No.275122

織斑一夏の無限の可能性10

赤鬼さん

第10話です。

1話で終わらせるつもりが前後編に分かれてしまいました。

あまりにも長くなりすぎてしまって......。

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2011-08-16 11:47:19 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4588   閲覧ユーザー数:4363

 

 

 

 

 

 

 

Episode10:アンノウン襲撃-前編-

 

 

 

 

 

 

 

 

*◇*◇*◇*◇*◇*◇*

 

 

誰もが目の前で起こった惨状を理解出来なかった。

 

世界で唯一無二の男性IS操縦者『織斑一夏』がいた場所に一筋の閃光が走り、爆発―――

 

管制室で試合を見守っていた織斑千冬に山田麻耶、IS学園生徒の篠ノ之箒にセシリア・オルコットはいきなり起こった惨状に言葉を発する事さえ忘れてしまったかのように。

 

アリーナ会場にいたIS学園生徒や各国のIS関係者、そして一部を除いた各国要人の誰もが今起きた惨状に頭の理解が追い付かなかったのだ。

 

先程まで『織斑一夏』と対峙していた『凰鈴音』も例外ではない。

 

―――外部からの攻撃。

 

そう、有り得ない事が現実、目の前で起こったのだ。

 

試合会場となった第二アリーナはIS戦において、観客に被害が出ないようにアリーナ全体をISと同じ遮断シールドで覆っている。

 

つまり間違ってもIS戦における攻撃が観客に被害が及ばないようにするための当然の処置であり、また外部からの余計な干渉も遮断する事が可能なのである。

 

この遮断シールドを貫通させるほどの攻撃が『織斑一夏』に振り下ろされたのだ。

 

IS学園の遮断シールドを貫通させるほどの攻撃。

 

つまりISのシールドを貫通できる攻撃を『織斑一夏』は受けてしまったのだ。

 

誰もが予想できなかった一瞬の出来事に反応する事が出来なかった。

 

それは『織斑一夏』の姉でもある千冬すら、あまりの出来事に思考が止まってしまう程に。

 

目の前で起こった惨状よりも何よりも唯一の肉親である弟の事を想って、千冬は表情をしかめた。しかし、千冬は直ぐに我に返り、管制室にいる教員や生徒に向け、緊急臨時態勢を取るように指示する。

 

その言葉に全員が我に返り、直ぐに被害状況などを調べ始める。

 

 

「一夏っ?!」

 

 

「一夏様!」

 

 

箒にセシリアは目の前の惨状を信じられなかった。自分達の愛する男に突然降り注がれた凶器。遮断シールドを貫通させたという事はIS操縦者に直接のダメージを与える。つまり”死”という言葉が二人の頭に浮かぶ。

 

 

「うろたえるなっ! 馬鹿者ども! 一夏は無事だっ! あれくらいで死ぬような弟ではないっ!」

 

 

最悪のシナリオを誰も予想していないわけではない。寧ろ予想してしまえる程の惨状が目の前で起こったのだ。

 

千冬自身、箒とセシリアに向けた言葉は自身にも向けている言葉であった。

 

―――唯一の肉親、織斑千冬の弟、一夏は無事だ、と。

 

 

 

 

【鈴side】

 

 

理解できなかった。

 

さっきまで一夏がいた場所に一筋の閃光が降り注がれた。そして爆発。今は煙で一夏が無事かどうかも分からない。

 

―――無事だ、絶対に無事だ、無事じゃなきゃ許さない。

 

一夏の無事を信じたい自分がいるが目の前の惨状がそれを認めてくれない。胸に沸き起こる不安に胸が締め付けられそうになる。

 

いっそ考える事を放棄できたら、どれだけ楽だろう。

 

 

「一夏......」

 

 

「一夏...」

 

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!」

 

 

声を張り上げる。一夏に声が届くように。まだ無事かどうかの確認が取れない一夏の無事をこの眼で、耳で確認するまでは―――

 

 

「―――そんなに声を張り上げなくても聞こえてる」

 

 

「一夏っ?!」

 

 

煙が晴れると、そこには肩部、腕部、脚部、胸部、スラスターの各装甲が展開し、露出した内部装甲が赤く発光しており、先程まで一夏の手にしている雪片弐型の蒼白かったエネルギー状の刃が赤白いエネルギー状の刃へと色を変えている。

 

あたしの目に映るウィンドウには白式の単一仕様能力《ワンオフ・アビリティー》、零迅雷光《れいじんらいこう》と表示されている。

 

あたしですらまだ発動できていない単一仕様能力をIS初心者の一夏が発動させているという事態に困惑してしまった。

 

 

「ぼぅっとするなっ! 鈴! 来るぞ!」

 

 

一夏の声にハッと我に返るが、今度は自分がロックされている事に気付いた。

 

しかし、気付くのが遅かった。

 

あたしをロックするISからの攻撃が放たれる。

 

一夏はあたしの方へと加速してきているが、間に合わないだろう。

 

戦いの場で気を抜いたあたしが悪い。あたしはここまでだ。

 

最後の瞬間を感じ、目を閉じる。

 

次に襲う衝撃に体は縮こまったが、予想された衝撃があたしを襲う事はなかった。

 

逆に体を何かに抱き抱えられてる感触を感じる。

 

一年前までいつも傍に感じていた匂いに体を包まれている感じがする。

 

 

「ふぅ、何とか間に合った......」

 

 

閉じた瞼を開けると、目の前に一夏の顔があった。

 

 

「なっ! な、な、な......」

 

 

余りの事態に思考処理速度が追い付かなかった。そう、あたしは現在、一夏に『お姫様だっこ』されてる状態だ。

 

 

「ちょ、ちょ、ちょっと! 離しなさいよ、この馬鹿っ!」

 

 

「わ、わ、わ、暴れるな。―――っ! 来るぞ!」

 

 

煙が立ち込める先から正体不明の敵から煙を晴らすかのようにビームの連射が放たれる。

 

一夏はあたしを抱えたまま、器用にビームの連射を躱し距離を取った。

 

 

 

 

【一夏side】

 

 

咄嗟に零迅雷光を発動した雪片弐型で相手のビーム攻撃を無効化・消滅させなければ、危なかった。

 

そして何故か気を抜いてしまった鈴を助ける為、零迅雷光で相手のビーム攻撃が直撃するまでに救助できたのが、シールドエネルギーの残量も心許ない状況だ。

 

目の前のウィンドウには警告表示が常にされている。

 

―――ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。

 

煙の立ち込める先を見ると、ISを装着してるらしき敵が俺達に対して、ビームの連射を放ってくる。

 

そして煙が晴れた先に姿を現した異形な敵。

 

深い灰色をしたそのISは手が異常に長く、つま先よりも下まで伸びている。そして何より特異なのが、『全身装甲《フルスキン》』だった。

 

通常、ISは部分的にしか装甲を形成しない。そう、全身装甲にする必要がない。

 

それは何故か―――防御はほとんどがシールドエネルギーによって行われているから全身装甲にする必要がないのだ。

 

もちろん防御強化型ISで物理シールドを搭載しているものもあるが、肌が1ミリも露出しないISというのは聞いた事がない。

 

腕を入れると2メートルを超える巨体は姿勢を維持する為なのか全身にスラスター口が見て取れる。頭部には剥き出しのセンサーレンズが不規則に並び、腕には先程のビーム砲口が左右合計4つあった。

 

一端、ここで零迅雷光を止める。発動中はリアルタイムでシールドエネルギーが減っていく。シールドエネルギーの残量も心許ない状況では常時発動していられない。

 

 

「お前は一体何者だ?」

 

 

「............」

 

 

俺の質問に一切答えない所属不明の敵IS。まぁ、当然と言えば当然の反応なのか。謎の乱入者はこちらの呼びかけに応じる事もなく、ビームの連射を続けている。

 

 

『織斑くん! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出して下さい! すぐに先生たちがISで制圧しに行きます!』

 

 

突然割り込んできたのは山田先生の声。いつものようにオドオドした感じではなく、威厳ささえ感じる。

 

脱出―――か、しかし、目の前にいる敵は遮断シールドを貫通させられる武器を所持している。

 

ここで俺達が脱出してしまえば、試合を観戦していた生徒達に害が及ぶ可能性がある。それに先程から俺を執拗に狙ってくる謎の敵。

 

 

「敵の狙いは俺かもしれません。此処は俺達で食い止めます!」

 

 

”俺達”って言っちゃったけど、当然鈴の同意も得ずに言ってしまった事なので改めて鈴の方に顔を向け、確認を取ってみる。

 

 

「......って事になったけど、いいか? 鈴」

 

 

「そういうのは最初に聞きなさいよ! って、それより早く降ろしてってば! 動けないじゃない!」

 

 

「あぁ、そうだった。悪い」

 

 

抱き抱えてる鈴があまりにも軽かったから、抱き抱えてる事自体、自然なものだと錯覚してしまった。

 

しかも咄嗟の事だったのでお姫様抱っこしてたんだよなぁ~。鈴はその外見から予想されるように軽かった。そしていい匂いがした。ふむ、鈴も女の子なんだなぁ~。

 

 

『織斑くん!? だ、ダメですよ! 生徒さんにもしもの事があったら―――』

 

 

山田先生との通信中だったのだが、敵がすかさず突進を仕掛けてきたので途中までしか聞けなかった。

 

振り下ろされる右腕を俺と鈴は左右に別れ、避ける。やはり敵の狙いは俺の様だ。今度は俺に向かって突進を仕掛けてくる。

 

俺を狙うビーム射撃を難なく躱し、擦れ違いざまに横薙ぎの一閃で斬り付ける。手応えを感じるが、どうにも斬り付けた感触がおかしい。何だ?

 

 

「~~~っ! このぉーっ!」

 

 

鈴は敵ISと距離を取りながら衝撃砲〈龍砲〉での連続射撃を放つが、敵ISはその奇怪な動きで難なく躱していく。

 

 

 

 

【千冬side】

 

 

『織斑君くん?! 織斑くん聞いてます!? 聞いてます!?』

 

 

真耶は焦っているようだ。ISの個人間秘匿通信《プライベート・チャンネル》は声に出す必要は全くないのだが、目の前で起こってる現状に混乱しているためか、その事すらも失念していた。

 

しかし、このような事態で生徒、しかも今年入学してきた生徒に任せるのはいささか心許ない状況ではある。

 

焦る気持ちは分かる。

 

現にこの私も現状ではIS学園教諭の介入もしくはIS学園最強の生徒会の介入を打診しなければならないのだが、今この場にはいない。

 

生徒会長の更識楯無は別件で今ここにはいないし、IS学園教諭を介入させようにも遮断シールドが4に設定され、扉が全て封鎖されているのだ。

 

まるで外部からの介入を阻むかのように。目の前で起きている事なのに何も出来ない―――この歯がゆさに唇を噛む。

 

現状、あの敵ISに対応できるのは一夏と凰だけなのだ。

 

落ち着け、落ち着くんだ。織斑千冬。

 

真耶だけではない、試合を管制室でモニターしていた篠ノ之にオルコットも目の前で起こった現状に混乱していた。

 

 

「先生! わたくしにIS使用許可を! 直ぐに出撃できますわ!」

 

 

「そうしたいところだがな、―――これを見ろ」

 

 

ブック型端末の画面を数回叩き、第二アリーナの現状を示すステータスチェック画面を見せる。

 

 

「遮断シールドがレベル4に設定......? しかも、扉も全てロックされて―――まさか、あのISの仕業ですの!?」

 

 

「そのようだ。これでは避難する事も救援に向かう事も出来ない」

 

 

生徒の手前、何とか冷静を保とうとするが、弟が危険な目に合っているのに何も出来ない、この苛立ちはどうにも抑えつける事ができない。

 

 

「で、でしたら! 緊急事態として政府に助勢を―――」

 

 

「そんな事は最初にやっている。現在も三年の精鋭がシステムチェックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる」

 

 

いかん、苛立ちが募り、オルコットにあたってしまいそうになる。しかし、この現場の責任者は私だ。冷静に物事を判断しなければならない。

 

気持ちを落ち着かせるため、深呼吸をする。

 

弟の一夏には私だけしか知らないが前世の記憶と経験を継承している。

 

大丈夫だ。一夏は強い。だから、大丈夫だ。と何度も何度も、自身を納得させるように、不安に駆られそうになる自身の心を落ち着かせるように。

 

ふと違和感を感じ、ドアの方に視線を向けると、篠ノ之が管制室から出て行こうとするところだった。

 

 

「篠ノ之。何処へ行くつもりだ?」

 

 

「―――っ!」

 

 

私の言葉に篠ノ之はその体をビクッと反応させる。そして振り向いたその顔は今にも泣き出してしまいそうな表情をしていた。

 

 

「......篠ノ之、......お前は今、どこへ行こうとした?」

 

 

「............」

 

 

篠ノ之は私の問いかけに答えない。

 

 

「大方、一夏に発破をかけようとアリーナまで行くつもりじゃなかったのか?」

 

 

「お、織斑教諭......わ、私は......」

 

 

「―――この馬鹿者がっ!!」

 

 

突然の私の怒声に管制室にいた全員が私と篠ノ之に視線を向ける。しかし私にとってそんな事は知った事ではない。丸腰の生徒が戦場に向かう事で今、戦っている敵が丸腰の生徒を襲う事になるかもしれない。

 

それだけで敵と戦っている一夏と凰に隙が生まれ、危険が及ぶ可能性があるし、何よりも丸腰で戦場に立つという事は敵に”殺して下さい”とお願いをしているようなものだ。

 

 

「今、お前があそこへ行って、どうする? 状況が好転するのか? お前が一夏に発破を掛けた所で状況は変わるのか? 丸腰のお前があそこへ行くという事はお前だけじゃない、あそこで敵と戦っている一夏と凰に危険が及ぶかもしれないという事をちゃんと考えた上での行動なのか?」

 

 

「―――っ!!」

 

 

私の言葉に自分がしようとした愚行に今更ながらに気付いたようだ。

 

唇を噛み締め、自分の不甲斐なさを嘆いているように顔を俯かせる。

 

 

「冷たい事を言うが、現状、お前に出来る事は何もない。まだお前は弱い、守られる立場である事を理解しろ」

 

 

「......は、はい......」

 

 

目には涙を浮かべ、肩を震わせている。しかし、ここは理解させねばならない事である。

 

このような緊急事態時に現状の自分の力量すらもはかれない者はただの足手纏いにしかならない。

 

 

「悔しいか? 悔しいだろう? 自分の力の無さが。しかし、焦るな。今お前に出来るのはここで一夏の勝利を信じる事だけだ。お前はあの一夏が負けるとでも思っているのか? 仮にもこの私の弟なんだぞ?」

 

 

「......いえ......一夏は絶対に勝ってくれる......そう、信じてます......」

 

 

「分かってくれればいい」

 

 

そして私はアリーナ会場を移すモニターに視線を向けた。


 
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