No.273510

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(31)

大変遅くなりました、申し訳ありません!!
待っていて下さった方々に、心からの謝罪を!!

2011-08-14 23:25:31 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:9102   閲覧ユーザー数:7198

 

 

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

 

キリキリキリ・・・

 

一刀の胃が異音と言う名の悲鳴を上げていた。

その原因は、非常に簡潔に表せる。

それ即ち。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「“テレテレ”」

 

 

一刀の周りを囲む、三人の女性の為だ。

事の始まりは汜水関よりの撤退後、宛がわれた自室で休んでいた一刀の元に、葵がもやしで出来た鳳凰像を運んで来た事。

それだけならば、良かったであろう。

しかし、一刀も気付かぬ内に葵がこっそり扉の掛け金を掛けていたのだ。

これが問題の起こりとなった。

 

鳳凰を食べようとした所で翠が扉を蹴破って突入し、挙句もやしの鳳凰が吹き飛び、それを見た葵がブチ切れたのである。

すぐに異常な程加熱し、口喧嘩に。

それだけでは無論収まらず、武器を引っ張り出しての大喧嘩に発展しかかった所で、恋が更に乱入。

飛将軍の武であっさりと治めてくれた。

・・・それで気持ちの問題まで収束してくれればよかったのだが。

当然治まらず、今もギスギスしたままだという訳だ。

 

 

「・・・はぁ」

 

 

溜息を吐いたのは、稟。

ほんの少し見ない内に、何故こうなるのか。

そう思ってしまったが故の溜息。

まぁ、それはともかく。

 

 

「何やってんだい、とっとと軍議を始めなきゃならんだろう?」

 

「そうそう、早く始めよう!」

 

 

美里の言葉に、我が意を得たりと言わんばかりに一刀が飛び付く。

この場にいる誰しもが、こんなギスギスした空気には触れていたくなかったのか、ブンブンと首を縦に振った。

 

 

「分かりました、では現状を説明します。

まず、現時点までの小当てで判明している敵の前曲は、袁紹軍です」

 

「・・・・・・馬鹿か?」

 

「馬鹿じゃねえの?」

 

「または阿呆ですね」

 

「・・・猿」

 

 

流れる様に、一刀とその周りの三人が言う。

稟が思わずプッと噴き出してしまう程、見事な連携だった。

一刀に、生暖かい目で見られている事に気付き、すぐに改めたが。

 

 

「コホン、続けます。

数はおよそ十二万。

しかし統率はお粗末、烏合の衆そのものです」

 

「だろうな。

寧ろ、よくそれ程の兵を集められたもんだ」

 

 

美里の言に、皆頷く。

徴兵しただろうし、脱走もあったろう。

なのに、その状態で尚それ程の人数がいると言う訳なのだから。

 

 

「それでも、向かって来る相手には容赦しない。

但し、向かって来ない相手は深追いしない。

それをしっかりと心に刻んでくれ」

 

「分かっております」

 

「はい」

 

 

一刀の締めに、了解の返事が返される。

 

 

「では、各員は所定の配置に付いて下さい。

一刀殿は、洛陽への報告書を早く書いて下さいませ」

 

「あはは・・・了解したよ」

 

 

プッと周囲が噴き出す。

こんな大将だからこそ、皆も力を尽くす甲斐があるのだと思わされる。

 

北郷一刀は、恩賞を惜しまない。

それと同時に、締める所はしかと締める。

私欲を通したがる人でも、従いたくなる程。

しかし、と稟は考える。

これより先、最も厄介な相手が来る筈。

一刀に会うまで惚れ込んでいた、英雄:曹孟徳。

今はまだ出て来ていない。

が、それが何よりも背筋に冷たい物を奔らせる。

 

 

「(風に書を送りましょう、洛陽でも警戒する様に、と)」

 

 

杞憂であればよい。

しかし、どうにも奇妙な不安が拭えなかった。

 

 

 

 

 

 

真・恋姫†無双

―天遣伝―

第三十話「恐怖」

 

 

「・・・あら?」

 

 

気分良く進軍していた麗羽の眼に、何かが移る。

道のド真ん中に真っ直ぐ突き立ててある物。

 

 

「ふむ、斗詩さん取って来なさい」

 

「ええっ!? 分かりましたよぅ・・・」

 

 

ずっしりとした肩当てをガクリと落としつつ、斗詩は大地に刺さっている長物の元へと走り、それを引き抜く。

そして、驚愕。

何故、こんな物が此処にあるのかと我が目を疑いたくなった。

だが。

 

 

「麗羽様、どうぞ」

 

「でけぇな~、何だコレ?」

 

「槍ではありませんわね。

斗詩さん、開きなさいな」

 

「・・・はい」

 

 

一二度振ると、長物の横に巻き付いていた布がはらりと剥がれ、正体が顕わになった。

してそれは。

 

 

「まぁ! 何と美しい!」

 

「おぉーっ!!」

 

 

現れたのは、金糸に銀糸や宝石がタンマリと使われている煌びやかな軍旗。

その中央に抜かれている字は「袁」。

まごう事無き、袁家の大牙門旗である。

 

 

「ふむ、つまりこれは、最早勝てぬと悟った奴等からの、私への貢物と言う事ですわね!」

 

「えぇっ!? ど、どうしてそうなるんですかぁ!?」

 

「しかし、この程度では許しませんわ!

あの下男を私の膝元に跪かせるまで、この戦いは終わらないのですわ!

おーっほっほっほっほっほ!!!

・・・まぁ、せめてもの情けですわ、この旗は使って差し上げましょう。

さぁ、進みなさいな! 凱旋までは後一歩ですわよ!」

 

「あらほらさっさー!!」

 

 

牙門旗が、つい今し方拾った煌びやかな牙門旗へと挿げ変えられる。

斗詩は、開いた口が塞がらなかった。

どう考えても、罠か、何かしらの計略だとしか思えなかった。

こう言う時に強く発言出来ない自分を叱咤するべきなのか、本当は負ける事を自らの望んでいるのかを判断出来ない。

もうどうでもいいと、心の何処かで思っているのかもしれない。

 

肩を落としつつ、斗詩は自らの戦列へと戻った。

同時に思い出すのは、一刀の笑顔。

ポッと頬に朱が差す。

 

 

「(助けて、下さい・・・・・・)」

 

 

心の底が、笑顔の一刀に助けを求める。

『任せろ!』

一瞬、そう本当に一刀が言ってくれたように思えた。

それだけで、心がフッと軽くなる。

自分の記憶の中の人間に助けを求め、それに妄想が応えてくれただけだと言うのに。

 

 

「(もう少し、頑張ってみます。

それでも駄目だったら・・・・)」

 

 

中空を見上げる。

今にも雪が降って来そうな天気だ。

しかし、今の斗詩には晴天以上に綺麗な空に見えた。

フッと笑みを浮かべる。

 

 

「(貴方の、物にして下さい)」

 

 

何時もならば、そんな破廉恥な事を考えれば赤面ものなのに、今回は何故かまるでそんな気分が浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

―虎牢関

 

関の上から汜水関の側をジッと見る人影一人。

天の御遣い、北郷一刀その人である。

既に書は書いた。

何時もの制服の上から、霞より送られた羽織を風にたなびかせながら、立っていた。

 

そして、その場に近寄る人影一つ。

 

 

「一刀殿、狙撃の危険があります。

出来れば関の内へ入っていて下さい」

 

「稟」

 

 

防寒着を着た稟がいた。

頻りと眼鏡の位置を直している。

郭奉孝も緊張するのだなあ、と一刀は急に微笑ましい気分になった。

しかし、それを見咎めない稟ではなかった。

 

 

「一刀殿、何がおかしいのですか?」

 

「あ、いや、その・・・すまん」

 

「急に謝られても、分かりません。

さぁ、吐いて下さい。

分かり易く、明確に、私を見て何を思ったか言って下さい!」

 

 

ずずいと一刀に詰め寄って来る。

以前までの稟ならば、この時点で鼻血を盛大に噴射して倒れてもおかしくはなかったろうが、今は少し気が急いている所為か、その兆候は見られなかった。

だが、一刀は至って平静に、素で返した。

 

 

「ああ、ごめんな。

緊張して眼鏡の位置を直しまくる稟が可愛かったから、ついな」

 

「はへ?」

 

 

鳩が豆鉄砲を食らった様な、とはこういう事を言うのだろうか。

と、一刀は場違いにもそう思った。

 

 

「・・・むぐっ!」

 

「あ、まずい!?」

 

 

急激に赤くなった稟の顔、鼻を押さえる動作。

これは間違い無いと、一刀は稟の真横に滑り込む様に回った。

しかし。

予想していた様な惨状にはならなかった。

 

 

「ぷっ、ふぅ・・・」

 

「お、お? 大丈夫なのか、稟?」

 

「えぇ、敵も近いと言うのに、この様な下らぬ事で鼻血を噴いて堪りますか」

 

 

ぐっ、と鼻血を抑え込んだようだ。

しかし、鼻血の線がタラーっと垂れているのは頂けない。

そんな一刀の視線に気付いたのか、稟も大慌てで鼻血を拭った。

 

 

「さ、さぁ、それよりも、一刀殿も軍の状況を確認して下さい。

いざという時、軍が思わぬ様に動かぬのは、危険です」

 

「ああ、分かってるって。

じゃあな」

 

「はい、それでは」

 

 

押し出す様に一刀を行かせ、稟は一人漸く安堵の溜息を吐いた。

その鼻には、一筋の鼻血。

 

 

「あ、危なかった・・・しかし、可愛かった、ですか・・・・・・ふ、ふふふふふふふ・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

少々どころか、かなり危ない笑い方をしながら、悦に浸る。

その間も、鼻血は筋の数を増し、ダラダラと川の様に流れ落ちていく。

 

 

「ふふふふふふふ・・・・・・はっ!? い、いけません、治まれ治まれ・・・」

 

 

血の気が失せ始め、身も凍る様な寒さに貫かれ、漸く戻った。

流れ落ちた血液は既に凍て付いており、滑りそうだ。

 

 

「・・・中に入りましょう」

 

 

重い自己嫌悪に襲われた稟であった。

―――因みに約20分後

 

 

「ぬわーーーっ!?」

 

「おおっ!? ねねが大回転を!?」

 

「いたた・・・何者ですか!? こんな所に水溜りを残し・・・・・・って血ィーーー!?」

 

 

そんな大混乱があったとか。

 

 

 

 

 

 

―――孫家軍

 

 

「・・・寒いわ!」

 

「祭、吼えんでも分かるから落ち着け」

 

 

連合軍の凡そ最後尾に位置する、孫家軍。

何十万もの軍勢がのろのろと動いている状態は、常に戦場で飛び回るのを好む江東の武人達からして見れば、拷問に近かった。

 

 

「確かに、先程も洒唄に手が凍てしまいました」

 

「皮はご無事で?」

 

「はい、どうにか。

今は布を巻いております」

 

 

涼香の脇に提げられた鉄製の杖が、ビョウと呻った。

見るからに冷たそうだ。

実際、それを見た雪蓮が両肩を抱いて震えた。

 

 

「止めてよ、今は南海覇王だって見たくないのに」

 

「ほほぅ、言ったな?」

 

「あっ、今の冗談、嘘嘘!」

 

 

大蓮のブチギレ間近な姿に、慌てて訂正したが。

 

 

「それにしても、遅い。

もう着いても良い頃の筈ですが」

 

「んくっ、細作の言に依るならば、神輿担ぎの者が次々と倒れるそうで、その度に兵達の間で次に誰が神輿を担ぐかの押し付け合いが始まるとか」

 

 

瑠香の言葉に、皆揃って頭を抱え込む。

何と言う・・・何と言う馬鹿馬鹿しさ。

呆れさえ通り越して、脱力してしまう。

だが、その内にもやはりまだ怒りを覚えられる人はいた。

 

 

「あんの駄名族が!! 古より享け賜わった家名を何と心得るか!!」

 

 

大蓮である。

孫家は、孫子の子孫。

故に、家名の誇りと言う物を、何よりも強く理解していた。

その分、袁紹への怒りも一入。

 

 

「もう我慢ならん、あの馬鹿の素っ首叩き落として、袁家の愚を断ってくれる!!」

 

「お、落ち着きなされ堅殿!」

 

 

一瞬で南海覇王を抜き放った大蓮を必死で抑える祭。

 

ふー、と溜息を吐いたのは瑠香。

周りからの期待に満ちた目に突き動かされ、袂から大蓮人形を取り出した。

で。

 

 

「落ち着いて下さいませ」

 

 

針、ではなく、爪で腰の辺りを一気に擦った。

 

 

「ぎゃおおおおおおおおおおおおん!!!!!」

 

 

奇声を上げて、大蓮が動かなくなった。

動きを止めようとしていた祭が恐る恐る確認する。

 

 

「・・・む、気を失っておる」

 

「はい、大人しくなりました」

 

「・・・やり過ぎじゃない?

ちょっと背筋が寒くなったわ」

 

 

軽く慄く雪蓮であった。

しかし。

 

 

「ってあら? この感じ、もしかして・・・」

 

 

雪蓮の未来予知染みた勘が、何かに反応を示していた。

 

 

 

 

 

 

―――虎牢関

 

 

「むっ?」

 

「おい、どうした?」

 

 

何進隊の隊章を身に付けた見張りの兵士の一人が、遠くを見る。

同様に傍にいた同部隊の兵士達も一度に見た。

 

 

「二里後方まで伸びる砂塵に、煌びやかな袁の一字・・・間違いない、連合の先鋒だ!」

 

「よし分かった、すぐに将軍に伝える!」

 

「任せた、総員盾を持て!

凄腕の射手がいれば、射抜かれるぞ!!」

 

 

慌ただしく、それでいて統制の取れた動きで行動に移った。

 

 

 

「伝令! 連合の姿を確認!

先鋒はやはり袁家の牙門です!」

 

「ありがとう、下がってくれ」

 

「ははっ!!」

 

 

門の裏で既に出撃準備を整えていた一刀は、伝令兵の言葉に慌てる事も無く、同様に集っていた皆をぐるりと見回す。

皆、全く気は萎えていない。

寧ろ、今までで一番滾っている様にも感じられる。

 

 

「皆、待たせて済まなかった。

漸く、暴れて貰える時が来た」

 

『応っ!!』

 

 

一刀の静かな言葉に、烈昂の気が籠った返事が応えた。

目の前に揃った皆も、待ち切れなさそうに自分の得物をガチャガチャと忙しなく揺すっている。

 

 

「皆に正直に言っておきたい事がある。

俺は、戦が嫌いだ。

負け戦は勿論、勝ち戦だって。

この世で凡そ戦と呼ばれるものが、心の底から大嫌いだ」

 

 

少し伏し目がちに言う。

総大将が、今から初まるであろう戦を前にこの様な事を言うとは、士気を下げかねない。

だが、皆は黙ったまま一刀の言葉を聞き入れる。

暫し空気がシンと静まりかえる。

だが。

すぐにキッと目を上げ、今まで以上に強い光を灯した目で皆を見た。

 

 

「だがそれ以上に。

俺の大好きな人達が何も出来ずに死なされていくのは、例え死んででも見たくない位、嫌だ!!!

だから皆に頼む、俺は俺の大好きな人達を護りたい!

だから、皆の力を俺に貸してくれ!!」

 

 

返事は、無い。

だが、先程よりも更に圧縮された怒気が、一刀の言葉に対し何よりも雄弁に『応』と応えていた。

 

 

「よし! 何進将軍は後衛の本体の指揮を!」

 

「応さ!」

 

「朱儁将軍は遊撃部隊の指揮を!」

 

「はっ!!」

 

「皇甫嵩将軍は虎牢関の守備を任せる!」

 

「はい!」

 

「残りは俺に続き・・・袁紹を討つ!!」

 

『応ッ!!!』

 

 

ビリビリと、皆が吐き出した気で空間が震える。

見ていた軍師達も、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

 

 

「遂に、始まるのね」

 

「ええ、恐らくこの度最も激しくなるでしょう」

 

 

詠と稟は、揃って背筋が震えていた。

勝てる、その確信はある。

だが、何かの疑念がどうしても拭えない。

 

 

「ああもう、なんなのよ。

何でこんなにムズムズするのかしら」

 

 

それは、所謂「勘」と呼ばれる感覚。

だがしかし、軍師はその様な不確定な物に頼ってはいけない人種だ。

 

 

「気にし過ぎね、頑張らなきゃ。

洛陽に居る月の分も、アイツの事ちゃんと見とかなくちゃ」

 

 

後方にいる親友に想いを馳せ、詠は自らの役割を果たすべく関の上へと駆け昇って行った。

 

 

 

 

 

 

―――袁紹軍

 

麗羽は上機嫌であった。

勝てると言う確信がある。

これまで小当てに続いていた敵の攻撃は軽くいなし、いとも容易く追い立てる事が出来た。

それに、この美しく煌びやかな牙門旗。

正に自分の栄誉を讃えている様ではないか!

 

虎牢関を視界に捉え、麗羽は吊り上げていた口元を更に深く吊り上げる。

勝利はすぐそこだと確信し、降伏の余地位は与えてやるべきかと考えた。

そんな時であった。

 

 

「袁紹様! 虎牢関の門が!」

 

「あら?」

 

 

門が開き、そこから兵達が現れる。

そして、門を中心として陣形を取る。

その陣形の名は鋒矢陣。

少ない兵力で敵陣を突破する、突撃に適した陣。

だが麗羽は自身の有利を疑ってない為に、降伏の為に出て来たのだと勘違いした。

 

陣の意味を、人の構築を目にした者達の内、兵法を学んだ事がある者は皆気付いた。

それと同時に兵法を良く知らぬ者も、敵の兵達に漂う只ならぬ闘気に勘付き、警戒を強める。

 

陣の展開が終わり、人の先端を割って一人の馬に跨った男がその姿を現した。

その姿に、多くの者は思わず息を呑む。

天遣・北郷一刀。

美しい白馬に日光を受けて煌めく外套と制服。

芸術に疎い者でも納得させられる美しさがそこにあった。

麗羽でさえ一瞬見入ってしまった程。

桃香などは、思わずうっとりと見惚れ過ぎて白蓮に突っ込まれた位だった。

 

そんな中で、一刀はゆっくりと腰から暁を抜く。

スラリと抜かれた暁もまた、その美しさに一目を惹き付けた。

そして、一刀の声が響く。

 

 

「袁本初に告ぐ! 貴様の蛮行に、皇帝陛下は大変嘆き苦しんでおられる!!

これ以上漢王朝に弓を引き、軍を進めると言うならば、陛下に代わり我が貴様を討つ!!

漢王朝への忠誠が僅かでも残っていると言うならば、今すぐに軍を退け!!」

 

 

暁の切っ先を真っ直ぐに麗羽の元へと突き付け、大声で叫ぶ。

周りが一刀の姿に呑まれていた為に、静まり返っていた空気の御蔭か、一刀の言葉は一言一句として違わずに麗羽の元へと届いた。

そして意外な事にも。

麗羽の胸中に去来したのは、怒りでは無く困惑であった。

 

麗羽は元より美しいものを好み、それ以外には然程興味が湧かない性質であり、一刀もこれまでは全く好みには含まれない「醜いもの」だった。

だがしかし、だがしかしだ。

今の一刀は、麗羽の眼から見ても素晴らしく美しい。

この様な美しさ等、今までに感じた事は一度として無い。

その様に呆けてしまっていた為に。

麗羽は、一刀の言葉に対し、全くの無言かつ無行動であった。

 

 

「・・・・・・軍を退かないか。

ならばその頸、貰うぞ!!

全軍、突撃ぃぃぃぃぃ!!」

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

 

一刀が白澤を駆けさせ、先陣を切った。

それを合図として、一刀を西涼・天水の両軍の主軸を支える騎馬軍団が追う。

袁紹側から見て、左から高順、呂布、龐徳、一刀、馬超、馬岱、馬鉄の順である。

前線に位置する兵士達から見てみれば、地獄の様な光景に違いない。

 

 

「りょ、りょりょりょ呂布だぁぁぁぁぁ!!!」

 

「た、助けてっ・・・!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

実際、噂に名高き西涼騎馬に蹂躙され、袁紹軍の兵士達は断末魔の絶叫を響かせて次々と倒れていく。

呆気に取られていた麗羽は、自分の裾を引く斗詩の御蔭で漸く正気に戻った。

 

 

「す、すぐに対処なさい!!」

 

 

慌てて声を張り上げるが、一刀率いる最前線は既に袁紹軍の奥深くまで切り込んでいた。

 

 

「あの旗を目指せ!!」

 

 

一刀の暁が、再度麗羽の元へと突き付けられる。

そしてその瞬間、麗羽と一刀の眼が真正面から逢う。

 

 

「っ―――!」

 

 

麗羽はその一瞬で、心の奥底まで一気に一刀の視線に射抜かれた。

心の奥に、一刀の眼の光が焼き付いて離れない。

腰が抜けた様にすとんと落ち、立ち上がれない。

その間も、一刀は真っ直ぐに自分の頸を取りに来ていると言うのに、麗羽の頭の中では一刀の眼光がずっと繰り返しリピートされ続けていた。

 

 

「袁紹、覚悟!!!」

 

 

一刀が白澤の上から飛び、外套を翻して麗羽に迫る。

突き出される槍も矢もあっさりと躱しつつ。

自身の命の危機だと言うのに、麗羽はまるで自分の事では無い様に、じっと一刀を眺めていた。

世界の全てがスローモーションになった様にコマ送りになる。

 

 

「(あぁ、私は此処で死ぬのでしょうか? けど、それも致し方の無い事なのでしょうね・・・)」

 

 

何時もの傲岸不遜ぶりが嘘の様に、心が鎮まり返っている。

そのまま目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

“ガキィン!!”

 

 

そして、そんな音で目が醒めた。

麗羽が目を開けて見れば、そこには一刀の暁の刃を二人がかりで如何にか止めている斗詩と猪々子の姿。

 

 

「麗羽様しっかりして下さい!」

 

「姫らしくないぜ!?」

 

「斗詩さん、猪々子・・・」

 

 

一刀は此方を未だに苦々しそうに見ている。

その目が堪らなく恐ろしい。

一度刃を引き、一刀は再び暁を振る。

二人は今度も防ごうとするが、斬る事に特化した日本刀、しかもその達人の域に既に踏み込んでいる一刀の一閃を防ぎ切る事は出来なかった。

麗羽の頸狙いの刃を何とか逸らしたものの、猪々子の斬山刀が半ばから完全に断ち切られる。

 

 

「くそっ!」

 

 

猪々子が悪態を吐き、斬山刀だった柄を握り締めて一刀に斬りかかる。

だが簡単に身を横にして躱され、刺突が猪々子の横腹に突き出される。

 

 

「文ちゃんっ!!」

 

「くっ!」

 

 

だがそれを斗詩がカバーする。

金光鉄槌の一撃が、猪々子に向かう刃を真上から叩き付ける軌道で振り下ろされる。

上から叩き付けられたら、幾ら暁でも折れると悟り、一瞬で引く。

如何にか折れる事は避けられたが、周りは敵だらけ。

もう少し時間を掛ければ、袁紹を討ち取る事は可能だろう。

だが、此処でゴリ押しをし通すと、連合側の援軍が集まって来る方が早いと感じる。

つまりは、足止めを食らった時点で、もうこの場で袁紹の頸は取れないも同じ。

そう言う結論に至った一刀は舌打ちを一つだけ漏らし。

 

 

「“ピィィィィィッ!!”」

 

 

左の指で即興の笛を作って吹いた。

そしてそれに応えるのは当然。

 

 

『ヒヒィーン!』

 

 

周りを縦横無尽に走り回り、主の帰りを今か今かと待っていた白澤である。

一刀はすぐさま飛び乗る。

 

 

「撤退! 撤退だ!!」

 

 

そして周囲の仲間達に大声で報せた。

既に混乱の極みに突入していた筈の皆の反応は早かった。

すぐさま自らの部隊へ伝達し、虎牢関へと走り去る。

その速さ、正に神速と言える。

 

奇襲並の速さで蹂躙されていた袁紹軍の兵士達は、そんな状況で攻め様と考える事は無く、寧ろ攻めが終わって安堵していた。

結局、袁紹軍の被害は異常な程増え、逆に天遣側の被害はほぼ無し。

と言う、完全敗北に等しい結果が生まれたのだった。

その上。

 

 

「ちっくしょー、アタシの斬山刀がー」

 

 

袁紹軍主軸の二枚看板の片割れ文醜の得物が真っ二つにされたとあっては、士気が底割れを起こす程下がってしまったのである。

それに加えて更に。

 

 

「北郷、一刀・・・天の御遣い」

 

 

麗羽が、一刀に対して何かしらのトラウマの様な物を抱いてしまったらしい事。

これが、最たる問題点。

中にはこの連合が終わる可能性が高まったと言う者もいるだろう。

だがしかし、事はそう甘くない。

ここで例えば、急に袁紹が連合を解散すると言い出したとしよう。

その場合、今まで何かしらのプラスがあると信じて付いて来ていた兵達が暴動を起こす事は想像に難くない。

他にもetc.

つまりは、更に危険な火種を抱え込んだも同じだと言う事だ。

益々雲行きの怪しくなる連合である。

 

 

 

 

第三十話:了

 

 

 

 

 

 

後書きの様なもの

 

おーそーいーぞー!!(味皇風)

どうも・・・何か、大学の事と就職の事で憂鬱になってしまって、どうにもこうにも筆が進まなかった結果、丸二ヶ月以上も遅れ・・・畜生!

待って下さっていた皆さんにはとても申し訳ありません!!(土下座)

 

レス返し

 

 

・nameneko様:葵と凪は忠犬同士な為、どちらがよりよく尽くすかと競争に・・・

 

・転生はりまえ$様:総勢・・・大体70人近いかな?

 

・悠なるかな様:華蘭の出番はもうすぐです、書ければ!

 

・根黒宅様:Yes.

 

・ロンロン様:ギギギ・・・くやしいのう、くやしいのう。 書いていて、自分が一番思っていました。

 

・アロンアルファ様:腹上死しないから、リア充でいられると言うね。

 

・thule様:痛い痛い痛い!!

 

・大性堂ティマイ鳥様:暗い夜道を歩かない自分に隙は無かった!

 

・2828様:・・・・すごい連携だ。

 

・無双様:彼はリア充になるべく日々研鑚を重ねる漢よ・・・空気が読める等、モテる為の第一歩に過ぎぬのだ!

 

・瓜月様:ああ良かった、見捨てられた訳じゃなかったんだ! ほんと良かった・・・!

 

・O-kawa様:しかし理由が分からない皆様からは嫉妬と殺意の対象です。

 

・砂のお城様:モゲたら、嫁達が報復に奔ります・・・・・・

 

 

では、今回はこれにて。

次回はお待たせせずに投稿出来たらなぁ、と思ってます。

 

 


 
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