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佐天「ベクトルを操る能力?」第五章

SSSさん

五章『Is it over?(それぞれの戦い)』

2011-08-17 22:48:57 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:6150   閲覧ユーザー数:6084

佐天「う……」

 

 

目を覚ますと、そこには見覚えのない天井があった。

窓からは光が差し込み、白い部屋を一層白く見せている。

既に昼を回っているようだ。

ここはどこだろう?

 

 

佐天「ええと……」

 

完全反射「あ、起きた?」

 

 

声のした方に視線を向けると『私』がいた。

いや、違う。

この子は私のクローン。

名前は完全反射(フルコーティング)だっただろうか?

ぼんやりとする頭を一生懸命働かせる。

 

 

佐天「ここは……」

 

完全反射「病院だよ。第7学区の」

 

佐天「―――っ!!」

 

 

その瞬間、思い出した。

悪夢を見ていたこと。

目が覚めると、一方通行さんが目の前にいたこと。

そして、一方通行さんが血を流しながら倒れたことを。

 

 

佐天「あ、一方通行さんは!?」

 

 

顔を真っ青にしながら、傍らにいる少女に問いかける。

しかし、少女は視線を逸らし答えない。

まるでそれが答えであるかというように。

 

 

佐天「そ、そんな……」

 

完全反射「私が駆けつけたときには、2人とも血まみれになって倒れてたから……」

 

 

応急処置はやったんだけど、と言葉を切る。

完全反射が黙ってしまったせいで、その部屋は静寂に包まれてしまった。

その静けさを打ち消すかのように、コンコンとドアがノックされた。

頭の中が真っ白になりかけた佐天だったが、それで我に返った。

 

 

佐天「あ……。ど、どーぞ……」

 

冥土返し「失礼するよ?」

 

 

入ってきたのは、いつぞやの件でお世話になったカエル顔の医者。

手に持ったカルテの角で額を掻きながら部屋に入ってきた。

部屋の空気などお構いなしのようだ。

 

 

冥土返し「調子はどうだい?」

 

佐天「あ……。多分、大丈夫です……」

 

冥土返し「元気がなさそうだけど本当に大丈夫かい?」

 

 

元気がないのは当たり前だ。

事実を確認するのが怖い。

怖い?

一方通行さんが死んだことが?

それとも、私が一方通行さんを殺したことが?

分からない。

今、自分の心の中を覗けたら、きっとそこは混沌で渦巻いているに違いない。

 

 

佐天「だ、大丈夫です……」

 

 

それでも、精一杯虚勢を張って答えた。

それが通じたかどうかは分からないが。

 

 

冥土返し「そうかい? それじゃ、君の状態について簡単に結論から言わせてもらうよ」

 

 

幸いというかなんというか、カエル顔の医者はそれ以上の追求をしてこなかった。

はい、お願いしますと続きを促す。

 

 

冥土返し「昨日は意識が戻らなかったから入院してもらったが、かすり傷以外は特に問題ないね。脳波にも異常は見られないよ」

 

佐天「そうですか……」

 

冥土返し「あまりうれしそうじゃないね?」

 

 

今は自分のことよりも一方通行さんのことが気に掛かってしまっている。

それを差し置いて、自分だけ能天気にうれしがることなどできない。

そんな佐天を見ていられなかったのか、完全反射が代わりにカエル顔の医者に問いかけた。

もちろん、内容は一方通行についてだ。

 

 

完全反射「……第一位はどうなりました?」

 

冥土返し「気になってるだろうと思ってね。それを伝えに来たのさ」

 

佐天「……」

 

冥土返し「もうそろそろ目を覚ますころだと思うよ」

 

佐天「え?」

 

 

それはまったく予期していない答えだった。

佐天が気絶した時点で相当の血の量が流れていた。

この子がどれくらいで駆けつけたかはわからないが、病院に着くまでには死んでいてもおかしくない。

そんな状態だった人間がもうすぐ目を覚ます?

気休めで言っているのだろうか?

 

 

完全反射「ほ、本当ですか?」

 

冥土返し「やれやれ。君たちは良く分かっていないようだから言っておくけどね?」

 

佐天「な、何をですか?」

 

 

冥土返し「生きてこの病院に入った以上、死ぬわけがないだろう?」

 

 

佐天「あ、一方通行さぁぁぁあああああん!!!」

 

一方「うるせェ……」

 

冥土返し「君は行かなくていいのかい?」

 

完全反射「ここは水を差しちゃマズイ場面でしょ」

 

 

カエル顔の医者につれられて、少し離れた病室に入るとそこには上半身を起こした一方通行がいた。

首には白い包帯が巻かれているが、それ以外に外傷は見当たらなかった。

障害も起こっているようには見えない。

それとも、そう見えないだけで足が動かなくなっていたりするのだろうか?

 

 

一方「心配ねェよ。ちっと貧血で倒れただけだろォが」

 

完全反射「いやいや、貧血って量じゃなかったけど……」

 

佐天「で、でもそれなら何で……?」

 

 

急激な失血をすると、脈拍が弱くなり、血液の循環が止まりやすくなる。

3分間以上脳に血液が行かなくなると脳細胞の破壊が始まり、なんらかの障害が残る可能性が非常に高くなる。

確かそんなことを授業で聞いた気がする。

いや、障害の有無以前に、あの血の量なら失血死してもおかしくなかったはずだ。

 

 

冥土返し「応急処置が良かったんだろうね」

 

佐天「応急処置……ってこの子の?」

 

冥土返し「そうだね。初め見たときはビックリしたけどね?」

 

完全反射「ははは……」

 

一方「どンな応急処置してたンだよ……」

 

冥土返し「患部を擦っていたのさ。それもすごい勢いで」

 

 

一方・佐天「「はい?」」

 

 

一方「オイ。オマエ本当は殺そうとしてたンじゃねェよなァ?」

 

完全反射「ち、違うって! 私の能力のこと知ってるでしょ!?」

 

佐天「え? 能力って……」

 

 

完全反射の能力は、『反射』に特化したベクトル操作。

しかし、反射しか使えないという訳ではない。

わずかながらではあるが、ベクトル操作も可能。

その条件が、『自分で発生させた運動ベクトル』のみ操作可能というものらしい。

私は初耳だったけど。

 

 

完全反射「それで患部を撫でて、血液を循環させてたんだよ。おかげで手が血でベトベトになっちゃったけどそのくらいはね」

 

冥土返し「傷口は多少広がっていたけど、失血しすぎるよりは良かったね」

 

佐天「そ、そうですか」

 

 

そこでやっとホッと一息ついた。

かなり緊張していたものだから、思わず地面に座り込んでしまった。

なんとも情けない。

 

 

完全反射「だ、大丈夫?」

 

佐天「う、うん。……ってそういえば、なんでこの子がここにいるの!?」

 

完全反射「今更!?」

 

冥土返し「その辺りについては僕も聞かせてもらいたいね?」

 

一方「オマエは関係ねェンじゃねェのか?」

 

冥土返し「調整用の機材が必要になるかもしれないだろう?」

 

一方「……チッ」

 

 

一言で一方通行さんを丸め込んでしまった。

今更だけど、このお医者さんも相当スゴイ人なのかもしれない。

 

完全反射「―――ってところかな」

 

佐天「……」

 

 

私の記憶のない時間の経緯を聞いていたが、信じられないような内容だった。

私が一方通行さんと正面から戦っていた?

よくそれでかすり傷程度で済んだものである。

それに『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』は凄いものというイメージはあった。

けれど、私と一方通行さんを互角にするほど演算能力があるとは思わなかった。

 

 

一方「レベル5に達してたかもしンねェな」

 

佐天「ええっ!?」

 

完全反射「それが目的の1つだったみたいだし当然だね」

 

 

少しの時間とはいえ、レベル5の力を手にしていた……らしい。

実感は全くない。

少しくらいレベル5の世界のことを覚えていたかった気もする。

多少の対価なら……、

 

 

一方「どンな障害が起こるか分からねェンだぞ?」

 

佐天「や、やだなー。冗談ですって~」

 

 

考えを読まれてたっぽい。

そんなに顔に出てたかな?

気をつけなければ……。

あ、それと完全反射が敵ではなくなったそうだ。

理由は良く分からないけど、そういうことらしい。

住む場所とかどうするのだろうか?

ふと、カエル顔の医者の方に顔を向けると、妙に難しい顔をしているのに気づいた。

何か気になる点でもあるのだろうか?

 

 

冥土返し「……君は早急に身体を調整する必要がある」

 

 

腕組みをしながらそうつぶやく。

彼の頭の中では、調整に必要なものが取捨選択されている最中なのだ。

妹達と同じ調整器具で大丈夫なのか、といった疑問を次々と頭の中で処理している。

 

 

完全反射「ま、元々試作品ってことだし、あんまり丁寧には作られてないからねぇ」

 

 

自嘲気味に首を振る。

クローンは総じて寿命が短い。

その程度の知識はあったので、私は思わず黙り込んでしまった。

こういうときなんと言えばいいのか分からない。

 

 

冥土返し「彼と少し話したら調整を始めるから、彼女の病室で待っていてくれ」

 

完全反射「は~い」

 

佐天「えと、私は……」

 

冥土返し「君もまだ本調子じゃないだろう? 少し休んでいなさい」

 

佐天「わ、分かりました」

 

完全反射「よし。じゃ行こっ、お姉ちゃん!」

 

佐天「え!? お、お姉ちゃん!?」

 

完全反射「『お姉様』って言われるのヤなんでしょ~?」

 

 

お姉ちゃんって呼ばれるのもむず痒い気もするけど……。

そんな風にして、一方通行さんの病室を後にした。

 

冥土返し「あの様子なら、2人は大丈夫そうだね?」

 

一方「……そォみてェだな」

 

 

ドアを閉めても、わずかながら佐天と完全反射の声が聞こえてくる。

あれだけムダに元気なら、後遺症の心配もいらないだろう。

 

 

冥土返し「君はしばらく安静にしているんだよ? まだ完治している訳じゃないんだ」

 

一方「分かってる」

 

 

激しい運動はできないだろうが、それでも日常生活には問題ないとのことだ。

どちらにしろ、日常的に杖を突いている身としては激しい運動などできない。

かといって、能力を使っていれば、激しい運動をしても問題ないだろう。

 

 

冥土返し「退院は今日中にしてしまうかい?」

 

一方「……そォだな。打ち止めも心配してるだろォしな」

 

冥土返し「ふむ。それにしても、彼女たちは元気だね?」

 

 

ドアの向こうからは未だに2人の声が響いている。

その場で話し込んでいるようだ。

「お姉ちゃん」や「コーちゃん」といった言葉がかすかに聞き取れた。

まったく平和なものである。

 

 

一方「まだ、何も終わってねェっていうのに……」

 

 

その独白は白い病室に吸い込まれていった。

 

 

御坂「おっ邪魔しまーす」

 

白井「あら、お姉様」

 

初春「御坂さん、こんちにはー」

 

 

御坂美琴、白井黒子、初春飾利の3人は風紀委員(ジャッジメント)第177支部にいた。

土曜の午後は授業も特に入っていないため、支部に集まるのが習慣になりつつあった。

だが、そこには欠けている顔が1つ。

佐天涙子がここ数日顔を出していなかった。

 

 

御坂「また佐天さん来てないけど、何かあったのかしら?」

 

白井「そういえば、そうですわね」

 

 

今までにも、顔をあわせない日が長く続いたこともあった。

しかし、そのときには、なんらかの用事が入っているなどの連絡が届いていたのだが今回は違った。

御坂が最後に佐天に会ったのは、公園で能力の話をした時だ。

あれから何の連絡も受けていなくては、心配になるのも当然だ。

まさか、またレベルアッパー事件のときのように何かに巻き込まれたのだろうか?

そんな空気が御坂と白井の間に流れる。

 

 

初春「あれ? お2人には話してませんでしたっけ?」

 

 

と思ったのだが違ったようだ。

ただ単に、初春が伝え忘れていたというだけの話らしい。

怪我?

病気?

それとも、旅行?

御坂は、長い間顔を出せないような原因を浮かべていく。

初春の顔から察するに深刻そうなものではない。

とすると、旅行あたりが妥当だろうか?

 

 

初春「第一位から直々に能力開発をしてもらっているそうですよ」

 

白井「あらまあ。そうでしたの?」

 

御坂「―――っ!?」

 

 

その一言は、白井や初春にとっては、何でもない一言だった。

だが、御坂美琴にとって、第一位、『一方通行』という名前には特別な意味が存在する。

“虐殺者”

そう呼ぶのが妥当か。

絶対能力進化計画で、“妹達”と呼ばれる御坂美琴のクローンを1万人以上も殺害してきた悪魔。

忘れがたい悪夢を見せ付けられた男なのだ。

 

 

御坂「な……。なん―――」

 

 

どうして?

いつから?

疑問が溢れてくるのに、うまく言葉が繋がらない。

 

 

初春「それで学校の代わりにそっちに行ってるんですよ」

 

白井「確かに第一位の方から直々に教われば、成長も早いかもしれませんわね」

 

 

そうだ。

佐天はあの一方通行と同じ能力を持っている。

それだけで目を付けられてもおかしくない。

 

 

御坂「う、初春さん! 佐天さんが今どこにいるか分かる!?」

 

白井「お、お姉様?」

 

初春「え、えーと。め、メールで聞いてみましょうか」

 

 

どうしてもっと早く気が付かなかったのだろうか?

初めて能力を聞いたときから、もっと警戒しておくべきだったのだ。

一方通行という存在に。

 

 

白井「大丈夫ですの、お姉様? 顔色が悪いですわよ?」

 

御坂「大丈夫……、大丈夫よ」

 

 

口ではそう言っているが、到底大丈夫には見えない。

御坂は顔面蒼白になって、今にも倒れそうな勢いだ。

メールを待つ時間が果てしなく長く感じる。

 

 

初春「あ、返ってきました」

 

御坂「―――っ!!」

 

 

その瞬間、正直なところ御坂はホッとしていた。

メールに返信できるような状態ならば、まだ大事には巻き込まれてはいない。

まだ無事である可能性は高いのだ。

それに、よく考えてみればおかしいことだらけだ。

あの“一方通行”が佐天の能力開発をすると言うはずがないではないか。

佐天を危険視しているなら、正面から手を打ってくるはずだ。

何しろ、あの男は学園都市の第一位。

わざわざ小細工をする必要性など皆無なのだから。

そうなってくると、佐天に手を出してきたのは、一方通行と同じ能力ということで目をつけてきた研究者かその辺りだろう。

危険度でいえば、格段に一方通行に劣る。

今現在も無事ならば、保護する手立てはいくらでもあるだろう。

―――だが、そんな御坂の予想は裏切られた。

 

 

初春「……え? 入院?」

 

御坂「え?」

 

 

そうだ。

何を甘いことを考えている。

相手は、2万人のクローンを生み出して虐殺させるような研究者かもしれないのだ。

もはや一刻の猶予もない。

 

 

御坂「きっとあの病院よ! 早く行きましょ!」

 

初春「は、はいっ!」

 

 

その頃、佐天はというと、

 

 

佐天「お姉ちゃん……。お姉ちゃんか……」

 

完全反射「悪くないでしょ?」

 

 

その“虐殺者”である一方通行に病室を追い出され、自分の病室に戻ろうとしているところだった。

御坂が懸念しているような事態にはなっていなかった。

いや、既に終わってしまったというべきだろうか?

 

 

佐天「ま、それでいっか」

 

 

『お姉様』と呼ばれるよりは、断然『お姉ちゃん』の方がいいが、まだしっくりこない。

しっくりこないのは、呼称がではなく、突然自分とそっくりな妹ができたことに関してかもしれないが。

 

 

完全反射「うんうん。よろしくね、お姉ちゃ~ん」

 

佐天「う……」

 

 

にっこり微笑まれるが、なんとも奇妙な感覚だ。

この鏡を見ているような違和感だけは取り除けないかもしれない。

なんか恥ずかしい。

 

 

佐天「そ、それじゃあ、私はなんて呼ぼうかな~」

 

完全反射「え?」

 

佐天「ほら、完全反射(フルコーティング)ってちょっと長いじゃん?」

 

完全反射「確かにねぇ」

 

 

それになんか固いし。

これから仲良くやっていこうというのだから、もっと親しみを込めた愛称にするべきだろう。

 

結局、『フーみん』と『コーちゃん』でコーちゃんに決定した。

 

 

完全反射「コーちゃんねえ……」

 

佐天「うんうん。よろしく、コーちゃん」

 

完全反射「う……」

 

 

あれ?

まったく同じ反応をどこかで見た気がする。

……気のせいか。

 

 

完全反射「っと、あんまり廊下で騒ぐのもあれだし、病室に戻ろっか」

 

佐天「ん、そうだね」

 

完全反射「あれ? お姉ちゃん、携帯なってない?」

 

佐天「あ、本当だ」

 

 

本来なら病院は携帯などの電源を切っていなければならない。

けれど、この病棟ならば心配はいならない。

ここは携帯の使える病棟なのだ。

ファミレスに喫煙席と禁煙席があるように、病棟でも携帯OKなところとNGなところに分かれている。

というか、携帯がダメな病棟は常に圏外になるようになっているとか。

って、そんなことより携帯を確認しよう。

 

 

佐天「あれ? 初春から?」

 

―――――――――――――

From:初春

件名:最近

このごろ連絡もないですけど

どこにいるんですか?

御坂さんたちもすごく心配し

てますよ?

―――――――――――――

 

そういえば、一方通行さんのところにお世話になって以来、初春たちに連絡してなかったかも。

 

 

完全反射「友達?」

 

佐天「そ。初春って親友から」

 

完全反射「友達……かぁ」

 

 

さて、どう返信するべきか。

レベルがメキメキ上がったこととかは……、書かなくていっか。

会ったときに驚かせたいし。

となると、あんまり心配はかけたくないけど、ある程度正直に答えるべきだよね?

 

―――――――――――――

To:初春

件名:実はさー

ちょっとケガしちゃって入院

しちゃったんだよね。

ま、そんなに大きなケガじゃ

なかったから心配はいらない

よん♪

―――――――――――――

 

佐天「ん、こんなところでしょ」

 

 

送信っと。

これなら大騒ぎってことにもならないでしょ。

 

 

完全反射「ねえ、お姉ちゃん」

 

佐天「ん? 何?」

 

完全反射「私にも友達ってできるかな?」

 

佐天「え?」

 

 

そうだ。

コーちゃんは私のクローンなんだ。

初春たちに紹介してもいいものなのだろうか?

 

 

冥土帰し「まったく君たちは。病室で待っていてくれと言っただろう?」

 

佐天・完全反射「「あ」」

 

 

カエル顔のお医者さんが病室から出てきた。

一方通行さんとの話は終わったらしい。

そんなに長い間ここにいだのだろうか?

 

 

冥土帰し「まあいいけどね? 君は病室に戻っていなさい。最後に検査をして、異常がなければそのまま退院だ」

 

佐天「分かりました」

 

冥土帰し「それじゃ、完全反射くんは僕に着いて来てもらおうか?」

 

完全反射「は~い」

 

 

たしか調整をするって話だったはずだ。

一体どんな調整をするのだろう?

ちょっと想像ができない。

 

 

完全反射「じゃあ、まったね~。お姉ちゃん」

 

佐天「うん」

 

 

そう言って、コーちゃんはカエル顔のお医者さんの後について廊下を歩いていってしまった。

私も病室に戻ることにしよう。

……あれ?

そういえば、さっき初春に送ったメールの返信がまだない。

てっきり、初春のことだから、ケガを大げさに捉えた感じのメールが返ってくると思ったんだけど。

 

 

佐天「ま、いっか」

 

 

ほんのちょっとだけ寂しい気もするけどね。

 

でも、どうやら初春たちは私の想像以上のケガを負ったと思っていたらしい。

というのも、

 

 

御坂「佐天さん大丈夫!?」

 

初春「さ、佐天さん!!」

 

白井「お、お姉様!! もう少し落ち着いてくださいまし!!」

 

佐天「……はい?」

 

 

ベットに横になって数分もした頃。

廊下が騒がしいと思っていたら、その音がだんだんと近づいてきて、いきなりドアが開けられた。

そこに顔を向けると、御坂さん、白井さん、初春のいつもの顔ぶれがそろっていた。

この3人を見るのもいつぶりだろうか、などということを考えている暇もなかった。

いきなり激しい剣幕。

正直、テンションの差についていけない。

特に御坂さんの興奮ぶりはすごかった。

 

 

御坂「だ、大丈夫なの!? 入院って!!」

 

佐天「あー、えー? ど、どうしたんですか、御坂さん?」

 

御坂「どうしたもこうしたもないわよ!! 佐天さんが入院したって―――」

 

佐天「初春のメールには大したことないって書いたはずなんですけど」

 

御坂「え?」

 

白井「そうでしたの?」

 

初春「はい。その前に御坂さんが飛び出しちゃったので、お伝えする暇がなかったんですけど……」

 

御坂「な、なんだ……。良かった……」

 

 

そういえば、御坂さんは一方通行さんと……。

そう考えると、御坂さんがここまで取り乱すのも仕方ないのかもしれない。

すごく友達思いのいい人なのだ。

 

 

初春「それで、なんで入院なんてしたんですか?」

 

佐天「あ……。実は、階段から落ちちゃってさ」

 

 

なんとも古典的な言い訳。

しかし、他になんと言えばいいのだろう?

コーちゃんの話をする?

それとも、私が操られて一方通行さんと戦った話?

とてもではないが、言えるような話ではない。

ここは、怪しまれてもこれが一番無難な気がする。

 

 

白井「それはまあ災難でしたわねえ」

 

初春「佐天さんはおっちょこちょいですからね」

 

 

なるほど、初春は普段私のことをそう思ってる訳か。

これは後で、スカートをまくるというお返しをしなければなるまい。

しかし、うまく誤魔化せたので良しとしておこう。

 

 

御坂「……」

 

 

あ、御坂さんは信じてないっぽい。

くっ、なかなか手ごわい。

いや、御坂さんには真実を話してもいいかもしれない。

 

 

佐天(御坂さん。後でお話があります)

 

御坂(……分かったわ)

 

 

とりあえず、この場はこれでOK。

今の一言で、御坂さんも私がどんなことを知ったのかおおよそ把握できただろう。

となれば、久々に会ったのだから、検査の時間までゆっくりおしゃべりでもすることにしよう。

なるべく一方通行さんの話を避けて。

 

まあ、そんな意気込みも空しく終わった訳ですが。

え? なぜかって?

それは、

 

 

初春「それで、佐天さんは第一位にどんなこと教わったんですか?」

 

佐天「……ははは」

 

 

どうやら、初春は空気を読んでくれないらしい。

というか、この話題になることはある意味避けられなかった訳ですけどね。

どう説明したものだろうか?

 

 

御坂「そうね。私も聞かせてもらおうかしら」

 

白井「ですわね。一体どんなことを教わったのか聞きたいですの」

 

 

む?

御坂さんも聞きたいと?

そういうことなら断る理由もないけど。

 

 

佐天「ええとですね……」

 

初春「わー。楽しみですね」

 

白井「そうですわね」

 

御坂「……」

 

 

3人とも興味津々といった様子で耳を澄ませてくる。

御坂さんは、ちょっと他の2人とはベクトルが違いそうだけど。

それにしても、どこから説明したものか。

うーん……。

一応、順を追って最初の出会いから説明するべきかな?

うん。

そうしよう。

最後の辺りをうまくごまかせるように気をつけておけば大丈夫だろう。

 

佐天「―――って感じかな」

 

 

一方通行さんのところにお世話になって5日くらいまでのところを簡潔に説明してみた。

もちろんコーちゃんの話は省略してある。

御坂さんに説明するとしても、初春と白井さんにはどうするべきなんだろう?

ちなみに、話を聞いていた3人の反応はというと、

 

 

初春「れ、レベル2強ですか……」

 

白井「短時間ですごいですわねえ」

 

御坂「た、確かに……」

 

 

こんな感じだ。

さすがに驚いている。

でも、まだ甘い。

本人である私ほど驚いている人もいないだろうからね!

 

 

初春「ちょっと見せてもらってもいいですか?」

 

佐天「うん? いいよん♪」

 

 

2つ返事でOK。

精密検査受けてないけど、ちょっとくらい能力使っても大丈夫だよね?

ええと……。

 

 

佐天「あ、あれ?」

 

白井「どうかしたんですの?」

 

御坂「どうかしたの?」

 

 

お、おかしい。

試しにちょっと能力使っただけなのに……、

 

 

佐天「ひじまで反射できるようになってる!?」

 

 

手首くらいまでしか範囲のなかった反射が、いつの間にかひじの辺りまで使えるようになっている。

い、一体いつの間に……?

3人には見えてないから良く分かっていないようだ。

 

 

佐天「もしかして、後遺症?」

 

御坂「え?」

 

佐天「あっ!? い、いえ! なんでもないです!」

 

 

思い当たるのが、事件の影響くらいしかない。

といっても、その記憶はないんだけどさ。

なんだか、能力の発動もスムーズになっている気がするし。

 

 

初春「すごいです、佐天さん!」

 

白井「これが反射ですのね……」

 

佐天「で、でしょー?」

 

 

腕を突っついてくる初春と白井さん。

変に顔に出さないように気をつけないと。

突っ込まれても困るし。

というか、ボロがでないうちに帰ってもらった方がいいかも?

 

 

佐天「……あ! そ、そろそろ、検査の時間なんですよ!」

 

白井「? 階段から落ちただけで検査をしますの?」

 

 

うわ、墓穴った。

 

 

佐天「ちょ、ちょっと頭から落ちちゃいまして!」

 

初春「そ、それ大丈夫なんですか、佐天さん?」

 

逆に心配かけちゃったかも、と思ったときには後の祭り。

でも、なんとか説得には成功したみたいで、3人には帰ってもらった。

御坂さんは、初春と白井さんと別れた後にもう一度ここに来るそうだ。

 

 

佐天「しかし、コーちゃんのことはどう説明したものかなー……」

 

 

天井を見上げながら、ひとり言。

会わせないって選択肢もあるけど、それもなんだか嫌だ。

1人だけ仲間はずれにしているみたいで。

 

 

佐天「仕方ないのかな?」

 

御坂「お待たせ」

 

佐天「あ、御坂さん」

 

 

呟いたのと、御坂さんが病室に入ってきたのはほぼ同時。

この早さだと、病院の入り口辺りで引き返してきたのかもしれない。

正直、まだ心の準備ができてないんですけど。

 

 

佐天「え、ええっと……」

 

御坂「佐天さんはどこまで知ってるのかしら?」

 

 

どこから説明しようか迷っていると、御坂さんからそう聞いてきた。

単刀直入すぎはしない?

ちょ、ちょっと目が怖い……。

でも、どこまで知っているのかと聞かれたら、

 

 

佐天「……大体のことは聞きました」

 

御坂「―――っ!!」

 

 

予想はしていたのだろうけど、それでも御坂さんは動揺しているように見えた。

 

御坂「……そう。そこまで……」

 

佐天「はい……」

 

 

『絶対能力進化計画』と呼ばれる実験が行われたこと。

そのために御坂さんのクローンが2万体作られたこと。

そして、一方通行さんにその半数近く近く殺されたこと。

これは、ほぼ私の知っていることの全てだった。

私の話を聞いていた御坂さんの顔は、当然のように暗い。

こういうとき、どんな風に声をかければいいのか分からない。

どうするのが正解なのだろうか?

 

 

御坂「……佐天さん」

 

佐天「は、はいっ!」

 

 

悩んでいると、御坂さんから沈黙を破ってきた。

 

 

御坂「それを知っててなんでアイツなんかと一緒にいるの?」

 

佐天「……」

 

 

責め立てるような声色ではなかった。

どちらかというと、“怒り”や“恨み”といった感情よりも、“疑問”の念が強いのだろう。

もちろん、私としてもこの問いは想定していた。

だけど、明確な答えを出せた訳ではない。

確かに、私がこのことを知ったのはつい最近のことだ。

これを知った後も、一方通行さんに能力開発をしてもらっていたという訳ではない。

しかし、ここでそれを言っても始まらない。

だって、私はもう一方通行さんを怖がったり、恐れたりしていないのだ。

私が一方通行さんと仲良くすることは、御坂さんにとってみれば裏切りのように映るかもしれない。

何しろ自分に悪夢を見せた男と自分の友人が仲良くしているのだ。

御坂さんもどうしていいのか分からなくなるだろう。

だから、私は、正直に自分の気持ちを伝えることにした。

御坂さんの視点ではなく、『私』、佐天涙子の視点で。

 

 

佐天「御坂さん。1つ聞いてもいいですか?」

 

御坂「……何?」

 

佐天「絶対能力進化計画って中断されたんですよね? それって何でですか?」

 

御坂「え?」

 

 

こんなことを聞かれるのは予想外だったのだろう。

御坂さんは、かなりキョトンとした顔をしている。

こんなことを聞いたのも、私の話の前にまずは御坂さんの話を聞いておきたかったからだ。

どんなドラマがあって、『実験の凍結』という結末に至ったのか、私は知らない。

一方通行さんが心変わりしたのか、あるいは、なんらかのエラーが生じたのか。

それが、御坂さんの目ではどのように映っていたのか確認しておきたかった。

だが、

 

 

御坂「―――すけてくれたのよ」

 

佐天「……え?」

 

御坂「助けてくれたのよ。あのバカが一方通行を倒して」

 

 

その答えは、私の想像を超えていた。

御坂さんが言うには、学園都市最強の第一位を倒した人がいると言う。

たしかに一時期そんな噂が流れたこともあった。

それも、レベル0の無能力者が倒したなんて尾ひれが付いているくらいだから信用に値しない都市伝説だとも思っていた。

けれど、それが本当だった?

だとしたら……

 

 

御坂「樹形図の設計者はもうその時には壊れてたから、どこにエラーがあったかも分からず、そのまま実験は凍結ってことになったのよ」

 

佐天「……それじゃ、御坂さんはその『ヒーロー』さんに相当感謝してるんですよね?」

 

御坂「まあね。どうやって恩を返せばいいか分からないくらいにはね」

 

 

やっぱりだ。

やっぱり御坂さんも……。

 

 

御坂「……でも、それが佐天さんと一方通行が一緒にいるのに何か関係あるの?」

 

佐天「ありますよ。というか、最初に聞いて良かったです」

 

御坂「?」

 

 

眉を寄せる御坂さん。

確かに御坂さんにとって、その『ヒーロー』さんと一方通行さんは繋がりようがない。

けれど、私にとってはその事実が重要なのだ。

御坂さんが、誰かに助けられたという事実が。

 

 

佐天「御坂さんにはまだ話してなかったことがあるんですけど―――」

 

御坂「……うん」

 

佐天「実は、私が入院したのは階段から落ちた訳じゃないんですよね」

 

 

さすがに、もう気づいたいたとは思うけど。

だからと言って、何が起こっていたかは知らないはずだ。

何も言わない御坂さんに私は続ける。

 

 

佐天「実は、私、さらわれちゃってたみたいなんですよ」

 

御坂「……え?」

 

佐天「それを一方通行さんが助けてくれたんです」

 

 

だから、

 

 

 

佐天「御坂さんにとって、実験を止めてくれた人が『ヒーロー』なら、私にとっての『ヒーロー』は一方通行さんなんですよ」

 

 

 

それが私なりの答え。

 

 

 

御坂「え?」

 

 

さらわれた挙句に洗脳され、目が覚めたときには、目の前に血まみれの一方通行さんが立っていた。

危うく、私が一方通行さんを殺してしまうところだったのだ。

つまり、私が加害者で一方通行さんが被害者。

御坂さんの場合とまったく逆の立場。

そんな私の気持ちを御坂さんは理解してくれるだろうか?

 

 

佐天「もちろん本意じゃないですけど、一方通行さんを殺してしまうところでした」

 

御坂「あ……。な……」

 

佐天「覚えているのは、ずっと悪夢を見せられていて、目が覚めたら一方通行さんが目の前にいたってことなんですよ」

 

御坂「そんな……」

 

佐天「感謝しても、感謝しきれませんし、謝っても、謝りきれないと思うんです」

 

 

御坂さんの反応は薄い。

伏し目がちに私を見てくるだけで、肯定も否定もしなかった。

私は続ける。

 

 

佐天「たしかに、一方通行さんは、過去に酷いことをしてきたかもしれません」

 

御坂「……」

 

佐天「でも、今でも一方通行さんが同じような人間だとは限らないですよね?」

 

 

『今』の一方通行さんを御坂さんは知らない。

打ち止めちゃんや、番外個体さんを守っている一方通行さんを。

そして、あの人の中に宿る“優しさ”を。

 

 

佐天「許せとはいいませんけど、過去を悔いて、もう一度やり直そうとしている人を私は見捨てたりできません」

 

 

でなければ、私は、私を許せなくなる。

 

私は、レベルアッパーを使った。

能力にあこがれて、自分の努力を放棄して。

ズルはいけないと思った。

1人で使うのは怖かった。

だけど、それでも能力というものにあこがれた。

けれど待っていたのは、自分を信じていた人を裏切ってしまったという結果。

それを初春や御坂さん、白井さんは許してくれたのだ。

だから、私も人のことを許したい。

その人が、本気で更生したいと思っているならば。

たしかに、一方通行さんのやってきたこととは、私の場合とレベルが違うかもしれない。

御坂さんは優しいから自分のことを責めたのだろうし、相当苦しんだのだろう。

でも……。

でもそれは、一方通行さんも同じじゃない?

自分の過ちに苦しみ、過去を後悔し、苦しんだんじゃないだろうか?

でなければ、打ち止めちゃんや、番外個体さんを身近なところに置いておく理由が分からない。

それに、一方通行さんが昔から変わっていないならば、私を助けた理由も分からない。

命を張ってまで、私を助けようとした理由が。

だから、

 

 

 

佐天「私は、私なりに一方通行さんを信じてみたいんです!!」

 

 

 

人に価値観を押し付けられるのではなく、自分の見方で。

“過去”を見るのではなく、“今”を見て。

 

 

御坂「……」

 

 

相変わらず、御坂さんは微動だにしない。

こんな話を私の口からするには、酷だったかもしれない。

それでも、御坂さんは友達でいてくれるだろうか?

 

 

御坂「……佐天さん」

 

佐天「は、はいっ!!」

 

 

今の私は、被害者の家族に加害者を許せと言っているようなものだ。

けれど、そんなことはもちろん自覚している。

割り切って考えることはできないし、しようと思ってもできるものではない。

 

 

佐天「……」

 

御坂「……ゴメン」

 

佐天「え? あっ!?」

 

 

そう言うや否や、御坂さんは病室を飛び出していってしまった。

止める暇もない。

それだけ、さっきの言葉は御坂さんを苦しめてしまったのだろう。

御坂さんのことを考えている振りをして、自分のことばかり考えてしまっていた。

できれば、御坂さんと一方通行さんが仲直りしてくれればいいとも思った。

だけど、そんな未来は有り得ないのだろうか?

 

 

佐天「そんなのって……」

 

 

悲しい。

だって、そうなったら私は、一方通行さんか御坂さんのどちらかを選ばなければいけなくなってしまう。

2人とも、あんなにもいい人なのに。

もしそうなったら、私は果たして2人のうちのどちらかを選べるのだろうか?

今の私には、到底分からない問いかけだった。

 

 

御坂「はぁっ、はぁっ……」

 

 

御坂美琴は、佐天の病室から逃げ出した。

途中で看護士に止められるのも構わず、走り続けた。

自然に行き着いた場所は屋上。

まだ本格的な寒さがきていないとはいえ、11月の空気はひんやりとしていた。

でも、そのくらいでちょうどいい。

今の自分は少しヒートアップしすぎている。

 

 

御坂「……っふぅ」

 

 

大きな息を吐いて呼吸を整える。

すると、次第に思考能力が回復してきた。

同時に、今までの自分がどれだけ冷静でなかったかも理解できた。

 

―――逃げ出してしまった。

佐天と向き合うこともせずに。

理由は、彼女の一言が胸に突き刺さったから。

だが、それは佐天と一方通行が師弟関係にあるからという問題だけではない。

もっと単純なこと。

 

 

御坂「私は―――」

 

 

落下防止用の柵に手をかける。

そうでもしないと体がふらついてしまう。

様々な思いが顔を出しては、次々と色を変えていく。

“困惑”、“疑念”、“恨み”、“怒り”、……そして“後悔”。

御坂の頭の中は混乱していた。

ガチャリと背後で屋上のドアが開いたのも気が回らないくらいに。

だから、最初分からなかった。

 

 

「ざまァねェな、オリジナル」

 

 

その声が誰のものだったか。

 

 

御坂「―――っ!!」

 

 

一瞬の間をおいて、その声の主を思い出し振り返る。

雪のように白い髪。

鋭く光る赤い瞳。

どう見ても一般人には見えない威圧感。

忘れられるはずがない。

なぜなら、その男は御坂にとって見たくもなかった相手。

 

 

御坂「一方通行……」

 

 

屋上の入り口には、杖をついた一方通行が立っていた。

悪夢の発端である“虐殺者”の男が。

首に包帯を巻いていることと、杖を突いていることが以前と異なっている。

さきほどの佐天の言葉がフラッシュバックする。

 

 

佐天『一方通行さんを殺してしまうところでした』

 

 

一方通行がダメージを受けているところを見て、やっと実感できた。

“あの”一方通行を殺しかけた。

それがどういうことを意味しているかを。

御坂の背筋に冷たいものが走る。

 

 

一方「…………」

 

御坂「…………」

 

 

一方通行は、それ以上言葉をかけてはこない。

対する御坂は、沸騰しそうになる思考をなんとか押しとどめていた。

もっとも、いつ飛びかかるか分かったものではない。

屋上にいる2人の間に緊張が張り詰める。

そこがいつ戦場になってもおかしくなかった。

 

 

御坂「どういう意味か聞いてもいいかしら?」

 

 

先に沈黙をやぶったのは御坂だった。

感情を押し殺したような低い声が、彼女の口から漏れる。

怨念や憤怒といった感情が言葉からだけでも窺えるほどだ。

一方通行はというと、御坂ほど気構えている様子はない。

なんでもないような口ぶりで、こう続ける。

 

 

一方「どォいう意味も何も言葉の通りだろ」

 

 

一方通行の視線は、御坂美琴を捉えてはいなかった。

フェンス越しに、飛行船をぼんやりと眺めているようだ。

それが余裕のあらわれなのかどうなのかは分からない。

御坂美琴は、実験外の一方通行の素性をほとんど知らない。

それもそうだろう。

一方通行に出会うきっかけになったのが、あの実験だったのだから。

 

 

御坂「もしかして、おちょくってるのかしら?」

 

 

額に紫電が走る。

一方通行に電撃は通用しない。

それでも、この男にケンカを売られて買わない道理はない。

むしろ、こうして今も飛びかかっていないのが、不思議なくらいだ。

そんな御坂の反応にも関わらず、一方通行は続ける。

 

 

一方「目を逸らしてるンじゃねェよ」

 

御坂「なっ!?」

 

 

まるで、御坂美琴という人間を見抜いるかのように。

一方の彼女にしてみれば、頭をハンマーで殴られたような衝撃的な一言だった。

その一言は、まさに今の彼女の核心に関わるものだったのだから。

 

御坂の心の中に渦巻いていたもの。

それは、佐天が一方通行と接近しているということ……ではない。

その事実よりも御坂の心に深く突き刺さっていたのは、

 

 

佐天『実は、私、さらわれちゃってたみたいなんですよ』

 

 

という佐天の一言だった。

もちろん、そのことに御坂美琴はなんの責任もない。

御坂の知らないところで佐天が巻き込まれたのであり、その事件の阻止、あるいは解決を彼女に求めるのは筋違いだろう。

しかし、そうは考えられなかった。

『目を逸らしてしまった』

佐天涙子から。

つまり、一方通行と同じ能力から。

それがどれだけ危険な能力で、どんな事件に巻き込まれるかといったことは想定できたはずだ。

学園都市で、一方通行と佐天涙子の2人しかその能力を持っているものはいないということも聞いた。

にも関わらず、そこで考えるのを止めてしまった。

注意を促すこともしなかった。

それ以上、過去の記憶を思い出したくなかったから。

だから、病室からも逃げ出した。

結局、目を逸らした。

 

 

御坂「あ、アンタは……」

 

一方「…………」

 

 

相変わらず、一方通行は御坂と目を合わせようとしない。

それなのに、御坂はこの男に全て見透かされているような感覚を受けてしまう。

だが、それ以上にこの男の狙いが読めない。

何が目的なのか?

一体、佐天涙子に何を見出したのか?

それが分からない。

 

 

御坂「どうして―――」

 

冥土帰し「一方通行」

 

 

御坂の言葉を区切るように、カエル顔の医者が屋上のドアを開けてあわられた。

一瞬、御坂がいることに驚いたようだが、気を取り直すと一方通行にこう告げる。

 

 

冥土帰し「検査結果が出た。おおよそ、予想通りだったようだけどね?」

 

一方「そォか……」

 

 

ほんの一言、二言言葉を交わしただけで、会話が終わってしまった。

御坂には、何を話しているのか理解できない。

さきほど、佐天が検査をするといっていた。

それで悪い結果でもでてしまったのだろうか?

それほどまでに、時間が経過していたとでもいうのか?

 

 

一方「オリジナル」

 

御坂「…………あ」

 

一方「付いて来い」

 

 

それだけ言うと、一方通行は踵を返して出口へと向かう。

今の御坂の頭の中はぐちゃぐちゃだ。

自分でも正常な判断ができているとは思えないし、どうすればいいかも分からない。

そんな状況に追い込まれてしまっていた。

 

 

冥土帰し「いいのかい?」

 

一方「コイツに説明した方が、色々とやり易いからな」

 

御坂「…………」

 

 

大人しく御坂は一方通行の後に付いて行くことにした。

この男が自分に見せたいもの。

それは一体何なのだろうか?

その時点では、まったく想像もできなかったし、そんなことを考える余裕もなかった。

 

連れてこられたのは、とある病室。

といっても、普通の病室ではなかった。

異彩を放っているのは、病室の真ん中に置かれた巨大な機械。

御坂は、その機械に見覚えがあった。

 

 

御坂「これって……」

 

 

学習装置(テスタメント)

“妹達”の資料でしか見たことはないが、そう呼ばれている機械にそっくりだった。

これが一体どうしたというのだろうか?

 

 

冥土帰し「それじゃ開けるよ?」

 

「はーい」

 

御坂「え?」

 

 

そこに誰か入っていたらしい。

いや、それだけで驚いた訳ではない。

御坂はその声には聞き覚えがある。

 

 

「ふーっ。この中って意外と暑いねえ」

 

御坂「佐天……さん?」

 

「ん?」

 

 

そこにいたのは、佐天涙子だった。

なぜ彼女が、学習装置などに入っているのか?

その答えはすぐに分かった。

 

 

完全反射「あ、超電磁砲かぁ! 私は、完全反射。お姉ちゃん共々よろしくね♪」

 

 

ここに御坂の混乱は最高を極めた。

 

御坂が冷静さを取り戻すのには、多少の時間がかかった。

今日だけでも、かなりの問題が彼女に降って湧いたのだから仕方もない。

 

 

完全反射「―――ってところかな」

 

 

今回の事件のあらましを完全反射から聞いている間も、ほとんど口を開くことはなかった。

想像してすらいなかったことが、次々と出てくる。

原点超え(オーバーライン)。

樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)。

そして、完全反射(フルコーティング)。

佐天のここ数日が、どれほど凄まじいものだったかを示している。

『絶対能力進化計画』並みだったのかもしれない。

 

 

御坂「そうだったんだ……」

 

 

それにも関わらず、御坂は何も知らなかった。

佐天が一方通行に能力開発をしてもらっているということを知ったのも今日だったのだ。

自分が目を逸らしたせいでこうなってしまったと本気で思っていた。

 

 

御坂「ははは……。何やってるんだろ、私」

 

一方「…………」

 

 

一方通行は、屋上を出てから一言も話していない。

部屋に入った際に、カエル顔の医者から受け取ったデータをめくっているだけだ。

それでも、御坂の言葉は耳に入っているのだろう。

若干だが、苦々しい顔をしている。

 

 

御坂「……ありがとう」

 

 

その言葉はどこに、どんな意味で向けられたものだったのかは分からない。

だが、その言葉は確実に少年に届いていた。

 

御坂「今回はアンタに預けるわ」

 

 

感謝の意を告げると、妙にさっぱりとした表情で御坂がそう続けた。

決して一方通行に対する“恨み”や“怒り”が消え去った訳ではない。

もちろん、自分でこの問題を解決したいし、それによって佐天を救いたい。

だが、御坂自身が知っていることは少なすぎる。

だから、まずは自分なりに情報を集めるところから始めなければならない。

そうすることで、佐天の安全を確保できればいいが、今は、一方通行の近くにいるのが一番安全であるという結論を下した。

自分では万が一の場合守りきれない、と。

 

 

御坂「それじゃ私は行くから」

 

一方「……待て」

 

 

部屋を出て行こうとする御坂を一方通行が静止する。

これ以上何か伝えることがあるのだろうか?

 

 

一方「佐天は俺が預かっていいンだな?」

 

御坂「……その方が安全でしょ」

 

一方「どォだかな……」

 

 

相変わらず、顔を逸らしたまま苦々しい顔をしている。

一方通行には、未だに御坂に対する罪悪感が拭いきれていなかった。

目を合わせないのはそのためなのだろう。

 

 

御坂「佐天さんを守ってあげて欲しい。アンタならそのくらいの力はあるでしょ」

 

一方「……ンなもン答えるまでもねェな」

 

 

だから、はっきりと一方通行は御坂美琴に一言だけ告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方「断る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御坂「え?」

 

完全反射「へぇ……」

 

 

一瞬、耳を疑う。

さっきまでの流れなら、「任せろ」とか「あァ」なんて返事が返ってくると思っていた。

しかし、実際に帰ってきた言葉は、「断る」の一言だけ。

 

 

一方「ある程度戦えるよォにはしてやる。だが、俺も暇人じゃねェからな。そこから先はアイツ次第だ」

 

 

突き放すように告げる。

今回は、あくまでサービス。

準備が整っていなかったから助けただけ、とでも言うように。

 

 

御坂「そんなの―――」

 

一方「ンなもンいつまでも面倒を見切れる訳ねェだろ。守れなかったときに、オマエから責められるのはゴメンだしなァ」

 

 

今の彼には、守るべきものが多すぎる。

その全てを守りきれるかどうかは、彼にもわからないことなのだ。

それに、と前置きして一方通行は続ける。

 

 

一方「オマエの“友達”なンだろ。俺に頼るンじゃねェよ」

 

 

一方通行が苦々しい顔で放ったその一言に、御坂は何か感じるものがあった。

そうだ、自分は何を弱気になっているのだろうか?

それでも、学園都市が誇る超能力者の第3位か?

御坂は、心の奥に沸々と何かが燃えるものを感じていた。

ただし、それは屋上で一方通行に抱いたものとは意味合いが大きく異なる。

 

 

御坂「……そうね、そうだった。さっきのは忘れて」

 

 

それだけ言うと、御坂はその病室から立ち去ることにする。

結局、一方通行と御坂が視線を合わせることはなかった。

 

午後5時。

頭の精密検査を終える頃には、日も落ち始め、街灯に明かりがともり始める時間になっていた。

精密検査の結果はというと、まったくの異常なし。

人体に異常のあるレベルでの後遺症は見られないとのこと。

 

 

佐天「はぁ……」

 

 

そんな中、私はというと、病院のロビーで待ちぼうけをくらっているところだった。

一方通行さんと、コーちゃんの検査もすぐ終わるということで2人を待っているところなのだ。

夕方という時間帯もあり、病院にいる人は少ない。

面談の終了時間が近いということもあるのだろう。

ボーっとした頭で、病院を出て行く人を目で追いかける。

気分は果てしなくブルー。

数時間前に御坂さんに酷いことを言ってしまったからだ。

……これから私は、どうするべきなんだろう?

そんな問いが頭に浮かんでは、解決されずに消えていく。

もうずっとそんな感じだ。

ハムスターの滑車のようにくるくるくるくる回転しっぱなし。

こんなの私らしくないのは分かってるんだけど……。

 

 

佐天「どうすれば……」

 

完全反射「お姉ちゃーん」

 

 

声に反応して振り返ると、コーちゃんが近づいてくるのが分かった。

一方通行さんが一緒でないことを考えると、まだ時間が掛かっているのだろう。

コーちゃんは、きわめて明るい調子で私に近づいてきた。

 

 

完全反射「どうしたの? 何か悩み事?」

 

佐天「……うん。まあ、そんなところかな」

 

完全反射「相談にのろうか?」

 

 

同じ顔なのに対照的なテンション。

この悩みをコーちゃんに相談してもいいのかな?

 

 

完全反射「ま、学習装置で入力されたことくらいしか答えられないと思うけどね」

 

 

内容は決して軽くないはずなのに、サラッとそう告げるコーちゃん。

辛かったりはしないのだろうか?

そう思ったが、コーちゃんから力になってくれるって言ってくれたのだから断る理由もない。

そういう理由で断ってしまった方が、逆に傷つけてしまうかもしれないし。

 

 

佐天「……うん。実はね」

 

完全反射「うんうん」

 

 

いや、なんかこれは楽しんでる反応だ。

気を使ったのがバカみたいだ……。

 

 

佐天「実は、御坂さんに酷いこと言っちゃって」

 

完全反射「それって、『絶対能力進化計画』のこと?」

 

佐天「そ。一方通行さんのことをね……」

 

 

詳しい事情はコーちゃんも知っているので、そこから先は省いた。

それを察してくれたのか、「うーん」という可愛らしい声を出して唸っている。

こうして、相談できる相手がいるだけ私は幸せなのかもしれない。

御坂さんや一方通行さんには相談できないし、初春や白井さんなんてもっての他だ。

そうなると、自然にコーちゃんだけが頼りになる存在となる。

2人で考えれば、何かいい案も浮かんでくるかもしれないし……。

 

 

完全反射「さっき、超電磁砲と第一位が話してたけどそれは関係ある?」

 

佐天「な、なにぃ!?」

 

 

それは先に言っておいて欲しかった。

 

完全反射「お姉ちゃんをどう守るかって話だったっぽいんだけどね」

 

佐天「……ぁ」

 

 

御坂さんは、どうして一方通行さんと話をする気になったのか?

もしかして、私のせいだろうか?

私が、弱いせいで負担をかけてしまった?

憎い相手に会わせてしまった?

それじゃ私のしたことは……、

 

 

完全反射「お姉ちゃんが気にすることはないんじゃない?」

 

佐天「え?」

 

完全反射「超電磁砲が勝手に接触しただけでしょ? 結局、2人が会うことに変わりはなかったんだよ」

 

佐天「そうかもしれないけど……」

 

 

2人がどんな気持ちで会話したかなど、私が分かるはずもない。

分かるのは、2人とも辛かっただろうということだけ。

なぜなら、自分の暗い過去をまともに見なければならなかったから。

 

 

佐天「そ、それで、結局どういう話でまとまったの?」

 

完全反射「んー……。それぞれの方法でお姉ちゃんを守るって話でまとまった感じかな」

 

佐天「……そっか」

 

 

一方通行さんは、一方通行さんなりに。

御坂さんは、御坂さんなりに。

つまり、2人は手を結んだとは言えないまでも、同じ方向を進んでくれたのだ。

 

 

佐天「って、私を守るってどういうこと?」

 

完全反射「ハハハ……。それ今更言うこと?」

 

佐天「あ、もうこんな時間か」

 

完全反射「うわっ、もう真っ暗じゃん」

 

 

さらに詳しい話をしているうちに、時刻は午後6時をまわっていた。

事件はまだ解決していないということ。

そのために、一方通行さんと御坂さんが立ち上がってくれたことなどを聞いていたのだ。

正直な話、私は2人にすごい迷惑をかけているんじゃないだろうか?

 

 

完全反射「だろうねえ~」

 

佐天「うっ……」

 

 

そのニヤニヤ顔でいうのは止めて欲しい。

こういうところは私っぽくない。

一体、誰の影響を……、って番外個体さんがこんな顔で笑ってたかも。

 

 

佐天「そういえば、コーちゃんは誰に頼まれて一方通行さんと戦ったの?」

 

完全反射「それは言えないんだよね。『言いたくない』じゃなくて、『言えない』」

 

佐天「? 知らないってこと?」

 

完全反射「いや、知ってるよ。でも、言えないの」

 

 

要領を得ない。

つまり、どういうこと?

 

 

完全反射「学習装置でそういう風にプログラムされてるからね」

 

 

思わず息を呑む。

学習装置で頭に情報を入力したという話は聞いていたが、そんなことまでできてしまうのか。

そう考えると、目の前にいる自分そっくりの少女が、急に異質なものに見えた。

 

 

完全反射「お姉ちゃんの頼みだし、聞いてあげたいんだけどね」

 

佐天「あ、うん。変なこと聞いてゴメン」

 

 

いいよ、と気にした様子もなく首を横に振るコーちゃん。

その時、ちょうど病院のロビーには私たちしかいなく、2人とも口を閉じたため音が途切れた。

遠くの方で車の走る音がわずかながらに聞こえてくる。

あとは、受付の人が事務作業をしている物音くらいだ。

なんとなく気まずい雰囲気。

 

 

一方「待たせたな」

 

佐天・完全反射「「あ」」

 

 

そんな静寂を破ったのは、後から来た一方通行さんだった。

杖を突きながらゆっくりと近づいてくる。

その後ろには、カエル顔のお医者さんも付いてきている。

 

 

冥土帰し「検査は全て終了。異常は特に見当たらなかったよ。少しは安心したかね?」

 

佐天「は、はい」

 

冥土帰し「君は、少し特殊な状況にいるからね? 病院で匿ってあげてもいいけど、一方通行と一緒にいた方が安全だろう」

 

佐天「はい。……え?」

 

 

前半は理解できた。

さっき、コーちゃんから聞いたばかりの内容だ。

私が狙われているということを、今更疑ったりしない。

もうさらわれた訳だし。

ただ、後半の方が……。

 

 

一方「心配すンな。黄泉川に話は通してある」

 

 

いや、そういうことではなく。

 

 

佐天「つまり……、一方通行さんのところに住め、と?」

 

一方「そォいうことだ」

 

完全反射「私もお世話になってるから心配はいらないよ。部屋の数はちょっと足りないかもしれないけど」

 

 

完全に想定外だ。

たしかにその方が安全だっていうのは分かるんだけど。

 

 

一方「オマエをある程度使えるようにしてやる」

 

佐天「え? ……使えるように?」

 

完全反射「戦えるようにするってことでしょ」

 

 

なるほど。

これからは、自分の身は自分で守れということか。

それに、能力開発の続きという意味もあるっぽい。

コーちゃんも一緒にやるのかな?

 

 

一方「そォいう訳だ。もォここには用はねェ。さっさと帰るぞ」

 

佐天「あ、はい」

 

完全反射「はいは~い」

 

冥土帰し「気をつけて帰るんだよ?」

 

 

カエル顔のお医者さんに別れを告げ、暗くなり始めた道を3人で歩き出す。

コーちゃんと一緒にはしゃいでいたため、去り際にカエル顔のお医者さんが言ったことは聞こえなかった。

 

 

冥土帰し「後、1週間しかないんだからね」

 

 

という一言を。

 

 

―――タイムリミットまであと1週間。

 

                       第五章『Is it over?(それぞれの戦い)』 完

 

 

第六章『Change(新しい認識)』に続く

 


 
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