白い箱の中にいる。特に目的も意味も無く歩き回る。常に頭の中を掻き回される。痛みも不快感も無い。ただ掻き回される感触だけがはっきりとある。感じからして結構大きな手。巨人のものかもしれない。でもそれにしては細い。
窓がある。外を見る。白。外が白いのか、壁が見えているのか判らない。窓は開かない。気にせず進む。進んでいるのだろうか。戻っているのだろうか。進む先も戻る処も無い。とりあえず歩く。
ぬいぐるみが落ちている。くま。拾って進む。触り心地は良い。けれど気付かぬ内に消えていた。気にせず歩く。
ぐるんぐるん頭の中を掻き回される。解剖したらきっとぐっちゃぐちゃのスープになっている。具は無い。もしかしたら虫の一匹や二匹混ざっているかも知れない。知らない。妄想する。私は私の脳味噌のスープを飲む。甘苦い。無駄に多い。
丸まって眠る。胎児のように。焼け焦げた死体のように。ほう。何かの小説に出てきた言葉を発する。手足を削がれた少女の吐息。彼女の唯一の言葉。ほう。白い世界はこの時だけ真っ暗な世界となる。掻き回す手が離れていき戻ってきて私は起床する。
歩く。吐き気がする。その場で嘔吐する。人型の小さなものが口から落ちてぴくぴく蠢く。動かなくなる。歩く。暫く身体が空っぽな感覚。すっきり。
こんこん。こんこんこん。ノックが聞こえる。外から聞こえる。私は逃げる。
怖い。
怖い。
歩く。
私は歩く。日常を生きる。くまのぬいぐるみも吐瀉物も無い。がらん。がらん。横から聞こえる。見るとロボットが歩いている。缶で出来ている。目の部分の缶から百足が落ちてくる。芋虫も落ちる。ウジ虫も落ちる。私は前を向いて歩く。がらん。がらん。からん。足音は離れていく。らん。ん。
私は歩く。いつまでも歩く。
恐怖を覚える。
覚えている。
私はいつも恐怖を覚えている。そして歩く。
いつまでも歩く。
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白い世界で私は歩く。