No.277159

郷立幻想学園

もじゃさん

日常描写の練習に・・・と思ってやったのですが、予想以上にまとまりのなく長い文章になってしまった。
誤字脱字訂正、意見感想、アドバイス等ありましたら、是非ともお願いします。

2011-08-18 02:26:17 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:3458   閲覧ユーザー数:3433

 

 

 

きっとこの世界のどこかに無いようである場所、そこに幻想郷がありこの物語の舞台となる『郷立東方学園』があった。

今回はその学園での様子の一場面を追って行きたいと思う。

 

 

 

*登校

 

 

 

「あっつ……」

 

開始早々にヤル気のない声を出したのは、この学園に通っている生徒の一人、博麗霊夢であった。

彼女の制服はセーラーを赤で固め、肩から先がすっぱりと切れて腋の辺りが露出している極めて特殊な形状をしていた。

そんな彼女の制服に驚いたり注意を向けるものは人はいない。見慣れたという理由もあるが、それ以外にもこの学園独特の校風も由来している。

 

「オッス霊夢!今日も気怠そうだなぁ」

「……なんでアンタはこのクソ暑い中でそんなに元気なのよ」

 

ハッハッハッ!と元気に笑っているのは、同じくこの学園に通っている霊夢のクラスメイトであり親友の霧雨魔理沙である。

彼女は霊夢とは違い、白と黒で彩られた普通のセーラー服を着用している。霊夢の制服とは全くの別ものである。

実はこの学園では自由を校風としており、生徒の制服は「それが学生の制服と認められる」範囲であるならば、どんな制服であろうとどんな改造であろうと認めらているのである。

故に少女達はそれぞれがお洒落の為に、個性の為に、過ごしやすい様に、様々な理由で制服の選択、改造を行なっている。逆に、魔理沙の様な普通の制服を着ている方が珍しいのである。

 

「貴方達は毎朝毎朝飽きずに元気ねぇ」

「おーう、おはよう咲夜」

「……元気なのはこいつだけよ」

 

そんな二人に声をかける人物が一人。彼女も東方学園に通う霊夢のクラスメイト兼親友の十六夜咲夜である。

彼女は薄い青を基調としたデザインの制服を着ており、特に改造はされていない。

 

「そういや、今日はレミリア達は一緒じゃないんだな」

「昨日は二人きりで遊ぶとか何とかで私の役目が無かったから、そのまま自宅に帰ったの。だから今日は別登校」

「そりゃあよかったわ。朝からあの暑苦しい連中に絡まれずにすんで」

「あら、私としては偶に貴方達に相手してもらった方が楽でいいんだけど」

「……こんなクソ暑い中で遊び相手になるなんて、絶対に嫌よ」

「はは、霊夢は特に気に入られているもんなぁ」

 

そんな他愛も無い会話をしながら三人は校舎へと歩いて行く。校門では何時ものように朝の掃除をしている用務員さんが生徒達に挨拶をしいた。

 

「はい、三人ともおはようございます!」

「……おはよ」

「うぃーっす、おはようっす」

「おはようございますですわ」

 

挨拶を返すと満足したのか、用務員の響子はぎ笑顔でゃーてーぎゃーてーと何故か何時も唱えている般若心経を唱えながら掃除と挨拶を再開した。

 

「おや、お三方も今ご登校ですか」

 

下駄箱で靴を履き替えていると、後ろから声をかけられた。

声の主は魂魄妖夢。彼女もまたクラスメイトで、全体が優しい緑で彩られた制服を着ている。彼女は他の人より少しスカートの丈が長い、他の生徒がしない改造をしている。

ちなみに余談だが、この中で一番スカートが短いのは咲夜である。

 

「あら、貴方がこの時間帯なのは珍しいわね」

「今日は朝練はお休みでしたし、幽々子さんも比較的素直だったので」

「お前も毎日大変だよなぁ、学校では部活をビシバシやって、帰ったら幽々子先生にビシバシされて」

「いえいえ、何事も修練ですから。それに、好きでやっていることですから」

「……朝練なんて暑苦しくてやってられないわ」

「貴方という人は……」

 

依然として暑さにまいっている霊夢を見て、三人は苦笑いを浮かべた。

霊夢は朝に弱いらしく、暑い日も寒い日もそうでもない日もこうしてグッダリとしている。授業が始まる頃には治るのだが、それまではずっとこのままである。

結局、担任が来てHRを始めるまで、机に突っ伏していた。

 

 

 

 

*朝のHR

 

 

「では今日もHRを始める。校長が学校に2ヶ月連続不登校だが、何故か変わらず学校は始まるよ」

 

眼鏡を上げ溜息を付きながら、クラスの担任で現国教師の森近霖之助は告げた。

彼はこの学園では珍しい男性であるが、彼自体は別段女性だらけの環境を特に気にしてはいない。むしろ「どうして揃いも揃ってまともな女性はいないのか」と常々愚痴を零しているほどである。

 

「そもそもどうしてうちの学園の教師たちはこぞって皆適当なんだ。仮にも教育者としての自覚があるのなら、もっと真剣に取り組んで欲しいものだ。この年の所謂思春期時代における教育や環境が今後の子供たちの性格形成や人生の進み方が決まるというのに。模範と成るべき教師、しかもその一番に立つ校長がこんな調子では生徒は………………」

 

また始まったか、とクラス一同は呆れた。

器量良し性格良しな生徒思いの先生ではあるのだが、ふとした拍子に話が180度変わるほどに一人で話しを進めてしまうという、分かりやすい欠点を持っている。

放っておくとそのまま授業時間を全て潰してしまうほど話しが続いてしまうので、生徒達は何時も話が変な方向に脱線をしないかと耳をそば立てている。

 

「こ……霖之助先生、このままじゃHRの時間が終わっちゃうぜ?」

「おっと、少々話に熱が入りすぎたな。まあいい。皆知っての通り来月は期末試験がある。夏休みを補習で潰したくない人はしっかりと予習をしておくように」

 

他にも諸連絡はあったが時間もないからまあいいか。等とと呟き、朝のHRはそこで終了となった。アンタも十分ダメな教師の一人だよ。そう思ったが誰も言わなかった。

 

 

 

※1限目 数学

 

 

「よってココで先程求めたyの値を代入されます」

 

数学教師が黒板に書かれた数式を少しずつ紐解いていく。黒板には教科書に書いてある数式が、どこでどの公式を使うか、どの数字を代入していくのかをわかりやすくまとめてある。

この数学教師の授業はわかりやすいと人気で、大半の生徒は真面目に聞いている。

 

「では東風谷さん、この問の答えは?」

「はい、9です」

 

チラリと生徒に向けた視線を「正解」と小さく呟いて黒板に向き直り板書を進める。途中まで書いていた計算式を解まで進め、生徒にその内容を見せる。

カリカリと、シャープペンシルがノートを走る音が教室中に響き渡る。その速度と目線を見ながら、移し終わっただろうと思われる部分を消し、新しい問題を書き写していく。

 

「さて、それでは次の練習問題に行きましょう。レミリアさん、椛さん、前に出て解いてみましょう」

「うぇー……私かぁ」

「あ、はい」

 

指名された二人は立ち上がり、黒板へ進んで指摘された問題を解いていく。レミリアは何度もノートを確認しながら、椛は特に滞り無くスラスラと書いていく。

二人が書き上げた答えを元にしながら、数学教師は設問の回答を進めていく。何処かに間違いがあれば、どう勘違いしてその間違いに至ったのかを即座に読み取り正しい解法を提示してくれるので、生徒も自分が何処を間違えたのかを直ぐに理解する事が出来る。

 

「…………よって、求めるXの解は9になります。二人とも正解です」

 

解説を終え、少しずり落ちた眼鏡を押し上げて教師は微笑む。回答した二人はホット一息をつけ、教師は再び間違い易い点を指摘して注意するように呼びかけた。

 

「さて、皆さん知っての通り来月は期末試験があります。範囲としては中間からやった内容を満遍なく出しますので、キチンと予習をしておくこと。前回みたいな酷い結果にならないようにしてくださいね」

 

教師がニヤリと笑うと、心当たりがある何人かの生徒が苦笑いを浮かべた。

実はこの授業で使っている教科書、この数学教師が作った物であり、全ての問題に答えが9に成るという共通点があった。

先輩から試験の答えも9に成るという情報を得ていた生徒達が油断をし、何の勉強もせずに試験に挑んだのだ。

結果として、試験に出てきた数式の解は全て9だったのだが、問題はその解をどのようにして導いたのかを求めるものだった為、高を括っていた生徒は皆低い点数になってしまった。

それ以降、全ての生徒が授業を真面目に聞くようになった。ひょっとしたら先生はこうなることを狙っていたのではないかとの噂が広まり、生徒達は羨望と畏怖を込めてその教師を「天才」と呼ぶようになった。

 

「では、時間ですので今日の授業はコレで終ります。号令を」

 

当番が号令をかけて挨拶をすると、まるで狙ったかのようなタイミングでチャイムが鳴る。生徒からの質問に答えた後、教室を出る。

 

「おーう、お疲れ」

「あら」

 

廊下に出ると、同じく授業を終えた同僚とバッタリと遭遇した。

 

「いやいや、私のクラスでも話題になってるよー? あの教師は何もかも計算尽くの機械のような奴だってさ」

「ふふふ、例え機械を持って来たとしても私には敵わないわよ」

 

かつてこの学園で共に学んだ友人の言葉を受け

 

「なんたって、アタイは最強だからね」

 

数学教師、チルノは悪戯っぽく笑ってみせた。

 

 

 

 

※2限目 歴史

 

 

「そこで彼女達は力を合わせて、幻想郷を創り上げられました」

 

教科書に書いてある事項を読み上げながら、黒板に板書をしていく。特に創意工夫を加えずに教科書通りの授業を繰り返している。

 

「その決定に異を唱える者も少なくはありませんでしたが、長きに渡る説得と実際に過ごしやすさを感じたために、異を下げて幻想郷での暮らしを受け入れました」

 

真面目にノートを取る者、落書きをしながら授業を受ける者、バレないように寝る者………授業を受ける態度はそれぞれだった。

 

「ただそれで全てが上手く入ったわけではなく、予期せぬ問題も幾つか出てきました。例えば………」

 

そんな生徒の様子なんて気にせず板書を続けていく。基本的には教科書に書かれていることをそのまま、偶にそれの補足となる部分を少々付け加える。

板書をしている間も話し続け、黒板の端まで書くいたら特に気にせず古い部分を消して新しく書き足していく。その間、特に振り返ることはない。

 

(変わらねえなぁ……)

 

軽く溜息を付きながら、霧雨魔理沙は苦笑いを浮かべる。

彼女はこの学園では古参の教師で、とても多くの生徒を教育してきた。その教育スタイルは昔から全く変わることがなく、「授業で必要な知識をそのまま伝える」だけの何の捻りも無い物である。

授業内容はは非常に解り辛いのだが、生徒に対する情熱や献身度は教師随一であり、その点では生徒のみならず教員達からも強い信頼を得ている。授業の内容は別として。

余談だが、この授業をくぐり抜けた卒業生達が「自分が何時か他人に教える時は、あんな風にはならないようにしよう」と胸に誓った事を、そしてその結果素晴らしい教師を世に生み出すことになった事を、当の本人は知らない。

 

(にしても)

 

チラリと、左側の席でシャーペンを動かす十六夜咲夜の姿を見る。

先程も言ったが、彼女は古参の教師である。故に板書をするのも他の教員より手馴れており、字が丁寧でその速度も速い。板書された内容をノートに写しきれず、テストで復習する際に苦労する生徒も少なくはない。全て写しのを諦め、要所や要点を纏めたものをノートに書く生徒が殆どである。

しかし、彼女は違った。どういう芸当かわからないが、正確に全ての文字をノートに書き写している。傍目で見る分には普通に書いているようにしか見えないのに、だ。

 

(どうやってるんだろうなぁ、今度こっそり聞いてその秘訣を聞いて)

「ヘブッ!!」

 

などと考えていた魔理沙の思考は、額に突如訪れた痛みと自らの口から出た変な声で中断させられた。

イテテと漏らしながら前を見ると、先程まで熱心に板書を続けていた歴史教師、上白沢慧音が魔理沙の目の前で腕を組みながら見下ろしている。

「うげっ」と呟きながら、運がないと魔理沙は思う。基本的に生徒の様子を気にしない彼女だが、授業終了前の確認段階では此方を注視することがある。

そして魔理沙は、不幸にもそのタイミングどんぴしゃりに黒板とは違う方向を向いており、そして慧音の目に真っ先に入ってしまった。

 

「……魔理沙、随分と熱心だなぁ。私の授業に見向きもせずに、一体何を見ていたんだ?」

「ご、誤解だぜ慧音。私は授業を真面目に受けていたぜ?」

「先生と呼べと言っているだろ。お前がよそ見をしていたのはしっかりと目撃したし、起きているからと言って真面目とは限らん!」

 

まさか「咲夜がノートをとっているのをマジマジと見ていました」と正直に答えるわけにはいかず、白を切るように痛むおでこを摩りながら応える。サラサラとした肌触りがするので、恐らくチョークを投げられたのだろう。教師歴が長いだけあって器用である。

魔理沙の応答が気に入らない慧音は、溜息を付きながら叱責する。ジロリと一睨み効かせた後、組んでいた腕を解いて左手で魔理沙の右肩を掴む。

 

「ちょっ! まっ! 私は真面目に受けてたってば慧音! ほら、ノートも――――」

「だ、か、ら」

 

残った右腕で魔理沙の左肩を掴み、頭を仰け反らせる慧音。それを見て青ざめる魔理沙。

この学園の名物とも呼ばれている、熱血教師の愛の鞭――――

 

「先生と呼べと……言っているだろうがぁぁああ!!」

 

ゴッ!! と鈍い音が教室中に響き渡り、フンッと鼻息を付いた慧音は教壇へと戻る。

 

「今日の授業は以上で終りだ。号令ー」

「起立――――」

 

まるで何事も無かったかのように授業が終り、何事も無かったかのようにチャイムが鳴り、何事も無かったかのように生徒が座り慧音が出ていく。

そこで漸く、悲鳴をあげることも出来なかった魔理沙が机にバタリと倒れ込んだ。

 

 

 

 

※3限目 英語

 

 

「The girl lived in the world after death. They were a half of a phantom and human...」

 

英語教師がスラスラとテキストの英文を読み上げていく。その発音はとても綺麗で、金髪碧眼の人形のような容姿も相まってまるでアニメーションに出てくるヒロインの様だった。

 

「ここで重要となるのは……」

 

白いチョークで英文を書き、紅いチョークでポイントとなる部分をマークと補足をして説明していく。丁寧な字で、見易いバランスを意識した構図で書き上げられる。

 

「となります。ここは試験でも重要な部分ですので、キチンとチェックしておいてください」

 

コンコン、と黒板を軽く叩いてポイントを示し、生徒達は素直に従ってその部分をノートに写す。その間に教科書の内容を確認して、書き終わった生徒に次の文章を指定した。

 

「では博麗さん、45Pの5行目からお願いします。会話部分からですね」

「へーい……んっと、"The March Hare: Imagine, just one birthday every year. The Mad Hatter:But there are 364 un-birthdays.…………"」

 

ゆっくりと辿々しい発音で読み上げる霊夢。彼女は自他共に認める和風人間なので、英語を始めとした西洋風なものは根本的に苦手である。

それでも彼女が一応こうして読めているのは、日々の授業内容が充実していることと、彼女が見かけによらず頭が良い事がその要因となっている。

時間をかけて読み終わり、特に訂正が入らなかったことにホッと一息ついて席に着く。

 

「では次に和訳をしてみましょうか。先程博麗さんが読んだ部分を……十六夜さん、お願いします。」

「はい…………"考えてもみてごらん、誕生日は一年の間でたった一日しかない。 でも、誕生日ではない日は364日もあるんだ。…………"」

 

予め予習して用意しておいた訳を読み上げていく。内容は完璧で、それでいて直訳では無く自分なりに意訳をしていた。

内容に満足したのか、アリスは笑顔で労い席に座らせ、授業を進めていく。

 

 

 

 

(綺麗だよなぁ……本当に)

 

テキストをスラスラと読み上げる綺麗な横顔を、東風谷早苗はボーっと眺めていた。

アリス・マーガトロイドはとても綺麗だ。そこらのモデルよりも綺麗だし、声だって自分が今まで聞いてきた誰よりも美しい。生徒にも優しい。

それなのに、どうして彼女はこの学園の教師をしているのだろうか?

その気になれば現在のどのモデルよりも人気になれるだろうし、あの綺麗な声を活かせば歌手にだって慣れるはずだ。それに彼女は教師なだけあって学が深く、研究者としての道だって進めたはずだ。

それなのに、どうして教師になろうと考えたのだろうか?

 

(そういえば)

 

私は、あの先生のことを何も知らない。この東方学園に務める教師の一人で、担当は英語。名前はアリス・マーガトロイド。

……冷静に考えてみれば、コレしか知らないのだ。他の教師であるなら、どの辺りに住んでいるのか、誕生日は何時なのか、この学園の卒業生だったのか、どうして教師になろうと思ったのか……少なくとも、どれか一つは知っている。沢山の人と話をして、そういう世間話の中で知ったことだ。

だけれど、彼女については何も知らない。

 

(……どうしてなんだろう?)

 

ひょっとして、彼女のことは誰も何も知らないのだろうか? 校長当たりは何かを知っているのだろうが、それ以外は教員を含め誰も知らないのではないのだろうか? もしそうだったのなら――――

 

「……や……、…ち………? 東風谷早苗さん?」

「ひゅやぁぁぁぁぁ!」

 

突然のことに驚き奇声を放つ。

気が付けば件のアリス・マーガトロイドの顔が息がかかる程に近づいており、心配そうな瞳を迎えている。恐らく、何度呼びかけても応えない早苗を心配に思っているのだろう。

 

「だ、だだ、大丈夫です!!聞いてます、起きてます!!」

「そ、そう?ならいいのだけど……」

 

早苗の突然のハイテンションに若干引きながら、それでも笑顔を崩さずに受け答えをして教壇へ戻っていく。

 

「……コホン。それでは46ページの1行目から、読み上げて下さい」

「はい!!」

 

ガタンと勢い良く立ち上がり、ページをめくる早苗。再び苦笑いでそれを見守るアリス。

もしも、誰も彼女の過去を知らないのなら、誰にも話したことがないのなら……それを知りたい。それを聞き出したい、自分だけが知っていたい。そう思った。

 

 

 

 

※ 4限目 古典

 

 

「願わくは 花のもとにて 春死なむ その如月の望月の頃……これが西行法師の辞世の句です」

 

古典の教師西行寺幽々子は心を込めて和歌を読み上げる。

大人の女性特有の艶のある声、桜の模様で彩られた空色の着物、上品な仕草……和歌を読み上げる彼女の姿は、まるでかの時代を過ごした稀代の歌姫の様だった。

 

「この歌には、西行法師が自身の死に際についてを……」

 

和歌に込められた思いを解説しながら、板書をする。達筆な文字で書かれ、未だに本当にチョークで書いたのかを疑う生徒は少なくはない。

 

「……っと、こんな感じね。何か質問がある人はいますか?」

 

振り返り、ノートをとっている生徒達に向かって確認を取りながら、教材を片付ける。質問しても無意味だと知っている生徒達は、当然質問をすることはなく、西行寺幽々子はニッコリと笑って

 

「それじゃあ、今日の授業はここでお終い。はい、お疲れ様。じゃあね~」

 

さささ~って効果音が着きそうな素早い仕草で、教室を去って行く。授業終了時間まで、30分も残っているのに、だ。

 

「……はー」

 

その様子を見て、魂魄妖夢は溜息をつく。

実は彼女は、少し前からとある事情で西行寺幽々子の家に奉公をしている。彼女は妖夢に良くしてくれいるし、妖夢も恩義を感じてそれに報いようと精一杯奉仕した。その結果、二人はまるで家族の様に仲が良くなった。

……故に、こうしてお腹が空いたから独断で授業を30分も速く切り上げて、食堂にダッシュする姿を見ると無性に情けなさと恥ずかしさがこみ上げてくる。こう、家族がはっちゃけてる姿を見てみるみたいで。

しかも、だ。チラリと右側を見る。

 

「さーってと、今日も速く終わったから購買に飲み物買いに行こうぜ!!」

「そうね。喧騒に関わらずに温かいお茶を入れられるのはありがたいわ」

 

チラリと、左側を見る。

 

「さーくーやー! 速くご飯にしましょうよー!」

「……今私がノートのまとめを取っている所は分かっているんですよね?」

「まあまあお姉さまも咲夜も、とりあえずご飯を食べましょう?」

「まったくこの姉妹は……とりあえず普段と違って時間はあるのですから、落ち着いて準備しましょう?」

「そうねー。それについてはあの教師に感謝しているわ」

 

ハァ、と再び溜息をつく。

普通に職権乱用で生徒に迷惑をかけているのなら叱責の一つや二つを浴びせるのだが、時間帯的に生徒はむしろ喜んでいるので、なんとも言えない(実際自分も嬉しいし)。

 

(この異常な程の食欲さえなければ、非の打ち所が無い人なんだけれどなー)

 

再び、今度は一番大きなため息をついて、妖夢は立ち上がる。

気は進まないが、出来る限りあの人のお世話をするのが自分の役割だ。速い所食堂に行って、彼女が他の人の分まで食事しないように注意しないと。あと、ついでに今日のお弁当を渡さないと。

 

 

 

※ 昼休み

 

・職員室

「ほ~れ香林、今日のお弁当だ有りがたく頂戴しな!!」

「魔理……霧雨君、僕は何度も言ったはずだが」

 

職員室の一角、何だか嬉しそうに手作りの弁当を馴染みの教師に渡そうとする女学生と、馴染みの生徒が自分の言うことを聞かないことに軽くため息をつく教師が居た。

 

「わざわざ君がお弁当を用意しなくても僕は自分の食事くらいは用意出来る、もう僕にそんな事をする必要は無いとね。それと此処は職員室で僕は教師で君が生徒なのだから、香林ではなく森近先生ないし霖之助先生と呼ぶこと」

「そう固いこと言うなよ。私とお前の仲じゃないか」

「だからこそだ、親しき仲にも礼儀あり。公私はしっかりと分けねばならない」

「因みに今日の昼飯は?」

「…………まだ用意していない」

 

フーっと(何だか楽しそうに)それみたことかと言いたげにため息を付く魔理沙。そしてそれをムスッとした顔で受け止めた霖之助はメガネを押し戻しながら反論をする。

 

「別に君が危惧した通りに僕が食事を摂るきがなかった訳ではない。ただ直前まで雑務をこなしていた為に準備が遅れた訳であって――――」

「はいはいわかってるよ。それじゃあこれが今日のお弁当でこれが飲み物な。ちゃんと残さず食べろよ~」

 

霖之助の話など始めから聞く気がないと言った態度で魔理沙は淡々と弁当箱と水筒を机に置いて、スタスタと出口へと進んでいく。

 

「あ、おい魔理―――――」

「公私はしっかりと、だろ? 霖之助せーんせ☆」

 

慌てて呼び止めようと立ち上がったする霖之助に対し、魔理沙は悪戯が成功した子供のような楽しそうな笑みを浮かべて退出していった。

 

「……やれやれだ」

 

諦めて席に着き、可愛らしく包装された弁当箱を取り出す。蓋を開けると、中には色合いを意識された綺麗なおかず、軽くごま塩が振られたご飯が入っていた。

手を合わせ、いただきますと呟き手をつける。

豚肉は夏バテ対策なのか生姜焼きになっており、少し強めの味付けがご飯に合って美味しい。

彩りや栄養バランスを意識して付けられたサラダ、小さな醤油差しに入れられた彼女特性ドレッシングが野菜の旨味を引き出していて、残すことなぞ考えずに食べられる。

漬物があっさりとしており、口の中に広まった生姜焼きの味や匂いをスッキリとさせてくれる。

水筒に入れられたお茶をすする。魔法瓶に入れられており、熱々のお茶から香しい匂いが広まる。夏の暑い日に熱いお茶は……と思うかもしれないが、これが食後にはよく合う。冷たいお茶の何倍も。

そうして何だかんだで、いつも通りに箸が止まらず全て平らげてしまった。

 

「……困ったものだ」

 

ボソリと、誰にも聞こえない程度の声で小さく呟いた。

 

「あらあら、あんなに可愛い娘から毎日美味しい手作り弁当貰って何が困るのかしら? あ、もしかして私からのを待ち望んでいたのかしら? ごめんなさいねー、気付かなくて」

「それについては天地の境界があやふやになっても有り得ないので、気にしないでいい」

 

声が聞こえると同時に背中に柔らかな感触と体温を感じ、気付けば後ろから抱きしめられている状態になっていた。

 

「二ヶ月振りに出勤したと思ったら、初めに言うことがそれかい? 君はもう少し生徒達と一緒に常識を習う事をお薦めするよ」

「あら、それなら大丈夫ですわ。わかってやっていますから」

 

ニッコリと、先程の魔理沙とは真逆の相手を陥れて怪しげな笑顔で、学校長である八雲紫は応える。

この普段から人を小馬鹿にした様な態度、必要とする時は影も捕まらないのに来て欲しくない時にはその気配もつかませない様に登場する。そんな彼女を、霖之助は学園一嫌っていると自負していた。

そしてそれを知ってか知らずか(間違いなく前者であるが)、よく霖之助にちょっかいを出している。それがまた霖之助の紫嫌いを助長させているのだった。

 

「あぁ~!! 紫様ぁ!」

 

等と思っていたら、唐突に怒号が職員室に響く。副校長である八雲藍にその名を呼ばれて、紫はニッコリと笑って霖之助に引っ付いたまま、藍にヒラヒラと手を降った。

 

「戻ってきた時は私に一声かけて下さいとあれほど……!! それなにまた!!」

 

ズンズンと音を立てる様な勢いで紫へと近づき、霖之助を凄い形相で睨みつける。どういう訳だか、彼女は霖之助が紫を誑かしていると勘違いしているらしく、こうして紫がちょっかい出してる時に遭遇すると、敵意がこもりまくった眼で射ぬかれる。

もちろん濡れ衣であるため、これも霖之助が紫を嫌っている要因の一つである。

 

「あらあら、どうしたの藍ってばそんなに怒っちゃって。美人が台無しよ?」

「余計なお世話です! それよりも執務が溜まっていますので速く校長室に行って作業をして下さい!」

「え~、私ようやく帰ってきたのよ~? もう少し休んだっていいじゃない……」

「行けません! 今回だって溜め込んだまま出発したんですから、さっさと消化して下さい!」

 

ズルズルと引きずられていく八雲紫を見て、霖之助はまた一つため息をついた。

これで何度目になるのだろうか? ただ仕事がしたくなくて不貞腐れて休んでいると巫山戯た理由を発表していたくせに、彼女は『ようやく帰ってきた』と言った。また誰にも何も言わず、人知れず学園の為に他の誰にも出来ない裏方仕事をして、そして何食わぬ顔で帰ってきたのだ。

 

「……まったく、だから嫌いなんだ」

 

弁当と水筒を片付けて、机の上に広がる仕事に取り掛かる。せめて他の誰かが出来る雑務が、彼女の元へ行かないようにと。

 

 

 

※ 5限目 道徳

 

 

「―――――そうして、彼はその直前まで自分が行っていた行動を客観的に見ることができ、それ以降はそのことを行いませんでした。」

 

昼食明けの眠くなる時間帯、授業中に眠りこける生徒が最も多い時間帯に、この授業は始まった。

真面目に授業を受けている生徒はごく一部で、大半の生徒は誘惑に勝てずに倒れ伏し、船を漕ぎ、覚醒と睡眠を繰り返していた。

だが、それも無理は無い。昼食後で胃に血液が溜まり頭が働かない状態、それに加えて現在授業をしている教師は堅物……それもこの学園で一番の堅物だと言われている四季映姫の授業だったのだ。

 

「―――――そう、こうして自分が犯した罪を自覚して今後の人生に活かす、それが彼に出来る善行だったのです」

 

生徒を置いてけぼりにする上白沢慧音の授業とはまた違って、彼女の授業は生徒が自分の授業内容を理解して共感してくれていることを前提としたものだった。

故に、一人で勝手に話して勝手に納得して勝手に進めていく授業が理解出来るはずがなく、生徒達は授業を録に聞いていない。あまりに生徒達に常識がなっていないと言われて導入されたこの授業だが、生徒のやる気と教師の間違った方向に力が入った授業のおかげで、まったく効果がなかった。

 

「ん…………げへへ、もうお腹いっぱいだよ~」

 

そんな教室に不意に響いた、大きくて間抜けな寝言―――――

ピタリと、四季映姫の熱弁がその勢いを止め、ゆっくりと首を動かして先程の声が聞こえた方を向く。

真ん中の列の後方に位置する席、そこで霊烏路空は幸せそうな笑顔を浮かべて眠っていた。お約束のように、ノートの上にはヨダレが垂れている。

カツカツとヒールの音を立てながら近づき、お空の前に立つとコホンと咳払いを一つして

 

「ふぅん!」

「ぷぎゅわぁ!」

 

広辞苑を思い切り振り下ろされて、潰れたカエルみたいな声を出すお空。

お空の脳内は幸せな夢の世界から一転、強烈な痛みと目の前に修羅の如き眼力でこちらを睨む教師という、素敵な悪夢へと転落した。

 

「うにゅ……痛いよ」

「痛いよ、じゃありません!私が教鞭を振るっていると言うのに、貴方は一体何をしているんですかぁ!」

「お昼寝!だってご飯食べた後は眠いんだもの!」

「~~~~~~~~~ッ!!」

 

嘘偽りの無い、見事なまでに欲望に忠実な返答に、頭を抱えて声にならない叫びを上げる映姫。

彼女にも当然未熟な時があった。一生徒として教師から学んだり、授業中に睡魔に負けてしまったり、友人と一緒に悪巫山戯に興じたり……青春と呼べる時期があった。

 

「だからこそ多少の事には目を瞑っておこうと思っていたのに……それなのに貴方と来たら! いくら何でも欲望に忠実過ぎです!! いいですか? 貴方はもっと……くどくどくどくど」

 

火がついてしまい、今が授業中と言うことを忘れて説教を始める映姫。

授業中に大きな寝言をあげたお空が悪いのだが、流石にここまで来ると同情してしまい、苦笑いを浮かべて見守る生徒が多かった。霊夢と魔理沙はちゃっかり眠っていた。

 

「私の若い頃は……くどくど……そもそも当時もあの人は変わらず……くどくど……」

 

数十分後、授業終了のチャイムが鳴り響くなか、それに気付かずに依然としてお空に説教を続ける四季映姫教諭。流石にこのままではマズイと感じた生徒達が、映姫に授業が終わった旨を伝えて開放させた。

開放させたお空は、今にも泣き崩れそうな顔から破顔へと変えた。因みに霊夢と魔理沙はそのタイミングで漸く起きた。

 

「私としたことが、時間を失念してしまうとは……今日の授業はこれ終わりです。次の授業へとりかかって下さい」

 

急々と教室を出て、次の授業の準備をしに向かう映姫。生徒達はため息をついてホッとしたり、次の授業の準備を急いで取り掛かったりと様々だった。

長時間の説教から解放されたお空は、隣の席の火焔猫燐の腹部に顔を埋めて頭を撫でて貰っていた。霊夢と魔理沙は背を伸ばして眠気を吹き飛ばしていた。お燐に頭を叩かれた。

 

 

 

 

※ 6限目 体育

 

 

夏、亜熱帯である日本が本気を出して温度と湿度を出す季節。人々は涼を求めて様々な行動をとった。その内の一つが誰でも簡単に出来る水浴びであり、現在でもその行為は引き継がれている。

 

「はいはい、準備体操はしっかりとねー」

 

緑色の競泳水着を着た体育教師、紅美鈴がまとまりのない生徒達に指示を飛ばす。腕を組んだ時に盛り上がって強調された胸に一部の生徒から嫉妬と怨嗟の視線が向けられているが、彼女は気づいていない。

因みに、生徒達が着用している水着は統一されておらず、旧型のスクール水着を着る者や競泳水着を着る者、ワンピースタイプの水着を着る者と様々であった。

制服と同じく特に指定の物が無いため、ビキニ等の派手なもので無ければ好きなモノを着て良いことになっている。

 

「それじゃあ今日は、時間まで自由に泳いでいいことにします。各自しっかりと準備運動をしてから泳ぐこと」

 

前回までの授業内容が泳法や時間測定等といった競泳を意識した形式だったので、今回は小休止の意味も込めて自由時間となった。

嬉々としてプールに飛び込み泳ぐ者、気だるそうにプールサイドに座り込む者、友人の手足を掴んで放り投げる者……様々だった。

 

「それで、どうして貴方達が此処に居るんですか?」

「あら、別に教員が利用してはいけないなんて規則は無いわよ?」

「…………暑くて溶けそうなんです」

「……ハァ」

 

当然の如くプールに浸かって涼をとる八雲紫と、体をプカプカ浮かべて熱から我が身を守るチルノを見て、美鈴は思わず嘆息する。

こうやって時間が開いてる教師がプールを利用する事は、別段珍しいことではない。生徒達が夏のプールを楽しみにしているように、教師にもそういった者が多い。そして校長がコレのため、当然の様に教員が自由に使えるようになってしまっている。

常識人である美鈴からすれば、真似する生徒が出てくるかもしれないし、何より紫は普段の雑務をサボっているのだからちゃんと仕事をして欲しいのである。

そんな美鈴の望みはあえて無視して、紫は水泳に興じる生徒達をジッと見つめる。

水を吸収して縮み、体のラインを強調する水着。濡れた髪を掻き上げるその仕草と、垣間見えるうなじ。食い込みを直すために、指で引っ張って直す光景。それらを見逃さずジッと見つめ―――――

 

「……イイ。やっぱりうら若き乙女たちの痴態は最高よね」

「あ、もしもし藍さん? はい、そうですプールです、お願いします」

 

生徒の貞操の危機を感じたのと、もう相手にするのがめんどくさかったので、備え付けの内線電話で職員室に居る八雲藍に引取りを要請した。

通報から約2分後、息も切れ切れな藍が首根っこを掴んで、必死に紫を回収していったりしている間に授業は終わっていた。因みにチルノはまだ水面に浮かんだままだった。

 

 

 

「…………………………はぁ」

 

他の生徒達とは違って、博麗霊夢はプールの時間……厳密に言えばプール終了後のシャワー室に行くのが嫌いである。

 

「あら、まだシャワー浴びてないの? ここ開いたから使うといいわ」

 

シャワーを浴びずに項垂れている霊夢に、今しがた浴び終えた咲夜が呼びかける。その呼びかけにピクリと顔を上げ、目の前の姿を凝視する。

小さくなく、そして大き過ぎない胸。シュッとした魅力的なクビレ。カモシカのような綺麗な脚。無駄な肉がない体つき。精悍な顔つき……非の打ち所が無いプロポーションである。

 

「……今程あんたに殺意を抱いたことは無いわ」

「? 何かしら藪から棒に」

「うぉーい、何だかここから不穏な空気を感じるんですけど、何かあったんですか?」

 

パルパルと咲夜に殺意てんこ盛りの視線を浴びせていると、何かを感じ取った美鈴がタオルで頭を拭きながら現れた。

服の上からでも自己主張していた二つの果実が、その束縛が解けられた事によってより強くその存在を主張している胸。幼さの残る親しみ易い顔。引き締まった無駄のない筋肉で覆われた体は、咲夜とはまた違う美しさを感じる。

 

「ああ、先生……どうしてその格好で出てきたんですかねぇ? おかげで私の敵意が当社比3倍ですよ」

「シャワー浴びてたからなんだけど、どうしてこんなことになってるの?」

「いえ、私もわからないのですが……」

 

宣言通り、先程までより強い嫉妬を込めた視線を二人に向ける霊夢。普段は常識人や気配りの出来る人で通じている二人ではあるが、二人共変な所で天然なので気付けずにいた。

 

「ん? お前らこんな所で固まって何をしてるんだ?」

 

咲夜と美鈴が首を傾げながら霊夢からの呪いの視線を受けていると、後ろから第三者の、霧雨魔理沙の声がかけられた。

陶器の様な白く、お餅みたいに柔らかそうな肌。幼い純粋な少女を思わせる、透き通った瞳。そして、起伏が乏しい体。

 

「ああ、魔理沙ぁ……やっぱり貴方は私の心の友だわ」

「…………いきなり何分けわかんない事言って抱きついて来てんだこいつ」

 

魔理沙の容姿(主に胸部)を確認して安心した霊夢は、感極まって涙目で魔理沙に抱きついてしまった。魔理沙は訳がわからず隣に居た二人に視線を投げかけるが、二人共首を降っていた。

 

「ったく、何があったのかは知らないけど、私も速く着替えたいから……霊夢?」

「…………………………………………」

 

霊夢に離れてくれと催促しようとした魔理沙だったが、突然霊夢が離れた事に驚いた。霊夢は何故か魔理沙の肩を掴んだままワナワナと震え、顔を真っ青にして俯いていた。

 

「お、おいどうしたんだ霊夢? 顔色が悪いぜ?」

「おや、どうしたの霊夢さん? どこか調子悪いですか?」

 

突然の霊夢の変化に驚き、顔を近づけて様態を見る魔理沙と美鈴。咲夜は先ほどと変わらぬ位置で、未だに首を傾けていた。

 

「そだ……る」

「どうして霊夢? どこか悪いのか?」

「前よりもや……かくなって……」

「大丈夫ですか霊夢さん、辛いなら保健室まで運びましょうか……?」

 

下を向いてボソボソと独り言を呟く霊夢を見て、これは普通では無いと思った二人は親身になって霊夢の様態を心配し始めた。

すると、突如顔をグワッと上げた霊夢は

 

「う……裏切り者おおおおおお~!!」

 

泣きながら走り去って行った。

 

「……なんだったんだ? 今のは」

「……さあ、なんだったのでしょうか?」

 

霊夢の豹変ぶりについていけず、互いに首を傾げ合う二人だった。因みに、咲夜はもう着替え終わって髪を乾かしていた。

 

 

 

※ 放課後

 

 

「ん~~……漸く今日の授業も終わったーい! さっさと帰るとしようぜ」

「私はまだ部活があるから帰れませんがね……」

 

開放感を大きく味わい、元気満タンで帰り支度をする魔理沙と、隣でそれを聞きながら苦笑いを浮かべる妖夢。

授業が全て終わったため、急々と帰り支度を進める者、集団で下校しようとするもの、教室に残ってお喋りを続ける者、部活動に勤しむ者、図書館等の施設を利用しに行く者……様々だった。

 

「私は……どうしようかしら。レミリアさん達は今日はパチュリー先生の所に遊びに行くから来なくて良いと言っていたし……」

「それなら例のカフェに行きませんか? 最近出来たっていうチャレンジ巨大パフェがあるっていう」

「嫌よ、あそこ日本茶ないじゃない」

 

ありふれた学生らしい会話を交わしながら、四人は揃って帰り道を歩く。

 

「と言うか、今はカフェより試験対策をするべきじゃないのかしら?」

「硬いですねー、咲夜さんは。きょう日女子高生には飴と鞭がないと成長しないんですよー」

「アンタの場合、飴しかないんじゃないの?」

「ははは、そいつは言えてるぜ」

「……魔理沙さんには言われたくないです」

 

咲夜がクスリと笑うと、ツラレて霊夢と早苗も笑った。笑われた魔理沙はちぇ~っと足元に転がっていた小石を蹴飛ばして悪態をついた。

 

「仕方ない。今日はこのままスーパーに寄り道して、明日の弁当のオカズと甘いものでも買うとするか」

「……此処まで普通にされると、逆に清々しいわね」

「なんだよ、別にお前だって甘いものの一つや二つ買うだろ?」

「そういう事じゃないと思うんですけれど……」

「はぅ……良いですねぇ、青春。私も経験してみたいものです」

 

未だに意味がわからず頭にクエスチョンマークを浮かべている魔理沙を霊夢は飽きれ、咲夜は苦笑いを浮かべ、早苗は何だかテンションを上げて、魔理沙はよくわからないが馬鹿にされていることだけは感じ取って、不機嫌になりながら帰っていった。

こうして、今日もまた何気ない学生生活が終わった。

 

 

 

 

 


 
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