ヒソヒソヒソヒソ・・・・
ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ・・・・
ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ・・・・
ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ・・・・
ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ・・・・
静かな室内の中、囁いている声がひそかに聞こえてくる。
別に嫌な訳じゃない。
けど、少しだけ黙って欲しい。今俺に軽く聞き流す余裕は無い。
『可哀想に、まだ二人とも若いのに・・・』
『一刀君は中等部の二年生で、確か詩織ちゃんはまだ6年生よね・・・』
よくご存知で。
『トラックが突っ込んで来たんですって・・・』
わざわざ詳細説明してくれなくてもいいよ。
『しかもそのトラック、飲酒運転ですって・・・』
じゃないと突っ込むわけないだろ。そんな事も分からないのか?
『北郷さん、仲良しでしたよね・・・』
『仲良し一家でしたものね・・・』
一家崩壊みたいなこと言うな。
『詩織ちゃん、あんなに泣いて・・・』
『一刀くんも』
『こんな夏休みって、無いわよ』
全く持って同感です。
北郷
今、俺達の両親の葬式だ。
死因は聞いての通り、事故死。
そうめんについて語った『あの日』。
結局帰ってこなかった。
あまりに突然な両親の死。
暑い夏の夜に、近所の人達が参列してくれている。
フランチェスカの奴ら、教師の方々も大勢来てくれている。
俺の母はフランチェスカの教職員である。
若々しく、授業も分かりやすく、時に生徒達を楽しませる母は、男女問わず人気だった。
名前を出せば誰でも知っているであろう大手会社。そこの支店長に父は就いていた。部下の面倒見もよく、仕事の能率もいい父。
俺達の両親は誰にでも人望のある人だった。
だから、葬儀会場はかなりの人で溢れかえり、二部屋ぶち抜きで行われていた。
二人きりになれる日。楽しい日になるはずだったのに。
高速道路を抜けた後、飲酒運転のトラックに突っ込まれた。
二人は即死。
見るも無残な光景だったのだろう。
「っく、ぁあ、ひっく、ぅうううっ」
そして、今俺の腕を掴んでいる我が妹。
「おかぁさん・・・おとぉさん・・・・」
涙で顔をぐしゃぐしゃに、いや、その程度じゃない。
ぐちゃぐちゃにしながら泣いている。俺はその頭を抱く事しかできない。
「おかぁさぁぁん!!おとぉさぁぁん!!うあああああああああああん・・・・!!!」
ずっと泣き続けている詩織にもらい泣きしたのか、辺りからも泣き声が聞こえる。
とめどなく涙を流し続ける俺と詩織。
ハンカチで目元を拭くご近所様。
袖で涙をぬぐうフランチェスカの生徒達。
自分が死んで、こんなにも多くの人達に泣いてもらって俺の両親は嬉しいだろうか。
嬉しいわけないよな。他人が泣くのを嫌がる人達だから。ましてや、自分達の為ならば尚更。
今年のの夏休みに、こんな予定なんて無かったのになぁ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
三国同盟記念祭まであと1週間とちょっと。
着々と準備は整っている。
自分でも吃驚するぐらい仕事に集中できたおかげだろう。
理由ははたぶん、よく見るようになった『現代の夢』だろう。
あれを見るようになってからというものの、頭が冴えていくのだ。
何というか、こう、脳が整理されていくという感じ。
恐らく、その『整理』の途中で『現代の記憶』の夢をよく見るようになったのだろう。
・・・原因は?
・・・わからん。
さて。
三国同盟記念祭は三日にわたって行われる。
招くのは蜀。それ故、各武将は(やらない人もいる)出し物や展示物をしたりする。
例えば。
翠&蒲公英&麗羽(!?)&斗詩&猪々子
「なにこれ。広いな」
「おっ!ご主人様じゃねーか!来てくれたのか。」
「まぁね。それで、これは・・・?」
「見ての通り『競馬場』だ。」
そう、俺が教えて広まった『競馬』。
最初はあんまり乗り気じゃなかったみたいだけど、やり始めたらあっさりはまってしまった。
「っていうか、これ・・・」
「気づいたか?これは「おーっほっほっほ!!!」
「麗羽。」
いつもどーりの声と共に登場してきたのは『あの』クルクル(頭の中身と髪型が)お嬢様(元)。
いつも会うたびに同じ事を言ってくる【あぁら一刀さん、来ていましたのね。】って感じに。
「わたくしが提案しましたのよ!!」
「こんにちは、ご主人様。」
「おっす、アニキー。」
「斗詩、猪々子。」
「あれ?蒲公英は?」
「あぁ、たんぽぽならあっちで馬の世話しに行ったぜ?」
「ちょっと、話を逸らさないでくれます?」
とまあ、こんな感じだった。
麗羽は持ち前の悪運のおかげで結構稼いでるらしくて。
『こんどのお祭りでわたくしの名を知らしめますわよーーー!!!』
とか言ってた。
無理だと思うけど・・・・雪蓮と霞がノりそう。他の皆はともかく。
いや・・・待てよ?春蘭とかが言いくるめられてやりそう。
んで怒って金つぎこんで破産・・・。とかになったらマズい。
一日に賭けれる最大回数とか決めておくよう、翠に言っておこうか。
んじゃ次。
朱里&雛里&恋&ねね
「メイド喫茶じゃないか。」
「あ…ご主人様。」
「やはり来たのですね!ここから先は進ませませんぞー!」
「いやいや、そんなカッコイイ事言われても。」
結構な大きさの『わんにゃんめいど喫茶』の前で、これまたいつも通りのやり取りをする俺達。
どうやら朱里と雛里は今はいないらしい。
「しっかし、『わんにゃん』とはなぁ。予想はしてたけど。」
「ほほう、おまえのような脳みそで、恋殿とねねのやることが予想できたとは…。褒めてやるのですよ!!北郷一刀!!〈びしっ〉」
「だいたいどれくらいの動物達がいるんだ?」
「ん…えと…うちの皆が全員。」
「…なるほど。」
恋は自分の屋敷に大量の動物達を飼っている。
犬、猫、熊もいる。
恋とねねはいいとして。
「二人が朱里と雛里を誘ったのか?」
「違うのですよ!」
「朱里と雛里が…誘って…くれた。」
なんと。
二人が出し物を。
二人が積極的になってくれたってことかな。
星
「次行くか。」
「待たれい!!」
くっ。スルーは無理か…っ!!!
「…いやだって、もう分かるもん。」
「ほほう、主が私の出し物を当てる?と。」
「メンマだろ。どうせ。」
「ふっ…所詮主もその程度…というわけですか。」
「華蝶仮面のグッズも販売。」
「!!!!!!」
ほらな?
まさか当てられるとは思ってなかったようで、カチーンと固まってる。
この隙に移動しよう。
日も結構傾いてきた。そろそろ夕ご飯の時間。
城に向かってのんびり歩く俺。
「・・・・・・・」
今日見た夢を思い出しながら。
普通は見た夢なんかはすぐに忘れてしまうもの。
なのに最近よく見る『現代の夢』はしっかりと覚えている。
「まぁ別に忘れてたわけじゃないけど。」
そうさ。
忘れられるわけがない。
あんなに泣いた。
多くの人がたった『二人』の為に泣いた。
俺も。
詩織も。
当然だ。子は親が死んだ時、だれよりも泣くようにDNAに刷り込まれているから。
「ほんとひどかったよなぁ・・・。」
俺達はずーーっと放心していた。その間、一番仲の良かったご近所さんに世話をしてもらっていた。
一週間たって、詩織は気持ちを切り替えることができた。
俺が立ち直れたのははそれから少したってからだった。情けない。
それから詩織が色んな家事をやってくれた。
別に俺が何もしてなかったわけじゃないよ。割合で言うと俺:詩織=2:8。
一ヶ月たつと俺達はすっかり立ち直ることができた。
両親の死の日を乗り越え、詩織は落ち着きができた。
両親の死で詩織は成長した。
『可愛い妹』から『しっかりして、なおかつ可愛い妹』になった。
で?
俺は?
どうだろうな。
自分じゃわからない。
近くにいいた詩織に聞かなきゃわからない。
そうだ。今度聞いてみよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・いつ?
今俺と詩織は会えない。
『今』どころの話じゃない。『違う世界』にいるのだ。
そもそもどうやって俺がこの世界に来たのかも分からないのに帰る方法が分かるはずもない。
永遠に会えない。
永遠に。
永遠に。
今更気付いた事実に、心が冷える。
寒気がする。
足が震える。
じいちゃんは?
ばあちゃんは?
フランチェスカの皆は?
詩織はどうしてる?
俺がいなくなってから『むこう』はどれくらいたってるんだ?
詩織は今何歳なんだ?
そんな事はどうでもいい。
『また泣いたのか?』
「!?」
急に聞こえてきた声。
首を振って周りを見る。
しかし誰もいない。それどころか今の声に気付いた人はいない。普通に皆歩いている。
『誰にも聞こえるわけないだろ?』
(何だって?)
『俺はお前の願いの顕れ。他の奴らには聞こえないさ。』
俺の願い。そう言った。
つまり。
(妄想か。)
『違う違う。妄想なんかじゃないって。』
無視して歩き続ける。
『妄想じゃないってば。今からそれを証明してやるよ。』
(証明?)
瞬間。
【ぐにゃり】
「!?」
景色が歪む。
その景色の【人ごと】いっしょに歪む。
「なんだ!?」
歪む。
歪む。
歪んで、景色が渦巻き状になる。
その中で俺だけがいる。
そして。
〈続く〉
〈あとがき〉
第四話終了です~。
いかがでしたか?ちょっとずつ話が進んできました。
冒頭の葬式ですが、実は私、葬式の参列経験が二回だけなのです。
親族と近所の方。
『悲しい』ってのもありますが、残された人達とどう接していいのか分からなくなりました。
それでわ。
〈レイン〉
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一回だけ他人の葬式に参列したことがあります。
そのとき思ったのは、『辛い』という気持ちより、『理解できない』という気持ちでした。
そんな小学四年生くらいの時の記憶。