夜のお散歩
龍斗
蒸し暑い、夏のある晩。
眠れなくなった俺は、散歩に出かけることにした。
◆
家から歩いて300メートルのところにあるコンビニ。そこで時間をつぶそうと思ったんだけど、こんな時に限って混んでいたりする。暇人どもめ。
どーせ涼しい店の中で立ち読みとかして時間つぶそうと企んでいるんだろ。家でやれ、家で。親の甘い汁を吸ってるニート共めが。
あ、俺は一人暮らしで、且つバイトして稼いだ金で生活してるので除外。
ええそうですよ、俺は都合のいいヤツですよ。
まぁ、こんな暇人共の隣で時間をつぶすのもアレなので、俺は他をあたることにした。
◆
アスファルトに溜まった熱気がうらめしい。ヒートアイランド現象と地球温暖化は確実に進んでいるようだ。大丈夫か、地球よ。
あの暇人コンビニから離れて大体、200メートルくらい。
何のあてもなく、ただぶらぶら歩くだけ。はっきり言って、暑い。
熱帯夜の晩にただ歩くなんて誰もしないじゃん。まるで、バカの一つ覚え。
でも家に帰っても眠れないのはわかっているので、とりあえず歩くことにした。どうしたんだろうね、俺。
右に公園が見えてきた。木の多い公園は、昼間は涼しい木陰が多くなる。子供も大人もみんな、木の下で涼んでいる。
でも、今は夜。暑さにめげずイチャつくカップルが2組ほどしかいない。
こんなところでイチャつくんじゃなくて、家でイチャつけばいいのに。見せびらかしてるのか。
俺は公園をスルーした。
◆
・・・・・・暑い。
家を出るときに残っていた眠気は完全に消え失せていた。
首筋を汗がつたう。それでも俺は、家から遠ざかるように歩いている。
何なんだろうね、この衝動は。自分でもわかんないよ。
「・・・・・・」
別段、なにも考えずに歩く。まぁ、歩いているだけで暇つぶしになるからいいか。
路地を曲がった入ったところで、いいにおいが鼻をついた
小腹がすいた今の俺は、そのにおいの場所へと向かう。もとい、釣られる。
ちょっと広い道路の端に、移動式のラーメン屋台があった。
暑い夜にラーメン、なんとなく情緒を感じる。深い意味はないが。
俺は屋台ののれんをくぐった。
「こんばんは~」
「どもっ」
挨拶してちょっとびっくりした。屋台でラーメンを作っていたのは、若い女だった。
赤みがかった茶髪のロングヘアーで、整った顔立ちをしている。黒い半そでのシャツに、ジーンズという、結構ラフな出で立ちだ。
『屋台=おじさん』という先入観があったのだが、毒気を抜かれるような感覚だ。
「えっと・・・」
「ウチはしょうゆベースだよ」
書いていないメニューに悩んでいると、彼女は助け舟を出すように言った。
「えと、じゃー、ラーメン下さい」無難に、というかメニューを知らないのでそれしか言えない。
「はいっ」
それでも彼女はにこっと笑って、手際よくラーメンを作り始めた。
屋台はスペースを確保するためか、かなりギミックが使われていた。
調理場は客が食べるカウンターよりちょっと低く、向かって右側に大鍋が一つ、中鍋が二つ。左側はスペースが空けてある。思ったよりすっきりした配置と広さだ。
一部始終はこんな感じだった。
しゃがんで引き出しを開けると、そこに麺が入っている。一玉取り出して、中鍋でぐらぐらと煮えるお湯に麺をいれ、茹で上がるまでの間にスープの支度をする。ラーメンどんぶりに二種類のタレを入れ、小さいツボに入った脂を少したらす。そのどんぶりを大鍋の近くに置いて、ブロックのチャーシューを切る。結構厚切りに。続けて、五センチくらいに小分けしてあるネギを刻む。小山になったネギをまな板の端に置き、温まったどんぶりに大鍋のスープを注ぎいれる。透き通った醤油ベースのスープは、俺の空腹感を絶妙にくすぐる。
茹で上がった麺をちゃっちゃっ、と湯きりしてどんぶりに。若干細めの麺は、スープの中を泳ぐように舞う。
その上にチャーシューを三枚、ネギ、メンマ、茹でたほうれん草をのせ、おまけとばかりに細切れのチャーシューをぱらぱらと。
時間にして4分くらいで、見事なラーメンが出来た。
「はいっ、どーぞ」
口の中はすでに唾液でいっぱいだ(笑)。
「いただきます」箸立てに刺さっている割り箸をとってから、まずスープを啜る。
口いっぱいに広がる醤油の香りと、程よい魚系のダシが効いている。
続けて、麺を啜る。程よい細さの麺にスープがよく絡んでくる。チャーシューも口の中でとろけるように踊り、歯ごたえのあるメンマは「麺をよこせ」と騒ぎ出す。刻んだネギと一緒に麺を食べると、また違った味になる。ほうれん草もスープと相性が合っている。
まるで飽きの来ない怒涛のラーメンラッシュに、俺は無言でガッついた。
・・・うますぎるっ!
それしか言えません。いや、他になんと言えばいいのでしょう(笑)。
気がつくと、どんぶりの中は空っぽだった。スープまで飲み干してしまった。
「―――うまかった!」
「ありがとっ」にっこりと笑い、どんぶりを引いてくれる。
「今まで食った中で一番うまかったな」
「ほんとに?うれしいなぁ」
彼女はからからと笑う。
「キミ、一人暮らしなの?」
「うん。厚いから寝れなくてさ、ぶらぶらしてた」
「そっかぁ。今夜は特に暑いよね」
「うん」
他愛無い会話が進む。
「―――えと、お代は・・・」
「あぁ、別にいいよ」
「へ?」
「いやいや、いいの。あたし、アンタが気に入ったし、コレはあたしからの気持ち」
「え、でも」
「じゃー、1万円」
「・・・・・・」高ぇ・・・。
「うそ嘘。いいの、今夜はタダでいいの」
「・・・ほんとに?」
「あたしがいいって言うんだから、ほんとにいいの。そのかわり、また来てよね」
「もちろん!」
俺は意気揚々として、屋台を出た。
◆
あんなにウマイ店、近所にあったんだな~・・・。
と思いながらぶらぶらと散歩を再開。あてもなく彷徨う俺、一体どうよ?
路地を抜け、国道に出る。しかし、車は少ない。さすがに熱帯夜に走る物好きはいない。
あ、俺は別ね。
二個目の信号を渡ったときだった。
「あぁ!?文句あんのかテメー!」
オヤジの罵声が聞こえた。
当然、視線を向けてしまう。
「・・・はぁ?」
オヤジは自販機に向かって罵声を浴びせていた。どうやら、酔っ払っているらしい。
「お?何だテメー。こっち見てんじゃねーよぉ」
オヤジは俺に気がついたのか、俺に文句をつけてきた。
「いや、なんでもないですよ」
「あ?テメ見たってことは用事があるんじゃねーのか?違うか?」
これだから酔っ払いは・・・。
「いや、だから、まちがいですよ」それしか言いようがない。
オヤジはまだイチャモンをつけてくる。
「だーかーらー、間違いですよ!俺何もしてないじゃないですか!」
「うるせーなー!いいんだよ!」
何がですか。
これ以上五月蝿くされるのもイヤなので、おれは逃げることにした。
「・・・・・・あ!」叫んで、指をあさっての方向に指す。
「ん?」思ったとおり、オヤジはそっちを見る。
瞬間、ダッシュ!
「なんだ、何もねーじゃねーか・・・って!テメー逃げんじゃねー!」
ベタなリアクションをして、オヤジは追いかけてきた。
俺は歩いてきた道を逆走する。
「待てコラー!」
待てといわれて待つ馬鹿がどこにいる。
俺はひたすらダッシュする。
高校のころ陸上部だった俺を嘗めるな!
…走り高跳びだけど。
当然、差は開く。オヤジが酔っていることもあって、差は歴然だった。
「待てー!」フェードインするように声は小さくなる。
だが、オヤジはしつこく追いかけてくる。
俺は3本目の路地を曲がって―――
「どこ行ったー!」
オヤジは汗びしょびしょになって探している。
「・・・はぁ・・・はぁ?」
電柱の影に、妖しい二人をオヤジは発見。
「あぁ?テメーら何してんだよ?」
新しい標的をみつけたオヤジは二人に近づく。
が。
「なんだ、なにしてん・・・・・・・・・」
言葉を失う。
その二人は男と女で、カップルらしくて、なんか、抱き合って、熱~いキスをしてて、男はなぜか上半身が裸で・・・・・・・・・。
「・・・・・・わりい。何でもねーや」
そう言ってオヤジは夜の街に消えていった。『バカヤロー』とか罵声を轟かせながら。
「・・・・・・ふぅ、行っちゃったよ」
「・・・ごめん!」
俺はなぜか上半身を裸にされ、さっきのラーメン屋台の女と熱いキスを交わしていた。
ここから回想シーンです(笑)。
俺は国道を抜け、路地に入った。さっきの屋台が目に入った。
「!」俺は思いついた。
「~♪―――あれ?そんなに急いでどうした――」
「悪ぃ!隠れさせて!」
「はぁ?一体何を・・・?」
「え、えっと、その―――」しどろもどろになる俺。慌てすぎだな。
彼女が小首を傾げていると、
「・・・・・・まてー!」
というオヤジの声が聞こえてきた。
「あぁ、そういうことか」彼女は納得したようだ。
「でも、隠れるとこなんてないよ」
「へ?屋台の下とかは?」
「麺とか入ってるし、机の下みたいなスペースはないよ」
彼女はさらりと言う。
「え、じゃ、どうすれば・・・」
あたふたしていた俺に、彼女はこんなことを言ってきた。
「ちょっとTシャツ脱いで」
「はぁ⁉」
「いいから!」
俺は上半身を剥かれた。
「ちょっと、なにする―――」
「いいから、こっち!」
そして、近くの電柱に背中を押し付けられる。
「!」
瞬間、彼女は俺に唇を押し付けてきた。
背中に手を回し、抱き合う形になる。
「・・・・・・」
目を閉じた彼女は、綺麗だった。美しかった。
「どこ行ったー!」
オヤジはすぐそこで叫んでいるが、その声は小さく聞こえた。
「あぁ?テメーら何してんだよ?」
オヤジはこっちにきた。
そして、俺たちを見るや否や、
「なんだ、なにしてん・・・・・・・・・」
無言になった。
俺はバレないかすごっく心配だったのだが、
「・・・・・・わりい。何でもねーや」
そう言うと、向こうに行ってしまった。途中、『バカヤロー』とか聞こえたこで、よく聞こえなかった。
回想オワリ(笑)
「で、どうして逃げてたの?」
「えっと、それが・・・よくわかんない」
「・・・はぁ、期待を裏切らないね」
「なんで」
「いや、さっきの会話からして、ドジっぽいと思ってたんだ」
彼女は笑いながらそういう。
「でも、・・・・・・なんでキス―――」
「それしかなかったからじゃん」
彼女はぷいっと後ろを向く。
俺は服を着て、屋台のイスに座る。
「―――あたしさっき、アンタが気に入ったって言ったじゃん」
「・・・え?」
彼女のボソっと呟いた声はよく聞こえなかった。
「なんでもないっ!」
そういって、水の入ったコップを差し出してくれた。
「・・・えっと」
俺は頬をぽりぽりと掻いてから、
「・・・・・もう一杯、ラーメン貰える?」
そう言うしかできなかった。
Fin
あとがき
どうも、龍斗です。
初めてのひとは初めまして。ってか、お初ですね(笑)。
この話の舞台裏をお話しすると・・・ぶっちゃけ3時間で書きました。だめですねー、俺。
夏休みという時間はあったのに、ことごとくバイトのシフトが・・・。
あ、コレ言い訳ですね。すみません。
えっとー、何を書いたらいいんでしょうか(苦笑)。
あとがきなるものは久しぶりに書くので、ネタに詰まっちゃいますね。
・・・あ、コレ言っちゃいけない?
はいぃ、すみません・・・。
※夜のお散歩について
えっとー、まぁラブですかね。ちょっとオムニバスみたいな感じで書いてみました。ベタなお話ですが、まぁ、楽しんでいただけたらと・・・。
批評はキビシク・・・なるだろうなぁ・・・。
まぁ、いろんなトコロに出没するので、「あ、コイツ龍斗じゃね?」
とか思ったら声かけてください。なんちてw
読んでくださったあなた、本当にありがとうございました。
それでは、また次の機会に。
龍斗
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熱い夜、眠れなくなって散歩に出かけた。
ひょんなことから始まる、オムニバスエピソードその1