財布を残して
#1
私の彼は物知りで、多分頭も良かった。でも優しかったけれど、人の気持ちには鈍感で友達としては差し支えなくても、恋人としてはあまり自慢出来るとは言えなかった。それでも私は彼のことが好きだったし、彼も私を好きだったのだろう。私は彼の嘘をあまり聞いたことがなかったから、「好きだよ」という言葉をずっと信じてきたし、これから何があっても信じていくと思う。同じように彼も私のことを信じてくれていたと思う。
私達は友達の友達という形で知り合った。お互いに合コンとか行くわけでもないし、趣味が特に合ったわけでもない。二人をつないでいた接点はたった一人の友達で、その友達が間違って予定をダブルブッキングさせたのがそもそもの始まりだった。予定を被らせてしまったことに気づいた友達は、困った挙げ句にあろうことか二つの予定をくっつけてしまった。私と私の友達、彼と彼の友達は、出会いの場を提供するという名目で引き合わされた。
私と私の友達、彼と彼の友達、男女はそれぞれ同数くらいだった。友達はダブルブッキングを隠し通すため出会いの場を演出すべく、お互い知らない男女でペアを組んで歩かせた。そんな出会いだったから、初めて会った私達はぎこちなく会話をしてぎこちなく距離感を掴めないまま一日を終えた。
それ以降、私達と彼等はたまに会うようになった。一年くらいして私達は二人だけで会うようになり、半年くらいして恋人になった。でも恋人になって改めて認識させられたのは、私達は歳は近くても、考え方も趣味も全く違う人間だという純然たる事実だった。つまらないことで喧嘩をしたし、つまらないことで相手を理解出来なかった。そういう意味では私も人の気持ちには鈍感だったということなのだろう。好きだからこそ、なんていうのは言い訳で私は彼に期待をしすぎていたし、彼もまた私に期待をしすぎていた。失ってから気づくなんて、なんて馬鹿なんだろうと思う。
そうもう元には戻れないのだ。--彼が死んで私が生きている。私は私にとっての全てを、彼の死という形で失ったのだ。
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私は彼を亡くした。
残ったのは孤独と思い出、そして1つの財布。現実を受け入れられないまま私は日々を過ごす。
過去に囚われたまま過ぎ去る毎日。何をすれば良いか分からないまま、時間だけが過ぎていた。
言い訳: 月500字くらいを最低ノルマにゆったりと進めて参ります。