No.277507

異聞~真・恋姫†無双:二一

ですてにさん

前回のあらすじ:フリーダムな呉王と、メンマ好きのあの人のせいで話し合いは翌日に。
蘭樹は自分の休まるべき場所で、翌日への糧を得る。

人物名鑑:http://www.tinami.com/view/260237

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2011-08-18 16:30:26 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:9899   閲覧ユーザー数:6719

結局、私は愛紗の慌てぶりと羞恥に染まった顔を朝からたっぷりと堪能することが出来た。

加えて、一刀の『ぱわーあっぷ』ぶりを解説し、色んな意味で覚悟してもらうように通達。

 

「毎晩、失神させられて、なお余力が十分とは・・・わ、私はそれでもご主人様に全てを尽くすと決め、

いやしかし、華琳どのと毎晩同衾するのは恥ずかしい・・・あ、いやそれでも・・・」

 

私の言葉を受けて、見事な思考の繰り返しの中にいる愛紗を満足いくまで眺めた後で、彼女を朝食へと連れ出す。

眠る一刀の傍には、お爺様の元から帰還した貂蝉と、昨晩の影響で半ば眠ったままの星についてもらう。

二日酔いになっていないのは、流石というべきか。

 

無防備な状態の一刀を一人には出来ず、一刀と誰かを二人きりにする危険を考えた上でのことである。

殺気でも感じたら、星は飛び起きるだろうから、心配は無用というもの。

 

「しかし、華琳どの。なぜ私達は食材を抱えて、台所にいるのだろうか?」

 

「一刀がじきに起きるでしょうから、寝台でそのまま食べられるものをと思ったの。宿の主人には許可を得てるから大丈夫よ。

せっかくだし、私達の朝食もまとめて作ってしまおうということね」

 

現代の世界にて、食文化の多様性をまざまざと見せつけられた私は、それこそ貪欲に知識を吸収していった。

…といっても、学生の身分で手に入る食材もある程度知れていたから、

いわゆる各国の庶民料理を作ることが多かったけれど、毎日の調理を楽しみにしていたのは間違いない。

 

宿から提供される朝食はあるにはあるが、腹には入る、正直その程度のものだ。

主の腕、というより、仕入れの価格が高過ぎてままならないというのが実情だろう。

 

「この辺りは麗羽の統治が及ぶ地域になるから、最低限の食材は手に入ったわね。

といっても、朝市にも活気は全くなかったし、値段もぼったくりに近い…。

交易品の仕入れとなれば、ギョウまでいかないと駄目ね。

あ、ごめんなさい、愛紗。お米を洗ってくれる? 私は他の下拵えを始めるわ」

 

「お粥を作るということ…か」

 

「今日作るのは、雑炊ね。せっかくなら、具だくさんというのも悪くないじゃない」

 

幸い、一刀がこの世界に来てからせっせと作っていた、干し魚、干し肉なども十分ある。

近くの農家も訪れて、卵もいくつか売ってもらった。

陳留を出る時に、こっちの華琳の力を借りて、塩を多めに持てたのは幸いだし、腕を振るうには十分だ。

 

「あら、ずいぶん手慣れてるのね」

 

お米の研ぎ方も慣れたものだ。正直、愛紗が調理が得意な印象は無かったけれど、なかなかどうして…。

 

「あ、あぁ、お恥ずかしい話、料理は以前にかなり練習したものですから…。ご主人様には、当初は随分と迷惑をかけたのだ。

今では最低限、食べられるものを出せるようになったとは思っていますが、

極端な話、あの方は不味いと思っていても、こちらに絶対に悟らせずに『美味しい』と言ってのける方だから、

最初は自分の料理の壊滅的な味になかなか気付かなくて…お恥ずかしい限りです」

 

「…あの鈍感男も、そういう時は完全に演じてみせるものね。確かに判らないわ」

 

ただ、過去はともあれ、今の愛紗は手つきを見るに、基本が身についた跡があるし、一緒に調理するのには何ら問題ないだろう。

あとは効率のよい段取りとか、ちょっとした下拵えのコツであるとか、そういう細々としたやり方を覚えていけば、

流々と一緒に調理をする時のような楽しい時間にも、少しずつ近づいていくはず。

当面の目標は秋蘭といったところだろう。その成長を見るのも、また楽しみの一つになっていく。

 

「ただね、愛紗。基本は身に付いているようだから、心配はいらないわよ。

効率いいやり方とか、細かい部分はおいおい覚えてくれればいいわ。その辺りは、私も教えられる点は多いと思うから」

 

「お、お手柔らかにお願い致します…」

 

「ふふっ、時間はこれからいくらでもあるわ。焦らずにいきましょう」

 

少しだけたどたどしい愛紗の動きを補佐しながら、私は朝食作りの時間を心安らかに過ごすことが出来たのだった。

 

 

「ん…これは、美味しい! 優しい味なのに、それでいて、こんなにもしっかりした味付けとは…」

 

「ふふ、出汁の取り方一つで結構変わるものでしょう? あとは味付けのやりかたでもかなり違ってくるのよ」

 

「確かに言われるとおりですね…。あれだけ細かに味見をする必要があるのかと思っていましたが、

本当に華琳どのは料理人としても一流でいらっしゃるのですね」

 

「人の料理の批評をするなら、最低の礼儀だと思うもの」

 

「ふふっ、らしいですね」

 

二人で出来上がりに満足し、さて、盛りつけようとしている所に、台所に近づいてくる足音に気付く。

その足音が独特だったものだから、愛紗と二人して、思わず顔をしかめてしまう。

 

「明らかに気だるそうな音ねぇ…」

 

「星か、孫伯符どの。どちらかだろうと思いますが」

 

「私もそうとしか思えないわね・・・。匂いに釣られてやってきたのかしら」

 

「二日酔い後の朝食としては、これ以上に無いぐらい最適ですからね…」

 

そんな呆れ口調で言い合っていると、淡い桃色の長い髪に褐色肌の彼女が入口に現れる。

表情が完全に見えない辺り、殆ど俯いて歩いてきたのだろう。

 

「あたまいた~い…いいにおい…」

 

「呑み過ぎよ、孫伯符。星と意気投合したからって、あれだけ飲めば次の日に響きもするわ」

 

「なぜ私の名をっ…!…って、いつつつっ…頭がいたい~」

 

一瞬、目を吊り上げ、怒気を孕んだ覇気を放つ雪蓮が…と思いきや。頭痛にあっさり負けたようだ。

…これは孫権や、周瑜が見れば間違いなく説教ものだろう。

 

「周公謹に聞いたのよ。貴女、酔って聞いてなかったでしょ。愛紗、出してあげて」

 

「私達も今から朝食を取るところだったのだ。さ、熱いから気をつけて食べられよ」

 

「ありがとぅ、頂くわね…ふーっ、ふーっ、あむっ。…いや~ん、美味しい♪ なんて優しい味なの…♪

二日酔いの朝にはサイコーね~♪ …で、冥琳が?」

 

椀を差し出すや否や、すぐに匙を口にし、一人で幸せに浸った後、雪蓮は思い出したかのように、やっと周瑜のことを口にした。

嬉しそうに食べてもらえるのは、私も愛紗にしても無論満更でもないのだが、

それ以前に王として食欲最優先というのはどうかと思うのが先だった。

 

「ある意味、伯符どのらしいと言おうか…あ、お口に召したようで何よりです。さ、こちらに水も置いておきますね」

 

「気が利くのね~。んぐんぐ…っ、水も美味しい~。よく冷えてるわ~。あぁ、貴女たちいい嫁になるわよ。

私の嫁にぜひ…って、あ、ごめんね~。この優しさについつい…」

 

「まぁ、いいわよ。味わってもらえているようで。さて、食べながらで構わないから、話をしても?」

 

「助かるわ。心に染みるこの味を後回しといわれるとキツいところだし~」

 

笑顔に思い切り『本音よ♪』と書いてあるような彼女の言葉に、私達も相好を崩し、お椀に口をつけていく。

 

「この味なら、ご主人様も喜んで下さるだろうか」

 

「二人で作ったといえば、倍喜ぶわよ、一刀は。

…さて、孫伯符。昨日、周公謹と自己紹介を私達は交わしているの。その際に、貴女の紹介も受けている」

 

「あはは…酔ってて、聞いてなくてごめんね? もう一度、お名前聞いてもいいかしら?」

 

「予想通りだから、構わないわ。私は姓を安、名を蘭樹。字は無いのよ。我らの長、北郷一刀の半身みたいなものね」

 

「私は姓を関、名を羽。字を雲長。ご主人様の第一の臣だ」

 

「…ん~、どっかの領主さん御一行なわけ?」

 

「いいえ、ただの行商人一行よ」

 

「…嘘おっしゃい。こんな美味しい粥をもらっておいて、こんなこと言うのもどうかとは思うけどね」

 

目つきの鋭くなる雪蓮に、私はあえて笑顔で返してみせる。

 

「建前や表向きというのは大事よ。実際に裏で何をたくらんでいるとしても、行商人をやるということに意味があるの。

それに、諸国を回りやすい身分というのは、今の私達には重要なことなの」

 

「ぷっ…はっきりと言い切るのね~。裏の目的もありますけど、表面上商人やってますって、堂々と言い切られるとむしろ清々しいわ。

で、目的ってなに?」

 

「これから吹き荒れる大陸の戦乱を最小限に抑え、速やかに平和へ導くこと。

その為に、平和への道を切り開くに足る者たちに、出来る限りの援助をし、その速度を加速させること…だけど、

まぁ、私達の代表と話してもらうのが一番判りやすいと思うわ」

 

「ふ~ん、どっかに仕官するわけじゃないの?」

 

「手段の一つにすぎない。やっても客将のような立場にしかならないわね」

 

「…よくわかんないわね~。天の御遣いって何考えてるのかしら」

 

ちなみに今の私は制服を脱いで、動きやすい旅装に近い姿にある。

一刀と共に神輿になる場合と、あえてそれをしない場合を使い分ける方が、今後都合がいいと考えるからだ。

 

「断言なのね…御遣いって。後でわかるわよ、心配せずとも。まずは、しっかりと食事を取って、その上で話をしにいきましょう」

 

「ん~。まぁ、こうして御呼ばれになってる時点で、拒否もなにもないか…。じゃあ、まずはお代りをお願いするわ♪

こんな美味しい粥、次にいつ食べられるか、わからないもの」

 

「これ、粥ではなくて、雑炊っていうのよ。粥にしては具だくさん過ぎるでしょう?」

 

「へぇ~。んじゃ、改めて…雑炊、お代り!」

 

ひとまず目の前の雑炊を堪能することに傾倒すると、宣言する雪蓮に苦笑しながら、

私と愛紗も満足行く出来となった、雑炊をゆっくりと味わっていく…。

 

 

「…本当に、優しい味だね。すごく落ち着くよ。二人とも、ありがとう」

 

寝台から上半身のみを起こし、雑炊をゆっくりと平らげた一刀は、私達にとっての何よりの褒美となる、優しい笑顔を見せてくれた。

 

「あ、ありがとうございます。そのお言葉を頂けるだけで、じゅ、十分です…」

 

久し振りの一刀の褒め言葉に頬を真っ赤に染めて、消え入りそうな声で返事をする愛紗。

 

「痛みまで消せればいいのだけど、さすがにそれは欲張りよね。まだ、かなり痛む?」

 

「こうやって星に支えてもらってないと、正直、身を起こしているのも辛いかな。ごめんね、星。慣れない氣の使い方をさせて」

 

「なに、我らのような一流の武将であれば、この程度は当然出来るもの。お気になさいますな」

 

目は覚めたものの、痛みはまだかなりのものらしい。

無理やり活性化させて、身体に負担をかけたところに、さらに無理に動かしたのだ。

正直、腕足が動かないなどの後遺症が出てもおかしくないほど。

今も、星が微量の氣を一刀に流し込んで、痛みを緩和しているような状態だ。

 

「星、代わるわ。貴女も雑炊が冷め切る前に食べてしまいなさいな」

 

「ふむ、華琳どのと愛紗のお手製雑炊か。飲み過ぎた翌朝にはぴったりであるな。では、お願いしようか」

 

破顔した星と入れ替わるように、私は一刀の背中を支え、まだ慣れない氣の放出を始める。

雪蓮が星を見て『なんで星は二日酔いになってないのよ…』などとこぼしているが、

今は聞こえないふりをするのが嗜みというものだろう。

 

「ありがとう、華琳」

 

「貴方の無茶を支えるのも、今の私の役割よ。支え切ってみせるから、やりたいようにやればいいの」

 

「ん…」

 

瞼を閉じる一刀。いつからか、覚悟とか思いをもう一度見つめ直す時に、無意識にするようになった癖。

開かれる瞳は何よりも強靭な『意志』を宿す。あの瞳の強さが、いつしか私の歩む覇道すら、形を変えてみせたのだ。

 

「お待たせしました、孫伯符どの。このような見苦しい姿で相対すことをお許し下さい」

 

包拳礼を取りながら、まずはお詫びの言葉から入る一刀。

 

「気にしないで頂戴。こっちだって間者を潜り込ませていたわけだし、

これだけの英傑を自然に引きつけている貴方を見ているだけでも、なかなかに楽しい時間よ。

男の英傑を見れるのは、本当に稀なことだしね」

 

かしこまった礼は不要と、雪蓮が態度に示しながら、座っても? と、寝台の端を見ゆる。

 

「情けない話、二日酔いでね。あの雑炊のお陰でずいぶん和らいだ感じがするけど、出来れば楽な格好で話ができたら助かるの」

 

「どうぞ、俺もこんな状態ですから。まもなく、公謹どのやこちらの友人の劉玄徳たちも参ります」

 

「…ん~、貴方、本来そんな話し方じゃないでしょ。

ここは公式の場でも何でもないし、身体も辛いだろうから、貴方の普段通りでやらない? 私、固いのって苦手なのよ」

 

腰を下ろしながら、軽く手を振って、気を使うなと自分からおどけてみせる。

苦手なのは確かだろうが、それは一刀の身体に対する雪蓮なりの気遣いだ。

 

「…助かるよ。今もこうして皆に氣を廻らせてもらってないと、痛みに意識が飛びそうになるんだ」

 

「身体能力を無理やり氣で底上げして、力尽きたところにもう一度無茶したんでしょ? 私だってもうちょっと自重するわ」

 

「性格でね。もう少し、もう少しって欲張ってこのざまだよ」

 

「自分のためじゃなくて、人のため、でしょ。それ、欲でも何でもないわよ」

 

「結果、皆の喜んだ顔を見たい自分のため、だよ」

 

「…なかなか、筋金入りのようね。嫌いじゃないけど。それに、なんだろ。初めて会った気が、しないのよ。

陳留の近くに流星が落ちたと聞いた時、私の勘が囁いたわ。北へ駆けろ、って。貴方に会って、それは大正解だったってわかる」

 

「褒めても何も出ないよ、伯符さん」

 

一刀の身体に緊張が走るのが、こちらにも伝わってくる。雪蓮は、持ち前の勘で、記憶が無くとも、一刀を感じているから。

 

「そう、それよ。伯符、って言われるのに、すんごい違和感。…ねぇ。私の真名、呼んでみて? 違和感感じたら叩き斬ってあげるから」

 

叩き斬るという言葉に、愛紗が瞬時に気色ばむ。そのまま怒気を発しようとしたものの、一刀が先をやんわりと制してみせた。

 

「愛紗、落ち着いて深呼吸。下手な言葉尻に乗らず、冷静であれば、君はどんな事態にも対応できる」

 

「もっ、申し訳ありません」

 

「愛紗の力を信じてるから。…さて、伯符さん。聞いてもない、許されてもいない、真名を呼べというの?」

 

「貴方は知ってるわ。私の勘がそう言ってる」

 

「勘、か…」

 

「たった一言で、武人の怒気を抑え…まともに私の殺気をぶつけられて、平然としているどころか、笑顔さえ見せる男。

…どう見ても只者じゃないわよ」

 

そう、一刀は微笑んでいる。小覇王の殺気すら、恐ろしさを覚えながらも、懐かしいと思っているのだろう。

 

「怖いのは怖いよ? だけど、伯符さん、知ってるって言ったじゃないか。だったら、不思議でもなんでもないだろう?」

 

「さぁね? さ、呼んでみせてよ」

 

 

「知ってるのはもう確定なんだ…。ははっ、後悔するなよ」

 

俺は、刹那息を飲んだ。解き放つ言葉に、ありったけの思いを、こめる。

 

「…ちゃんと、蓮華を支えて、呉を導いてみせたよ。褒めてもらえるかな、『雪蓮』」

 

「…っ! なんで、涙が…!」

 

真名を呼べば、彼女の瞳から一筋の雫が零れ落ちて。

 

「毒矢から救えなかったこと、ずっと悔いていたよ。俺は全ての記憶を取り戻した。

今度こそ、絶対に助けてみせるから。もう誰も、俺の大事な人たちを、死なせない」

 

「毒…くっ、この流れ込んでくるのは、き、おく?

うん、そう、私は毒矢にやられて、最後の号令を掛けて、命を…落とした?

…あぁ、私は知ってる、そう、本当に大切な…そうよ、思い出してきたわ…、貴方はかずと、一刀なのね…?」

 

「…そうだよ、雪蓮。ただいま、かな?」

 

「…時すら、巻き戻してみせるなんて、本当にとんでもない『天の御遣い』よね…どんな奇跡よ…」

 

とんっ、と雪蓮の頭が、俺の胸に預けられる。

気丈な彼女の声が震えている。俺は皆の視線を遮るように包みこむように、しっかりと抱きしめた。

 

「落ち着くまで、こうしてるから」

 

「二日酔いの頭痛も吹っ飛んだわよ…」

 

「ごめんね。まさか、雪蓮がこの辺りまで北上してきてるなんて、思わなかった」

 

「勘というよりも、本能に近かったわ。

流星の元に向かわないと、一生後悔するって、焦燥感に駆られてね。いてもたってもいられなかった」

 

「…そっか。こちらから会いに行くつもりだったんだけど、ありがとな、雪蓮」

 

「ちゃんと、呉を導いてくれたんだ、一刀」

 

「頑張ったよ? 最後には大都督までやる羽目になったんだから」

 

「冥琳の後任を務めたんだ…さすが、私が見込んだ男よね…」

 

「託されたからね、遺志を。って、雪蓮! 記憶を戻したばかりで申し訳ないけど、冥琳は元気なのか!?」

 

早急に確認しないといけないことがある。俺が呉の地に降り立った外史で、冥琳を蝕んだ病…おそらくは肺結核。

兆候が出る前に、打てる限りの手を打たねばならない。

 

「め、冥琳? 大丈夫よ、どうかしたの?」

 

「雪蓮が倒れた直後から、冥琳は病を隠していたんだ!

俺が気付いた時には、もう取り返しがつかない状況まで、症状が進行してた…だから、今回は同じ過ちを繰り返すわけにはいかない!」

 

「冥琳が…!? で、その病気は治るの?」

 

「この大陸じゃ、発症したら終わりだ。だから…ん? 貂蝉、どうしたんだ」

 

俺達の肩に手を置き、話に割り込んでくる貂蝉。

といっても、いつもの強引さがあるわけでもなく、至って落ち着いた表情をしている。

ちなみに雪蓮は、漢女の風貌に完全に気を抜かれ、口をパクパクさせているが、まぁ、仕方のないことだ。

 

「えっとねん、その辺りは手を打っているのよん。元の世界にいる頃から、蘭樹ちゃんに言われてね」

 

「へ?」

 

「神医・華佗。この大陸にも『彼』はいるのよ。五斗米道の医者としてねん」

 

「で、でも、結核まで治せるわけじゃないだろ?」

 

「それがね、一刀。さすがに無くなった腕を再生とかは無理にしても、内科的なものなら、殆ど治せるみたいなのよ。

以前に、私もあの慢性的な頭痛を一時とはいえ、治してもらったから。

ただ、心因性と言われていたから、再発する可能性は指摘されていたけどね」

 

「マジですか…さすが、外史。なんでもありだな…」

 

「で、貂蝉から近場にいると報告を受けて…あら、この声は…」

 

華琳の助言に胸を撫で下ろす俺の耳に、聞き慣れた声と聞き慣れない声が混じった話し声が近づいてきていた。

 

「こちらにおにーさんがいるのですよー」

 

「五斗米道に不可能は無い! 周公謹の秘めた病魔を打ち破ったように、その北郷の気の乱れも正してみせるっ!」


 
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