No.275099

真恋姫無双 夜の王 外伝5

yuukiさん

真恋姫無双二次制作作品、夜の王の外伝です。

2011-08-16 11:05:51 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:7067   閲覧ユーザー数:5457

三か月ぶりの外伝投稿。

もう誰も覚えてないかな?

暇つぶしになってくれると幸いです。

 

 

仮説の話をしよう、例え話でも、実話でもない。

合ったかも知れない未来の仮説だ。

至ったかもしれない道程の仮説だ。

 

もし、あの日、高定が反旗など掲げなければ天は大陸を支配していたかもしれない。

もし、あの日、俺が愛紗などと戦わなければ天は大戦に勝利していたかもしれない。

 

いや、それだけじゃない天が勝利出来た道は幾らでもあったのだ。

天が、大陸を支配する可能性は低くなかった。

けれど、もし、そうなっていたらどうなっていたのだろうか?

 

答えは出ない、だが仮説を語れば平和な世界が訪れていたのかもしれない。

無論、そうでなかったかもしれない。

 

しかし、一つだけ言えることがある。

どんな形でも、たとえ平和な世界で無かったとしても。

天が乱世の勝者となっていたのなら、その物語の中心に俺はいれたのではないのか。

 

俺は、そう思わずにはいられない。

 

そんな俺の弱さが、終わった筈の物語の“次”を生みだしたというのなら。

 

それはきっと、どんなに望んでも許されないことだったのだろう。

それはきっと、どんな罪より重く許されないことだったのだろう。

 

“罪”には“罰”があるということを、俺は痛いほど知っていたというのに、、、

 

 

俺は目を疑った、何もかもが可笑しかった。

昨日まで、平穏にあった洛陽の街には恐怖と狂気に侵されていた。

 

「っ、なんだ。これは、、、」

 

「一刀様!ご無事ですか!?」

 

「凪か、、、これはどうなっている?なぜ、洛陽の街が燃えている!?」

 

「分かりません、、、ただ、早朝近くに何処からか火矢を射られたそうで、現在避難勧告が出ています。一刀様もお早く避難を」

 

「、、、凪は、愛紗と哀を連れて先に行っていてくれ。俺は少し様子を見れから行く」

 

「しかし!」

 

「哀と、今の愛紗には戦闘力が無い。もしもを考え護衛が必要だろう。頼めるな?」

 

「、、、はい」

 

俺は服を着て、剣を腰に差して扉を潜る。

すると、後ろから凪の声が聞こえる。

 

「一刀様!無理はしないでください、、、もう、貴方は戦わなくてもいいのですから」

 

「ああ、、わかってるよ。少し、様子を見たらすぐに逃げるさ」

 

 

扉を出て、借りていた屋敷の廊下を歩く。

塀の向こうからは叫びと混乱の音が聞こえる。

昨日まであった、歓声と平和は跡方もなく消し飛んでいた。

 

「一刀!」

 

「翆、今どうなっているか、状況説明は出来るか?」

 

「ああ、それを今、報せに来たんだよ。よく分かんないけど、謎の軍団が洛陽に迫っているらしい。桃香と華琳、雪蓮の三人は今、迎撃の準備をしている」

 

「そうか、わかった」

 

歩きながら翆の話を聞いていると出口に着く。

俺は手に持った仮面を付けて、腰に差した剣へと目を向ける。

本当なら長刀が良いんだが、この状況じゃ贅沢は言えないだろう。

 

「ちょ、待てよ、一刀!何処行くつもりだよ!」

 

「決まってるだろ、華琳達の所だよ」

 

 

side 華琳

 

 

「状況はどうなっている」

 

「はっ、敵はどうやら真っ直ぐと此方に向かい進軍をしているようです。このまま言えば、二刻後には洛陽に辿り付くでしょう」

 

秋蘭の報告を聞きながら、忌々しく歯を軋ませる。

どうしてこうなったのか。

今の大陸に敵などいなかった筈なのに敵軍が洛陽へと迫っている。

その事実が、どうしようもなく思考の中で噛みあわない。

 

「どういうことなのかしら?今、大陸に洛陽に攻め込めるほどの力を持つ敵対勢力なんてなかった筈よね」

 

「ええ、そうよ。思い付く敵なんてものは五胡ぐらいのものだけれど、それも違うのでしょう?」

 

「はい、斥候に行った星ちゃん達の話じゃ敵は白い道士服を着た人たちらしいですよ?」

 

雪蓮が出した疑問に、私が答え、桃香が付け足していく。

ほんの一年前には考えられない協力関係が作られていた。

 

「とにかく、この洛陽に敵が攻め込もうとしていることは事実。早急に迎撃を行うわ。良いわね?」

 

「ええ、」

 

「はい」

 

 

 

各国の王の意見が合致した後、軍師たちは話し合いを進めて行く。

 

朱里「まず、第一迎撃には騎馬隊と出しましょう」

 

雛里「あわわ、、将には翆さん、霞さん、猪々子さんがいいと思いましゅ」

 

稟 「まあ、妥当な判断でしょう。第二隊はいかがしますか?」

 

桂花「春蘭と思春に歩兵を率いて防衛陣をひいてもらうわ。その後ろに弓兵を配置しましょう」

 

風 「弓兵、となると。桔梗さん、紫苑さん、秋蘭ちゃんの三人に出てもらいましょー」

 

 

 

そんな中、報告の兵士が入って来た。

 

「報告があります」

 

「なにかしら?」

 

「はっ、仮面と付けた男が曹操様と会いたいと言ってきているのですが、なんでも旧知の間柄ということで一応御報告を」

 

仮面の男、考えるまでもなく昨日会ったあの男のことだと気づく。

 

「追い返しなさい。今、そんなことをしている暇は無いわ」

 

「御意」

 

兵士が去っていくと、何時の間に来たのか雪蓮が隣に立っていた。

 

「いいのかしら?仮面の男って、昨日大会に出ていた、、一刀のことでしょう」

 

「あら、貴方も気がついていたのね」

 

「まあ、勘だけどね」

 

「、、、いいのよ、これで。一刀はもう死んだことになっているんだもの。前線には出せないし。それにもう、、一年前に一刀の戦いは終わっている。洛陽から追い出しておきながら、洛陽を守るために力を貸せだなんて、むしがよすぎるわ」

 

「そうね。この戦いは私たちだけで勝利しましょう」

 

「ほ、報告!敵軍に援軍あり!な、何の前触れもなく兵士が増えたそうです!総数、およそ百万!!!」

 

「、、、、ちょーと、厳しすぎる気もするけど」

 

 

 

 

「俺は必要ないね、、、、妥当だな」

 

兵士に追い返された俺は、誰もいなくなった洛陽の道を歩いていた。

華琳達は洛陽を出陣し、今戦っているのだろうか。

どちらにせよ、その戦場に俺の居場所はない。

 

迫りくる謎の敵、彼女達は、勝てるのだろうか?

 

そんなことを考えて歩いていると前に一人、男が立っているのに気づく。

いや、立っているだけならたいしたことではない、俺と同じように何かの理由で逃げ遅れたのだろう。

 

「、、、、、、、、、」

 

「、、、、、ふふ」

 

だが何故か、男の顔を見ると、声を聞くと、心の中にざわめきが走り抜ける。

そう、まるで、その男の姿は嘗て死んだ友(一蝶)の生き映しのように見えた。

 

「馬鹿な傀儡達です。敵は百万、フャクターの力なしで勝てる相手である筈が無いというのに」

 

男は笑顔を、確かな好意の笑みを浮かべながら喋りかけてくる。

心のざわめきが、一層引き立つ。

あの笑顔、大戦前までは毎日見ていた物ではなかったか。

 

「傀儡、ファクター、一体お前は何をいっているんだ?」

 

「忘れたふりなど止めましょう。北郷一刀、貴方は全てを知ってる筈だ。外史も、自分自身のことも、そして、この世界(平和)があり得てはならないものだということも」

 

「、、、、、この世界が、あり得てはならないものだと?」

 

「外史、それを作り出す資質は願いです。誰かが願った思い、微かなる望み、それが紡がれ外史は生誕する。故に、この世界はあり得てはならない」

 

「意味が不明だな。華琳が、桃香が、雪蓮が、“願った世界だ”。それを否定する権利を誰が持っているという」

 

俺の言葉に、男は微笑しながら眼鏡を指で押し上げる。

 

「分かっていませんね、いえ、忘れてしまっている。正史に居るのは彼女たちではありません。“貴方ですよ”。いま、私たちを見ている者が、北郷一刀が物語からまったく関係ない世界など、見たいと望むものですか」

 

すっと、男は息を吸い込んでから断言した。

 

「一年前、貴方が破れた時点で、、こんな世界、終わるべきだったのですよ。“一刀様”」

 

名を呼ばれた、懐かしい口調で、忘れられない口調で。

 

「、、、、お前は、誰だ?」

 

「私の名は于吉。貴方を再び黒天へと導く一匹の蝶」

 

遠くから、戦火の音が聞こえる。

彼女達の戦いが始まったのだろう。

俺のいない、その舞台で。

 

「一刀様、忘れた訳ではないでしょう。貴方はそうやって生きて来た筈だ。己が理想が破れた時、または理想がなった時、外史を壊し、新たな物語を模索する探究者。それがファクター、貴方という男。破壊と創造を司る天よりの御使い」

 

于吉と名乗った男、その姿は明かに亡き友の面影を持っていて、眼鏡の下の眼光は言外に語っている。

 

何時までそうしているのだと、新たなる物語を踏み出せと。

 

「、、、于吉、一つ聞かせろ。なぜ、お前はそれほどまでにあいつに似ているんだ」

 

「あいつ、一蝶ですか。ええ、似ているのは当然でしょう。私という傀儡から派生した傀儡なのですから。しかし、それも忘れてしまっているとは、ならば貴方の隣に居る仇敵にも気づいていないのですね」

 

于吉は一度、残念そうに眼鏡を上げると、再び鋭い眼光に俺を晒す。

 

「今再び、歩み出す時は来たのです。一刀様、貴方は願った筈だ。悪意もなく、憎しみもない、争いのない世界を。しかし、今の現状は貴方も知っている通りです。三国による天下三分がなってなお、盗賊は大陸に蔓延っている。争いなど、そこらじゅうに転がっている」

 

于吉は近づきながら俺に喋りかけてくる。

 

「そして、貴方抜きで作ったこの平和は、たかだか私一人の手で朽ちようとしている。ああ、嘆かわしい、なんて弱く脆いのでしょう。平和は、傀儡達は、、、このままでは、大陸は涙の海へと沈んでしまいます」

 

「、、、、、」

 

「だからこそ、貴方が今再び、世界を支配するのです。悪意も、憎しみも、争うもない世界を作るために、、、大義の為に」

 

于吉はそう言いながら、手を伸ばしてきた。

 

 

大義の為に

それは俺が幾度となく吐いて来た決意の言葉。

それはこの世界に平和と秩序をもたらす為の言葉。

 

 

「一刀様。貴方は何のために力を求めたのです?無論、平和の為でしょう。貴方の備える数々の力は全て、この物語に平和を、秩序をもたらす為、天から与えられたものに違いないのです」

 

 

 

 

差し出された于吉の手を、俺は何時までも握ることはなかった。

 

「、、、、なぜ、なのですか?一刀様」

 

「于吉。俺は、ようやく気付けたんだよ。この平和な祭りを見て、やっと、理解できたんだ」

 

「なにを、ですか?」

 

「自分が、俺の願いが、間違っていたんだってな。俺の大義は、間違っていたんだよ」

 

「なにを、言っているのです?一刀様の願いが、間違っていた筈など「悪意が無い、憎しみも無い。誰もが争わない世界。それを作るのが大儀だ」、、、素晴らしいではありませんか」

 

「けど、それはつまり、誰もが争ってでも手に入れたい物が無くなる世界」

 

于吉の目が見開かれ、戸惑いが浮かぶ。

 

「そんな世界、俺は要らない。確かに、不完全な世界には憎しみがあり、争いもあるかも知れない。完全とは程遠いだろう。でも、本当に、完全なんてあるのか?この世界が間違っているというなら、正しい世界って奴がどこかにあるっていうのか?」

 

「それは、、、、それを作るのが、貴方の大義なのでしょう?」

 

確かに、そうだ。

それが俺の追い求めた理想。無想、幻想、望み続けた夢の形。

 

「けれど、その夢はかなわなかった。この世界で、俺は負けたんだ」

 

「だから、もう一度、歩き出せばよいでしょう!」

 

「失ったもの全てを忘れてか!兵士達の死も、一蝶の死も無かったことにして、歩み出すことが正しいのか!」

 

「っっ、、、、それ、は」

 

「そう、嘗て一蝶が言っていた通りだ。亡き者の無念も知らず笑うことは悪だ。亡き者の思いも、憎しみも、恨みも、今ある平和の為に犠牲があったという事実も、、、、無かったことになんてできない。しちゃいけないんだ。たとえ、それがもとで未来、苦しみと悲しみが世界に渦巻いたとしても、それは敗北した俺達が心配することじゃない。未来の物語は、彼女達や、璃々のように未来を生きる者達が決めることなんだよ」

 

「、、、、、、」

 

「認めろよ。いい加減にしろ。俺達は負けたんだ。昔のお前は、俺の部下だった男は、もっと分別を持つ男だったぞ。少なくとも、化けて出るような意地汚い奴じゃなかった」

 

「、、、、、一刀、様」

 

俺は言いきる。嘗ては信じることのできなかったことを。

負けて、破れて、地に落ちて、一年が立ちようやく信じることが出来たこと。

 

「俺がいなくても、彼女達は笑っていた。于吉、お前が人形と呼ぶ彼女達は俺がいなきゃ大陸の平和を守れないほど、弱くはないんだよ」

 

認めたくない、理解したくもなかった。

でも、たとえそれがどれほど、悔しくて悲しい事実だったとしても見なかったことになんてできない。

俺は確かに、この祭りを楽しむことが出来たのだから。

 

「この外史の彼女達に、、、北郷一刀は必要無いんだよ」

 

彼女達の誰かが、俺以外の誰かに好意を持つかもしれない。

それは歯を食いしばるほど悔しくて、握った拳から血が滴るほど悲しいことだけれど。

それが彼女たち自身の選んだ事だというのなら、俺にどうこう言う資格はない。

多分、それがこの世界の正しい筋書き。

 

「、、、、、、、、、、、、」

 

「于吉、いや、一蝶。もう、いいんだ。もう、終わったんだよ。俺達は、負けたんだ。彼女達の、意志に」

 

遠くから、戦の音がする。

その戦場に俺の居場所なんてない。

当然だろう、これは、彼女達の物語。

俺の物語は、一年前に終わっていたのだから。

 

「、、ふ、、ふざけないでください」

 

「、、、一蝶」

 

「終わらない。終わらせてなるものですか!私が愛した貴方は、このようなところで諦めるような方ではなかった!」

 

一蝶、否、于吉はふらふらと揺れる。

揺れた後、笑いだした。

 

「ああ、そうですか。足りぬと、仰るのですね?この程度では、貴方が出陣(出る)には不服だと。流石は流石、一刀様は相も変わらず強欲でおられる」

 

「一蝶、、いや、“”于吉“”。何を言っている?」

 

「く、はははははは。ははは。ああ、申し訳ない。至らぬ我が身をお許しください。“”北郷一刀“”。なれば、至高の舞台をご用意いたしましょう。恋姫たちの血で彩られた、貴方が躍るに相応しい、祭りを、始めましょう」

 

瞬間、俺は理解した。

俺の目の前に居るのは一蝶などではないと。

俺は腰に差した剣を抜き敵に向けた。

 

「貴様、、、殺すというか、俺の女達を」

 

「ああ、その顔です。ようやく、思い出したのですね。本来の自分を。そう、その顔だ。貴方が浮かべるべきは、その笑顔。すべてを握りつぶし、全てを手にする。傲慢に満ちたその顔だ!決して、他者の幸福を見て喜ぶような笑顔ではない!はは、ははははは」

 

「言いたいことは、それだけか?」

 

瞬間、于吉の片腕が吹き飛んだ。

否、俺が斬り飛ばした。

 

「ふふふ、焦らないでください。たとえ誰が死のうとも、私ならば直せるのですから。舞台を彩る恋姫(花)達は、何度だろうと『蘇』る!」

 

「、、、、腕が、治った。いや、生えた、だと?」

 

嫌な汗が背を流れる。

 

「おい、一刀。こんなとこで何やってんだ?つーかよ、なんか街の様子おかしくねえか?」

 

もう一太刀、放とうと剣を握った瞬間。路地から獅堂が現れた。

多分、俺を探していたんだろうが、タイミングが最悪だった。

 

「おや、左慈より剥離した人形ですか」

 

「っっ、獅堂!逃げろ!」

 

「あ?なんだってんだ『壊』がっ、、ああああああ」

 

于吉が一言呟いただけで、獅堂が壊れた。

剥離し、分解され、解体された。

俺は、獅堂が肉塊に変わっていく様を見ていることしかできなかった。

 

「ふむ、呆気ない。『蘇』」

 

もう一度、繰り返された于吉の言葉で獅堂は元の形に戻っていった。

 

「はぁ、はぁ、なんだってんだ。今、俺は死んだのか?」

 

「どうですか?北郷一刀。少しは、やる気になりましたか?」

 

「、、、、、于吉。貴様、いま、やっちゃならねえことをしたって理解してるか?」

 

「作って壊して、作って壊して、貴方がやる気になるまで永遠と繰り返して。ですが、途中で飽きたらどうするのでしょうねぇ。あっはははは。まだ最初の一回目なのに大変ですねぇ。はははは」

 

「于吉!」

 

瞬間、俺の中で何かが爆ぜた。

剣で振るわれる俺の一刀。

それは明かに長刀より劣るものだが、神速と呼んでいいほどの速度を誇っていた。

必然、于吉にそれを避ける手はなく。

胴体から、真っ二つに切り裂かれる。

しかし、それでもなお、于吉は笑っていた。

 

「ああ、憎いですか。この私が。なれば、貴方はやはり此方側の人間だ。この一太刀が、嘗ての貴方を証明する。嘗て、この世の全てを手にした男。魔王、“”鳳薦!“”。ふはは、あっはは。ああ、期せずして、久々の高揚だ。よろしい、今、この時よりの開幕といたしましょう!はははははは」

 

于吉は笑い声だけを残し、何処かへ消えて行った。

 

「一刀、、、一体、なにがどうなってんだ?あいつ、何だよ。明かに俺よりぶっ飛んでやがったぞ」

 

「知らん。知りたくもない、いつまでも勝利に妄信する屑のことなど」

 

「、、、、、、はっ、いいのかよ。口調、戻っちまってるぜ?昔のお前に」

 

「、、、、、、、、、、」

 

俺は黙ったまま剣に着いた血脂をぬぐい、鞘へと収めた。

 

「無駄口を叩いてる暇もないぞ、獅堂。立てるか?」

 

「ざけんな、俺を誰だと思ってやがる。で、何処行くんだよ?」

 

「戦場だ。もしかしたら、再び俺が立たねばならぬ時が来たのやも知れん」

 

「鳳薦(魔王)がか?この平和(正義)の世で?はっ、腐ってやがるな」

 

「ああ、腐っている。そして、くそったれだよ。だが、あの于吉とかいう男の言を信じるなら、止まっては居られない。俺が罪人だとか、どうだとかという問題じゃない。彼女達だけは、失っちゃならない」

 

「、、、、、、、、、」

 

「よもや、もう一度この言葉を叫ばねばならぬ時が来るとな。、、、、、着いて来てくれるか?獅堂」

 

「は、はははっははははははあっ!一年間で平和ボケしたか?一刀。元々、俺達の居場所はそこ(戦場)だろうが。狂犬の牙は、抜かれようが生え換わるんだよぉ」

 

「そうか、なら、再び共に行こう。黒天夜獣。我が同胞よ。全ては、、、、世の大義の為に。再び剣をとるこの大罪、共に背負おうではないか」

 

「ああ、いいぜ。しかも、今回背負う大義は本物だ。平和な世を守るってんだから、十人が十人称賛してくれるだろうよ。次は、英雄として歴史に名を残せるかもしんねぇなあ。一刀」

 

俺は獅堂の皮肉に苦笑しながら、付けていた仮面をはぎ取った。

 

 

 

 

side 戦場

 

 

「左翼前進!右翼もそれに続けぇ!」

 

「夏候惇!前に出過ぎるな!我らが防衛陣であることを忘れたか!」

 

「五月蠅い甘寧!私たちがやらねば、この訳も分からぬ輩が華琳様の元に行くのだぞ!守ってばかりで居られるかぁ!」

 

「くっ、猪武者が」

 

思わず悪態をつく、つきたくもなるだろう。

目の前に映る光景は、到底受け入れられるものではなかった。

昨日までは歓喜が湧き、誰もが笑っていられる祭りの最中であった洛陽に、まるで白アリのように群がる敵軍。

 

訳が分からなかった。目算で見るに、ゆうに百万を超える敵は、一体どこからわいたというのだ。

 

「掲げられるは天の旗。やっと訪れた平和を踏み躙りながら、あろうことか天を語るか。愚物が」

 

はためく、ぞんざいに作られた天の旗を見て。歯を噛みしめる。

あの旗が連想させるのは、一年前まで存在したあの国。

大陸に覇を唱えながら、何処までも平和を求め続けた、あの男達の国。

 

許せなかった。北郷や、あの狂人以外があの旗を掲げるのが、無性に許せなかった。

 

 

 

 

 

「でりゃああぁぁ!」

 

「うりゃぁあああ!」

 

翆と猪々子は、戦場を賭けていた。

銀閃は流れるように敵を裂き、斬山刀は一撃で幾人もの敵を吹き飛ばした。

 

「ちょ、翆!猪々子!出過ぎや!いったん下がりぃ!」

 

「猪々子!わかってるな!」

 

「あたりまえだろ、翆!」

 

霞の制止など聞かず、二人は馬を走らせ続ける。

 

「「こいつら、絶対に許さない!」」

 

「でりゃああぁぁ!」

 

「うりゃぁあああ!」

 

「あの、猪どもがぁ!」

 

霞も仕方なく、二人の後に続き馬を走らせる。

 

「一刀の、」

 

「アニキの、」

 

「「旗を汚しやがってぇ!」」

 

嘗て、天の旗を背負った二人の武人は、天へを挑み続けていく。

 

 

 

 

 

「は、はははははは!ああ、流石です、流石は流石。仮にも北郷一刀の夢想を奪っただけはある。けれど、貴方がたに倒せますか?この大陸で、最強と言われた兵士達を!」

 

白い、人形兵ばかりの軍勢に黒い鎧を着た兵士達が混じり始める。

 

「さあ、行きなさい。我が友よ。己が再び死ぬかも知れないと、そんな気持ちに囚われる甘美。実に、実にすばらしい。これもまた、一刀様よりの祝福と信じなさい。黒天に、勝利の夜を!」

 

「「「「「全ては黒天の世の為に、大義は、我らにあり!」」」」

 

総数は、二百。

 

「、、、、、、、、、、、」

 

「おや、どうしました?貴方も早く行きなさい」

 

「あんた、誰だよ?寛項じゃないだろ」

 

「、、、そういう貴方は、どなたですか?一番隊でも二番隊でも見たことのない顔ですね。ふむ、余計な魂まで蘇らせてしまいましたか」

 

「、、、、、、、、、、、」

 

「答える気なし。ですか。まあ、良いでしょう。一応、貴方も黒天の末席を汚す者。戦いなさい、全ては、一刀様の為に」

 

「ふざけるな。後ろにあの人がいないのに、戦う理由なんてない。誰にも理解されることのなかったあの人を守るのが俺の役目だ。誰にも守られることのないあの人を守るのが俺の役目だ。それが、俺達の誓いだった筈だ。忘れたのか?」

 

「、、、、、、、、、貴方は、なに者だ」

 

「俺の名は纏黄。ただの雑兵だ」

 

 

         後書き

 

本当は、夜の王外伝の続きを書く気は無かったのですが、続きが読みたいと言ってくださる方々の

言葉に押され書かせて頂きました。

上記の方々が納得できる出来とは思えませんが、投稿させて頂きます。

 

なお、これからの投稿に関してですが、作者のモチベーションに大きく影響することをご了承ください。

作者の書く別シリーズの続編、また新しい作品に関しても同じことだと思い、納得してくださると幸いです。


 
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