていく雪菜。
今の時代で食べたものの中で一番のお気に入りはバニラアイスらしい。
流石は雪女。
べたな嗜好だが納得できた。
ただ、何人分か食べた後、腹痛で苦しんだことがあるらしい。
とんだ妖怪もいたものだ。
「じゃあご馳走様~」
「しんじぃ、まったね~♪」
嵐のような二人は食べるだけ食べて帰って行った。
閉店時間ギリギリだ。
バイトたちは既に閉店作業を始めている。
(あー、バイト後に委員長に一言言わないとなぁ・・・)
綾音も閉店作業をしていたが、隙を見て話しかける。
「なぁ委員長、今日のお礼って分けじゃないんだが、一緒に帰らないか?」
「帰る方向・・・逆でしょ?」
凌空が居るときは凌空と帰っているのだが、今日はシフトに入っていなかった。
綾音とは帰る方向が逆の為、今までは凌空が休みのときは一人で帰っていたのだが・・・
綾音はバイト後は次の日の為か基本的に急いで帰ってしまう。
時間も遅いので当たり前といえば当たり前なのだが。
「まぁ、そうなんだが・・・迷惑だったら謝る」
「べ、別にそういうわけじゃないし・・・いいわよ、一緒に・・・帰りましょうか」
「お、マジで・・・?じゃあさっさっと作業終わらせるか」
てっきり断られると思っていたが、予想外に承諾を得られ、俄然後片付けにも気合が入る。
「・・・調子がいいんだから・・・」
まさに調子よくテキパキと動く真司を見て、綾音は思わず苦笑せずにはいられなかった。
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