一刀たちが撤退する途中で伝令がやって来て
「申し上げます、曹操軍の夏侯惇、夏侯淵が我が軍の撤退に横入りしようとしています!」
「ご主人様、どうしますか?」
紫苑が一刀に聞くと
「そのまま横入りさせるわけにはいかんだろう、何かいい方法はあるか?」
「そうですね…、夏侯惇、夏侯淵は恐らくご主人様を狙ってくると思うから、私たちは二手に分け
て、ご主人様と私で迎え撃ち、そして翠ちゃん、璃々で隙を見て向こうの軍の横を目がけて突撃して
ちょうだい、そして渚さんにも伝令を出して挟撃するように伝えて」
と紫苑が指示したものの、璃々と翠が一刀を前線に出すことに反対するも、紫苑が
「璃々、あなたの実力ではまだあの2人には勝てない、翠ちゃんだったら夏侯惇、夏侯淵と互角に戦
えるけど、翠ちゃんの場合、一騎討ちに夢中になりすぎて指揮を疎かにしまう可能性があるわ」
と言われると2人は紫苑からそう指摘されると
「うーん、仕方がないか……」
「一騎討ちに夢中になってしまうと言われてしまうと、その可能性があるから否定はできないよ
な……」
紫苑から指摘されてしまうとなぜか素直に納得してしまう2人であった。
「2人とも心配するな、紫苑もいるし、大丈夫だ」
「ああそうだな、ご主人様は私に勝ったくらいだから、問題ないよな」
「そうだね、翠お姉ちゃん、私たちが敵を早くやっつけたら、敵はすぐに引き上げてくれるし」
「じゃ2人とも分かれば、すぐ動きなさい!」
「「は…はい!」」
と紫苑が学校の先生の様に指示を出すと2人もなぜか生徒の様な返事をすると、4人は軍を二手に分
けた。
そして曹操軍が一刀たちの軍勢の前に立ちはだかると、軍の先頭にいる春蘭が一刀の軍勢に突撃する
と
「退け退け!敵の大将はどこにいる!早く私の前に出て来い!」
「姉者…、少し落ち着いてくれ」
早くも暴走モードに入っている春蘭を宥めようして秋蘭であったが、何処からか声がした
「何だい、猪さん?」
「誰が走りだしたら、止まらない猪武者だ!?」
自らボケ突っ込みを入れている春蘭を見て、曹操軍の兵は思わず
(「アンタのことですよ……」)
と内心思っていた……。
「へ~自分の事、分かっているね」
「だ…誰が猪武者だ!何者だ貴様!」
と春蘭が言うと
「ああ…、俺は君が探している人物だよ」
一刀が春蘭に言うと
「貴様が北郷一刀か!華琳いや…曹操様の命令で貴様を捕まえる!」
「フッ…そう簡単に行くかな?」
「そうですね、私もいますからそうはさせませんわ」
と紫苑も出てきたのを見て秋蘭が
「北郷夫人……、やはり貴女がいましたか」
それを見て春蘭が
「秋蘭?こいつを知っているのか?」
「ああ…姉者、黄巾党の乱の時に言っただろう、「天の御遣い人」の横にいる強い夫人の話を」
「おお!思い出した、秋蘭が認めた奴の事だな」
戦いの事なら、まだ記憶力がある春蘭であったが、しかし春蘭が
「ならば秋蘭、私にこいつと戦わせろ」
春蘭は紫苑に鋒先を変えようとしたが秋蘭が
「待て姉者、北郷夫人とは私が戦う、向こうも弓遣いで接近戦で戦う姉者では分が悪い、だから私が
戦う、それに北郷を捕まえると華琳様は喜ぶぞ」
春蘭の操作に長けている秋蘭の華琳が喜ぶと言う一言に
「そ…そうだな、では私は北郷の相手にしよう」
春蘭が言うと、一刀がそんな春蘭を挑発するように
「おいおい夏侯惇さん、そんな猪武者さんに捕まるほど、俺は弱くないぜ」
「貴様ーーー!何度も同じことを言うな!」
と七星餓狼を振り回すが、一刀は紫電を抜かずに足裁きで躱していた。
そして春蘭が
「貴様!なぜ抜かない、その腰の物は飾りか!」
春蘭が言うも一刀は更に挑発的に
「そんなに悔しかったら、抜かせてみな」
「ふざけるなーーー!」
と春蘭が一方的に攻撃、一刀が躱すだけの展開になり、一方、紫苑対秋蘭は
「北郷夫人、あなたの本気の実力を見せて貰おう!」
と秋蘭が素早い構えから矢を放ったが、紫苑が
「はい!」
と難なくこれを颶鵬で防御、そして
「これくらいのことで、私を撃ち取ろうとは少々甘いわね」
「さすがですな、ではこれはどうだ!」
秋蘭が連射で放つものの、紫苑はこれもまた颶鵬を扇風機のように回転させて、簡単に防御してみせた。
「クッ…流石に強いですな」
「そうかしら、あなたも相当な腕よ、では次は私の番ね」
と言って、紫苑が
「ハイ!」
と弓を放つと秋蘭も受け止めていたが、内心驚き
(「私より早い…、これは想像以上に厳しい戦いになるぞ」)
と2人の戦いは射者のプライドを掛けた戦いになった。
そして一刀対春蘭は、まだ一刀が紫電を抜かずに戦っていたが、なかなかバテずにいる春蘭に
(「しかし本当に体力だけはあるな…」)
一刀が呆れ返っていると、春蘭が
「貴様!なぜ剣を抜かぬ!」
「何度も同じ事を言わすなよ、聞こえないのか?それとも頭悪いのか?それとも両方か?」
再び挑発すると、春蘭は
「もう勘弁できん!貴様を叩き斬る!」
「それは一回でも当ててから言う言葉だな」
一刀が言うと春蘭は完全に頭に来て
「ウォーーー」
と強引に大振りの構えを見せた、一刀は春蘭との戦いをまとも勝負すれば、春蘭の馬鹿力で刀で受け
ると力勝負で不利になるので、挑発して冷静な戦いをさせず、そして空振りなどで春蘭の体力消耗さ
せ、一瞬の隙をつき、翠との戦いで使った居合い抜きで勝負をつけようと考えていた。
そして一刀は居合い抜きの態勢になっていたが、春蘭は完全に頭にきて、一刀の構えなどお構い無し
に強引に一刀に打ち下ろしたが、一刀は
「はあーーー!」
と電光石火の居合い抜きを見せると
「うゎ!」
春蘭は防御したものの、身体が流されてしまい、一刀に背を向けた状態になってしまっていた。
そして一刀は春蘭の背後を付こうとしたところ
「姉者危ない!」
紫苑と戦っていた秋蘭が割って入るように一刀に弓矢を放つと、
「ご主人様!」
紫苑の声に気付いた一刀が
「うゎ!」
慌ててその矢を躱したが、その場で転倒してしまった。
そして春蘭が、その間に態勢を立て直し、一刀に
「貰ったーーー!」
と七星餓狼を振りかぶったところ、
「そうはさせないわ!ご主人様は私の大事な人!我命同様!ご主人様の命、私が守ります!」
紫苑が言い切ると放った弓矢は、一刀を斬ろうとしていた春蘭の左目に突き刺さっていた………。
「ぐぁぁーーー」
「姉者!大丈夫か!」
「だ…大丈夫だ、秋蘭」
と言いながら、春蘭は自ら左目に刺さっていた矢を抜き、そして矢に付いていた左目を口の中に飲み
込み、そして周りにいた兵士は、春蘭の行為に呆然と立ち尽くしていた。
紫苑も一刀のところに駆け寄り
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「ああ紫苑のお陰で助かったよ」
一刀は紫苑に身体を起こして貰うと、一刀の元に伝令兵がやって来て、璃々と翠の隊、それに渚の隊
が曹操軍の横撃に成功したとのことであった、その知らせは秋蘭のところにも入り、秋蘭は悔しそう
な顔を向け、一刀と紫苑に
「今日のところはこれで引せて貰う…しかしこの仇、必ず取らせて貰うぞ」
静かな口調で怒りを噛みしめながら、負傷した春蘭を連れて撤退を開始した。
そして一刀は紫苑に
「やれやれこれで助かったが、曹操とも完全に敵対することになりそうだな」
「そうですね、でも覚悟されていたでしょう?」
「ああ覚悟はしているさ、でも紫苑や璃々、翠、星、蒲公英、朱里たち皆がいるから心配はしていな
いけどな」
「ありがとうございます、ご主人様、その期待に必ず応えるようにしますわ」
一刀の言葉に紫苑は決意を新たにし、そして璃々らに合図を送り、撤退を開始した曹操軍を追撃をさ
せずに再び一刀たちと再合流するよう指示した。
やがて関から本隊の撤退の様子を見ていた真里が、他の部隊にも撤退の鐘を鳴らした。
撤退の合図を聞くと
「チィ、よう仕留めきれんかったか…、一騎討ちして初めてやわ、まあしゃあない、また今度楽しみ
にしておくで、孫策」
「フン、それはこっちの台詞よ張遼、でも今度は決着つけるわよ」
と言いながら霞が撤退するのを追撃せず見送ると、雪蓮の近くで見守っていた明命が現れ
「雪蓮様、大丈夫ですか?」
「ああ明命、いいところで来たわ、ちょっとこれを取ってくれるかしら」
と言いながら、雪蓮は右手に持っていた南海覇王を差し出したが、雪蓮は戦いに力が入り過ぎてしま
い、手が強ばり、手から離れない状態になっていた。
「流石に強かったわ、張遼は…でも今日は完全燃焼というか、いつもみたいにアレが出ないわ
ね……?」
と最後の方は、明命に聞こえないように呟いていた雪蓮であった。
「はいいーーー」
「ぐぁ!」
星が愛紗を叩きつけていたが、この光景はすでに3度目であった。
そして
「悔しいのだ……」
「う……大丈夫か?真桜に沙和…」
「…何とか生きとるで…」
「痛いのー」
恋と戦っていた鈴々や凪たちは、恋が叩きのめしていたが、その圧倒的な力の差に立つのがやっとの
状態であった。
そして愛紗が
「く…くそ、なぜ私がここまで……う…」
愛紗は今までにない屈辱を味わい、悔しさのあまり涙目になっていた、そして星が愛紗に対し
「悔しいか?実際は私とお主とはそれほど力の差はない、しかしなぜ今、このように差がついている
かは、お主の武や信念が薄っぺらなものだからな」
「な…何、そんなことはない!私は……」
「では聞くが、なぜ私にあのように言われ、動揺した?自分の信念があれば決して動揺することはないはずだ」
「うっ…」
「武を奮う前によく考えろ、武を奮う時は何も考えるな、一度(ひとたび)武を奮う時は、人の命を
奪うのだ、そのことをよく考えろ、考えることを忘れたら、単なる人斬りになる」
「お主の場合は、表に見える部分しか見ず、考えることを放棄しているのだ」
「………」
星に指摘されると愛紗は、無言になり聞き入っていた。
「まあ私も人のことは言えぬがな、以前主に言われるまでは、目の前の戦いことしか考えていなかったからな……」
「お主にもう一度機会を与える、自分の武を奮う意味を考えろ、そして再び会った時に主や董卓殿に
対して、同じような言葉を吐いてみろ、その時は殺すからな、引き上げるぞ、恋」
星と恋の部隊は引き上げたが、愛紗たちにはそれを追撃する力などは全く残っていなかった…。
そして華琳の方も春蘭負傷の報を聞き、
「クッ!北郷一刀…、私の春蘭を傷つけるとは……」
「私の覇業に立ちふさがる男になりそうね、必ずこのお礼をさせて貰うわ…」
そう呟いた時、怒りと笑いが混ざった顔をしている華琳であった。
そして今日の戦いが終え、連合軍の各陣営は、一刀たちに散々、痛い目に合ったため、暗い雰囲気に
なっていた。
その中、一番の落ち込みを見せていたのが、劉備軍であった、兵の被害は勿論だが、特に将の被害が
大きく、愛紗や鈴々、凪など三羽烏の負傷、そしてしばらく安静のため、明日以降現場指揮できる将
が不在になり、そのため雛里が斗詩に頼み、何とか軍を後方に下がることが決まった。
そしてさっきまで雛里が斗詩と交渉して、ようやく陣に戻ってきた。
雛里を待っていた桃香に交渉の成功を伝え、桃香は安堵していたが、その後雛里は厳しい表情をして
「桃香様、愛紗さんからお話はお聞きになりましたか?」
「うん……」
愛紗らは負傷しながらも、何とか陣に戻ってきて、星とのやり取りについて、桃香に報告した、そし
て報告を終えた愛紗は、最後に
「今まで私たちのしたことは間違っていたのでしょうか……」
と自信を失い、そして桃香も慰めはしたものの、その言葉は今の愛紗には通じなかった。
それを桃香が雛里に言うと雛里は
「それで桃香様、今後はどうお考えですか?」
「……雛里ちゃん、私たち連合軍を離れよう…」
「桃香様、それは無理です」
「え?」
「今、桃香様は平原の太守で、ほぼ袁紹様の支配下近い状態です、この時点で謀反を起こされますと
私たちは根拠地を失います」
因みに黄巾党の乱後、華琳はエン州の太守になり、雪蓮は、七乃の妨害により、旧家臣達の合流が認
められていない状態であった。
「それに北郷軍の言うことが事実にしても、敵はそれを公にしておらず、この時点での謀反は、何の
正当性もなく、逆に呂布さんに敗れ命乞いするために下ったと思われます」
「もし謀反を起こされるのでしたら、今まで行なわれたことを全て無にしてしまうでしょう」
雛里から言われてしまうと桃香は諦めきれないのか
「でも……」
「今は何を言っても仕方がないです、まずは愛紗さんたちが怪我をしてどうにもならない状態ですの
で……」
桃香の言葉を遮り、雛里は
「今回の作戦については、私に責任があります、ただ今後については桃香様にも色んな意味で決断を
していただきますが、桃香様には皆の命を預かっている責任は分かって貰わないといけません、です
ので思い付きの決断だけはしないようお願いします」
雛里が言うと桃香はその言葉に対して小さく頷いただけであった……。
そしてようやく氾水関の初日の戦いが終わった。
Tweet |
|
|
70
|
3
|
追加するフォルダを選択
話が難しくなっているような・・
では第28話どうぞ。